連戦 ~新田義貞の鎌倉攻め~

四谷軒

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急 分倍河原の戦い

11 画策

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 大多和義勝は、足利家執事・高師直こうのもろなおの一族の者である。
 彼は三浦の一族、大多和の養子となり、相模にて足利家の尖兵を作るべく動いていた。

 みやこ
 六波羅をおとした足利高氏は、武蔵野の新田義貞の進撃を知り、少し考えると、師直に命令を下した。
「義勝に、新田に味方せよと?」
「そうだ」
「……よろしいので?」
「構わん」
 実は大多和義勝は、きたるべきにおいて、鎌倉にとして入らせ、鎌倉内部から足利を手引きする役割を与えられていた。
 そのため、相模の名族、三浦に送り込まれていたのだ。
「新田、騎虎のごとし。鎌倉をほふれよう」
 それが高氏の評価である。そう評価した以上、賭け金は全て新田に預ける。
 後に南北朝混乱期を制し、征夷大将軍と成りおおせる高氏の真骨頂が、そこにあった。
かしこまりました」
 であれば、師直としても異存は無かった。



「――そういう、鎌倉の中から食い荒らすはず、であったのであろう」
 新田義貞は、大多和義勝のを正確に言い当てた。
おおせの通り」
 義勝はうやうやしく頷く。義貞の読みに舌を巻きながら。
 やはり、幕府軍を二度にわたり撃破するだけあって、ただ者ではない、と。
「しかし今、新田は負けた。貴殿としては相模に戻るか、北条泰家の下に馳せ参じるべきでは」
 を果たせ、と義貞は語った。
「いえ」
 義勝はかぶりを振った。
の北条泰家十万の軍こそ、幕府最後の兵。これを破らねば、勝ちはない。お分かりで?」
「まあな。相模に居座り鎌倉に籠城されたら、かなわん」
 義貞は頷く。下手に北条泰家が持久戦の構えを取れば、幕府はその命数を長らえる。この時点でまだ九州の鎮西探題が健在で、もし鎌倉が生き延びれば、東西から後醍醐天皇の朝廷を圧迫しよう。
「であれば、あの十万を撃破すれば、鎌倉は残兵わずか。つまり……」
「この分倍河原こそ、決戦の場か。面白い」
「ではぜひ三浦衆六千、お使い下され。実はまだ対岸に。急ぐあまり、ここへは私のみ……」
 そこまで義勝が言った時、義助が戻ってきた。
「兄者の読み通りだったぞ」
「そうか」
「……一体、何事で?」
 義助は、迂闊に情報を洩らすまいと構えるが、義貞にまあまあとなだめられた。
「義勝どの。この川多摩川もまた、利根川と同じということよ」
 いぶかしむ義勝。だが義貞はつづける。
「三浦衆は対岸? 重畳ちょうじょう。では遠慮なく使わせて頂こう」
 義勝は聞く。
「どのように」
 そこで義貞は破顔した。

「何、高氏どのと同じよ」
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