いつの日か、きみとサンタクロースと

名木雪乃

文字の大きさ
13 / 95
出会い編

13 目がくらむ

しおりを挟む
 ジョン視点、♦♦♦の部分は少し時間がさかのぼります。


♦♦♦♦♦♦


 ジョンがアクセサリーを購入してくれた女性客を見送って、店に戻って来た時だった。
 作業机の上の電話が鳴った。受話器を取るや否やけたたましい声がした。

――やあ、クロウ! リジーが今、うちの店に来てるよ!
『サム? 急に話し出すな。リジーはタコスが好きだと言っていたし……そうか、寄ってるのか』
――リジーは子リスみたいでかわいいよね。客の男がさっきから口説いててさ~
『え!?』
――早くしないとお持ち帰りされちゃうかも。俺は忙しくて対応できないから~
『すぐに行く! 悪いが見張っててくれ』


♦♦♦♦♦♦


(リジーが店の外にポツンといたのを見た時、サムに担かつがれたのだとわかって腹が立った。でも、そのおかげで彼女をパラソルから守れた)


 ふたりはアパートメントに戻るため、通りを歩いていた。
 サムからお詫びだと、タコスとハッシュドポテトをふたり分渡された。

「ジョン、ありがとう。パラソルから守ってくれて。腕は本当に大丈夫なの?」
「ああ」

 ジョンがあまりに普通にしているので、リジーは疑わしく思ったようだ。

「気になる。腕、見せて!」

 リジーが心配そうな顔をしたので、ジョンは左腕のシャツの袖を自分で捲り上げた。
 ジョンの腕に怪我の跡が無いか、しげしげと手首を持ち上げて眺めている。
 やけに真面目なリジーの表情が妙におかしくて、ジョンの口角が自然と上がった。

「右腕は?」
「当たっていない」
「本当に? じゃあ、見せて!」
「右はだめだ」

 そう言うと、リジーがむきになって右手首を掴んでくる。

「どうして見せてくれないの? 怪我してるからじゃないの?」
「疑り深いな。怪我はしてないから大丈夫だよ」
「私に嘘はつかないで。絶対受け止めるから! 私の不運のせいでジョンが怪我したら、私……」

 強い表情から急にせつない顔を向けるリジーを見て、ジョンは焦った。

「嘘じゃない」

 ジョンは観念して右腕のシャツの袖も捲った。

「!!」
 
 リジーが息を呑んだのがわかった。
 ジョンの右腕には、肘にかけて少しひきつったような跡と浅黒い痣がある。
 パラソルが当たったのではなく、古いものだ。

「嘘じゃなかったろ? これだから見せたくなかったんだ」
「ごめんなさい、疑って……。もしかしてこれ火傷の跡?」
「そう、子供の頃のね」
「どうしたの?」
「……嘘はだめか。小学5年生の時、友達に、友達だと思ってたやつに、熱湯をかけられた」
「……」

 リジーは声を上げずに、手で口元を抑えて耐えている。
 涙目になっていたので、ジョンは慰めるようにリジーの頭を撫でた。

「僕が子供の頃住んでいたあたりは、アジア系は少なかった。だから、所謂いわゆる差別的ないじめだった。よくあることだ」
「そんな……詮索して、ごめんね」
「いや、この経験のおかげで強くなった。心身ともに。悪魔から<魔王>と呼ばれるまでにね」

 ジョンの目に力強い光が宿る。


 午後から在庫の家具のから拭きを手伝うと言われ、了承するとタコスの袋を渡し、リジーと別れた。



 ジョンは店に戻り、ランプの光に包まれた。
 その途端、懐かしい記憶が溢れ出て、目を閉じた。
 自分にとってたったひとりの父の姿が目に浮かぶ。

『ジョン、話してくれてありがとう。火傷の跡は君の勲章だ。母親に心配かけたくなくて真実を黙っていたとは。強いな。私の誇りだ。だが、もうひとりで耐えることはない。私になんでも話して欲しい。一緒に悩むことしかできないがね』

