いつの日か、きみとサンタクロースと

名木雪乃

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クリスマス編

66 サンタクロースの夢の家

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 家の中に迎え入れられると、サムはすぐに横に弾かれ、リジーとジョンはささっと女家族に囲まれた。

 その素早さにふたりが戸惑っているうちに、

「よく、ここまでいらしていただいて!! 初めまして。私はサムの母のリンダです」
「サムの姉のヴィクトリアです」
「妹のブレンダです」
「妹のホリーです」

 サムの紹介も待たずに、それぞれがにこやかに挨拶してきた。
 リンダはサムと同じ銀色に近い金髪をひとつにまとめあげた年齢を感じさせない美しい女性で、姉のヴィクトリアはショートヘアできりっとした才女といった感じだ。
 ブレンダは大きな瞳が印象的で快活そうな笑みを浮かべている。
 頬がふっくらしているホリーは、自分より年下に見えたが、自分より落ち着いて見えるのはどうしてだろうとリジーは少し落ち込んだ。

(さすがサムの家族。みんな綺麗で、見事な金髪で碧眼。キラキラしてる~。きっとジョンも見惚れて……るよね)

 リジーがジョンを見上げてみると、目が合った。

(あれ? そうでもない?)

 瞬時に優しく微笑みかけられ、照れくささに一気に頬が熱を持つ。

「初めまして。ジョン・ジエルです。お招きくださって、ありがとうございます。サムとはハーバーシティで知り合って、親しくさせてもらっています」

 ジョンが柔和な物腰で丁寧に挨拶する。
 ジョンを見慣れているリジーだが、ほうっと見惚れてしまっていた。

 女家族もジョンの紳士的な振舞いに魅了されたようで、その場の動きが止んだ。
 少しの沈黙の後、全員の視線が自分に向けられたことにリジーは気が付いた。

「あ、リジーです。はじめまして。サムには街でお世話になってま……」

 リジーが言い終わらないうちに、すたすたと足音が聞こえてきた。

「サム!! この馬鹿息子が!! 3年も帰って来ない、電話をかけてもほとんど出ない。手紙を出しても返事も寄越さない。かろうじてクリスマスカードだけは寄越してたみたいだが。まったく、心配かけおって!!」

 リビングに現れたサムの父親らしい男が、真っすぐサムに詰め寄ると怒鳴った。
 サムより身長は低いが恰幅は良い。
 白髪交じりの金髪で、サンタクロースをイメージするような立派な口髭と顎鬚を蓄えていた。
 リジーはその剣幕にびくっとしたが、ジョンが自然に肩を支えてくれたのでよろけずに済んだ。

「まあまあ、ニコラス。こうして元気な姿で帰ってきて、お友達も一緒なんだからそんなに怒らないで」

 リンダがニコラスのそばに寄ると、なだめた。
 サムは眉をひそめながら、ぷいと横を向く。

「勝手ばかりして……」

 ニコラスは厳しい顔で拳をきつく握っている。

「サム、その態度は良くない。きちんと家族に謝ったらどうだ。心配をかけたんだろう?」

 ジョンはそっぽを向いてしれっとしているサムに近付くと、ジャケットの首の後ろの襟を力強く掴む。

「お、おい、ジョンやめろ。おまえが親父かって!?」

 ジタバタして焦っているサムの首根っこを掴まえて、少しも動じないジョン。

 サムの家族は、ニコラスを筆頭に唖然としてふたりを見ていた。

「心配してくれる家族がいるのは幸せなことだ。おまえもその気持ちに応えるべきだ!」

 そう強く言い切ると、ジョンは有無を言わさずサムを家族に向き合わせる。
 サムは抵抗せずに、ジョンにされるがままだった。
 父親の方に無理やり向かされて、目を泳がせていたサムだったが、観念したようだ。

