婚約を破棄され辺境に追いやられたけれど、思っていたより快適です!

さこの

文字の大きさ
39 / 93

迎えが来る

しおりを挟む
 
~アーネスト視点~

「お迎えに参りました! お嬢様」

 ブラック伯爵家から迎えが来た。そしてフェリクス殿下からの手紙を渡された。

 一度礼がしたいので王都へ招待する? アリス嬢の護衛がてら王都に来たらどう?

 と簡単にいうけれど、王都へ行くとなると準備が必要だ。父と母に手紙の内容を伝えたところ“行って来たら良い”と簡単に言われた。王都へ行くとなるとしばらく帰って来ませんよ? と伝える。

 “そりゃそうだ。執務の事は気にするな。たまには王都に行ってこい。陛下も会いたがっていた”と簡単に王都行きが決まった。確かにアリス嬢が無事に王都へ戻れるかは気になるし、何があって今後どうなるかも知りたい……王都に行くか。


 王都行きが決まった事をアリス嬢に言うと、困った顔をしながらも喜んでくれた。

「アーネスト様とはここでお別れだと思っていました。王都に滞在の際にはわたくしが案内しますわ」

 王都には詳しくないし、わざわざ街に出て何かをするという事も今までなかったのだがせっかくだから甘えよう。

「それは楽しみですね。久しぶりに王都の街を楽しむ事にします」


 何年ぶりだろうな。急に王都の屋敷に行ったらみんな驚くだろうし近くの町に着いたら早馬を出そう。

 王都行きが決まったからと今すぐに出発! というわけにはいかないので、準備を始める。父に陛下に会うのなら書類を渡して説明して来てくれ。と言われた。最近の隣国との付き合いや動きについての報告書。

 これは父の仕事のはずだが、ついでと言っちゃついでか。父は一年に数度陛下に報告へ行っている。


 安全なルートで王都へいくとなるとそれなりに時間はかかるが、その分アリス嬢といられる時間が増える。


 ******

 護衛としてアリス嬢を王都に連れて帰ってくるように。とフェリクス殿下からの手紙に書いてあったのだが、なぜ同じ馬車に?!

 我が家の馬車もあるし、馬でアリス嬢の乗る馬車の周りを走っても良いと思っていたのだが……

「行きと帰りでは全く違いますわ。行きはショーンとミリーと三人で潜みながらの行程でしたもの。二人には感謝してもしきれません。一人だったらグレマン領に辿り着いていなかったかもしれません。馬車が脱輪をして山登りもしましたし、露天で食事をしたり今まで知らなかった体験です」


 脱輪で山登り?! 私なら令嬢を歩かせる事はしない! と思いながらその場に私はいなかった。トラブルさえも楽しく語れるアリス嬢はやはり厳しい王子妃教育を受けて来たのだと思った。普通の令嬢ならヒステリーを起こす可能性もありそうだ。

「アリス嬢は追放? された後こうなる事を分かっていたのでしょう?」

 うーん。と悩むアリス嬢。

「そうですね。早く家を出ないと。とは思いました。フランツ殿下に自由がある限りは追手が来ると思っていました。兄と王太子殿下が戻ってくるまで数日ありましたし、戻って来たら何かしらの沙汰はあると思っていました。それに……お義姉様方達も味方ですから、レイラ……殿下の新しい婚約者ですが、王宮で好き勝手出来ないことは分かっていました。悪い子ではないのですが考えなしでしたね。殿下とこのような騒ぎを起こさなくとも穏便にわたくしとの婚約を解消して新たに婚約すればよろしかったのですから。わたくし達の婚約は周りの大人が決めた事でしたが、わたくしはそれに見合う努力をして参りました。レイラがわたくしの代わりを務められるまでは、数年というわけにはいかないと思います。王族との婚姻とは並大抵な事ではありません。自我を捨てることが当たり前の世界です。フランツ殿下はそんな事も分からなかったのかと情けなく思っております。それは皆が思っている事で、罰は受けるべきですわね」

