いつの日か、きみとサンタクロースと

名木雪乃

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ハロウィーン編

52 ジョンの蜘蛛糸

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♢♢♢♢♢♢


(最低だ。彼女に突き放すような言葉を浴びせてしまった)

 ジョンは自分の首を締めたくなった。
 心にもないようなことを言って、彼女にまた悲しい顔をさせてしまった。
 自分は彼女の幸せを望んでいるのに、傷つけてばかりだ。
 
 温かいランプの光に包まれていても、ジョンの心は硬く凍ったままだった。


♢♢♢♢♢♢


 翌日、リジーが普通に<スカラムーシュ>に現れたので、ジョンは息を詰まらせた。

「昨日は、お世話様。あの、家具の乾拭きのお手伝いに来たの。最近さぼっててごめんね」
「リジー、きみだって仕事が忙しくて疲れているだろう。やらなくていいよ。休みの日はゆっくりした方が良い」
「お手伝いしたいの! やらせて」

 リジーの無理やり作ったような笑顔に、ジョンは何も言えなくなった。


♢♢♢


 リジーは悩んだり落ち込んだりした時は、気を紛らわすために、とにかくまめに掃除をする。
 ハロウィーン後から、リジーの部屋はいつもピカピカだった。

 今も、無心で家具を磨いてゆく。でも、気を抜くとつい思い出してしまう。
 最初に手伝った日、たちくらみをしてジョンに支えられながら、ソファまで連れていってもらった。
 それから、自分のうっかりや不運は色々あったけど、いつもジョンの温もりがそばにあった。
 自分が安心できる場所。

(いつからこんなに好きになったんだろう)

 ふと見ると、壁側に置いてある家具と家具の隙間の奥に、何か紙が引っかかっている。
 取ったほうがよいか。自分なら腕が入りそうだ。
 しゃがんで隙間に手を伸ばして、掴んだ紙を引っ張り出した。

「ひゃ……うっ!!」

 息を飲んで口に手を当て声を抑えるが、変な声が漏れてしまった。
 紙に、大きな足の長い黒い蜘蛛が一緒についてきたのだ。
 紙を放り出し、しりもちをついてしまった。

「リジー!? どうしたの?」

 敏感なジョンが驚いた様子で近づいてくる。

「ご、ごめん。おかしな声を出して。蜘蛛がその紙について来たんでびっくりして、蜘蛛は悪くないの」

 蜘蛛は悪くない? 自分でもおかしいと思う言い訳をしながら、涙目になっているのがわかる。

「そうか……蜘蛛……」

 ジョンの意識が蜘蛛を探している間に、リジーは急いで立ち上がった。

「今日はこの辺でお手伝いは終わりにするね。またね」

(今日のジョンとの接近時間はこれくらいにしよう。想いが溢れてオーバーヒートしてしまうから)

「あ、ありがとう。リジー」

 ジョンの少し戸惑った声が、自分の名前を口にするのを背中ごしに聞いた。

 ジョンの蜘蛛糸に絡まって身動きがとれない。苦しい。
 だからといって、少しずつ糸を外して行けば、いつかは……落ちる。

 どこに落ちるのだろう。

♢♢♢

 ジョンは紙を拾った。蜘蛛はすでに姿を消していた。

(逃げたか、臆病者)

 自分は糸を張るだけ。獲物がかかるのを糸を張って待っている。
 ただひたすら待つ。そして、獲物がかかれば安心する。
 獲物が絡まった糸から逃れようともがくのをただ見ている。
 逃げられれば追わない。逃げられなければ、捕まえて食す。

 ジョンはオーナーのデイビッドとの他愛のないやり取りを、ただ思い出す。

『クロウ、蜘蛛の巣はとらなくて良いぞ。蜘蛛は自分からは悪さをしない』
『はあ、ですが、店の雰囲気が悪くなりませんか? 女性は蜘蛛を怖がりますよ』
『いやいやアンティークの店っぽいじゃないか。蜘蛛の巣ひとつない清潔そうな店は、アンティークの店じゃない』
『そうですか?』

 おかしなこだわりだとジョンは思っていた。

(リジー、僕の蜘蛛糸から逃げてくれ。僕がきみを捕まえてしまう前に)
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