「……心配かけて、悪かったと思ってる。これからは連絡するよ」
「ま、まあ、月に1回は連絡するように。それから1年に1回は、顔を見せに帰って来なさい」 

 サムの素直な謝罪に、ニコラスも怒りを静めたらしく、口調がやや穏やかになった。

「わかったよ」



「息子がいつもお世話になっています。父親のニコラスです。ようこそおいで下さいました。すみません、突然怒鳴りちらして、お恥ずかしい限りです。どうぞ、我が家の滞在を楽しんで行ってください」

 ニコラスが少し硬い笑顔で、ジョンとリジーの方へ手を差し出し挨拶してきた。

「初めまして。ジョン・ジエルです。お招きくださって感謝します」
「エリーゼ・リードです。リジーと呼んでください」

 リジーは目の前のサムの父親を怖いと思うより、その存在に感激していた。

 ふたりは、それぞれ感慨深げにニコラスとぎゅっと握手を交わす。

(お父さんて、こんな感じなんだ。大きくて分厚い手)

 リジーは潤んだ目でニコラスを見つめて、なかなか手を離さない。

「私は明日仕事で早いので、もうこれで休ませていただきます。また明日の夜のクリスマスパーティで……」
「あ、すみません」

 照れたようなニコラスの表情に気が付くと、リジーはパッと手を離した。

 ニコラスはそそくさとリビングを後にした。


 女家族4人はというと、ニコラスの雷を静め、その場を収めたジョンをただボケっと見ていた。
 
 さらにサムをうまく手懐けているように見えるジョンは、女たちから高い評価を受けたようだった。


 リジーとジョンは、リビングのソファに座って、出されたお茶を飲みながらハーバーシティでの暮らしや街の様子を聞かれるままに話した。
 特にブレンダとホリーは熱心に街の話を聞いていた。

 サムの家のリビングルームには、大きな靴下が下げられた暖炉があり、そのわきに豪華なクリスマスツリーがあった。
 金のモールやベル、カラフルなボールや銀色の松ぼっくり、赤い木の実、プレゼントの箱や雪の結晶のオーナメントがかけてある。
 ツリーの下には既にプレゼントの大きな山ができていて、リジーたちも持ってきたプレゼントをそこへ置いた。



「俺たち長距離ドライブだったからさ、そろそろ休ませてよ」

 サムがあくびを噛み殺す。

「そうね、ごめんなさい、つい、嬉しくて。明日またゆっくりお話ししましょう。ヴィー、おふたりをゲストルームに案内して」

 リンダが優しい口調でヴィクトリアに指示する。

「はい」

 サムの姉、ヴィクトリアは椅子から立ち上がると、リジーに近付いて来た。

「失礼ですが、リジーさんは……弟とはどのようなご関係?」

 ヴィクトリアに詰問され、

「え? お友達です」

 リジーは面食らったが、曇りのない目で即答する。

「そうですか」

 ヴィクトリアはサムにきつい目を向ける。

「リジーは友達……」

 サムはそれを平気で受け流す。



「さあ、部屋はこちらです」

 ヴィクトリアに促され、リジーはほっとした。
 なにやらサムの姉妹たちから向けられる探るような視線に、落ち着かなくなってきていたのだ。
 それに途中休みながらではあったが、車での長い移動はさすがに疲れた。
 酔いはしなかったが、まだ車に揺られている感じがする。

「リジー? 大丈夫か? あまり顔色がよくない」

 ジョンの気遣いに、リジーは急いでシャキッとしてみせた。

「あ、全然大丈夫。元気」
「それなら良いけど……。荷物を貸して、部屋まで持つよ」

 ジョンは優しくリジーの髪を撫でると、リジーの足元にあった旅行鞄を持ち上げた。

「あ、ありがとう」

 リジーはぽわんとした笑顔をジョンに向けた。

♢♢♢

 その様子を眺めていたサムは、自分の姉妹たちがジョンを見てまた惚けていたので、頬をひくつかせた。

(ジョンの奴、無駄に色気出し過ぎだ! いつもみたいに澄ました顔に戻れ~!!)


