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クリスマス編
85 家族の形
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豪華なクリスマスディナーの並んだ食卓を5人で囲む。
リジーは大好きな母、祖母、デイビッド、そしてジョンと一緒にクリスマスを過ごす嬉しさで、胸が一杯だった。
記憶を辿っても、自宅でこんなに賑やかなクリスマスを迎えたのは初めてのような気がする。
そして、母の料理もしばらくぶりだ。
「お母さんのミートローフだ~! それにほうれん草とベーコンとチーズのキッシュ、ハッシュドポテト!! おいしい~、嬉しい! 幸せ!!」
「はいはい、リジー、落ち着いて。あなた、料理の前で興奮する癖は抜けてないのね」
キャシーの母親らしい指摘に、ジョンが笑みを浮かべる。
リジーはまた自分がやらかしたことに気がついた。
見ると自分の使っていたフォークが消え、なぜか隣に座っているジョンの手から渡される。
「え? フォーク……」
「気をつけて、リジー。落とすところだった」
「あ、ありがとう」
リジーは身を縮こませ、小さくお礼を言った。
「いや、うまいぞ、これは。興奮したくもなる。キャシーの料理はいつもうまいが、このキッシュは飛びぬけてうまい」
デイビッドはフォークとナイフをスマートに扱いながら、キッシュを口に入れた。
「ありがとう、デイビッド。ジョンもたくさん食べてね。それにしても、あなたの反射神経はまるでニンジャみたいだったわよ。素早くて動きが見えなかった」
「たまたまキャッチできたんですよ」
いつもリジーを意識に置いているからできるのだと、ふたりを囲む年嵩の大人たちは感心した。
♢♢♢
「このミートローフは母さん直伝なのよ。簡単だけど豪華に見えておいしいの」
娘キャシーは胸を張るが、母ケイトは苦笑いをした。
「ひき肉と玉ねぎとミックスベジタブルを混ぜてオーブンで焼くだけだからね」
「ソースも缶詰のクリームソースにマッシュルームを足しただけだしね」
母娘が顔を見合わせて、クスッと笑いあう。
「こんなにおいしいのに、本当に簡単なんだね!」
リジーが子供のように瞳を輝かせながらミートローフを頬張っている。
「リジー、あなたも食べるだけでなく作ることにも少しは興味を持ってね?」
「はい……」
小さく返事をするリジーの姿にキャシーはにっこりとした。
そして、デイビッドが旅行先での話を始めた。
「アジアの端の国、日本の首都東京にも行ったことがある。みなジョンと同じような黒髪に濃い茶色の目の色だった。人は多いし、道は驚くほど狭い。ビルや家が狭い中に乱立している。着いたその日は目が痒くて痒くて充血もして大変だった。カリフォルニアとは雰囲気も空気も全く違うんだ」
聞いていたジョンは表情を変えない。
「でも、人々はみな穏やかで平和そうだった。言葉がわからないなりにも親切で丁寧だった。ジョンもいつか行ってみると良い……。そういえば街にニンジャはいなかったな」
デイビッドの話に女3人は関心を寄せたが、ジョンは遠い目をしてただ微笑んでいるだけだった。
「さあ、遅くなったけどみんなでクリスマスプレゼントを開けましょう!」
キャシーの張りのある声が響いた。
食事が終わると、5人はリビングに移動し、コーヒーを飲みながら、お菓子をつまみながら、自分宛てのプレゼントをあけた。
またサンタクロースの家でのような楽しげな光景が広がる。
リジーが母親からのプレゼントのセーターを抱きしめている。
選んだプレゼントが偶然同じだったようで、キャシーもケイトもリジーからのプレゼントであるセーターを身体にあて、3人で笑い合っている。
ジョンはリジーのプレゼントにはしゃぐ姿を目に焼き付けた。
キャシーに手招きされ、ジョンも包みを渡される。
自分へのプレゼントらしい。
ジョンがお礼を言って包みをあけると、セーターだった。
「リジーとおそろいよ! なかなか似合うじゃない! ふたりで着てみせて」
キャシーがそろいのノルディック柄のセーターを着たリジーとジョンを見て、満足そうに頷く。
「うわ、ジョンには合わなくないか? そのほのぼのしたトナカイと雪の結晶は~。ジョンにはシャープな無地だろう!」
デイビッドにダメ出しされ、キャシーがムッとする。
「ジョンだって似合うわよ。少しは若々しい明るいデザインのを着たらいいのよ!」
