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クリスマス編
77 聖夜の灯火
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ジョンの視点中心のお話です。
―――――――――――――――――――――
ジョンは外へ出ると、振り返った。
サンタクロースの家は、素晴らしいイルミネーションが眩い光を放っていた。
家の軒先や背の高い木にも電球を増やした甲斐があり、この世のものとは思えないほどの美しさだった。
ジョンは自分が虹の都にいるのかと錯覚した。
雨はだいぶ小降りになっていたが、ジョンは道を急いだ。
街灯の明るさと、ショウウィンドウの光、どこからともなく聞こえてくる楽し気な声。
ライトアップされているにもかかわらず、メインストリートは今はもう歩いている人はほとんどいなかった。
クリスマスイブの夜。
誰もが親しい人や家族と過ごす。
「……!」
ジョンの白い息が揺れた。
道の先の方から足音が聞こえて来る。
そして微かに聞こえる囁くような鈴の音。
ジョンは何かに憑かれたように立ち止まった。
視界に入って来たのは、見覚えのある赤い服と帽子、白いひげ。
聖夜の灯火のようだった。
◆◆◆◆◆◆
『おかえり、父さん』
フリードがやって来た翌年のクリスマスの夜、彼を初めてそう呼んだ。
ずっとそう呼びたかったが、なかなか呼べなかった。
母の前では恥ずかしかったのでアパートメントの1階の外で彼の帰宅を待っていた。
あの時は、星のような雪が舞っていた。
『ただいま、ジョン』
フリードは涙を溜めて、しっかりと抱きしめてくれた。とても暖かかった。
◆◆◆◆◆◆
サンタクロースはゆっくりジョンの方へ向かって歩いて来た。
もう寂しくはない。
そこに彼はいるのだから。
いつの間にか雨は止んでいた。
傘を閉じる。
「メリークリスマス! ジョン?」
「父さん……」
ジョンは思わずそう呟いてから、ハッとして改めて言い直した。
「メリークリスマス、ニコラスさん、お疲れさまでした。お迎えに来ました」
「ジョン。きみが迎えにきてくれるなんて……すまなかった。雨が止んだから無駄足を踏ませてしまったね」
「いいえ。外の空気が吸いたかったですし」
「……なんだかきみが本当に私の息子に思えたよ」
「失礼しました。父さん、と呼んでしまって」
「いや、何も違和感はない。私はサンタクロース、別名<クリスマスの父>だからね」
少しおどけたように、ニコラスがウインクをしてみせる。
「過去の思い出と重なり合って、思わず口に出てしまいました」
「きみの大切な思い出に私が寄り添えるなんて、光栄だよ」
「……僕の父は、まるでサンタクロースのようでした。あるクリスマスの夜に突然現れて、楽しくて幸せな思い出をたくさんプレゼントしてくれました。でもその後、僕の前から突然消えました。母を連れて……」
「……そうか……。実は思い出というのは一番良いプレゼントだ。楽しい思い出はずっと肌身離さず持っていられるからな。場所もとらない。どこへでもどこまでも持っていける。たとえ忘れたとしても、ここにはちゃんとあるんだ。悲しい思い出も捨てられず、ここには残るかもしれないが、それはいずれは楽しい思い出の栄養になる」
ニコラスは自分の胸を押さえると、ジョンに優しい瞳を向けた。
「そうですね」
「これからも良い思い出をたくさん作るといい。栄養が多ければ、それだけ極上の思い出ができる」
そう言って晴れやかに笑った。
「はい」
「さあ、早く帰ろう。寒くなった。今度は雪が降り出しそうだ」
ニコラスとジョンは並んで歩いている。
「ところでジョン、情けない話だが、うちの馬鹿息子が親の言うことは聞かないのにどうしてきみの言うことはきくのかと思ってね。気になってたんだ」
