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夜に二人きり
しおりを挟むコンコンコン……ノックの音が聞こえた。リアンさんだ。
「はい」
扉を開けた。夜着のままだけど大丈夫なのかな……? リアンさんはシャツとパンツと言うリラックスした格好だった。仕事終わったのかな?
「着替えた方がいい?」
特に寒い感じはしないけど、夜着で歩き回っちゃマナー違反かも。
「……いや、今から行く場所は屋敷内だからそのままで構わない。暗いから手を繋いで行こう」
わぁ! リアンさんからそんな事を言われるなんて。
「はいっ」
手を繋いで階段を上がる。どこに行くんだろうね? 夜だし足元が暗くて見えにくい。最上階まで上がると、はぁはぁと息が上がった。運動不足だね。最近は大人しく家で勉強三昧だったから、木刀を振ったり馬に乗るのも再開しよう。
「はははっ。大変だっただろうな。よく着いてきたな、さすがマリアだな」
はぁはぁ。ここどこ? え? 展望台?!
「何ここ! 凄いよ」
展望台って個人の家にあるの? だってお星様とかお月様が見られるんでしょう?
「父の趣味というか……父は星が好きなんだ。だからこの屋敷を気に入って展望台を作ったんだってさ。ここに来るのは許可を得ている。せっかくだからまずは茶でも飲むか? 用意をさせているからあっちの部屋に移動しよう」
あっちの部屋と言う部屋に入ると、王都の街が見えた。部屋の明かりは抑えめで、外は明かりが灯っているので幻想的だった。窓の外を見ているとリアンさんがお茶を淹れてくれた。
「寝る前だからハーブティーにした」
窓際のソファに並んで座った。夜にリアンさんと二人でいるなんて……緊張する。
「良い香りだね」
ハーブティーの香りを嗅ぐとリアンさんが……
「良い香りだな……これは石鹸の香りか?」
ん? 石鹸? ……って何! ひゃあ! リアンさんが近くにいる!
「……これ、は、ホワイトリリーなんだって。新作を用意してもらって……」
……恥ずかしい。
「なんでそんなに緊張してんだよ。こっちが恥ずかしくなるだろ……でも」
肩を抱かれてリアンさんの胸の位置に私の頭がすっぽりおさまった。
「お茶が溢れちゃうよ」
リアンさんは私からお茶を受け取りテーブルに置いた。
「この夜景も見せたかった。父がこの屋敷を気に入っていると言うのがわかる気がする。疲れた時に部屋の明かりを極力抑えて外を見るとぼんやりできて息抜きになる」
忙しく働いたら一日の終わりにそう言う時間って必要なのかもしれない。人がいなくて自分の時間って感じがするよね。
「夜にこっそりリアンさんと二人で夜景を見られるなんて悪いことしてるみたいだよ」
パパが聞いたら鬼のような形相になるよね。パパの笑顔は怖い時があるもの。
「もう少し、こうしていて良いか?」
「うん。リアンさんの心臓もどきどきしてるね。マリアと同じ」
「マリアの体温は高めだからこうしていると落ち着く」
ん? 子供だから体温高いって言いたいの?!
「昔からマリアは温かいよな。冷たかったのはマリアを見つけたあの日だけだ」
「……死にそうだったから?」
「……そうだな。あの時は小さい体でよく頑張ったな」
ぎゅっと力を入れられた。
「覚えてないけど、目を開けた時リアンさんが手を繋いでくれていたね。大きくて温かい手だった。それが私の一番古い記憶だよ」
誘拐されたことも川で溺れたことも家のことも家族のことも何も覚えていなかった。思い出せるのはリアンさんの手。
「もうマリアの事を手放すつもりはないから、最新の記憶も俺であってくれれば光栄だな」
ちゅっ。と音を立てて瞼にキスを落としてくるリアンさん。夜に見ると大人の雰囲気がすごく漂ってくる。
「リアンさん、ずっとずっと……一緒にいてね。約束だよ」
「約束するよ」
……リアンさんはずっと優しいけれど、思いが通じ合ってからは違う優しさだと思う。ちゃんと婚約者として一人の女性として見てくれる。
リアンさんと目が合って……目を瞑った。
……ちゅっ。
唇に温かいものを感じた……。
「また、誘惑に負けてしまった。式まで取っておくつもりだったのに……」
「ひゃぁ……」
「耳まで赤いぞ……誘ってきたのはマリアだからな」
「……リアンさん、好き。ファーストキスだよ。責任とってね」
恥ずかしくて嬉しくて、ここが私の家で次の日にパパやママ、兄さまに会わなきゃならなかったら絶対、挙動不審で怪しまれるところだよ。
「……煽っているのか。いや……これ以上は……落ち着こう」
ボソボソとリアンさんが口にする事はよく聞こえなかったけれど、今人生で一番幸せだよ!
最新の記憶もリアンさんで埋め尽くされた。
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