「男のセンスがわかってないぞ、キャシー」
「なんですって!? 私は洋服のセンスは良いって言われてるのに」
揉め始めたキャシーとデイビッドにリジーとジョンは苦笑した。
「昔から仲が良いんだか、悪いんだか。でもキャシーも実は楽しそうなのよね」
ケイトがしみじみ呟くのを、リジーとジョンは聞き取って微笑み合った。
プレゼントをすべて開け終わり、5人は一息入れていた。
「シンドバッドさん、サムの家にプレゼントしたキャンディポットは賞賛されましたよ。とても気に入っていただけました。サムのお父さんから、サムのこと感謝していると、オーナーによろしく伝えて欲しいと、言われました」
「サムが本来の姿に戻っただけだろう。あいつは元々聡かった。自分でかけた魔法を自分で解いたんだ。私たちは何も特別なことはしていない。そうだろう?」
「そう思います」
(そう、したことと言ったら、ありきたりな話をして、冗談を言い合って、たまにじゃれ合っただけ)
デイビッドとジョンは同じ想いだった。
リジーがサイドボードの上に飾られている家族の写真に目を移した。
「あ、写真が増えてる」
「そうよ、あなたの高校の卒業式のときの写真」
角帽を被り、黄色いラインの入った明るい紺色のガウンを羽織って卒業証書を持ち、キャシーと並んで笑顔で写っている。
「なんだか、もうずいぶん前のことみたい。まだ数ヶ月しか経ってないのに」
リジーの傍らにジョンは立っていた。
ジョンはサイドボードの上に飾られている写真をひとつひとつ見ていった。
赤ちゃんのリジー、サイズがほぼ同じぬいぐるみの横に寝ている。
2~3歳くらいだろうか、小さいリジー。
クッションを抱いてニコニコ座っている。昔からクッションが好きらしい。
7歳くらいか、母親と祖母と手を繋ぎ赤いワンピースを着て笑っている。
背後にメリークリスマスの文字の幕が見える。
「これはね、お父さんの会社の人の家のクリスマスパーティで撮った写真。確かお父さんが撮影してくれたから……お父さんが写ってないんだ」
リジーが懐かしそうに、でも少し寂しそうに説明しながら目を細めた。
飾ってある家族の写真の中に、フリードのものは1枚もなかった。
ジョンの胸にまた冷えた空間ができあがる。
最後の写真の横にメリーゴーラウンドの形をした陶器の置物があった。金属の台座が見える。
台座がゼンマイになっているアンティークのオルゴールだろうか。
リジーがそれに手を伸ばしかけたが、キャシーの声に手が止まる。
「見て見て、卒業式の写真をまとめたのよ」
キャシーがアルバムを抱えている。
「え? やだ、それもジョンに見せるの?」
「そうよ」
「待って、みんなで写ってるのはダメ!」
リジーが慌てたように、アルバムを取り返そうとする。
「なぜ?」
「わ、私だけ子供っぽいから」
「そう? そんなことないわ。卑屈にならないで。私の娘なんだから、自信持って」
「そうだぞ、リジー。クロウも私も今のままのリジーが可愛くて好きなんだ! 小柄じゃないリジーはリジーじゃない」
と、また懲りずに両手を広げるデイビッドだったが、「それはなんの手よ!」と、キャシーに腕を叩かれていた。
楽しい時間は瞬く間に過ぎ、ジョンは暇を告げた。
「ジョン、こんなに夜遅くに行ってしまうの? 今夜は泊まって明日にすれば良いのに」
キャシーは不満げだ。
「すみません……。楽しかったですし、とても美味しいディナーでした。ありがとうございます。素敵なプレゼントも嬉しかったです」
「もう、他人行儀なんだから」
「ジョンは私たちの息子も同然なんだから、色々甘えてくれていいんだぞ」
「そうよ。少しは頼ってもらいたいわ」
「もう十分頼らせてもらってます。僕はとても幸せです」
「そう、良かった」
ジョンは、キャシー、デイビッド、ケイトに抱きしめられ、照れた様子で微笑みを返す。
最後に心配そうに湿った瞳を向けるリジーを抱き寄せた。
「おじさんにも抱きついて欲しいものだな……」
デイビッドがぼそりと言ったのを聞き逃さず、キャシーは睨みをきかせた。
「じゃあ、気をつけてね。ジョン」
「はい」
「お母さん、私、外まで送るね」
「ええ。デイビッド、出て行かないの、あなたは!」
一緒について来ようとしたデイビッドの腕を、キャシーがぐいと引っ張った。
「あ、そうか。じゃあなジョン、また連絡する」
「はい、今度は早めにお願いします」
