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番外編

ナセル

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「今日もダメだった……シャノンに会いたいなぁ」

 はぁっとため息を吐いた。

 あの事件から二年経った。

「また手紙を書こう」

 あの事件からシャノンに会わせてもらえない。侯爵はやんわり断っていると思っているんだろうけど……私に会うたび威嚇するような笑顔を見せる。それがまた怖いんだけど手紙を渡してくれるだけでもありがたい。

 もうじきシャノンの誕生日だ。顔を見ておめでとうと言いたいけれど、侯爵が言うにはまだあの時のことを思い出してうなされている時があると聞いたら、会いに行くこともできない。


 仮にもし会ったとしてもシャノンに拒否されるのが怖い。

 忘れられるのが怖くて手紙を書くしかできないのは情けない。シャノンの笑顔を見たいと思うのは私の我儘なんだろうな。




 侯爵に手を引かれて王宮に来たシャノンに恋をした。

「娘が私の仕事場に一緒に行きたいと言ったので連れてきてしまいました」


「私はナセル・ドゥ・サレットです。君の名前を聞いても良いですか?」

「シャノン・ド・コレットです」

 ちょこんと淑女の礼をするシャノンの可愛さに目を奪われた。


 プラチナブランドの髪にピンクの瞳、陶器のような白い肌に頬は薄いピンク色で、小さな薄い唇がまた可愛さを引き立てていた。

 まるで絵画から出てきた天使そのものだった。 可愛い!!


「挨拶は終わったね! シャノンパパの仕事場に行こうか!」

 侯爵が急いでシャノンを連れて行こうとした時


「おや、侯爵今日は可愛らしいお客さんを連れているんだね」

「……宰相か」

 宰相も娘を連れていた。ルイゼと言って兄と婚約予定だ。宰相の家は公爵家でコレット侯爵と仲がいい。

「私はルイゼって言うの、お名前教えてくださる?」

 ルイゼがシャノンに声を掛けた。女の子同士だからか気軽な感じで挨拶が行われていた。ルイゼは公爵家の娘なのに、気さくなところがあり、兄と性格が合うんだそうだ。


「お父様、シャノン様と一緒に遊びたいの」

「お父様私もルイゼ様とお話ししたいです」


「……行っておいで。ルイゼ嬢と一緒なら文句も言えないね」

 シャノンは侯爵の頬にキスをして手を振った。


「ナセル様も一緒にお話ししましょう? ナセル様といたら美味しいお菓子とお茶が出してもらえるのよ」

 ルイゼがシャノンの手を繋いで言ってきた

「それなら私のサロンに行こう」

 侍従の顔を見ると頷いてくれたので今から用意されることだろう。シャノンと話がしたい。どんな子なんだろう。

「用意に少し時間がかかるだろうから、庭に行かない? 案内するよ」

「良いですね! シャノン様今はバラ園がすごく素敵なんですよ」

「わぁ。バラですか! 楽しみです」

 鈴が鳴るような声というのはシャノンの声の事だったのか……

 バラ園がとても気に入ったようで満面の笑顔を見せてくれた。初めて見るその笑顔がまた可愛かった。お茶の用意が出来たと言うのでサロンへ行った。


 シャノンと呼んでも良いかと聞くと、はい。と言われ私のことも名前で呼んで欲しいと言った。
 一時間ほど話をしたところでルイゼは兄のところへ行く事になり解散となった。

 シャノンを侯爵の執務室まで送る際に

「またおいでよ」

 と言ったら

「はい」って笑顔で答えてくれた。

「約束だよ」

「お父様に連れてきてもらいます。あ、でもお仕事の邪魔になってしまっては困ります」

 うーん。と困った顔をした。侯爵の事が大好きなんだろうな……いいなぁと思った。


「それなら侯爵が仕事中の時は、私と一緒に勉強しない? 一人で勉強するより相手がいた方が楽しく勉強できると思うんだ」

「はい。楽しそうですね」


 シャノンは家で勉強をしているみたいだから王宮で一緒にしたら良いと思った。それにシャノンが一緒に学んでくれるなら捗りそうだ。


 そのことを母に言いに行ったら
「侯爵の娘さんが気に入ったの?」

「はい。一緒に勉強しても良いですか!」

「それは良いけれど、シャノンちゃんは一人っ子よ。お嫁さんにするのは難しいわよ? だってあの侯爵が絶対手離さないもの」


「それなら私が婿入りします! いつかは王家から離れなくてはいけません」

「今日会ったばかりでしょう? ……分かりました。とは言えないわ。侯爵家にも話を通してお互いを知ってからにしなさい」


 母が言う事は尤もなことだ。でも今日会ったばかりの令嬢だけど、シャノンがいい。もっと仲良くなりたい。




「シャノンが来たいと言うので連れてきました……」

 侯爵は渋々と言った感じだけど、またシャノンに会えた。


「シャノン、今日は歴史の勉強をしよう」

「はい。お父様また後で」

 笑顔で手を振るシャノン

「あぁ、行っておいで」


 すっごく睨まれたけど、そんなの気にしない。シャノンといられるのが嬉しいから。手を繋いで教師のところに連れて行った。たまに授業の風景を覗きにくる侯爵の視線が痛いけれど、ちゃんと距離も取っているしやましい事はない。


 授業が終わると二人でお茶会をする。恒例になっていてたまにルイゼもくるけどシャノンが嬉しそうだから嫌な顔はしないでおこう。


 あんな事件さえなければもっともっとシャノンとの時間があったはずなのにと思うと辛くて悲しい。でもシャノンが一番辛いんだろうと思うと今は見守るしかない。何も出来ない事がただただ悔しい。


 後に聞いた話によると侯爵が誘拐未遂事件をほぼ解決をしたようで絶対に怒らせてはいけない、逆らってはいけないと会議に出た人たちが口を揃えて言った。



「ナセル、シャノンちゃんに会うのは数年は無理よ……入学してシャノンちゃんに婚約者がいない事を願うしかないわ」



 神様は私に味方したんだと思った。絶対シャノンと婚約する! 早くシャノンに好きになってもらわないと……






 
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