 にこりとアリス嬢が笑った。うちの領地で一緒に過ごしたアリス嬢とは全く違う顔。アリスフィア・ブラック伯爵令嬢の顔といった方がしっくりくる。追放されたアリス嬢ではないのだ。

「ただ婚約破棄を受け入れ、身分剥奪し追放されたわけではなかったのですね?」


「身分剥奪は陛下がお戻りになったら撤回されると思っておりました。婚約破棄は向こうの有責による婚約解消となるでしょうし、追放の件は、急いで出て来てしまったので用意ができなかった事が悔やまれますがわたくしは周りに恵まれていますから、旅行気分で楽しんでしまいました。グレマン家の皆様には本当にお世話になりましたわ。とても学びのある時間を過ごせました」


 優しそうに笑うその顔はどっちの顔なんだろうか。



 
 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。 その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。 頭がお花畑の方々の発言が続きます。 すると、なぜが、私の名前が…… もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。 ついでに、独立宣言もしちゃいました。 主人公、めちゃくちゃ口悪いです。 成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。

見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます

珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。 そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。 そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。 ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。

【完結済】冷血公爵様の家で働くことになりまして~婚約破棄された侯爵令嬢ですが公爵様の侍女として働いています。なぜか溺愛され離してくれません~

北城らんまる
恋愛
**HOTランキング11位入り! ありがとうございます!** 「薄気味悪い魔女め。おまえの悪行をここにて読み上げ、断罪する」  侯爵令嬢であるレティシア・ランドハルスは、ある日、婚約者の男から魔女と断罪され、婚約破棄を言い渡される。父に勘当されたレティシアだったが、それは娘の幸せを考えて、あえてしたことだった。父の手紙に書かれていた住所に向かうと、そこはなんと冷血と知られるルヴォンヒルテ次期公爵のジルクスが一人で住んでいる別荘だった。 「あなたの侍女になります」 「本気か?」    匿ってもらうだけの女になりたくない。  レティシアはルヴォンヒルテ次期公爵の見習い侍女として、第二の人生を歩み始めた。  一方その頃、レティシアを魔女と断罪した元婚約者には、不穏な影が忍び寄っていた。  レティシアが作っていたお守りが、実は元婚約者の身を魔物から守っていたのだ。そんなことも知らない元婚約者には、どんどん不幸なことが起こり始め……。 ※ざまぁ要素あり(主人公が何かをするわけではありません) ※設定はゆるふわ。 ※3万文字で終わります ※全話投稿済です

【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む

綾雅(りょうが)今年は7冊!
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」 婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からなくなっていました。 婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。 ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/01  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2022/02/15  小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位 2022/02/12  完結 2021/11/30  小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位 2021/11/29  アルファポリス HOT2位 2021/12/03  カクヨム 恋愛(週間)6位

【第一章完結】相手を間違えたと言われても困りますわ。返品・交換不可とさせて頂きます

との
恋愛
「結婚おめでとう」 婚約者と義妹に、笑顔で手を振るリディア。 (さて、さっさと逃げ出すわよ) 公爵夫人になりたかったらしい義妹が、代わりに結婚してくれたのはリディアにとっては嬉しい誤算だった。 リディアは自分が立ち上げた商会ごと逃げ出し、新しい商売を立ち上げようと張り切ります。 どこへ行っても何かしらやらかしてしまうリディアのお陰で、秘書のセオ達と侍女のマーサはハラハラしまくり。 結婚を申し込まれても・・ 「困った事になったわね。在地剰余の話、しにくくなっちゃった」 「「はあ? そこ?」」 ーーーーーー 設定かなりゆるゆる? 第一章完結

【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない

かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、 それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。 しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、 結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。 3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか? 聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか? そもそも、なぜ死に戻ることになったのか? そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか… 色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、 そんなエレナの逆転勝利物語。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。 落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。 毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。 様子がおかしい青年に気づく。 ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。 ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 最終話まで予約投稿済です。 次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。 ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。 楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

処理中です...