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急 分倍河原の戦い
11 画策
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大多和義勝は、足利家執事・高師直の一族の者である。
彼は三浦の一族、大多和の養子となり、相模にて足利家の尖兵を作るべく動いていた。
京。
六波羅を陥した足利高氏は、武蔵野の新田義貞の進撃を知り、少し考えると、師直に命令を下した。
「義勝に、新田に味方せよと?」
「そうだ」
「……よろしいので?」
「構わん」
実は大多和義勝は、来るべき足利高氏の鎌倉攻めにおいて、鎌倉に幕府の味方として入らせ、鎌倉内部から足利を手引きする役割を与えられていた。
そのため、相模の名族、三浦に送り込まれていたのだ。
「新田、騎虎の如し。鎌倉を屠れよう」
それが高氏の評価である。そう評価した以上、賭け金は全て新田に預ける。
後に南北朝混乱期を制し、征夷大将軍と成り果せる高氏の真骨頂が、そこにあった。
「畏まりました」
であれば、師直としても異存は無かった。
*
「――そういう、鎌倉の中から食い荒らすはず、であったのであろう」
新田義貞は、大多和義勝の元の役割を正確に言い当てた。
「仰せの通り」
義勝は恭しく頷く。義貞の読みに舌を巻きながら。
やはり、幕府軍を二度にわたり撃破するだけあって、ただ者ではない、と。
「しかし今、新田は負けた。貴殿としては相模に戻るか、北条泰家の下に馳せ参じるべきでは」
元の役割を果たせ、と義貞は語った。
「いえ」
義勝は頭を振った。
「彼の北条泰家十万の軍こそ、幕府最後の兵。これを破らねば、勝ちはない。お分かりで?」
「まあな。相模に居座り鎌倉に籠城されたら、かなわん」
義貞は頷く。下手に北条泰家が持久戦の構えを取れば、幕府はその命数を長らえる。この時点でまだ九州の鎮西探題が健在で、もし鎌倉が生き延びれば、東西から後醍醐天皇の朝廷を圧迫しよう。
「であれば、あの十万を撃破すれば、鎌倉は残兵わずか。つまり……」
「この分倍河原こそ、決戦の場か。面白い」
「ではぜひ三浦衆六千、お使い下され。実はまだ対岸に。急ぐあまり、ここへは私のみ……」
そこまで義勝が言った時、義助が戻ってきた。
「兄者の読み通りだったぞ」
「そうか」
「……一体、何事で?」
義助は、迂闊に情報を洩らすまいと構えるが、義貞にまあまあと宥められた。
「義勝どの。この川もまた、利根川と同じということよ」
訝しむ義勝。だが義貞はつづける。
「三浦衆は対岸? 重畳。では遠慮なく使わせて頂こう」
義勝は聞く。
「どのように」
そこで義貞は破顔した。
「何、高氏どのと同じよ」
彼は三浦の一族、大多和の養子となり、相模にて足利家の尖兵を作るべく動いていた。
京。
六波羅を陥した足利高氏は、武蔵野の新田義貞の進撃を知り、少し考えると、師直に命令を下した。
「義勝に、新田に味方せよと?」
「そうだ」
「……よろしいので?」
「構わん」
実は大多和義勝は、来るべき足利高氏の鎌倉攻めにおいて、鎌倉に幕府の味方として入らせ、鎌倉内部から足利を手引きする役割を与えられていた。
そのため、相模の名族、三浦に送り込まれていたのだ。
「新田、騎虎の如し。鎌倉を屠れよう」
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「畏まりました」
であれば、師直としても異存は無かった。
*
「――そういう、鎌倉の中から食い荒らすはず、であったのであろう」
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「仰せの通り」
義勝は恭しく頷く。義貞の読みに舌を巻きながら。
やはり、幕府軍を二度にわたり撃破するだけあって、ただ者ではない、と。
「しかし今、新田は負けた。貴殿としては相模に戻るか、北条泰家の下に馳せ参じるべきでは」
元の役割を果たせ、と義貞は語った。
「いえ」
義勝は頭を振った。
「彼の北条泰家十万の軍こそ、幕府最後の兵。これを破らねば、勝ちはない。お分かりで?」
「まあな。相模に居座り鎌倉に籠城されたら、かなわん」
義貞は頷く。下手に北条泰家が持久戦の構えを取れば、幕府はその命数を長らえる。この時点でまだ九州の鎮西探題が健在で、もし鎌倉が生き延びれば、東西から後醍醐天皇の朝廷を圧迫しよう。
「であれば、あの十万を撃破すれば、鎌倉は残兵わずか。つまり……」
「この分倍河原こそ、決戦の場か。面白い」
「ではぜひ三浦衆六千、お使い下され。実はまだ対岸に。急ぐあまり、ここへは私のみ……」
そこまで義勝が言った時、義助が戻ってきた。
「兄者の読み通りだったぞ」
「そうか」
「……一体、何事で?」
義助は、迂闊に情報を洩らすまいと構えるが、義貞にまあまあと宥められた。
「義勝どの。この川もまた、利根川と同じということよ」
訝しむ義勝。だが義貞はつづける。
「三浦衆は対岸? 重畳。では遠慮なく使わせて頂こう」
義勝は聞く。
「どのように」
そこで義貞は破顔した。
「何、高氏どのと同じよ」
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