いつの日か、きみとサンタクロースと

名木雪乃

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出会い編

05 カイルの霍乱?

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 リジーはモップを洗ってかたずけて休憩室に戻った。スーザンはまだだったが、コーヒーサーバーの所に先客がいた。カイルだった。

「!」

 見ると、カイルは紙コップを持たずに、注ぎ口の下に置いたままボタンを押していた。
 リジーはじっと観察してしまった。

(そうか、置けば落とさずに済むんだ)

「なに見てる!?」

 リジーの視線に気がづいたカイルが鋭い声を上げた。

「す、すみません! さっきサーバーの使い方を失敗してしまったので、カイルさんのやり方をお手本にしようと見てました。声もかけずに勝手にじっと見てすみません」

 カイルはぎろっとリジーを見た。

「これを失敗って……。馬鹿なのか?」

 冷淡に言い放たれた。

「はい、馬鹿です」

 リジーは肩を落とした。

「自分で言うな。……ほら、やってみろ」
「え?」
「見てたんだろう?」

 カイルに顎でやれと促され、リジーはカイルの威圧感に負けた。
 恐る恐る紙コップを注ぎ口の真下においた。それからボタンを丁寧に押した。
 すると、コーヒーが勢いよく出て、多少ははねたがうまく紙コップに満たされた。

「できました! カイルさん!!」

 満面の笑みを浮かべるリジーに、カイルはため息を返した。

「馬鹿か……。それくらいガキでもできるだろ! サーバーなんかの使い方より、早く仕事を覚えろ!」
「は、はい……」

 リジーはしゅんとしたが、カイルの言うことは最もだ。早く仕事を覚えたい。

「仕事、がんばります!!」

 リジーは顔を上げ、目力でカイルに対抗してみた。
 カイルはきつい目線を返すと、一度瞬きしてから無言で自分のコーヒーを持ってその場からいなくなった。


「ふう」

 リジーはようやくためていた息を吐いた気がした。


 その後すぐにスーザンが戻って来た。

「シミはきれいに落ちたよ。ベランダに干して来た」
「よかった……。ありがとうございます」

 リジーはホッとした。

「すぐだったからね。これは、別のエプロン。午後はこれを使って。あれ、まだお昼食べてなかったの? じゃあ急いで一緒に食べようか」
「はい」
「あ、今度はうまく注げたんだ」

 スーザンはリジーの手元のコーヒーを見て、微笑んだ。

「はい、カイルさんのやり方を見て……」
「え? カイルいたの?」
「コーヒーを取りに来たみたいですよ。コーヒーを入れて、すぐに行ってしまいましたけど」
「へえ~」

 スーザンは意味ありげな顔をしたが、リジーにはわからなかった。





♢♢♢♢♢♢


 店の喫煙室を利用する社員は、普段ふたりしかいない。

 シルビアとカイルだけだ。ふたりは偶然一緒になると、何となく会話する仲だった。

 カイルは昼は必ずコーヒーを飲みながら一服する。いつもは近所のカフェからテイクアウトするのだが、今日は休憩室のサーバーのコーヒーを顔をしかめながら飲んでいた。

 シルビアは椅子に深く座り、組んだ足をぶらぶらさせながら煙草を吸っていた。

「よく、あの不器用で素朴な小娘を採用したな?」

 珍しくカイルから声をかけたので、シルビアは眉を上げおや? という表情をした。

「え? 酷い言いようね。あなたがそれを言う?」
「俺も、よく……の方ってか? 確かにな」
「うちにはいないタイプだったし、これからは素直な癒し系も需要があるかと思ってね。あの子に興味持った?」
「まさか!」
「あの子、面接の時に絵が好きだって言ったから、ちょっとふったら、画家のうんちくを次から次へと語り出して……。それが子守歌みたいに心地よくて寝そうになったわ。画家では特にマリー・ローランサンが好きなんですって。ローランサンの恋の遍歴とか、同性愛者っぽかったことまで話し出したときは……アハハハ、可笑しかったわあ」

 シルビアが身体を揺らしながら豪快に笑い出したので、カイルは引いた。

「あとは彼女の声が個人的に好きね。なんだかほんとに癒されちゃって……。だから採用!」
「大した理由だな。そんなだからいつまでたってもこの店が儲からねえんだ」
「あら、カイルがもうちょっと人あたりが良かったら、女の子にうけて女性客が増えたと思うんだけど?」
「無理」

 カイルは目を細め、不機嫌な顔で即答する。

「うふふ、私はカイルのそういう顔、好きだけどね。物好きが現れると良いわね。私みたいな……」

 シルビアがニヤリとする。

(笑えねぇ)

 と、カイルはそっぽを向く。

 喫煙室でのシルビアは、よくカイルをからかって遊ぶ。


『できました! カイルさん!!』

 不意にカイルの脳裏にリジーの無邪気な笑顔が浮かんだ。あれは無意識であって自分に対してじゃない。おそらく、そこに誰がいようとあの顔だったに違いない。


 カイルはシルビアに観察されていることに気が付いていない。


『あの子に興味持った?』

(断じてそれはない……。珍しいだけだ。偶然にしても、今まであんな顔を女から向けられたことが無かったからな)

 カイルは根元まで吸った煙草を捨てた。


 カイル霍乱かくらん? かしらね。

 シルビアはまたニヤリとすると、2本目の煙草にゆるりと火をつけた。

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