♢♢♢

 ヴィクトリアに案内されてふたりは2階にあがった。サムもついて来た。

「クロウ、荷物置いたら少し飲もうぜ」

「サム、お友達はお疲れじゃないの?」
「え? こいつ、並みの体力じゃないから。じゃあ、俺の部屋で飲むか? ヴィー、冷蔵庫にビールある?」
「あるけど、相変わらずでかい声ね。静かにしてよね。おばあちゃんが寝てるから……」
「わかったよ~」

「サム、悪いが今日は休ませてもらう」
「え? なんで?」 
「基本、早寝早起きだから」
「おい、マジでカラスかって、つまんね~。少しならいいだろう? 付き合ってくれたって。なあ、30分でも良いからさあ~」
「仕方がないな。30分だけだぞ?」
「おう!」

「リジーさん、部屋には鍵がかかるから、念のため鍵をかけて寝るのをおすすめするわ」

 ヴィクトリアが横目でサムを睨みながら言う。

「な、なんで俺を見るんだよ~」
「私の感が、警告してるから」
「おい、失礼な。って、そこでなんでクロウまで俺を睨むんだよ~、命縮む。雌ライオンがいるのに、子リスなんて襲う訳ないだろう?」

 サムが頭をガシガシと掻く。

(なんて……って何よ! もう、どうせ色気も何もない子リスですよ!)

 と、少しむくれたリジーだが、

「明日は午前中は町の教会で礼拝があって、そのあとクリスマスパーティ直前の準備をする予定なの。お手伝いしてくださる?」
「もちろんです!」

 ヴィクトリアの話を聞くと、明日への期待に胸を弾ませた。


 リジーの案内された部屋は、2階の手前だった。
 ヴィクトリアが白い木製のドアを開け、リジーは部屋へ入った。

「おやすみ、リジー」

 ジョンはリジーの旅行鞄を部屋へ運び入れた。

「荷物をありがとうジョン。おやすみなさい、ジョン、サム」

 ふたりに挨拶を返してすぐに、リジーは通された部屋のインテリアに目が釘付けになった。

「素敵……」

 ベッドのほかに丸いオークのテーブル、ベージュのソファ、鏡ばりの洋服ダンス、ドレッサー、白いかさの大小のスタンドが部屋の所々に置かれている。
 壁はベージュと淡いグレーのストライプ柄。カーテンもベージュと白とグリーンのストライプで、キルティングのベッドカバーのグリーンとあわせてある。
 ベッドの上の赤いクッションがピリッとしたアクセントになっている。
 とても洗練されたインテリアだった。

「こんな素晴らしいお部屋をありがとうございます。とても嬉しいです」
「お気に召してもらって良かった。ベッドカバーとクッションはおばあちゃんのお手製なのよ。気に入ってくれたなら明日にでも褒めてあげて。喜ぶと思うわ。今日は、ゆっくり休んでね。洋服ダンスもバスルームも使えるようになってるから。明日の朝食は7時よ。7時くらいに下に降りて来てね。じゃあ、おやすみなさい。念のため鍵はかけてね」

 ヴィクトリアはまたしても一言を忘れなかった。

「は、はい。おやすみなさい」


 ヴィクトリアがいなくなると、リジーは改めて部屋を見回してほうっと息を吐く。
 部屋の真ん中にあるテーブルの上の、小さいガラス細工のクリスマスツリーに目が行く。

「可愛い~」

 苺の模様の可愛いカップ、ポットと紅茶とコーヒーの缶、つまめる程度のお菓子まで用意されている。至れり尽くせりだ。

(ほかのお部屋はどんなインテリアなんだろう。ジョンの部屋も明日見せてもらえるかなあ)

 ここはサンタクロース一家が暮らす夢の家。
 幸せが溢れている。

(サム、贅沢だよ。わかってる?)

 リジーは疲れも忘れて、幸せな想いに浸っていた。
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