素直じゃなくてもいいですか?

宮部ネコ

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第21話

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 朝。昨日酒飲んで眠ってしまった記憶があったので、先輩の家にいることは、起きてすぐに思い出した。もちろん先輩は隣にいない。途中で部屋を移ったみたいだ。

 俺が起きてまごまごしていたら、先輩が戸をノックした。
「朝ごはんできてるぞ」
「あ、おはようございます」
 昨日宅飲みしたちゃぶ台の部屋に戻ると、朝食が並べてあった。
「簡単なもので悪いけど」
 目玉焼きと食パンとスープだった。俺は料理はしないので、これだけでもすごいと思った。
「すみません。何から何まで」
「そういうのいいから、食えよ」
 俺は頷いて朝食を食べた。
 途中で先輩のまぶたにクマができてるのに気付いた。もしかして、寝れなかった?

「先輩寝てないんですか?」
「眠れるわけねえだろ」
 先輩は声のトーンを落として続けた。
「隣の部屋で無防備に眠ってんのに」
「すみません」
「謝らなくていいからさ。よければまたどっか付き合ってくれよ」
「あ、はい」
 それぐらいならお安い御用だと思った。
「そんな適当に返事してたら容赦なく誘うからな」
「適当じゃないです」
 俺だってちょっとは悪かったと思ってるし。それに、先輩と出かけるのつまらなくはなかったから。
「どうせまた持ち上げてから落とすつもりだろ」
 それってどういう意味?
「お詫びとか、罪滅ぼしとか」
「それだけじゃ……」
 言おうとして、でもこれ以上期待されても答えられないと思って言うのをやめた。
「ん?」
「人を急かすのやめてください」
 待ってって言ったのに。
「悪かったよ」
 素直に謝られてしまった。
「あんま期待しないでゆっくり待つよ」
 それもなんか気に入らなかったけど、俺はそれ以上口答えはしなかった。

 先輩は俺が電車で帰る時も、家の近くまでわざわざ送ってくれた。朝だから大丈夫だって言ったのに、元彼がどこかで待ち受けてたら困るからって。そんなことあるわけないのに。
 朝帰りとか初めてしたから、両親にも変に勘ぐられた。女の子じゃないから、気をつけろって言われただけだけど。
 姉貴にはバレてるけど、俺がゲイだって知ったら両親がどんな反応するのか。やっぱりちょっと怖い。
 姉貴はニヤニヤと「先輩と何かあった?」って聞いてくるし。俺は「何もない」って言って部屋に逃げ込んだ。

 昨日から急展開過ぎて頭がついていかなかった。幸い今日、明日は文化祭の振替休日で休みだ。
 朝からごろごろするのもなんだけど、どこも出かける気にはなれなくて家でゆっくりしていた。親は仕事だし、姉貴も大学行ったからやることもない。
 その間に先輩からメッセージは何度も来た。
 返さなきゃ返さないで、心配されるから、適当に返すしかないんだけど、正直面倒くさい。しかも、数日前よりも頻繁にマメに連絡がくる。大概は他愛もないことだけど、返答に困るのだ。
 俺とメールしてて楽しいんだろうか。
『今何やってんの?』なんて聞かれたから、誰もいないしだらだらしてると返事した。つまらない人間に思われるかもしれないけど今更だ。先輩だって気づいているはず。

 そしたら、突然電話がかかってきた。俺は慌てて反射的に出てしまった。
「もしもし」
「お前暇してんだろ?」
「それがどうかしたんですか?」
 休みなのだから、だらだらしたっていいはずだ。先輩に咎める権利はない。
「どっか行かない……」
「嫌です」
 最後まで言われる前に答えた。朝まで一緒にいたのに何言ってんだこの人。
「即答すぎんだろ」
「せっかく先輩から解放されてだらだらしてんのに」
 俺の邪魔しないでほしい。
「ホント塩対応だな。俺だって傷つくぞ」
 そんなこと言われたって知らない。
「じゃあ明日」
 とっさに答えられなかった。
「どうせ暇してんだろ」
「あ、明日は色々とその、約束が」
 無理やり予定を作ろうと思ったが、見破られてしまった。
「へえ」
 その言い方がなんかむかつく。
「どうせ暇ですよ。それの何が悪いんですか?」
「好都合だってこと。今日一日ゆっくりすりゃ気が済むだろ。だからどっか行こう」
 俺は仕方なく夕飯前に帰るのでいいならと言った。親にこれ以上心配かけたくなかった。
「じゃあ朝10時に待ち合わせ」
「えっ」
 俺は不満を隠せなかった。なんでわざわざそんな早い時間に。
「どうせ休みの日にまで早く起きたくないと思ってんだろ」
「うっ」
 図星だった。
「どうせ今週は3日行けば終わりだろ」
 振り替え休日明けは水曜だから確かに3日だ。
 俺は渋々受け入れたのだった。
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