22 / 39
破の章 覇者の胸中を知る者は誰(た)ぞ ──中国大返し──
22 ねねの手番
しおりを挟む
京。
長谷川宗仁の隠れ家にて。
「ふむ……」
藤堂高虎は、ねねの才知に感歎する思いだった。
ねねが本能寺の変に遭遇し、ここまで何を見聞きし、どういう目に遭ったのかは聞いた。
ただそれを聞くのみで、そこから考えることは無かった。
ぼんやりと、明智が天下を取るつもりだとか、それよりも明智の兵に出くわしたらどうするかとか、そんなことを考えていた。
「それでも、明智にとっては、あの元幕臣にとっては、『御輿』として使えると判じたのです。実際に平島公方がどれほどの威光を誇るかは、わかりません。ただ、明智が『御輿』扱いできるということが大事」
特に感歎したのは、この台詞だった。
人間というのは、思いついたことを大事にしたがる。一番にしたがる。
それをねねは、突き放して見て、一番にはしない。
元幕臣・明智光秀は、思いついた「平島公方を将軍に」を大事にしているかもしれないが、ねねはそれを突き放している。
「……つまり、明智は平島公方にこだわっている。それを踏まえて、こちらは動く。それは特に、平島公方をこちらが先に抑えるとか、そういうことではない」
「では、こちらはどうすればよいのでござるか、おふくろさま」
ここで福島正則が発言してきた。
彼は、「おふくろさま」と慕うねねの言うことについて逆らうつもりは毛頭ない。
しかし、具体的な指示なり目標なりを示してくれないと、走ることができない。
「まずは、京畿の西の玄関、大坂。ここの動向」
長宗我部元親が平島公方を送って寄越すとしたら、阿波から淡路、そして摂津大坂へと水路を使って来るだろう。
そしてその大坂には。
「四国征伐軍、織田信孝どのがいらっしゃる」
信長の三男、信孝が、信長の生前に四国征伐を命じられ、一万四千もの大軍を率いて、大坂に待機していた。
その信孝の動向を探って欲しいとねねが言おうとした時、
「た、大変でございます」
「何や」
宗仁の手下の者が、息せき切って、この場に闖入した。
宗仁の手下は、今、宗仁がどのような話をしているか知っている。
だから、闖入などするはずはなかった。
それを敢えて、入って来るということは。
「変事か」
「はい」
手下は手短に、大坂にて織田信孝が、同じ四国征伐軍の津田信澄を攻め、そして討ったと言った。
津田信澄とは、かつて織田信長に逆らった実弟・織田信行の子であり、四国征伐軍の副将に任じられていた男である。
ちなみに信澄は、叛逆者・織田信行の子でありながら信長から優遇されており、織田家一の将である、明智光秀の娘を妻としていた。
「何だと」
正則は叫び、高虎はうなり、宗仁は目をみはった。
ひとりねねは冷静に、それで信孝どのはどうなりましたと聞いた。
「……それが」
手下は、信孝は信澄を討ったものの、その兵数を大きく減らしてしまい、一万四千の兵が、四千にまで落ち込んでいるという。
「おそらく、明智の差し金」
実際、光秀の謀臣・伊勢貞興が、敢えて光秀自筆の津田信澄宛ての書状を、巧妙に織田信孝にもたらした結果であるが、ねねたちにはその詳細を知るすべもない。
ただし、それでねねは明智の動向を知ることができた。
「明智の軍は、西に」
光秀としては、津田信澄と同じく明智の娘を妻としているにもかかわらず、明智に従わない細川忠興や、帰趨をはっきり定めない、大和の筒井順慶の動向も気になる。
となれば、西へ出て「公方さま」を抑え、元幕臣である細川家に馳せ参じるように仕向け、大和の筒井家には、軍勢という具体的な圧力を与えるつもりだろう。
「これは絶好の機。また、逆に、これを逃がせば、あとはない」
今、明智は、その自身の「判断」によって西を目指している。
つまり、その「判断」により、自身を西に向かわざるを得なくしている。
こういう固まった状況に陥った者こそ、機会こそ、叩くべき時なのだ。
逆に、平島公方という「玉」を得た光秀は、もうこのようにどこかへ出向くということはない。
