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ハロウィーン編
34 <オズの魔法使い>御一行
しおりを挟む翌朝、リジーは仕事に行こうとして部屋の外へ出て気が付いた。
ドアにかけておいた、かぼちゃお化けのランタンの中にキャンディが少し入っている。
(え!? もしかして、ジョンが?)
リジーはくすっと笑った。
(これじゃあ、いたずらできないじゃない)
その日から、毎日お菓子は増え続け、ドアの開閉に支障が出そうになってからは、部屋の外にご丁寧に椅子が置かれ、その上にランタンが鎮座するようになった。
毎日ジョンとは顔を合わせてはいたが、この件についてはジョンが何も触れないので、リジーも黙っていた。リジーはお菓子が増えてくるのを見るのが楽しくなっていた。
ハロウィーン前日にはランタンからはみ出るほど、お菓子は一杯になっていた。
リジーの部屋を訪れたスーザンが、一言「なにこれ?」と目を丸くした。
慌ただしくしている間に、ハロウィーンフェスティバル前夜になった。
スーザンとリジーは、衣装の最後の装飾をリジーの部屋で行っていた。
今夜はスーザンは泊まりこみの予定だ。
「わあ、かわいい! ライオンの耳ふかふか~。尻尾も~! スーザンの手作りだよね。すごい」
「口じゃなくて手を動かすのよ!」
「は、はい……」
リジーの背筋がピンと伸びる。
「リジーは、その耳と尻尾を縫い付けてね。シルクハットとズボンのウエストの芯地に印をつけておいたから」
「わかった」
「念のため聞くけど、裁縫は得意?」
「できるよ!!」
リジーは得意げに胸を張ったが、スーザンからは冷めた目で見られた。
「得意とできるは違う意味だけど」
「あ、あんまり自信はないけどね」
「そっか。でも時間も無いしお願いね!」
「うん、大丈夫」
スーザンには少し不安そうな顔で頷かれた。
その直後リジーの手元に目を光らせたスーザンから、
「待って!」の声が飛んだ。
(うわっ、また待てだよ……)リジーは手を止めた。
「リジー、こっちがライオンの衣装だから。そっちはかかしの方」
「あ……。ご、ごめん」
「似てるけど、ふたりはサイズが違うから……」
「はい」
その後、何度かスーザンのダメ出しや手直しはあったが、ライオンの衣装は無事に完成した。
かかしの衣装も、藁っぽい本物や偽物の枯草を縫い付けたり貼ったりして完成させた。
ドロシーの飼い犬はぬいぐるみで代用、ブリキの木こりはミニサイズにして厚紙で作った。このふたつはリジーが当日、小さいショルダーバッグに入れて持つことになった。
ドロシーの衣装は、スーザンから完成までは見るなと言われ、まだその全容はわからなかった。
「できた~!!! 明日の朝10時まで起こさないで!」
スーザンはそう雄叫びをあげると、魂が抜けたようにふらふらとなり、ドロシーの衣装を抱えたまま翌日の10時までリジーのベッドで熟睡した。
リジーの方も、予めジョンに借りていたマットレスを床に敷いて、同じく熟睡した。
ハロウィーンフェスティバル当日を迎えた。
男ふたりはスーザンの指示通り、<スカラムーシュ>で仮装の衣装に着替えた。
リジーは自分の部屋で、スーザンに衣装を着せてもらった。
ドロシーの衣装は、感動するほど素晴らしい出来栄えだった。
リジーは、スーザンの頑張りを目の当たりにしていたので、恥ずかしい気持ちは振り切り、覚悟を決めて着ることにした。
ドロシーの衣装は、確かに正面からは露出は無いのだが、後ろがとんでもなかった。
スーザン渾身の、スタイリッシュで退廃的貴族仕様の<オズの魔法使い>御一行が完成した。
「あなた転職できるわね、どれだけ衣装にお金かければ気が済むのよ! って所長に怒られたわ」
スーザンは黒ずくめのリジーたちを前に、珍しく項垂れた。
「ジョン、似合う。かかしなのに……」
リジーはジョンの立ち姿に見惚れた。
いたるところに藁が付いているのになんだかそれもおしゃれに見える。黒のシャツに黒のスーツとベストにネクタイをしてケープを羽織っている。かかしというより、やはり貴族だ。スーザンに髪にも藁をつけられていたが、それも似合っている。
「ありがとう、と言うべきかな?」
ジョンは苦笑いをした。そして、スーザンの方を向くと、