「わかった~」
デイビッドが右手をひらりと振った。
この家族の形は、まだ少しいびつかもしれないけれど、居心地が良いとみな思っていた。
リジーは大好きな母、祖母、デイビッド、そしてジョンと一緒にクリスマスを過ごす嬉しさで、胸が一杯だった。
記憶を辿っても、自宅でこんなに賑やかなクリスマスを迎えたのは初めてのような気がする。
そして、母の料理もしばらくぶりだ。
「お母さんのミートローフだ~! それにほうれん草とベーコンとチーズのキッシュ、ハッシュドポテト!! おいしい~、嬉しい! 幸せ!!」
「はいはい、リジー、落ち着いて。あなた、料理の前で興奮する癖は抜けてないのね」
キャシーの母親らしい指摘に、ジョンが笑みを浮かべる。
リジーはまた自分がやらかしたことに気がついた。
見ると自分の使っていたフォークが消え、なぜか隣に座っているジョンの手から渡される。
「え? フォーク……」
「気をつけて、リジー。落とすところだった」
「あ、ありがとう」
リジーは身を縮こませ、小さくお礼を言った。
「いや、うまいぞ、これは。興奮したくもなる。キャシーの料理はいつもうまいが、このキッシュは飛びぬけてうまい」
デイビッドはフォークとナイフをスマートに扱いながら、キッシュを口に入れた。
「ありがとう、デイビッド。ジョンもたくさん食べてね。それにしても、あなたの反射神経はまるでニンジャみたいだったわよ。素早くて動きが見えなかった」
「たまたまキャッチできたんですよ」
いつもリジーを意識に置いているからできるのだと、ふたりを囲む年嵩の大人たちは感心した。
♢♢♢
「このミートローフは母さん直伝なのよ。簡単だけど豪華に見えておいしいの」
娘キャシーは胸を張るが、母ケイトは苦笑いをした。
「ひき肉と玉ねぎとミックスベジタブルを混ぜてオーブンで焼くだけだからね」
「ソースも缶詰のクリームソースにマッシュルームを足しただけだしね」
母娘が顔を見合わせて、クスッと笑いあう。
「こんなにおいしいのに、本当に簡単なんだね!」
リジーが子供のように瞳を輝かせながらミートローフを頬張っている。
「リジー、あなたも食べるだけでなく作ることにも少しは興味を持ってね?」
「はい……」
小さく返事をするリジーの姿にキャシーはにっこりとした。
そして、デイビッドが旅行先での話を始めた。
「アジアの端の国、日本の首都東京にも行ったことがある。みなジョンと同じような黒髪に濃い茶色の目の色だった。人は多いし、道は驚くほど狭い。ビルや家が狭い中に乱立している。着いたその日は目が痒くて痒くて充血もして大変だった。カリフォルニアとは雰囲気も空気も全く違うんだ」
聞いていたジョンは表情を変えない。
「でも、人々はみな穏やかで平和そうだった。言葉がわからないなりにも親切で丁寧だった。ジョンもいつか行ってみると良い……。そういえば街にニンジャはいなかったな」
デイビッドの話に女3人は関心を寄せたが、ジョンは遠い目をしてただ微笑んでいるだけだった。
「さあ、遅くなったけどみんなでクリスマスプレゼントを開けましょう!」
キャシーの張りのある声が響いた。
食事が終わると、5人はリビングに移動し、コーヒーを飲みながら、お菓子をつまみながら、自分宛てのプレゼントをあけた。
またサンタクロースの家でのような楽しげな光景が広がる。
リジーが母親からのプレゼントのセーターを抱きしめている。
選んだプレゼントが偶然同じだったようで、キャシーもケイトもリジーからのプレゼントであるセーターを身体にあて、3人で笑い合っている。
ジョンはリジーのプレゼントにはしゃぐ姿を目に焼き付けた。
キャシーに手招きされ、ジョンも包みを渡される。
自分へのプレゼントらしい。
ジョンがお礼を言って包みをあけると、セーターだった。
「リジーとおそろいよ! なかなか似合うじゃない! ふたりで着てみせて」
キャシーがそろいのノルディック柄のセーターを着たリジーとジョンを見て、満足そうに頷く。
「うわ、ジョンには合わなくないか? そのほのぼのしたトナカイと雪の結晶は~。ジョンにはシャープな無地だろう!」
デイビッドにダメ出しされ、キャシーがムッとする。
「ジョンだって似合うわよ。少しは若々しい明るいデザインのを着たらいいのよ!」
「男のセンスがわかってないぞ、キャシー」
「なんですって!? 私は洋服のセンスは良いって言われてるのに」