守勢に傾き、何となれば「玉」と共にどこまでも逃げ、籠もられるかもしれない。
あれほどの名将に、守りに徹せられたら。
……そこまでねねが考えたところで、長谷川宗仁が茶を出して来た。
「粗茶ですが、どうぞ」
「ありがたくいただきます」
宗仁はそつなく、高虎や正則にも茶を出した。
ふたりもいつになく緊張していたため、ありがたく茶をいただいた。
ふう、という息が、誰ともなく、洩れる。
「…………」
宗仁はそんなねねたちの様子を黙って見ていたが、やがて口を開いた。
「あの、ねねさん」
「何ですか」
「何で……そないな、将軍をどうこうちゅう……考えを、明智は持つようになったんですかいの」
宗仁としては、今、「将軍」と言われても、「今さら」という感じである。
かつて、織田信長が征夷大将軍を追放し、もう十年近くなる。
それを「今さら」将軍とは、どういうわけか。
「それなら簡単です」
宗仁のその問いに、ねねは何でもないことのように答え、そこで一度、茶をすすった。
「他ならぬ信長さまが、将軍を立てようとしていたからです」
場にいる一同、皆、茶碗を取り落としそうになった。
*
そもそも、織田信長は嫡男・織田信忠に、とっくに家督を譲っていた。
信長自体は前当主、という立場だった。
「だから、朝廷からも官職不要ということだったんでしょう。それよりも当主の信忠どのを将軍に、と」
ねねは、そう言ってから、茶の残りを飲んだ。
飲んだあとは、その茶碗の温かみを楽しむように、てのひらでころころと転がしている。
福島正則はそれを見て、ああいつものおふくろさまだと思いつつ、ねねの言葉の尋常ならざることに驚倒する。
「そ……その、今少し、順を負って説明して下さらんか」
藤堂高虎は決して愚かな男ではない。
ねねの言うことに真実味があると実感していたが、経緯というか流れを聞きたがった。
しかしことがことである。
ねねがそんなことはしないと言ったらそれまでだ。
「わかりました」
わりとあっさりとねねは応じた。
宗仁は、信長側近の自分すら知らなかった秘中の秘を、しかもあっさりと語ろうとするねねに度肝を抜いた。
だが手下に目配せして、周囲を警戒させるよう命じるのは忘れなかった。
ねねは何も言わなかったが、宗仁のその辺の手腕を信用して、あっさりと語るようにしたのかもしれない。
「そも、信忠さまは信長さまにより、天正四年の家督継承の際に、秋田城介という官職に任じられていました。これは、鎮守府将軍という官職に比肩する官職」
それゆえに、信忠は信長から城介城介と呼ばれていた。
今思えば、それは将軍になるのは信忠だという、信長なりの示しだったのかもしれない。
そして天正十年、今年三月に武田――甲州征伐に成功した信忠に対し、信長はこう言っている。
――天下の儀も御与奪。
これにより、織田家の家督のみならず、天下の儀、つまり天下人としても、信忠は信長の後継者であると示したのだ。
「……いや待て。いや、待って下されや、ねねさま」
高虎は、そこで疑念を呈した。
信忠を将軍にというよりも前に、そもそも信長自身が将軍になるべきではないか。
その方が、より実力に相応しいと思う。
「……悪くないと思いますけど、おそらくそれは、ある理由と……信長さまがもう年齢が年齢だからと遠慮したのでしょう。何しろ、『天下静謐』こそが信長さまの願い。そのためには、若い信忠さまに、長く将軍をやってもらいたいと……」
そこまで言ったねねに、待ったをかけたのは、意外にも福島正則だった。
「おふくろさま」
「何です市松」
市松を幼名とする正則は、こういうやり取り、おのれが童子の頃から変わらんと、少し笑った。
「信忠さまが若うて将軍を長くやれる、それはいい。それはいいけど、そもそも、将軍なんていうのは、足利でないと駄目だぎゃ、じゃない、駄目だという話じゃ。秋田城介などはいいけど、結局、足利ではないとと言われてしまう」
当時、巷説で、将軍職は足利家の家職であると言われていたという。
それゆえにこそ、織田信長は足利義昭を追放にとどめ、将軍職剥奪や処刑ができなかった、とも言われる。
