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第三章

39.母さんとの再会(4)

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「また来週」
 と茄治が言ったのに、寂しくなって、つい口を開いた。
「あのさ、茄治」
 ん? って顔をした茄治に言った。
「話したいことがあるんだ」
「え?」
「来週話すから」
「1週間生殺し?」
 俺はふふっと笑った。
「ちょっ、マジで今言わないの?」
「だって茄治が帰れなくなりそうだし」
「兄さん!」
 すごく不満そうな茄治を無理矢理部屋の外に引っ張る。
「駅まで送ってくからさ」
 茄治はまだ不満そうだ。
「歩きながら話せばいいじゃん」
 まあ、それでもいいんだけど。
「ちゃんと帰るなら言ってもいいよ」
「何それ」
 俺の顔色をうかがうように聞いてくる 
「帰りたくなくなるような話なの?」
「うん。まあ」
 茄治はちょっと悩んで、言う。
「やっぱ1週間も我慢できない」
 茄治はわがままだなと思いながら言う。
「いい加減兄さんって呼ぶのやめようよ」
「は? それが話なの?」
 がっかりしたような茄治を見て笑ってしまった。
「ちょっと兄さん」
「やめる気絶対ないだろ」
 茄治は少し怒ったように言う。
「俺が呼びたいんだもん」
 ま、いいかと思って笑う。

「高校卒業したら一緒に暮らそう」
 茄治は一瞬はっとしたような顔をして、俺の方をじろじろ見てくる。
「それ先に言ってよ」
 茄治のあまり人に向けない笑顔も大好きだ。
「そんなこと言って1週間生殺し?」
「だから言ったじゃん」
「兄さんもだんだん意地悪くなってきたね」
 なんて言う茄治がかわいい。
「返事は?」
「そんなの言われなくたって元々そのつもりだし」
 キスをして、抱き合って、誰かに見られても気にしない。

 もう遠慮するのも我慢するのもやめた。茄治が大好きでずっと一緒にいたいから。言いたいこといつでも言えるように。

「また来週」
 と俺が言ったら、「今日のお返しに次はもっといじめてあげるから」って返ってきた。
 来週が待ち遠しくてたまらない。そんな毎日。
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