いつの日か、きみとサンタクロースと

名木雪乃

文字の大きさ
33 / 95
ハロウィーン編

33 ハロウィーンの装い

しおりを挟む

 街はハロウィーンフェスティバルに向けて、活気に満ち溢れていた。
 あらゆる店のショーウィンドウは、かぼちゃお化けや魔女、コウモリなどのイラストが飾られ、店先にはオレンジ色の大小のかぼちゃが置かれていたり、ランタンが置かれていたり、どの店も賑やかなハロウィーンを演出している。

 住宅街でも同じように、個々の家が様々な工夫を凝らし、ハロウィーンの装いをしていた。
 リジーは、その装いを見ながら出勤前の散歩を楽しんでいた。


「おはよう! リジーちゃん!」

 リジーが散歩のルートでよく出会う、ある家の年配の女性が今日も庭にいた。

 最初は会釈をする程度だったが、何度も会ううちに挨拶を交わすようになり、最近では垣根越しに立ち話をするまでになっていた。

「おはようございます。ウエンディさん!」

 ウエンディの家の庭の芝生には、白いかわいいお化けや魔女、黒猫を描いた小さい立札が差してあった。

「かわいいイラストですね。お孫さんが描いたんですか?」
「そうなのよ。毎日描いてるから、毎日増えちゃって」
「ふふ、ハロウィーンがよっぽど楽しみなんですね」
「そうだ、待ってて、リジーちゃん。ちょうどパンプキンパイを焼いたの。味見してちょうだい!」

 ウエンディは家の中に入ると、少しして皿にのせたパイを持って出て来た。

「わあ!!」

 パイの表面の焼き目がつやつやしている。リジーは目を奪われた。

「朝からパイなんて、食べられるかしら?」
「全然平気です。おいしそう!」

 庭先で、リジーはパンプキンパイを頬張った。

「パイがさくさくで、パンプキンのつぶの食感も良くて、ほどよい甘さですね。最高に美味しいです!」
「よかった~。当日に作ろうと思ってたんだけど、ちょっと練習に作ってみたのよ。美味しいなら良かったわ」
「お孫さんも喜ばれると思います!」
「そうなら嬉しいわ。味見してくれてありがとうね、リジーちゃん」
「はい!」



 リジーは朝から美味しいパイを食べて満足し、にこにこ顔で<フォレスト>に出勤した。

「おはようございます! カイルさん!」

 今日は、カイルの方が早かった。カイルはリジーの顔を見ると、ため息を吐き出す。

「おはよう……。おまえ、鏡を見た方がいいぞ」
「え?」
「近所で餌付けでもされたのか?」
「はっ!?」

(さっきのパンプキンパイ? 口の周りについてるとか!?)

 リジーは思わず手で口元を隠したが、手のひらが口に触れた瞬間、いらぬことを思い出し、息を詰まらせ、目を白黒させ咳き込んだ。

「ゲホ、ゲホっ」
「な、なにひとり芝居やってんだ、馬鹿か!?」
「馬鹿です……」

 リジーは涙声になった。

「自分で言うな……ってか、同じセリフを何度も言わせるな」

 カイルは再び大きなため息を吐いた。



 リジーは店のハロウィーンの飾りつけをしていた。用意したイラストを大きなショーウィンドウに貼り始める。高い場所にも貼ろうと、かぼちゃお化けのイラストの紙を手に、用意していた脚立に上がろうとした。

「待て!!」と、慌てたような鋭い声がかかる。

 カイルが不機嫌そうな怖い顔で近づいて来た。

「俺がやる」
「え? カイルさんが? 私、できますけど」
「いいからおまえは脚立に上がるな」
「?」

 リジーはわけがわからなかった。

「おまえが間違いなく脚立から落ちるからだ」
「なんでですか? どうして断言するんです? 私だってできますよ! 高校のパーティとかでも飾りつけは何度もやってるんですから!?」
「脚立に上がって、高いところも飾り付けたのか?」
「いえ、私は低い所の担当でした」
「そんなことだろうと思った。落ちると断言する理由を教えてやろう。脚立のストッパーをしていない。しかも、開きが甘い!」
「え? ストッパー?」

 リジーはキョトンとしている。

「まったく……脚立の仕組みも知らないのか。まあ、ストッパーをしてるしていないに関わらず、おまえは脚立にあがるな。使用禁止だ。こっちがハラハラする」
「! ……はい」

(こんな簡単なこともできなくて、カイルさんをハラハラさせるなんて)

「そのイラストを寄越せ」

 カイルは脚立の横のストッパーをかけると、段をあがり、リジーの方へ手を伸ばした。

「おまえはどこにどのイラストを貼るか、下から言え」
「はい」

 その後、すべての高い所の飾りつけ作業はカイルが行った。



 リジーがランチバッグを持って休憩室に行くと、スーザンがテーブルに伏していた。

「スーザン、大丈夫? 今日は目の下にくまがあるよ。もしかして睡眠不足? 衣装作り大変なんだよね。あまり進んでないの?」
「まあね。でも大丈夫。好きなことしてるから楽しいし。絶対間に合わせるから」
「うん。でも、無理しないでね」
「リジーの衣装は力を入れてるから、出来上がったら褒めてね~」

 スーザンの含み笑いの理由をリジーはまだ知らない。

「うん、もちろん。楽しみにしてるね!」
「楽しみにしてて……」

 スーザンはそれだけ言うと、またテーブルにパタンと伏した。

(本当に、身体、大丈夫かなあ)


♢♢♢♢♢♢


 ハロウィーンフェスティバルの当日は店を閉めるらしい<スカラムーシュ>でさえ、通りに面したウィンドウにはかぼちゃのランタンが飾られていた。

「ジョン、ただいま」
「おかえり。リジー」
「ウィンドウのランタン、かわいいね」
「あると意外と売れるんだよ」

 ジョンは、プラスチック製のそれをひとつ持ってくると、リジーの方へ差し出した。

「あげるよ」
「え?」

(そんな欲しそうな顔したかな)

「ドアの外にでもかけておいたら? いつの間にかお菓子が貯まってるかも」
「子共じゃないんですけど」

 少しむくれながらもランタンを受け取った。せっかくジョンがくれると言うなら。

「ありがとう。部屋に飾るね」
「ああ」

 穏やかないつもの微笑み。

(でも、物足りない。もっと何か欲しい。なんだかせつない)



 リジーは部屋に戻ると、かぼちゃお化けのランタンを、部屋の外側のドアノブにかけた。

(どうせ子供ですよ~!)

 もちろんメッセージも付ける。

<トリック・オア・トリート!>

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

処理中です...