いつの日か、きみとサンタクロースと

名木雪乃

文字の大きさ
14 / 95
出会い編

14 誕生日のクッション

しおりを挟む
♢♢♢♢♢♢


 自分はどうかしている。彼女がもう子供ではないとわかっているのに、頭を撫でてしまう。つい腕の中に囲ってしまいたくなる。

 彼女がここにいるのが夢ではないのだと、その実体を、その温もりを確認したくて、覚えていたくて、肩を抱く手が離せない。

 自分を真剣に心配して、目を潤ませてくれる彼女といるのが心地良い。

 せめて今だけ……このまま……。

 思い出を残しておきたい。



♢♢♢♢♢♢



 近頃<フォレスト>では、子供連れの客と年配の客が来ると、必ずといって良いほど、リジーが呼ばれる。

「リジー! ちょっと来てくれない!」

 リジーは接客中のマリサの補助につく。

「はい!」

 ウケが良いから、らしいのだが。
 自分ではさっぱりわからない。

「リジー、こちらのお嬢さんを見ててあげてくれない?」

 金髪をふたつに結い上げた5~6歳の女の子がいた。
 母親の後ろにへばりついて隠れて、少しおどおどしている。

「こんにちは、私はリジーよ。あなたのお名前は?」

 女の子の近くにしゃがんで、視線を合わせながら尋ねる。

「……キャロライン」

 ぼそっと告げると、女の子はちらちらとリジーを見始めた。

「キャロライン? かわいい名前だね。あなたにぴったり!」
「……」
「ねえ、キャロライン、私とお絵描きしない? 絵を描くのは好き?」
「うん」

 女の子の返事をきくと、リジーはエプロンのポケットから自分のメモ帳を取り出した。
 さらさらとそれに絵を描く。

「これな~んだ?」
「チェリー」
「あれ? リンゴを描いたつもりだったんだけど……」
「棒が長いから、リンゴじゃないよ」
「そ、そうか。じゃあ、キャロラインが描いて教えてくれる?」
「いいよ!」

 女の子は母親の後ろからすんなり出て来た。
 リジーはマリサからウインクされた。



「リジー、さっきはナイスだったわ。ありがとう。おかげで話を詰められて、ソファの注文ももらったし」

 マリサがにこにこ報告しながらリジーに近づいてきた。

「お役に立ててよかったです!」
「あなた、この頃寝不足? 目の下にくまがある。少しは化粧で隠せばいいのに」
「お化粧苦手で。寝不足は、えっと、少し」
「悩み事?」
「いいえ、全然悩みじゃないですから」
「何かあったら、私でもスーザンでも相談に乗るわよ。なんなら、カイルでも」

「ついでで俺の名前を出すな!」

 背中を向けて配達の準備をしていたカイルが、そのまま不機嫌な声を出す。

「だ、大丈夫です。ありがとうございます」

(ジョンの事が思い出されて、なんとなく眠れてないなんて言えない。ジョンはあの後、会っても普段通り。拍子抜けするほど。自分だけ意識して、なんだか馬鹿みたい)




 <スカラムーシュ>はいつもそこにあって、ジョンがいつもそこにいる。
 それだけで、安心する。


「リジー、おかえり! お母さんから荷物が届いているよ」

 仕事から帰って来たリジーは、店の中からジョンに声をかけられた。

(なんだかドキッとする。心の揺れが顔に出てないといいけど)

「荷物?」

 包みを受け取って、その柔らかくて軽いものを抱えてから思い出した。

(うそ、今日私の誕生日? だっけ? 完璧に忘れてた……)

「お母さん、覚えていてくれたんだ。ここで開けても良い? ジョンにも触らせてあげる」
「開けるのはかまわないけど?」

 リジーが夢中で包装を破きだしたので、その声は掻き消された。
 出てきたのは、大きな丸い薄ピンク色のクッションだった。白い水玉の模様がある。
 リジーはそのクッションにとろけるような顔をして頬擦りした。

「あ~この感触。たまらない! これを抱きしめて早く寝たい。ジョンもふかふかっとしてみて! すごく気持ち良いよ。癒されるよ!」

 クッションをジョンの胸に押し付けると、ジョンはその勢いに一歩下がる。

「わかったから、落ち着いてリジー……」

 ジョンはなぜか緊張したような面持ちで、クッションを抱きしめている。

(あれ? あんまり気持ち良くないのかな?)