「それは、サムに聞けば僕が怖いからとか言うでしょう。でも本当は相手の痛みがわかる優しい心を持っていて、僕を気遣ってくれているからだと思います。僕には正直な自分を見せないと信頼を得られないとわかっているんです。そうまでして僕の本当の友達になってくれました。僕はそんなサムのことを心から信頼しています。家族とは血のつながりがありますから、多少の甘えは許されます。我儘を通しても無条件で愛してもらえると、サムはそう信じていて家族には甘えているんでしょう」
「……ありがとう。息子の友達になってくれて、支えてくれて感謝します」
「感謝しているのは、支えられているのは僕の方です。いつも闇へ引きずられそうな弱い僕を見捨てることなく、光の射す方へ引っ張ってくれるんです。彼の明るさに何度も救われました」
「あの子が感謝されるなんて……」
「サムは僕の羊飼いであり、サンタクロースです」
「あの馬鹿ばかりやって、暴れていた息子が……導き手、まさかサンタクロースとまで言われる日が来ようとは……」
サムの父ニコラスはジョンの言葉に感慨深げに呟いた。
「サムは馬鹿じゃありません。……品の無いユーモアはしょっちゅうですけどね」
「ははは、そうか……。そこは持ち味ということにしておこう。ありがとう、ジョン」
いつの間にかふたりは家の前に着いていた。家の中からは楽しそうな歓声が上がっている。
「ずいぶんと盛り上がっているようだな」
「ビンゴ大会の最中でしょうから」
「なるほど。……どれ、中へ入ろう」
「僕はもう少しだけ、外にいてもいいですか」
「そうか」
ニコラスはジョンの肩に優しく手を置くと、家の中へ入った。
見上げた空には、星が戻って来ていた。
星を数えた。
二度と会えないと思っていたサンタクロースに会えた。
ジョンは目に僅かに染み出た滴を拭った。
外はかなり寒いが、頭を冷やすにはちょうど良かった。
キャンドルの暖かい光が玄関の白いアプローチを浮かび上がらせている。
中の喧騒が別世界のように、ひとつドアを隔てた外は静かだった。
微かに粉雪がちらつき始めた。
星の欠片が舞っているように綺麗だとジョンは思った。
玄関の階段に腰を下ろし、息を潜めていた。
「わ~寒い、ジョン? まだ家に入らないの?」
「リジー!?」
コートを軽く羽織ったリジーが玄関から出てきた。息が白い。
階段に座っていたジョンは振り返りながら立ち上がった。
そして、少し高い所にいるリジーに向かって両手を差し出した。
「ジョン? さすがにここでは転ばない……よ。え?」
言い終わる前に、ジョンは両手でリジーの脇を支え持ち上げ、階段の下に降ろした。
子ども扱いする、とむくれるリジーの素直な表情に和まされる。
彼女といると、自分の見る世界はどこにいても色鮮やかなものになる。
ひとりでは見えなかった世界が見えてくる。
人が誰かと集うのは違う世界を共に見たいからだろうか。
「サンタクロースの家のイルミネーション、綺麗だね。虹の都みたい」
「そうだね。こんな幸せなクリスマスは何年ぶりかな。暖かい」
ジョンはリジーを抱き寄せ、暖をとる。
「ジョン、平気? 背中が泣いているように見えたから」
「そうか、きみの胸で泣かせてもらうんだった」
「本当に泣いてたの? って、え?」
「覚えてない? やっぱり寝ぼけてたか」
「覚えてるよ。いいよ。私の胸で泣いても。でもね、骨が、痛いかも……」
「わかったから、泣いていないから」
また同じセリフを言うつもりか、とジョンはクスッと笑ったが、すぐ笑顔を引っ込めた。
「アパートメントに戻ったら、きみに話さなければならない大事なことがある」
ジョンは祈りを込めるように、真剣な顔でその言葉を口にした。
(僕の真実を知っても、どうか離れて行かないで……。もし、きみの心が離れても、僕の心がきみを想うことを許して欲しい)
♢♢♢
「わかった」
(なんだろう、大事なことって)
たまにジョンが思いつめたような辛そうな表情をするのを、リジーはなんとなく知っていた。
最近はそれが見受けられなかったのだが、今、どうしてここでその表情をするのか。
ジョンは自分を愛していると言ってくれた。
自分も彼を愛している。
ジョンの憂いを取り除いてあげたい。
もし、それが取り除けなくても、誠心誠意受け止める。