「スーザン、ありがとう。衣装作り、大変だったね。お疲れ様」
「あなたとサムの衣装は市販の紳士服を使えたから、楽だったわよ。そうそう……」
スーザンがジョンにこそっと何か耳打ちをすると、ジョンの表情が緩んだ。
「サムもすごくいいよ。耳が可愛い!」
「それはどうもありがとう。俺は耳がすべてかい?」
サムもまんざらでもないといった顔をしている。
サムの衣装も同じように黒のシャツに黒のスーツとベストだが、タイが蝶ネクタイで、シルクハットに付けてある耳がライオンに見えなくもない。ズボンの後ろには尻尾、手にはフェイクファーのついた手袋をしていた。かかしに比べるとソフトな印象だった。
「俺、ずいぶん可愛いライオンじゃない?」
「それがいいのよ。ライオンさん、似合ってる」
スーザンはお気に入りのようだ。
「スーザン、お疲れ様。色々ありがとう。ドロシーの衣装は見事だね! 素晴らしいよ」
ふたりはニヤリと笑みを交わした。
そして、リジーとジョンが驚愕したドロシーの衣装は、前から見ると露出無しだが、背中がV字型に腰近くまで大胆に開いていた。黒いリボンが交互に左右渡してあり、見える素肌が妙に艶めかしい。胸元にドロシーらしい水色のチェックの生地を使っているが、それ以外は黒地に黒のレースに黒のフリル、黒のリボンで構成されている。
スカート部分は、フリルがたっぷりつけてあり、形よくふわりと広がっている。スカートの丈は、ひざ下くらいの長さで留めてあった。
メイクもスーザンの手腕で、リジーはかなり目鼻立ちがくっきりした美少女に仕上がっていた。
「恥ずかしいから、背中とか顔とか見ないでね」
リジーはいつもの自分じゃないイメージなので、もちろん落ち着かない。
「リジー、すごくいい感じだよ。似合ってる。自然に目が惹きつけられるよ。なあ、クロウ」
「見るなサム。リジーが嫌がっている」
サムはリジーを観察して素直に感想を述べたが、ジョンは視線を床に落としたままだ。
「クロウ、知らないの? 女の子の見ないで~は、見て! のことだって。なあ、リジー?」
「本気で見ないでって言ったのに! 何それ!」
リジーはサムの物言いに呆れた。
「無理だよ。目の前にいるし、見ないでと言われると余計見たくなるのが……痛っ!」
とうとうジョンの拳がサムに下された。
「リジーは背中が綺麗だし、肌つやも良いから、こういう時に見せない手はないんじゃない?」
ふたりのやり取りを見ていたスーザンが、くすくす笑いながら言った。
「しかし見れば見るほど、着るのも脱がすのも大変そうな服だね」とサム。
「脱ぐじゃなく、脱がすねぇ……。その通りよ。リジーの服、自分ひとりじゃ脱げないから」
「え~!! じゃあ、脱ぐときどうするの?」
リジーは焦り出した。
「背中のリボンは弛み防止と取れないように一部固定して結んであるから、それを誰かにほどいてもらわないと脱げないわよ」
「え!? スーザン、フェスティバルが終わったらリボンほどくのお願いできるんでしょ?」
「ごめん、もう体力の限界だから無理。私、適当に彼氏とお先するから、別行動よ」
「そ、それじゃあ、どうすれば……」
「アパートメントに帰ってからジョンにほどいてもらえば~?」
サムがさりげなく気楽な感じに言うと、ジョンがびくっとして固まった。
「そうね。ジョンに手伝ってもらって、リジー」
スーザンにもさらりと言われ、リジーがそれとなくジョンを窺うと、得も言われぬ顔をしている。
(そうだよね。ジョンにやってもらうなんて、恥ずかしい。でも頼める人いないし)
「なんなら俺が脱がせてあげても……」
言いかけたサムをジョンは威圧感のある目で制した。
「わかった。僕が手伝うよ」
「ジョン、お願いしてもいいの?」
ジョンが硬い表情ではあったが頷いたのを見て、リジーはホッとした。
「クロウにはご褒美だよなあ。役得~! って、おい、目がかなり怖いんだけど」
ひきつった顔のジョンをサムがひやかした。
その後、4人で撮影した記念写真では、スーザンとサムは弾けるような笑顔だったが、それとは対照的にリジーとジョンの笑顔はどことなく硬かった。
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