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迎えが来る
しおりを挟む~アーネスト視点~
「お迎えに参りました! お嬢様」
ブラック伯爵家から迎えが来た。そしてフェリクス殿下からの手紙を渡された。
一度礼がしたいので王都へ招待する? アリス嬢の護衛がてら王都に来たらどう?
と簡単にいうけれど、王都へ行くとなると準備が必要だ。父と母に手紙の内容を伝えたところ“行って来たら良い”と簡単に言われた。王都へ行くとなるとしばらく帰って来ませんよ? と伝える。
“そりゃそうだ。執務の事は気にするな。たまには王都に行ってこい。陛下も会いたがっていた”と簡単に王都行きが決まった。確かにアリス嬢が無事に王都へ戻れるかは気になるし、何があって今後どうなるかも知りたい……王都に行くか。
王都行きが決まった事をアリス嬢に言うと、困った顔をしながらも喜んでくれた。
「アーネスト様とはここでお別れだと思っていました。王都に滞在の際にはわたくしが案内しますわ」
王都には詳しくないし、わざわざ街に出て何かをするという事も今までなかったのだがせっかくだから甘えよう。
「それは楽しみですね。久しぶりに王都の街を楽しむ事にします」
何年ぶりだろうな。急に王都の屋敷に行ったらみんな驚くだろうし近くの町に着いたら早馬を出そう。
王都行きが決まったからと今すぐに出発! というわけにはいかないので、準備を始める。父に陛下に会うのなら書類を渡して説明して来てくれ。と言われた。最近の隣国との付き合いや動きについての報告書。
これは父の仕事のはずだが、ついでと言っちゃついでか。父は一年に数度陛下に報告へ行っている。
安全なルートで王都へいくとなるとそれなりに時間はかかるが、その分アリス嬢といられる時間が増える。
******
護衛としてアリス嬢を王都に連れて帰ってくるように。とフェリクス殿下からの手紙に書いてあったのだが、なぜ同じ馬車に?!
我が家の馬車もあるし、馬でアリス嬢の乗る馬車の周りを走っても良いと思っていたのだが……
「行きと帰りでは全く違いますわ。行きはショーンとミリーと三人で潜みながらの行程でしたもの。二人には感謝してもしきれません。一人だったらグレマン領に辿り着いていなかったかもしれません。馬車が脱輪をして山登りもしましたし、露天で食事をしたり今まで知らなかった体験です」
脱輪で山登り?! 私なら令嬢を歩かせる事はしない! と思いながらその場に私はいなかった。トラブルさえも楽しく語れるアリス嬢はやはり厳しい王子妃教育を受けて来たのだと思った。普通の令嬢ならヒステリーを起こす可能性もありそうだ。
「アリス嬢は追放? された後こうなる事を分かっていたのでしょう?」
うーん。と悩むアリス嬢。
「そうですね。早く家を出ないと。とは思いました。フランツ殿下に自由がある限りは追手が来ると思っていました。兄と王太子殿下が戻ってくるまで数日ありましたし、戻って来たら何かしらの沙汰はあると思っていました。それに……お義姉様方達も味方ですから、レイラ……殿下の新しい婚約者ですが、王宮で好き勝手出来ないことは分かっていました。悪い子ではないのですが考えなしでしたね。殿下とこのような騒ぎを起こさなくとも穏便にわたくしとの婚約を解消して新たに婚約すればよろしかったのですから。わたくし達の婚約は周りの大人が決めた事でしたが、わたくしはそれに見合う努力をして参りました。レイラがわたくしの代わりを務められるまでは、数年というわけにはいかないと思います。王族との婚姻とは並大抵な事ではありません。自我を捨てることが当たり前の世界です。フランツ殿下はそんな事も分からなかったのかと情けなく思っております。それは皆が思っている事で、罰は受けるべきですわね」
にこりとアリス嬢が笑った。うちの領地で一緒に過ごしたアリス嬢とは全く違う顔。アリスフィア・ブラック伯爵令嬢の顔といった方がしっくりくる。追放されたアリス嬢ではないのだ。
「ただ婚約破棄を受け入れ、身分剥奪し追放されたわけではなかったのですね?」
「身分剥奪は陛下がお戻りになったら撤回されると思っておりました。婚約破棄は向こうの有責による婚約解消となるでしょうし、追放の件は、急いで出て来てしまったので用意ができなかった事が悔やまれますがわたくしは周りに恵まれていますから、旅行気分で楽しんでしまいました。グレマン家の皆様には本当にお世話になりましたわ。とても学びのある時間を過ごせました」
優しそうに笑うその顔はどっちの顔なんだろうか。
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