そこを無視して織田家が将軍職を襲っても、それこそ信長包囲網のような全国からの反発、反撃があるかもしれない。
しかし天下静謐のためには、やはり将軍という重石が必要である。
鎌倉、室町とつづいた幕府という仕組みは、安定をもたらしてくれるのではないか。
「そこで信長さまは考えました」
と言うものの、推定であるとねねは断りを入れた。
話の言い方として、信長がそうしたと言わざるを得ないのである。
「ならば、足利家の者に将軍職を継いでもらい、織田家の幕府を作ろう、と」
「……は?」
こういう遠慮のない反応ができるのは、長年、ねねの「子」として過ごして来た正則の特権だな、と高虎は思った。
だが高虎も、そして宗仁も、何故、足利家の者で、織田家の幕府をと疑問を感じていた。
実際、宗仁はそれを口に出して聞いた。
すると、
「宗仁どの。お忘れですか?」
逆に反問された。
「な……何をでっか?」
「織田信忠さまは、他ならぬ足利義昭どのによって、『斯波家』の家督を得たではありませんか」
永禄十一年。
織田信長の尽力により、上洛に成功した足利義昭は、その信長に管領や副将軍といった褒美を与えようとしたが、そのほとんどを断られてしまう(ただし、実利の面から草津や大津、堺などの支配権を貰っていた)。
信長は、やはりそれでは将軍の体面が悪いと思い、義昭の提示した足利家の桐紋と、斯波家の家督を受けることにした。
斯波家はかつて尾張の守護を務めていた家柄。
しかし台頭する信長によって、当代の斯波義銀は追放されていた。
義昭としてはその斯波家の家督を信長に与え、尾張守護として公認したつもりだった。
そして信長はそれを嫡男・信忠に与えることにした。
当時、信忠が婚約していた、武田家の姫との格を考えてのことである。
――ウエサマ、ソロソロ、オオヒロマデ、シバノトノサマガ、オヨビネ。
あの時、本能寺において弥助がこう言っていたのは、信忠が斯波家の家督を得ていたことによる。
そして。
「斯波家、またの名を足利尾張家」
長谷川宗仁の隠れ家にて。
「ふむ……」
藤堂高虎は、ねねの才知に感歎する思いだった。
ねねが本能寺の変に遭遇し、ここまで何を見聞きし、どういう目に遭ったのかは聞いた。
ただそれを聞くのみで、そこから考えることは無かった。
ぼんやりと、明智が天下を取るつもりだとか、それよりも明智の兵に出くわしたらどうするかとか、そんなことを考えていた。
「それでも、明智にとっては、あの元幕臣にとっては、『御輿』として使えると判じたのです。実際に平島公方がどれほどの威光を誇るかは、わかりません。ただ、明智が『御輿』扱いできるということが大事」
特に感歎したのは、この台詞だった。
人間というのは、思いついたことを大事にしたがる。一番にしたがる。
それをねねは、突き放して見て、一番にはしない。
元幕臣・明智光秀は、思いついた「平島公方を将軍に」を大事にしているかもしれないが、ねねはそれを突き放している。
「……つまり、明智は平島公方にこだわっている。それを踏まえて、こちらは動く。それは特に、平島公方をこちらが先に抑えるとか、そういうことではない」
「では、こちらはどうすればよいのでござるか、おふくろさま」
ここで福島正則が発言してきた。
彼は、「おふくろさま」と慕うねねの言うことについて逆らうつもりは毛頭ない。
しかし、具体的な指示なり目標なりを示してくれないと、走ることができない。
「まずは、京畿の西の玄関、大坂。ここの動向」
長宗我部元親が平島公方を送って寄越すとしたら、阿波から淡路、そして摂津大坂へと水路を使って来るだろう。
そしてその大坂には。
「四国征伐軍、織田信孝どのがいらっしゃる」
信長の三男、信孝が、信長の生前に四国征伐を命じられ、一万四千もの大軍を率いて、大坂に待機していた。
その信孝の動向を探って欲しいとねねが言おうとした時、
「た、大変でございます」
「何や」
宗仁の手下の者が、息せき切って、この場に闖入した。
宗仁の手下は、今、宗仁がどのような話をしているか知っている。