揉め始めたキャシーとデイビッドにリジーとジョンは苦笑した。
「昔から仲が良いんだか、悪いんだか。でもキャシーも実は楽しそうなのよね」
ケイトがしみじみ呟くのを、リジーとジョンは聞き取って微笑み合った。
プレゼントをすべて開け終わり、5人は一息入れていた。
「シンドバッドさん、サムの家にプレゼントしたキャンディポットは賞賛されましたよ。とても気に入っていただけました。サムのお父さんから、サムのこと感謝していると、オーナーによろしく伝えて欲しいと、言われました」
「サムが本来の姿に戻っただけだろう。あいつは元々聡かった。自分でかけた魔法を自分で解いたんだ。私たちは何も特別なことはしていない。そうだろう?」
「そう思います」
(そう、したことと言ったら、ありきたりな話をして、冗談を言い合って、たまにじゃれ合っただけ)
デイビッドとジョンは同じ想いだった。
リジーがサイドボードの上に飾られている家族の写真に目を移した。
「あ、写真が増えてる」
「そうよ、あなたの高校の卒業式のときの写真」
角帽を被り、黄色いラインの入った明るい紺色のガウンを羽織って卒業証書を持ち、キャシーと並んで笑顔で写っている。
「なんだか、もうずいぶん前のことみたい。まだ数ヶ月しか経ってないのに」
リジーの傍らにジョンは立っていた。
ジョンはサイドボードの上に飾られている写真をひとつひとつ見ていった。
赤ちゃんのリジー、サイズがほぼ同じぬいぐるみの横に寝ている。
2~3歳くらいだろうか、小さいリジー。
クッションを抱いてニコニコ座っている。昔からクッションが好きらしい。
7歳くらいか、母親と祖母と手を繋ぎ赤いワンピースを着て笑っている。
背後にメリークリスマスの文字の幕が見える。
「これはね、お父さんの会社の人の家のクリスマスパーティで撮った写真。確かお父さんが撮影してくれたから……お父さんが写ってないんだ」
リジーが懐かしそうに、でも少し寂しそうに説明しながら目を細めた。
飾ってある家族の写真の中に、フリードのものは1枚もなかった。
ジョンの胸にまた冷えた空間ができあがる。
最後の写真の横にメリーゴーラウンドの形をした陶器の置物があった。金属の台座が見える。
台座がゼンマイになっているアンティークのオルゴールだろうか。
リジーがそれに手を伸ばしかけたが、キャシーの声に手が止まる。
「見て見て、卒業式の写真をまとめたのよ」
キャシーがアルバムを抱えている。
「え? やだ、それもジョンに見せるの?」
「そうよ」
「待って、みんなで写ってるのはダメ!」
リジーが慌てたように、アルバムを取り返そうとする。
「なぜ?」
「わ、私だけ子供っぽいから」
「そう? そんなことないわ。卑屈にならないで。私の娘なんだから、自信持って」
「そうだぞ、リジー。クロウも私も今のままのリジーが可愛くて好きなんだ! 小柄じゃないリジーはリジーじゃない」
と、また懲りずに両手を広げるデイビッドだったが、「それはなんの手よ!」と、キャシーに腕を叩かれていた。
楽しい時間は瞬く間に過ぎ、ジョンは暇を告げた。
「ジョン、こんなに夜遅くに行ってしまうの? 今夜は泊まって明日にすれば良いのに」
キャシーは不満げだ。
「すみません……。楽しかったですし、とても美味しいディナーでした。ありがとうございます。素敵なプレゼントも嬉しかったです」
「もう、他人行儀なんだから」
「ジョンは私たちの息子も同然なんだから、色々甘えてくれていいんだぞ」
「そうよ。少しは頼ってもらいたいわ」
「もう十分頼らせてもらってます。僕はとても幸せです」
「そう、良かった」
ジョンは、キャシー、デイビッド、ケイトに抱きしめられ、照れた様子で微笑みを返す。
最後に心配そうに湿った瞳を向けるリジーを抱き寄せた。
「おじさんにも抱きついて欲しいものだな……」
デイビッドがぼそりと言ったのを聞き逃さず、キャシーは睨みをきかせた。
「じゃあ、気をつけてね。ジョン」
「はい」
「お母さん、私、外まで送るね」
「ええ。デイビッド、出て行かないの、あなたは!」
一緒について来ようとしたデイビッドの腕を、キャシーがぐいと引っ張った。
「あ、そうか。じゃあなジョン、また連絡する」
「はい、今度は早めにお願いします」
「わかった~」
デイビッドが右手をひらりと振った。
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