 リジーがふと見ると、窓の外からサムがにやけた顔で中を見ていた。

「サム!!」

 ジョンは慌ててクッションを離しリジーに押しやると、サムに手招きしていた。

 サムはニタニタしながら、店に入ってきた。

「サム! サムもふかふかしてみて! 気持ち良いから!」

 リジーはすでにすっかりサムに打ち解けていた。サムにクッションを渡す。

「なにこれ? すごく気持ち良いね」

 うっとりした様子で頬擦りしている。
 リジーはサムの期待通りの反応に満足した。


 サムの腑抜けた表情に、大の男がクッションに頬擦りする絵面えずらはどうかと言わんばかりに、ジョンは得も言われぬ顔をしていた。


「お母さんが送ってくれたの。前に欲しいって言ってたから」

(今年の誕生日はひとりでクッションを抱いてお祝いか。部屋に美味しいお菓子、あったかな)

「俺はふかふかするならリジーの方が良いけどね。クロウもだ、ろ……」

 サムの鍛えているという下腹部にジョンの拳が入った。

「同意を求めるな。サム、何か用だったのか?」

 ジョンは無表情だ。

「飲みに行こうぜ。そうだ、リジーも行く?」
「だめだ、リジーは未成年だろ」

 リジーが答える前にジョンが即座に反対する。

(だよね……)リジーは笑顔を作った。

「おふたりでどうぞ。私はこのクッションを抱えてのんびり部屋で寛ぐから」

 サムから戻されたクッションに少し陰った笑みを埋める。


「クロウ、これ、なんだかわかる?」

 いつの間にかサムが赤い封筒を持っている。
 表に<リジーへ>と母の筆跡が見えた。
 クッションの包装の中に入っていたのだ。

 クッションに夢中で、リジーもジョンも封筒に気が付かなかった。

「クリスマスでもないのに、娘にカードとプレゼントってなんだろうね……?」
「いいから、サム。返して!」

 サムは意外と鋭い。リジーはカードを取り戻そうと手を伸ばすが届かない。

「リジー、もしかして……誕生日?」

 ジョンも察したようで、リジーに聞いてくる。
 サムからカードを奪い取ったリジーは、仕方がなく答える。

「あ、うん、今日ね。仕事やら何やらで忘れてた。いいの。ふたりは飲みに行って」

 ジョンとサムの視線が交わる。

「……今日は飲むんじゃなくて、どこかで食事にしないか、サム? 3人で」

(3人!?)

 リジーは胸が躍った。思わずクッションをぎゅっと抱きしめる。

 ジョンとサムから優しい笑顔が向けられた。

「そうだな。俺、女の子の好きそうなメルヘンな店知ってるよ」
「じゃあ、そこへ行こう。リジー、いいかい?」
「うん!」

 リジーは瞳を輝かせて大きく頷いた。

「リジー、そのクッションはさすがに連れてけない……」
「あ、つい……」

 クッションを抱えたまま外に出ようとしたリジーは、サムに指摘され焦った。
 ジョンが自然に笑っていた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

恋と首輪

山猫
恋愛
日本屈指の名門・城聖高校には、生徒たちが逆らえない“首輪制度”が存在する。 絶対的支配者・東雲財閥の御曹司、東雲 蓮の「選んだ者」は、卒業まで彼の命令に従わなければならない――。 地味で目立たぬ存在だった月宮みゆは、なぜかその“首輪”に選ばれてしまう。 冷酷非情と思っていた蓮の、誰にも見せない孤独と優しさに触れた時、みゆの心は静かに揺れはじめる。 「おめでとう、今日から君は俺の所有物だ。」 イケメン財閥御曹司 東雲 蓮 × 「私はあなたが嫌いです。」 訳あり平凡女子 月宮 みゆ 愛とか恋なんて馬鹿らしい。 愚かな感情だ。 訳ありのふたりが、偽りだらけの学園で紡ぐカーストラブ。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。

みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。 同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。 そんなお話です。 以前書いたものを大幅改稿したものです。 フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。 六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。 また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。 丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。 写真の花はリアトリスです。

処理中です...