いつの日か、きみとサンタクロースと

名木雪乃

文字の大きさ
34 / 95
ハロウィーン編

34 <オズの魔法使い>御一行

しおりを挟む

 翌朝、リジーは仕事に行こうとして部屋の外へ出て気が付いた。
 ドアにかけておいた、かぼちゃお化けのランタンの中にキャンディが少し入っている。

(え!? もしかして、ジョンが?)

 リジーはくすっと笑った。

(これじゃあ、いたずらできないじゃない)


 その日から、毎日お菓子は増え続け、ドアの開閉に支障が出そうになってからは、部屋の外にご丁寧に椅子が置かれ、その上にランタンが鎮座するようになった。
 毎日ジョンとは顔を合わせてはいたが、この件についてはジョンが何も触れないので、リジーも黙っていた。リジーはお菓子が増えてくるのを見るのが楽しくなっていた。

 ハロウィーン前日にはランタンからはみ出るほど、お菓子は一杯になっていた。
 リジーの部屋を訪れたスーザンが、一言「なにこれ?」と目を丸くした。


 慌ただしくしている間に、ハロウィーンフェスティバル前夜になった。
 スーザンとリジーは、衣装の最後の装飾をリジーの部屋で行っていた。
 今夜はスーザンは泊まりこみの予定だ。

「わあ、かわいい! ライオンの耳ふかふか~。尻尾も~! スーザンの手作りだよね。すごい」
「口じゃなくて手を動かすのよ!」
「は、はい……」

 リジーの背筋がピンと伸びる。

「リジーは、その耳と尻尾を縫い付けてね。シルクハットとズボンのウエストの芯地に印をつけておいたから」
「わかった」
「念のため聞くけど、裁縫は得意?」
「できるよ!!」

 リジーは得意げに胸を張ったが、スーザンからは冷めた目で見られた。

「得意とできるは違う意味だけど」
「あ、あんまり自信はないけどね」
「そっか。でも時間も無いしお願いね!」
「うん、大丈夫」

 スーザンには少し不安そうな顔で頷かれた。
 その直後リジーの手元に目を光らせたスーザンから、

「待って!」の声が飛んだ。

(うわっ、また待てだよ……)リジーは手を止めた。

「リジー、こっちがライオンの衣装だから。そっちはかかしの方」
「あ……。ご、ごめん」
「似てるけど、ふたりはサイズが違うから……」
「はい」
 

 その後、何度かスーザンのダメ出しや手直しはあったが、ライオンの衣装は無事に完成した。
 かかしの衣装も、藁っぽい本物や偽物の枯草を縫い付けたり貼ったりして完成させた。
 ドロシーの飼い犬はぬいぐるみで代用、ブリキの木こりはミニサイズにして厚紙で作った。このふたつはリジーが当日、小さいショルダーバッグに入れて持つことになった。
 ドロシーの衣装は、スーザンから完成までは見るなと言われ、まだその全容はわからなかった。


「できた~!!! 明日の朝10時まで起こさないで!」

 スーザンはそう雄叫びをあげると、魂が抜けたようにふらふらとなり、ドロシーの衣装を抱えたまま翌日の10時までリジーのベッドで熟睡した。
 リジーの方も、予めジョンに借りていたマットレスを床に敷いて、同じく熟睡した。


 ハロウィーンフェスティバル当日を迎えた。
 男ふたりはスーザンの指示通り、<スカラムーシュ>で仮装の衣装に着替えた。
 リジーは自分の部屋で、スーザンに衣装を着せてもらった。
 ドロシーの衣装は、感動するほど素晴らしい出来栄えだった。
 リジーは、スーザンの頑張りを目の当たりにしていたので、恥ずかしい気持ちは振り切り、覚悟を決めて着ることにした。
 ドロシーの衣装は、確かに正面からは露出は無いのだが、後ろがとんでもなかった。

 スーザン渾身の、スタイリッシュで退廃的貴族仕様の<オズの魔法使い>御一行が完成した。

「あなた転職できるわね、どれだけ衣装にお金かければ気が済むのよ! って所長に怒られたわ」

 スーザンは黒ずくめのリジーたちを前に、珍しく項垂れた。


「ジョン、似合う。かかしなのに……」

 リジーはジョンの立ち姿に見惚れた。
 いたるところに藁が付いているのになんだかそれもおしゃれに見える。黒のシャツに黒のスーツとベストにネクタイをしてケープを羽織っている。かかしというより、やはり貴族だ。スーザンに髪にも藁をつけられていたが、それも似合っている。