だから、闖入などするはずはなかった。
それを敢えて、入って来るということは。
「変事か」
「はい」
手下は手短に、大坂にて織田信孝が、同じ四国征伐軍の津田信澄を攻め、そして討ったと言った。
津田信澄とは、かつて織田信長に逆らった実弟・織田信行の子であり、四国征伐軍の副将に任じられていた男である。
ちなみに信澄は、叛逆者・織田信行の子でありながら信長から優遇されており、織田家一の将である、明智光秀の娘を妻としていた。
「何だと」
正則は叫び、高虎はうなり、宗仁は目をみはった。
ひとりねねは冷静に、それで信孝どのはどうなりましたと聞いた。
「……それが」
手下は、信孝は信澄を討ったものの、その兵数を大きく減らしてしまい、一万四千の兵が、四千にまで落ち込んでいるという。
「おそらく、明智の差し金」
実際、光秀の謀臣・伊勢貞興が、敢えて光秀自筆の津田信澄宛ての書状を、巧妙に織田信孝にもたらした結果であるが、ねねたちにはその詳細を知るすべもない。
ただし、それでねねは明智の動向を知ることができた。
「明智の軍は、西に」
光秀としては、津田信澄と同じく明智の娘を妻としているにもかかわらず、明智に従わない細川忠興や、帰趨をはっきり定めない、大和の筒井順慶の動向も気になる。
となれば、西へ出て「公方さま」を抑え、元幕臣である細川家に馳せ参じるように仕向け、大和の筒井家には、軍勢という具体的な圧力を与えるつもりだろう。
「これは絶好の機。また、逆に、これを逃がせば、あとはない」
今、明智は、その自身の「判断」によって西を目指している。
つまり、その「判断」により、自身を西に向かわざるを得なくしている。
こういう固まった状況に陥った者こそ、機会こそ、叩くべき時なのだ。
逆に、平島公方という「玉」を得た光秀は、もうこのようにどこかへ出向くということはない。
守勢に傾き、何となれば「玉」と共にどこまでも逃げ、籠もられるかもしれない。
あれほどの名将に、守りに徹せられたら。
……そこまでねねが考えたところで、長谷川宗仁が茶を出して来た。
「粗茶ですが、どうぞ」
「ありがたくいただきます」
宗仁はそつなく、高虎や正則にも茶を出した。
ふたりもいつになく緊張していたため、ありがたく茶をいただいた。
ふう、という息が、誰ともなく、洩れる。
「…………」
宗仁はそんなねねたちの様子を黙って見ていたが、やがて口を開いた。
「あの、ねねさん」
「何ですか」
「何で……そないな、将軍をどうこうちゅう……考えを、明智は持つようになったんですかいの」
宗仁としては、今、「将軍」と言われても、「今さら」という感じである。
かつて、織田信長が征夷大将軍を追放し、もう十年近くなる。
それを「今さら」将軍とは、どういうわけか。
「それなら簡単です」
宗仁のその問いに、ねねは何でもないことのように答え、そこで一度、茶をすすった。
「他ならぬ信長さまが、将軍を立てようとしていたからです」
場にいる一同、皆、茶碗を取り落としそうになった。
*
そもそも、織田信長は嫡男・織田信忠に、とっくに家督を譲っていた。
信長自体は前当主、という立場だった。
「だから、朝廷からも官職不要ということだったんでしょう。それよりも当主の信忠どのを将軍に、と」
ねねは、そう言ってから、茶の残りを飲んだ。
飲んだあとは、その茶碗の温かみを楽しむように、てのひらでころころと転がしている。
福島正則はそれを見て、ああいつものおふくろさまだと思いつつ、ねねの言葉の尋常ならざることに驚倒する。
「そ……その、今少し、順を負って説明して下さらんか」
藤堂高虎は決して愚かな男ではない。
ねねの言うことに真実味があると実感していたが、経緯というか流れを聞きたがった。
しかしことがことである。
ねねがそんなことはしないと言ったらそれまでだ。
「わかりました」
わりとあっさりとねねは応じた。
宗仁は、信長側近の自分すら知らなかった秘中の秘を、しかもあっさりと語ろうとするねねに度肝を抜いた。
だが手下に目配せして、周囲を警戒させるよう命じるのは忘れなかった。
