52 / 95
ハロウィーン編
52 ジョンの蜘蛛糸
しおりを挟む♢♢♢♢♢♢
(最低だ。彼女に突き放すような言葉を浴びせてしまった)
ジョンは自分の首を締めたくなった。
心にもないようなことを言って、彼女にまた悲しい顔をさせてしまった。
自分は彼女の幸せを望んでいるのに、傷つけてばかりだ。
温かいランプの光に包まれていても、ジョンの心は硬く凍ったままだった。
♢♢♢♢♢♢
翌日、リジーが普通に<スカラムーシュ>に現れたので、ジョンは息を詰まらせた。
「昨日は、お世話様。あの、家具の乾拭きのお手伝いに来たの。最近さぼっててごめんね」
「リジー、きみだって仕事が忙しくて疲れているだろう。やらなくていいよ。休みの日はゆっくりした方が良い」
「お手伝いしたいの! やらせて」
リジーの無理やり作ったような笑顔に、ジョンは何も言えなくなった。
♢♢♢
リジーは悩んだり落ち込んだりした時は、気を紛らわすために、とにかくまめに掃除をする。
ハロウィーン後から、リジーの部屋はいつもピカピカだった。
今も、無心で家具を磨いてゆく。でも、気を抜くとつい思い出してしまう。
最初に手伝った日、たちくらみをしてジョンに支えられながら、ソファまで連れていってもらった。
それから、自分のうっかりや不運は色々あったけど、いつもジョンの温もりがそばにあった。
自分が安心できる場所。
(いつからこんなに好きになったんだろう)
ふと見ると、壁側に置いてある家具と家具の隙間の奥に、何か紙が引っかかっている。
取ったほうがよいか。自分なら腕が入りそうだ。
しゃがんで隙間に手を伸ばして、掴んだ紙を引っ張り出した。
「ひゃ……うっ!!」
息を飲んで口に手を当て声を抑えるが、変な声が漏れてしまった。
紙に、大きな足の長い黒い蜘蛛が一緒についてきたのだ。
紙を放り出し、しりもちをついてしまった。
「リジー!? どうしたの?」
敏感なジョンが驚いた様子で近づいてくる。
「ご、ごめん。おかしな声を出して。蜘蛛がその紙について来たんでびっくりして、蜘蛛は悪くないの」
蜘蛛は悪くない? 自分でもおかしいと思う言い訳をしながら、涙目になっているのがわかる。
「そうか……蜘蛛……」
ジョンの意識が蜘蛛を探している間に、リジーは急いで立ち上がった。
「今日はこの辺でお手伝いは終わりにするね。またね」
(今日のジョンとの接近時間はこれくらいにしよう。想いが溢れてオーバーヒートしてしまうから)
「あ、ありがとう。リジー」
ジョンの少し戸惑った声が、自分の名前を口にするのを背中ごしに聞いた。
ジョンの蜘蛛糸に絡まって身動きがとれない。苦しい。
だからといって、少しずつ糸を外して行けば、いつかは……落ちる。
どこに落ちるのだろう。
♢♢♢
ジョンは紙を拾った。蜘蛛はすでに姿を消していた。
(逃げたか、臆病者)
自分は糸を張るだけ。獲物がかかるのを糸を張って待っている。
ただひたすら待つ。そして、獲物がかかれば安心する。
獲物が絡まった糸から逃れようともがくのをただ見ている。
逃げられれば追わない。逃げられなければ、捕まえて食す。
ジョンはオーナーのデイビッドとの他愛のないやり取りを、ただ思い出す。
『クロウ、蜘蛛の巣はとらなくて良いぞ。蜘蛛は自分からは悪さをしない』
『はあ、ですが、店の雰囲気が悪くなりませんか? 女性は蜘蛛を怖がりますよ』
『いやいやアンティークの店っぽいじゃないか。蜘蛛の巣ひとつない清潔そうな店は、アンティークの店じゃない』
『そうですか?』
おかしなこだわりだとジョンは思っていた。
(リジー、僕の蜘蛛糸から逃げてくれ。僕がきみを捕まえてしまう前に)
0
あなたにおすすめの小説
辺境伯夫人は領地を紡ぐ
やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。
しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。
物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。
戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。
これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。
全50話の予定です
※表紙はイメージです
※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
恋と首輪
山猫
恋愛
日本屈指の名門・城聖高校には、生徒たちが逆らえない“首輪制度”が存在する。
絶対的支配者・東雲財閥の御曹司、東雲 蓮の「選んだ者」は、卒業まで彼の命令に従わなければならない――。
地味で目立たぬ存在だった月宮みゆは、なぜかその“首輪”に選ばれてしまう。
冷酷非情と思っていた蓮の、誰にも見せない孤独と優しさに触れた時、みゆの心は静かに揺れはじめる。
「おめでとう、今日から君は俺の所有物だ。」
イケメン財閥御曹司
東雲 蓮
×
「私はあなたが嫌いです。」
訳あり平凡女子
月宮 みゆ
愛とか恋なんて馬鹿らしい。 愚かな感情だ。
訳ありのふたりが、偽りだらけの学園で紡ぐカーストラブ。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。
みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。
同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。
そんなお話です。
以前書いたものを大幅改稿したものです。
フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。
六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。
また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。
丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。
写真の花はリアトリスです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる