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出会い編
29 サンタクロースと母と子
しおりを挟む出会い編ラストです。
ジョン視点、ジョンの過去の話が中心です。
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ジョンは、いつも書類関係の作業をする木製の机の引き出しを開けた。
その奥にぼろぼろの封筒がある。封筒の中には一枚の古い写真が入っている。
小さな女の子の写真。クリスマス用の大きな靴下を持って、輝くように笑っている。
その写真を見つけた時、ジョンは愕然とした。
義父と同じ栗色の髪と瞳、彼の娘の写真だ。
ジョンは母親と再婚した義父が、それ以前は独身だと思っていた。
結婚していて子供もいるという話は、母からも彼からも聞いていなかった。
彼からは何一つそれがわかる気配もなかった。
その時の気持ちをジョンは忘れていない。
彼、フリード・ランザーは、残酷なほど優しい人だった。
♦♦♦♦♦♦
ずっと前の忘れもしないクリスマスの日。
母の再婚相手のフリードは、ジョンの前に突然現れた。
一瞬本当にサンタクロースが現れたのかと思った。
赤と白の衣装を纏い、白い口髭をつけ大きな袋を持って、彼は狭いアパートメントのドアから堂々と入ってきて言った。
『ただいま、ジョン。いま仕事から帰ったよ』
サンタクロースは、さも自分の家はここだと言っているような口ぶりだった。
しかも初対面のジョンに対して、昔からの知り合いのようにとても親し気に話しかけてきた。
『か、母さん、誰だよこいつ!?』
『彼は、私とあなたのサンタクロースよ』
『……サンタクロースだって?……』
それを信じるには、14歳の少年ジョンは年を取り過ぎていた。
それでも結局は受け入れた。母親のジョディがあまりにも幸せそうだったから。
『彼は、ひとりで誰にも頼らず、ただひたすら働いていた私に、幸せと愛と夢を運んで来てくれた。もちろんあなたにもね』
『!……』
ジョディは穏やかな落ち着いた声で、ジョンにフリードとのなれそめを話して聞かせた。
『町の図書館で司書をしていた私に、フリードは探している本がどこにあるか質問してきたの。そして、その後偶然、別の曜日に働いていた書店でも出会って、深夜に働いていたレストランでも会ってしまった。ある日、どうしてそんなに懸命に働いているのって、声を掛けてくれた。心に染み入るような優しい眼差しと優しい声で。それ以来、出会うと少しずつ話をするようになって、私は彼と話をすることが癒しになったの。だんだん彼の後ろ姿を見送ることに耐えられなくなって、彼に縋ってしまった。フリードにずっと私のそばにいて欲しくなった。一生そばにいて欲しいと願ったの。フリードを知ってから、ひとりがこれまで以上に怖くなった』
『母さんには、オレがいるじゃないか?』
『もちろんジョンはいてくれるけど、大人になったらあなたは私から離れて愛する人の所へ行ってしまう。そうしたら私は本当にひとりになってしまう。そう思ったら怖くて怖くて。誰かを不幸にしようと、自分がひとりになるのが本当に怖かった』
母親は精神的にも肉体的にも疲れ過ぎて、病んでいたかもしれない。
いつの頃からか、ひとりが怖いと繰り返し言っていた。
そして、サンタクロースと母と子の普通の生活が始まった。
ジョディは司書以外の仕事は辞め、精神的にも落ち着いたようだった。
母親とフリードの仲睦まじい姿を、ジョンは複雑な気持ちで眺めていた。
サンタクロースも、衣装を脱げばただの人だった。
ジョンはフリードに対して、最初はよそよそしい態度をとっていた。
『オレはあんたを父親とは思ってないから』
『そうだな。私はジョディと結婚したから彼女の夫ではある。だからといって確かにきみの父親ではない。でもこれからなろうと思っている。まあ、認めてもらうまでは、きみにとって私はさしずめ居候のサンタクロースだな。よろしく頼むよ』
『でかい顔するなよな』
『私は年をとって老けるが、一生このままの顔だよ。変わることはない』
フリードは、ジョンの心にいとも簡単に入りこんで来た。
ただ普通に穏やかに楽しそうに話しかけてくれる彼を、ジョンは好きになっていった。
フリードは建築事務所で設計士をしていると言っていた。すぐに少し広いアパートメントに引っ越し、生活環境は格段に良くなった。
彼はわざわざ古い家具を買ってきて、手入れをして大事に使うような人物だった。
『なんだよ。この汚い椅子は?』
『骨董屋で一目で気に入ってねえ。この椅子は19世紀のイギリスの教会で使われていたものらしい。ロマンを感じないか? ジョン?』
『ロマン? なんだその古語は……』
ジョンは生活がだいぶ楽になっても、アルバイトを続けていた。
サンタクロースに頼ってばかりではいられなかった。
『これ、やるよ。ふたりで行って来いよ』
サンタクロースがやってきて3年の月日が過ぎたある日、ジョンはアルバイトで貯めたお金で、母の好きな演劇のチケットを2枚買ってプレゼントした。
『まあ、ジョン。ありがとう』
母とフリードはとても喜んで、涙ぐんでいた。
母に心から楽しんできて欲しかった。
人並みの幸せをせっかく掴んだのだ。
その日、少年はいつも通り、高校で授業を受けて、空手教室で練習をして、ピザ屋でアルバイトをこなし、家に帰って来た。
その日は、少年がプレゼントしたチケットの劇の上演日だったので、ふたりはすでに出かけていて、夜も帰りは遅いはずだった。
彼らは、その帰り道、フリーウェイで車の事故に遭った。
いくら待っても母と彼が帰って来ることはなかった。
フリードがジョンの父親になって、たった3年だった。
何も心配する事のない月日で、それを幸せというなら幸せな日々だった。
それからのことは覚えていられないくらい目まぐるしくて悲しかった。
女の子の写真は、彼の遺品の財布から出て来た。いつも持ち歩いていたのだ。
写真の裏に書かれていたのは……。
エリーゼ。6歳。
サンタクロースのフリードは、自分をプレゼントしてしまった。
自分の家庭を、最愛の妻と娘を置き去りにして。
でも、そのおかげで、母と自分は生活の苦しさと心の貧しさ、寂しさから救われた。
この女の子は、父親がいなくなってどんな思いで生きて来たのだろう。
この子が与えられるべき愛情と優しさを、すべて彼は自分にくれた。
だから今度は自分が彼の代わりに……。
♦♦♦♦♦♦
リジーは、犬に噛まれた足の痛みを感じながら、別の事を考えていた。
ジョンは自分を小さい子供のように軽々と横に抱き上げた。
(そりゃ小柄だけど、体重はそこそこあるのに……。もう、恥ずかしい)
さっき、ジョンに抱えあげられた時、何か懐かしい感覚があった。
おぼろげな記憶しかないが、昔、同じように抱き上げてくれた人がいたような気がした。
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ここまで、お付き合いくださいまして、ありがとうございました。
次話からハロウィーン編です。
引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。
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