身分を捨てて楽になりたい!婚約者はお譲りしますわね。

さこの

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ヴィクトリアの知られざるところ 結婚式当日

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「行ったか?」

「……えぇ、行きました。寂しくなりますわ」

 そう言ってこの屋敷の主人は妻を抱きしめた。娘が可愛いのは妻だけではない。
 口にはしないが娘を大事に思っているし愛している。今後の結婚生活を考えると金に不自由は無いだろうが平民の愛人がいる男とは幸せになることは出来ないだろう。

 貴族と言う身分では無くなるがデビスに任せておけば大丈夫だろう。デビスのことは信用しているが念のため調査する事にした。

「もしデビスから連絡がなくても影が付いているからヴィクトリアの報告は上がってくるよ。落ち着いたらヴィクトリアに会いに行こう」

 除籍を願ったとしても娘は娘でありそれは変わらない。表向きは元娘となるが、いろんなことが落ち着いたら旅行がてら娘に会いに行こう、少し離れた所に娘が住んでいる。と思うことにした。


「はい、約束ですわよ」

「旅行がてら娘に会いに行こう」

「そうですわね。そうしましょう」


 寂しい気持ちはあるけれど、明日に向けて休まなくてはならない。寝不足では戦えないな。



******



「旦那さまぁーーーー!! 奥さまぁーーーー!!」

 メイドと執事長が朝から騒がしい。

「なんだ、騒々しい」

「お嬢様を起こしに行きましたらこんなものが……!」


 このメイドと執事はヴィクトリアが出て行ったことを知っている。中々の芝居であるのだが……


 ! ……髪の毛? ヴィクトリアのか! なんてことを……

 これには驚きを隠せなかった!



「ま、まさかこれはヴィクトリアの……」


 髪は女性にとって命のようなもの。長く艶のある髪の毛は皆からも嫉妬されるほどの美しさであったのに。それをこうもバッサリと……しかし嘆いている暇はない。


「旦那さまに宛てた手紙です」

 即座に開けて確認する。ヴィクトリアの思いが連ねてあった。

「ここまで思い詰めていたとは……」

 目頭に熱いものが込み上げそうになる。

「こちらは奥様宛でございます」


「ヴィクトリア……わたしの愛しい娘」


 手紙を見て改めて涙を流す妻の肩は震えていた。そっと抱き寄せた。


 騒ぎを聞きつけてギルバートとジュリアもやって来た。こいつらもなかなかの演技派だ。しかし手紙を見ると二人ともやはり寂しさや悲しさがあるようでなんとも言えない顔をしていた。





「お姉様の美しい髪が……」

 末の娘ジュリアが崩れ落ちた。


「ヴィクトリアは髪を落としてまでどこへ向かったのでしょうか……」



「デビスが探しに行った。他にも人員を出したいところだが、ヴィクトリアが髪を切ってまで出ていったんだ……デビスに任せよう」


「そうですか……大事にしてはいけませんね。我が家の恥になります」

 ギルバートの本心ではないことを家族は知っている。ここはそう言わなくてはならない。

「そうだな。髪の毛を落として除籍を願ったと言う事は修道院にでも身を寄せているのかもしれんな……」


 使用人に王家からの間者がいないとも限らないから、そう言っておくと国中の修道院を探すことになるだろう。時間稼ぎになるといいのだが。



******



 大聖堂にて第三王子ととの結婚式が行われる。



 公爵家の使いが平民街でも裕福であろう家に到着し、ベラを乗せた。

 ついた先は今日ライアンとヴィクトリアが結婚するはずだった大聖堂。


 本来ならヴィクトリアが着る予定だった純白のウェディングドレスを着させられた。

 ヴェールもレースの物でとても手が込んでいる。侯爵家お抱えのデザイナーとお針子が丹精込めて作った物。サイズが合わないため少しの手直しが行われた。


「美しいドレスだわ」
「本当に細かいところまで……」
「ヴィクトリア様が着るとそれはそれは美しかったでしょうに」



 褒めているのはドレスばかり。しかしウェディングドレスに身を包んだ花嫁には全く聞こえていないよう。


「素敵なドレス……こんな素敵なドレスを着て結婚式ができるなんて! ライが私を見ると驚くわね。まるで私のために作られたドレスよね!」



 誰も返事はしない。着付けを担当した侯爵家のメイド達はそそくさと出ていった。そう、ここは大聖堂の中の花嫁の控室だ。

 花嫁の控室なのに花嫁は一人きり。だが花嫁はずっと姿見と睨めっこしていた。


 誰も様子を見にこないとはおかしな話だが、ヴィクトリアはマリッジブルーだと伝えれば、知っているものは皆そっとしておいた。


「この後はパレードもあるのかなぁ……第二王子のパレードは見事だったもの! 沿道には市民がずらぁーっと並んでいてみんな嬉しそうにしていたわ! お花も満載でなんてったって騎士団よ! 国民に人気のある騎士団が勢揃い!」


 コンコンコンと扉がノックされた。


「はぁーい」


「皆様がお待ちかねです」

 呼ばれてドレスの裾を託し上げ一人で聖堂へと向かう。普通の貴族令嬢ではまず一人ということがあり得ないがベラは平民。なので不思議に思わず一人で向かった。扉の前へ着き、一人で扉が開ける瞬間を待つ。


 そして扉が開いて、前を向いた瞬間にたくさんの参列者がいることに驚いた。
 ライの正体がライアン第三王子だと聞かされた時には王子様に選ばれたのは侯爵家の令嬢ではなく平民のベラだったことに驚いたけれど、愛のチカラはそれさえも越えるのだと思った。


 正装をして前髪を上げているライアンの姿はいつものラフな様子とは違い、ザ・王子様と言った感じに胸が高鳴った。

 待っててね! ライと心で呟き笑顔を見せた瞬間、祭壇の前に立っているライアンと目があって、驚いた顔をしていた。


 そして参列者からも騒めきが起きたのだ。


 サプライズ成功ね!!



******


「だれだ?」

「リッシュ侯爵令嬢ではなさそうなんだが……」

 ザワザワザワザワ……

 結婚式で騒めきが起きるなんてもっての外。神の前である。


「みなさん静粛に! 花嫁はこちらに」

 異例の司祭からの言葉に一同は静まり返るも動揺は隠せない。そもそも花嫁の家族が参列席には居らず空席であったし、リッシュ侯爵家の傘下の家もよくよく見たら参列していないのだ。


 これはおかしいと誰もが思い、ライアンに注目をしていた。

 ライアンの元へ辿り着くとベラはにこっと笑った。


「なんで……なんでお前がこの場にいるんだ!」

 怒りに震える声でライアンが言った。


「え! なんでって……ライが結婚するって。責任を取るって言ったか、」


「ヴィクトリアはどうした! おい。リッシュ侯爵はどこにいる!」

 ライアンの声が響き渡り、大聖堂内は混乱した。


「結婚式は中止だ! 花嫁がいない結婚式なんて出来るかっ!!」






 ライアンの一言で、参列者は席を立ったのだった。


 






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