「ありがとう、と言うべきかな?」

 ジョンは苦笑いをした。そして、スーザンの方を向くと、

「スーザン、ありがとう。衣装作り、大変だったね。お疲れ様」
「あなたとサムの衣装は市販の紳士服を使えたから、楽だったわよ。そうそう……」

 スーザンがジョンにこそっと何か耳打ちをすると、ジョンの表情が緩んだ。


「サムもすごくいいよ。耳が可愛い!」
「それはどうもありがとう。俺は耳がすべてかい?」

 サムもまんざらでもないといった顔をしている。
 サムの衣装も同じように黒のシャツに黒のスーツとベストだが、タイが蝶ネクタイで、シルクハットに付けてある耳がライオンに見えなくもない。ズボンの後ろには尻尾、手にはフェイクファーのついた手袋をしていた。かかしに比べるとソフトな印象だった。

「俺、ずいぶん可愛いライオンじゃない?」
「それがいいのよ。ライオンさん、似合ってる」

 スーザンはお気に入りのようだ。

「スーザン、お疲れ様。色々ありがとう。ドロシーの衣装は見事だね! 素晴らしいよ」

 ふたりはニヤリと笑みを交わした。

 そして、リジーとジョンが驚愕したドロシーの衣装は、前から見ると露出無しだが、背中がV字型に腰近くまで大胆に開いていた。黒いリボンが交互に左右渡してあり、見える素肌が妙に艶めかしい。胸元にドロシーらしい水色のチェックの生地を使っているが、それ以外は黒地に黒のレースに黒のフリル、黒のリボンで構成されている。
 スカート部分は、フリルがたっぷりつけてあり、形よくふわりと広がっている。スカートの丈は、ひざ下くらいの長さで留めてあった。
 メイクもスーザンの手腕で、リジーはかなり目鼻立ちがくっきりした美少女に仕上がっていた。

「恥ずかしいから、背中とか顔とか見ないでね」

 リジーはいつもの自分じゃないイメージなので、もちろん落ち着かない。

「リジー、すごくいい感じだよ。似合ってる。自然に目が惹きつけられるよ。なあ、クロウ」
「見るなサム。リジーが嫌がっている」

 サムはリジーを観察して素直に感想を述べたが、ジョンは視線を床に落としたままだ。

「クロウ、知らないの? 女の子の見ないで~は、見て! のことだって。なあ、リジー?」
「本気で見ないでって言ったのに! 何それ!」

 リジーはサムの物言いに呆れた。

「無理だよ。目の前にいるし、見ないでと言われると余計見たくなるのが……痛っ!」

 とうとうジョンの拳がサムに下された。

「リジーは背中が綺麗だし、肌つやも良いから、こういう時に見せない手はないんじゃない?」

 ふたりのやり取りを見ていたスーザンが、くすくす笑いながら言った。

「しかし見れば見るほど、着るのも脱がすのも大変そうな服だね」とサム。
「脱ぐじゃなく、脱がすねぇ……。その通りよ。リジーの服、自分ひとりじゃ脱げないから」

「え~!! じゃあ、脱ぐときどうするの?」

 リジーは焦り出した。

「背中のリボンは弛み防止と取れないように一部固定して結んであるから、それを誰かにほどいてもらわないと脱げないわよ」
「え!? スーザン、フェスティバルが終わったらリボンほどくのお願いできるんでしょ?」
「ごめん、もう体力の限界だから無理。私、適当に彼氏とお先するから、別行動よ」
「そ、それじゃあ、どうすれば……」

「アパートメントに帰ってからジョンにほどいてもらえば~?」

 サムがさりげなく気楽な感じに言うと、ジョンがびくっとして固まった。

「そうね。ジョンに手伝ってもらって、リジー」

 スーザンにもさらりと言われ、リジーがそれとなくジョンを窺うと、得も言われぬ顔をしている。

(そうだよね。ジョンにやってもらうなんて、恥ずかしい。でも頼める人いないし)

「なんなら俺が脱がせてあげても……」

 言いかけたサムをジョンは威圧感のある目で制した。

「わかった。僕が手伝うよ」
「ジョン、お願いしてもいいの?」

 ジョンが硬い表情ではあったが頷いたのを見て、リジーはホッとした。

「クロウにはご褒美だよなあ。役得~! って、おい、目がかなり怖いんだけど」

 ひきつった顔のジョンをサムがひやかした。


 その後、4人で撮影した記念写真では、スーザンとサムははじけるような笑顔だったが、それとは対照的にリジーとジョンの笑顔はどことなく硬かった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...