 この火傷の話をした時、父が自分の行いを肯定してくれたことが嬉しかった。

『私に嘘はつかないで。絶対受け止めるから!』

 子供のような素直な顔を見せるかと思うと、大人のように強い意志をのぞかせる……。
 ジョンはランプの光を凝視しすぎて目がくらんだ。


♢♢♢♢♢♢


 リジーは部屋に戻ると、食べたかったタコスを十分に堪能し、活力を補った。


 そして、約束通り<スカラムーシュ>の家具のから拭きを手伝っていた。

 木のぬくもりが好きだった。つい、のめり込んでしまう。蜜蝋みつろうが塗ってあるそうで、磨くとつやつやするのがうれしい。気が付くと一心不乱に磨いている。


「リジー、一休みしよう」

 奥から聞こえたジョンの声に、リジーは振り向いて立ち上がった。
 急に目の前がちかちかして、目を開けているのに視界が消えた。
 たまになる立ちくらみだ。


「リジー!?」
 
 ジョンの慌てた声がやけに遠くに、近付いてくる足音の方ははっきり聞こえた。
 
「大丈夫、目を閉じてじっとしていれば、すぐ直るから」

 リジーは膝を着くと、椅子の座面に腕を置いて伏した。


 落ち着いて、目を閉じてゆっくり深呼吸した。
 静かな世界。いつも聞こえない遠くの音だけが聞こえる。

 頭を上げ、ゆっくり目を開けてみた。
 視界は戻っているが、今日はなぜか気持ち悪い。

「大丈夫? あっちのソファで休もう」

 ジョンが自然に手を差し出してくる。

「うん……」

 リジーは、その大きな手に頼るか一瞬考えたが、差し出されたのに無下にもできないと思い、自分の手を預けた。
 軽々と立たせられ、腕を支えられながら、来客用のソファの方まで移動した。


 さっきまでなんともなかったのが、今はふらつきがひどい。
 昨夜遅くまでミステリー小説を読んでいたから寝不足が今頃たたっている?
 地味に具合が悪い。

「顔色が悪いな」

 リジーはソファに座らされたが、ジョンもリジーの肩を抱くようにして一緒に座った。
 頭を優しく抑えられ、自然にもたれかかる形になった。
 目を閉じると、ジョンのぬくもりだけを感じる。

 心地よい、寝てしまいそう……ではない。と、目を無理やりこじ開ける。
 ふと目線だけ上にずらすと、ジョンの顔が頭に近くてギョッとなる。

「……!」

 意識が完全に覚醒した。この体勢はまずい、と脳の片隅で警告音がする。

「も、もうよくなったけど、一度部屋に戻るね。から拭きはまた後でするから」

 そう言って、ジョンの腕から離れて立ち上がろうとしたが……離されなかった。
 逆になぜか押さえ込まれている。

「まだ顔色がよくない。もう少し目をつぶっていたほうが良い」
「でも……」

 思わずジョンを見上げたが、顔が近すぎたのですぐ俯いた。


「から拭きは終わりでいいから。もう少ししたら部屋まで送ろう」
「ううん、平気だから! 心配しないで」

 そう断って、リジーはソファとジョンから元気に勢いよく立ち上がった。
 ところが、気持ちとは裏腹に身体はふらついた。

「!」
「リジー、慌てないで」

 またジョンの腕に逆戻りだった。腕の中にすっぽり納まってしまった。

「ご、ごめんなさい」

 どうしてこうなるのか、リジーは心が落ち着かなかった。

 この過剰ともいえるスキンシップは、大人(ジョン)→優しさ→子供(私) 的な感じ?

 ジョンはあまりにも普通に接してくる。
 何も気に止めていない様子だし、自分も気にしなければいいのに……。
 絶対勘違いしてはいけない。
 ジョンは自分のことを、きっと妹くらいにしか思っていない。

「ひとりで大丈夫だから」


 リジーは支えられていたジョンの腕から慎重に離れ、悶々と考えながら部屋に戻った。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

恋と首輪

山猫
恋愛
日本屈指の名門・城聖高校には、生徒たちが逆らえない“首輪制度”が存在する。 絶対的支配者・東雲財閥の御曹司、東雲 蓮の「選んだ者」は、卒業まで彼の命令に従わなければならない――。 地味で目立たぬ存在だった月宮みゆは、なぜかその“首輪”に選ばれてしまう。 冷酷非情と思っていた蓮の、誰にも見せない孤独と優しさに触れた時、みゆの心は静かに揺れはじめる。 「おめでとう、今日から君は俺の所有物だ。」 イケメン財閥御曹司 東雲 蓮 × 「私はあなたが嫌いです。」 訳あり平凡女子 月宮 みゆ 愛とか恋なんて馬鹿らしい。 愚かな感情だ。 訳ありのふたりが、偽りだらけの学園で紡ぐカーストラブ。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。

みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。 同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。 そんなお話です。 以前書いたものを大幅改稿したものです。 フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。 六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。 また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。 丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。 写真の花はリアトリスです。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

処理中です...