彼が少しでも幸せでいられるようにそばで支えたいと、リジーは決意した。
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ジョンは外へ出ると、振り返った。
サンタクロースの家は、素晴らしいイルミネーションが眩い光を放っていた。
家の軒先や背の高い木にも電球を増やした甲斐があり、この世のものとは思えないほどの美しさだった。
ジョンは自分が虹の都にいるのかと錯覚した。
雨はだいぶ小降りになっていたが、ジョンは道を急いだ。
街灯の明るさと、ショウウィンドウの光、どこからともなく聞こえてくる楽し気な声。
ライトアップされているにもかかわらず、メインストリートは今はもう歩いている人はほとんどいなかった。
クリスマスイブの夜。
誰もが親しい人や家族と過ごす。
「……!」
ジョンの白い息が揺れた。
道の先の方から足音が聞こえて来る。
そして微かに聞こえる囁くような鈴の音。
ジョンは何かに憑かれたように立ち止まった。
視界に入って来たのは、見覚えのある赤い服と帽子、白いひげ。
聖夜の灯火のようだった。
◆◆◆◆◆◆
『おかえり、父さん』
フリードがやって来た翌年のクリスマスの夜、彼を初めてそう呼んだ。
ずっとそう呼びたかったが、なかなか呼べなかった。
母の前では恥ずかしかったのでアパートメントの1階の外で彼の帰宅を待っていた。
あの時は、星のような雪が舞っていた。
『ただいま、ジョン』
フリードは涙を溜めて、しっかりと抱きしめてくれた。とても暖かかった。
◆◆◆◆◆◆
サンタクロースはゆっくりジョンの方へ向かって歩いて来た。
もう寂しくはない。
そこに彼はいるのだから。
いつの間にか雨は止んでいた。
傘を閉じる。
「メリークリスマス! ジョン?」
「父さん……」
ジョンは思わずそう呟いてから、ハッとして改めて言い直した。
「メリークリスマス、ニコラスさん、お疲れさまでした。お迎えに来ました」
「ジョン。きみが迎えにきてくれるなんて……すまなかった。雨が止んだから無駄足を踏ませてしまったね」
「いいえ。外の空気が吸いたかったですし」
「……なんだかきみが本当に私の息子に思えたよ」
「失礼しました。父さん、と呼んでしまって」
「いや、何も違和感はない。私はサンタクロース、別名<クリスマスの父>だからね」
少しおどけたように、ニコラスがウインクをしてみせる。
「過去の思い出と重なり合って、思わず口に出てしまいました」
「きみの大切な思い出に私が寄り添えるなんて、光栄だよ」
「……僕の父は、まるでサンタクロースのようでした。あるクリスマスの夜に突然現れて、楽しくて幸せな思い出をたくさんプレゼントしてくれました。でもその後、僕の前から突然消えました。母を連れて……」
「……そうか……。実は思い出というのは一番良いプレゼントだ。楽しい思い出はずっと肌身離さず持っていられるからな。場所もとらない。どこへでもどこまでも持っていける。たとえ忘れたとしても、ここにはちゃんとあるんだ。悲しい思い出も捨てられず、ここには残るかもしれないが、それはいずれは楽しい思い出の栄養になる」
ニコラスは自分の胸を押さえると、ジョンに優しい瞳を向けた。
「そうですね」
「これからも良い思い出をたくさん作るといい。栄養が多ければ、それだけ極上の思い出ができる」
そう言って晴れやかに笑った。
「はい」
「さあ、早く帰ろう。寒くなった。今度は雪が降り出しそうだ」
ニコラスとジョンは並んで歩いている。
「ところでジョン、情けない話だが、うちの馬鹿息子が親の言うことは聞かないのにどうしてきみの言うことはきくのかと思ってね。気になってたんだ」
「それは、サムに聞けば僕が怖いからとか言うでしょう。でも本当は相手の痛みがわかる優しい心を持っていて、僕を気遣ってくれているからだと思います。僕には正直な自分を見せないと信頼を得られないとわかっているんです。そうまでして僕の本当の友達になってくれました。僕はそんなサムのことを心から信頼しています。家族とは血のつながりがありますから、多少の甘えは許されます。我儘を通しても無条件で愛してもらえると、サムはそう信じていて家族には甘えているんでしょう」
「……ありがとう。息子の友達になってくれて、支えてくれて感謝します」
「感謝しているのは、支えられているのは僕の方です。いつも闇へ引きずられそうな弱い僕を見捨てることなく、光の射す方へ引っ張ってくれるんです。彼の明るさに何度も救われました」
「あの子が感謝されるなんて……」
「サムは僕の羊飼いであり、サンタクロースです」
「あの馬鹿ばかりやって、暴れていた息子が……導き手、まさかサンタクロースとまで言われる日が来ようとは……」
サムの父ニコラスはジョンの言葉に感慨深げに呟いた。
「サムは馬鹿じゃありません。……品の無いユーモアはしょっちゅうですけどね」
「ははは、そうか……。そこは持ち味ということにしておこう。ありがとう、ジョン」
いつの間にかふたりは家の前に着いていた。家の中からは楽しそうな歓声が上がっている。
「ずいぶんと盛り上がっているようだな」
「ビンゴ大会の最中でしょうから」
「なるほど。……どれ、中へ入ろう」
「僕はもう少しだけ、外にいてもいいですか」
「そうか」
ニコラスはジョンの肩に優しく手を置くと、家の中へ入った。
見上げた空には、星が戻って来ていた。
星を数えた。
二度と会えないと思っていたサンタクロースに会えた。
ジョンは目に僅かに染み出た滴を拭った。
外はかなり寒いが、頭を冷やすにはちょうど良かった。
キャンドルの暖かい光が玄関の白いアプローチを浮かび上がらせている。
中の喧騒が別世界のように、ひとつドアを隔てた外は静かだった。
微かに粉雪がちらつき始めた。
星の欠片が舞っているように綺麗だとジョンは思った。
玄関の階段に腰を下ろし、息を潜めていた。
「わ~寒い、ジョン? まだ家に入らないの?」
「リジー!?」
コートを軽く羽織ったリジーが玄関から出てきた。息が白い。
階段に座っていたジョンは振り返りながら立ち上がった。
そして、少し高い所にいるリジーに向かって両手を差し出した。
「ジョン? さすがにここでは転ばない……よ。え?」
言い終わる前に、ジョンは両手でリジーの脇を支え持ち上げ、階段の下に降ろした。
子ども扱いする、とむくれるリジーの素直な表情に和まされる。
彼女といると、自分の見る世界はどこにいても色鮮やかなものになる。
ひとりでは見えなかった世界が見えてくる。
人が誰かと集うのは違う世界を共に見たいからだろうか。
「サンタクロースの家のイルミネーション、綺麗だね。虹の都みたい」
「そうだね。こんな幸せなクリスマスは何年ぶりかな。暖かい」
ジョンはリジーを抱き寄せ、暖をとる。
「ジョン、平気? 背中が泣いているように見えたから」
「そうか、きみの胸で泣かせてもらうんだった」
「本当に泣いてたの? って、え?」
「覚えてない? やっぱり寝ぼけてたか」
「覚えてるよ。いいよ。私の胸で泣いても。でもね、骨が、痛いかも……」
「わかったから、泣いていないから」
また同じセリフを言うつもりか、とジョンはクスッと笑ったが、すぐ笑顔を引っ込めた。
「アパートメントに戻ったら、きみに話さなければならない大事なことがある」
ジョンは祈りを込めるように、真剣な顔でその言葉を口にした。
(僕の真実を知っても、どうか離れて行かないで……。もし、きみの心が離れても、僕の心がきみを想うことを許して欲しい)
♢♢♢
「わかった」
(なんだろう、大事なことって)
たまにジョンが思いつめたような辛そうな表情をするのを、リジーはなんとなく知っていた。
最近はそれが見受けられなかったのだが、今、どうしてここでその表情をするのか。
ジョンは自分を愛していると言ってくれた。
自分も彼を愛している。
ジョンの憂いを取り除いてあげたい。
もし、それが取り除けなくても、誠心誠意受け止める。
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