ねねは何も言わなかったが、宗仁のその辺の手腕を信用して、あっさりと語るようにしたのかもしれない。
「そも、信忠さまは信長さまにより、天正四年の家督継承の際に、秋田城介という官職に任じられていました。これは、鎮守府将軍という官職に比肩する官職」
それゆえに、信忠は信長から城介城介と呼ばれていた。
今思えば、それは将軍になるのは信忠だという、信長なりの示しだったのかもしれない。
そして天正十年、今年三月に武田――甲州征伐に成功した信忠に対し、信長はこう言っている。
――天下の儀も御与奪。
これにより、織田家の家督のみならず、天下の儀、つまり天下人としても、信忠は信長の後継者であると示したのだ。
「……いや待て。いや、待って下されや、ねねさま」
高虎は、そこで疑念を呈した。
信忠を将軍にというよりも前に、そもそも信長自身が将軍になるべきではないか。
その方が、より実力に相応しいと思う。
「……悪くないと思いますけど、おそらくそれは、ある理由と……信長さまがもう年齢が年齢だからと遠慮したのでしょう。何しろ、『天下静謐』こそが信長さまの願い。そのためには、若い信忠さまに、長く将軍をやってもらいたいと……」
そこまで言ったねねに、待ったをかけたのは、意外にも福島正則だった。
「おふくろさま」
「何です市松」
市松を幼名とする正則は、こういうやり取り、おのれが童子の頃から変わらんと、少し笑った。
「信忠さまが若うて将軍を長くやれる、それはいい。それはいいけど、そもそも、将軍なんていうのは、足利でないと駄目だぎゃ、じゃない、駄目だという話じゃ。秋田城介などはいいけど、結局、足利ではないとと言われてしまう」
当時、巷説で、将軍職は足利家の家職であると言われていたという。
それゆえにこそ、織田信長は足利義昭を追放にとどめ、将軍職剥奪や処刑ができなかった、とも言われる。
そこを無視して織田家が将軍職を襲っても、それこそ信長包囲網のような全国からの反発、反撃があるかもしれない。
しかし天下静謐のためには、やはり将軍という重石が必要である。
鎌倉、室町とつづいた幕府という仕組みは、安定をもたらしてくれるのではないか。
「そこで信長さまは考えました」
と言うものの、推定であるとねねは断りを入れた。
話の言い方として、信長がそうしたと言わざるを得ないのである。
「ならば、足利家の者に将軍職を継いでもらい、織田家の幕府を作ろう、と」
「……は?」
こういう遠慮のない反応ができるのは、長年、ねねの「子」として過ごして来た正則の特権だな、と高虎は思った。
だが高虎も、そして宗仁も、何故、足利家の者で、織田家の幕府をと疑問を感じていた。
実際、宗仁はそれを口に出して聞いた。
すると、
「宗仁どの。お忘れですか?」
逆に反問された。
「な……何をでっか?」
「織田信忠さまは、他ならぬ足利義昭どのによって、『斯波家』の家督を得たではありませんか」
永禄十一年。
織田信長の尽力により、上洛に成功した足利義昭は、その信長に管領や副将軍といった褒美を与えようとしたが、そのほとんどを断られてしまう(ただし、実利の面から草津や大津、堺などの支配権を貰っていた)。
信長は、やはりそれでは将軍の体面が悪いと思い、義昭の提示した足利家の桐紋と、斯波家の家督を受けることにした。
斯波家はかつて尾張の守護を務めていた家柄。
しかし台頭する信長によって、当代の斯波義銀は追放されていた。
義昭としてはその斯波家の家督を信長に与え、尾張守護として公認したつもりだった。
そして信長はそれを嫡男・信忠に与えることにした。
当時、信忠が婚約していた、武田家の姫との格を考えてのことである。
――ウエサマ、ソロソロ、オオヒロマデ、シバノトノサマガ、オヨビネ。
あの時、本能寺において弥助がこう言っていたのは、信忠が斯波家の家督を得ていたことによる。
そして。
「斯波家、またの名を足利尾張家」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる