いつの日か、きみとサンタクロースと

名木雪乃

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クリスマス編

83 意外な先客

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 ジョンとのことはもう話してあるし、今日一緒に帰省することも連絡済みだ。
 母親の顔を見るのが恥ずかしいなどとは言っていられない。
 リジーは思い切ってドアベルを押す。


「ただいま!」

 リジーは実家を離れてから、はじめて帰省した。

「お帰りなさい、リジー! ジョン、ようこそ! メリークリスマス!」

 こぼれるような明るい笑顔の母キャサリンと祖母のケイトがそこにいる。
 
 帰って来た。リジーはほっとして、思わず目が潤んでしまう。

「メリークリスマス! ただいま……お母さん、おばあちゃん」

 リジーは母と祖母にぎゅーぎゅー抱きしめられ、ふたりより少し小さめのリジーは埋もれた。

「元気そうで良かった。よく顔を見せて」

 顔を両手で固定されじっくり見られ、続いて強引に頬ずりされる。

「リジーのすべすべ柔らかほっぺ、久しぶりだわ~。あら、擦り傷。また何かやらかしたの?」
「ちょっと、ね」
「相変わらずなのね。じゃあこっちのほっぺ」

 擦り傷のない方の頬に熱烈なキスをされる。

「お母さん、もう、子供じゃないんだから、やめて~」
「いいの、いくつになっても子どもは子供!」

 少しの間、スキンシップは続き、リジーはキャシーのなすがままにされていた。

 その親子のふれ合う様子を目に映し、静かに微笑むジョン。

 続いてジョンもふたりに固く抱きしめられた。

「ジョン、いらっしゃい。よく来てくれたわね」
「メリークリスマス、キャシー。ケイトさん」

 ケイトは上品な笑みを浮かべている。

「孫がふたりになったみたいで、嬉しいわね」
「ま、母さん、気が早い。でも、ジョン、これからもリジーをよろしくね」
「はい」

 ジョンが大きく頷いた。
 リジーは部屋が暖かいのと気恥ずかしいのとで、すでに身体の中はぽかぽかだった。

「さあ、奥に入って。待ってたの。今からクリスマスパーティよ。ちょっといらぬ人が来てるけど……」
「え?」

(誰が? この時期に?)

「なぜだかね……」

 キャシーがため息を吐いて脱力した。

「? お母さん? ちょっと気になるけど、私、ジョンをまずお父さんに紹介してからリビングに行くから、先に行ってて」
「わかったわ。ジョン、荷物はここにでも置いておいて」

 リジーは雑貨屋の中の方へジョンを促す。

「ジョン、こっち……」

 リジーはジョンの手をとり、雑貨屋の中のクリスマスコーナーへ引っ張って行く。
 今はシーズンなので、サンタクロースの等身大人形の回りはひときわ華やかに飾られていた。

「メリークリスマス! お父さん、ただいま! ジョンだよ」

 自分の大好きな人だと、リジーは心の中で伝えた。

「このサンタクロースの人形はお父さんの代わりなの。いつも見守っていてくれた。もうヨレヨレでしょ? 子供の頃、けっこう抱きついたりしてたから……」

 ジョンはサンタクロース人形に真剣な眼差しを向けた。

「ジョン?」
「お父さんに挨拶したよ。あなたが心から愛した娘さんは、今度は僕が愛し守りますってね」
「ありがとう! ジョン……」

 繋いでいた手が、ジョンの温かく大きな掌に包まれた。
 ジョンの柔らかな微笑み。リジーの脳裏に何かがよぎった。

(あれ? 何か既視感が……?)


『お兄ちゃんはサンタクロース好き?』
『大好きだよ』


(そんなわけないよね……あのお兄さんの髪の色は確か明るい茶色だった)


「リジー、こっちに来るとき店のライトを消して来てね!」

 奥から母の声がして、リジーの思考は中断された。

「はーい!」


 そして、リジーとジョンは、リビングに入って目を見張る。
 そこには、意外な先客がいた。

「え!? シンおじさん!!」
「シンドバッドさん!!」

 リビングのソファでくつろいでいたのは、メモ紙一枚を残していなくなったデイビッドだった。
 濃い茶色の髪は綺麗さっぱり整えられており、ひげも無く、本来の姿だった。

「やあ、リジー、ジョン、メリークリスマス! きみたち、仲良くお揃いで来たね。なんで驚いてるんだ? ちゃ~んとメッセージを書置きしたよね」

 テーブルにはビールに、つまみのチーズやビーフジャーキーもあり、すでにご機嫌のようだ。

「もう、どうしてか自分の実家に帰りもしないで、一昨日急にうちに来たのよ!! この人は!!」

 キャシーが声を荒くする。
 ふたりはまだよくわからないと言った顔をしていた。

「リジー!! 今夜はきれいなおじさんだから、ハグさせてくれ~」

 ソファにいたデイビッドが破顔しながら立ち上がり、豪快に両手を広げてリジーの方へ急接近して来た。

「ちょっと、デイビッド!!」

「あれ? リジーが老けた……」

 デイビッドが抱きついたのは、間に割って入ったキャシーで、リジーはジョンの腕の中にガードされていた。

「悪かったわね、老けてて!」

 キャシーはデイビッドの頬をつねった。

「痛ててて、お手柔らかに~」
「リジーをあなたの毒牙にはかけられないから……」
「キャシー、酷いよ……。きみの娘のリジーに下心なんてない。私は聖人だよ」
「どこがよ! 一昨日急に来たと思ったら、すぐに抱きついてべたべた触って来るし、何が聖人よ? 理性をどこかで全部落として来たんじゃないの?」

 キャシーとデイビッドのやりとりを、その他の3人が唖然として見ている。
 デイビッドはまだキャシーを放さない。
 つねられた頬を赤くしながらも、なお、キャシーに頬を寄せている。

 リジーの目にはまるでいちゃいちゃする新婚夫婦のように映った。

(どうしちゃったの? この展開は)

 リジーはジョンの腕の中で頭を整理する。

(メッセージって、あのなんだか簡単なメモのこと? 確か長年の想いをなんとかかんとか……って、え? もしかして、長年の想いの……相手ってお母さん!?)

 見上げると、ジョンが頷きながら意味深な視線をよこした。

(え? 知ってたの~?)


「リジー、ジョンも聞いて欲しい。きみたちが来るのを待っていた。もちろん伯母上も聞いてください。私はキャシーを以前から愛している。今回は結婚を申し込みに来た。キャシー、結婚してくれ」

 デイビッドがキャシーの両肩に手を置いた。

「デイビッド……」

 呆然として口を開けたキャシーをよそに、デイビッドは蕩けるような目つきでキャシーを見下ろしている。

「キャシー、リジーは独立しただろう。ジョンもいる。だから、きみの残りの人生を私にも少し共有させてくれないか?」
「子どもたちの前で何を言いだすのよ……」
「誰かいないと、証人がいないと、きみに逃げられる可能性があるからね」
「正気なの?」
「本気」
「とりあえず少し離れてくれないかしら?」
「嫌だと言ったら?」
「子どもの前で恥ずかしいこと止めて、本当に」
「私は何も恥ずかしくない。なんなら、ここで本気の口づけを……」

 デイビッドがキャシーの両肩を掴んだまま顔を寄せようとすると、

「そこまでよ、デイビッド」

 ケイトが口を開いた。

「ここから先はふたりで話し合いなさい。私たちは席を外しますよ。リジー、ジョン、ダイニングの方へ行きましょう」
「待って、母さん!」
「キャシー! じたばたしない! デイビッドは真剣なようよ。それから、デイビッド、愛を囁くならまずはふたりだけでね。これではムードも何もないでしょう。あなた、お得意でしょ?」
「はい、そうでした」

 デイビッドは、顔をしかめるキャシーを腕の中に閉じ込めると、悠然とケイトに返事をした。


 リジーたちは隣のダイニングへ移動した。
 クリスマスディナーの準備がされたままになっていた。丸いダイニングテーブルの上には赤いランチョンマットが敷かれ、華やかな赤いバラのフラワーアレンジと銀色のキャンドル、5人分のグラスや皿が用意されている。

「さあ、お料理を温めるのを手伝って」
「おばあちゃん……」
「どうしたの? リジー」
「なんだか複雑な気持ち」
「そうよね。デイビッドは子供の頃からキャシーの事を想ってたの。でもキャシーはフリードと結婚した。キャシーはずっとデイビッドを従弟としてしか見てなかった。フリードが亡くなってから、少しは気持ちの変化があったようだけど」
「知らなかった。シンおじさんの気持ち」
「キャシーだって、改めてデイビットの本気を前にして戸惑ってる」
「そうだね、お母さんのあんなに慌てた顔、初めて見たかもしれない。シンおじさんは、私が独立するのをずっと待ってたんだね。私に遠慮してた?」
「そりゃそうよ。親の恋愛で心にしこりを残す子どももいる」

 ケイトがちらりとジョンを見やるが、ジョンは視線を下げたままでいた。

「私はお母さんが決めたことを応援する。お母さんは、私の気持ちをいつも大事にしてくれて、見守ってくれるから。シンおじさんとのことは反対しないよ」
「そうね、私もよ」
「シンおじさんが独身だったのって、もしかしてずっとお母さんを想ってたからとか?」
「さあ、そこまでは……わからないわ。でも、デイビッドは意外と根は真面目でロマンチストなのかもね」
「うん。ジョン? どうしたの?」
「いや……。僕は部外者かもしれないけど、リジーの考えに賛成だよ。ふたりの気持ちを尊重したいと思う」
「うん……」


♢♢♢


「デイビッド、一体どういうつもり?」

 キャシーはデイビッドの腕の中に捕まったままだった。

「クリスマス休暇中にきみを口説き落として、僕との結婚にイエスと言わせる」
「何を言ってるのかわかってるの? 私はもうとっくに子供も産めないくらいの年のおばさんなのよ」
「だから、子どもはいらない。リジーがいる。ジョンもいる。ジョンには私の養子になってくれないかと言ってある。まあ、その必要はなくなりそうだがね」
「そんな……」
「きみを愛している。私の想いは伝わっていただろう? リジーが独立するまで結婚を申し込むのは待っていた。きみはずっとひとりで耐えて生きて来た。私だってきみを想いながらずっとひとりで我慢して生きて来た。これからは私がきみを堂々と表で支えたい。一緒にいたい。抱き締めたい。誰にも何も言わせないで男女が一緒にいるには結婚するのが一番だ。もうこれ以上待ちたくない。遠慮も我慢もしたくない!」

「……あなたはいつだって、私が離婚してからは何かあればすぐに駆けつけてくれた。それは感謝してる。子どもの頃からの仲良しの従姉弟同士の関係だけじゃだめなの?」
「仲良しの従弟なんて嫌だ。私を男として見て欲しい」
「考えさせて、お願い。突然で混乱してる。気持ちの整理もできてない。リジーだって突然のことで驚いてると思うの」
「……わかったよ。まあ、口説く時間はたっぷりあるからね」
「とにかく今日はクリスマスだし、リジーたちがせっかく帰ってきてくれたんだから、後よ後。ジョンは今日のうちに帰ってしまうんだし」
「え? あいつ泊まらないの?」
「そうよ」
「確かに、いつもクリスマスはどこかへ行って姿を見せないが」
「まずはディナーよ。ずっとあの子たちを待ってたからお腹すいたわ」

 キャシーはようやくデイビッドの腕から解放された。

 緊張が解かれ少しホッとしたキャシーだが、デイビッドの胸に広がった切なさには気が付かなかった。
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