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街へ出る
しおりを挟む「王都では見たことのない物が多いですね」
今日はグレマン領を案内していた。
「隣国に近いので、珍しい物もあります。何か気になったものはありますか?」
「まだ蕾なのですがこのお花の葉っぱが変わっていますね」
あぁ、確かこの花は……
「この花は毎年同じ日に開花するんです。この花が咲いたらもう一年が経ったのか。と思うのです。そろそろ咲く頃ですよ」
「……私は見られないかもしれませんね」
別れの日が近づいている。あの時のあの令嬢がこんなに立派になって……この花を屋敷に届けさせよう。鉢植えだから開花に間に合わなければ、帰りに渡せば良い。そして毎年この花が咲く頃にグレマン領で過ごしたことを思い出して欲しいと思った。
令嬢が喜ぶような宝石やドレスをプレゼントすることは叶わないがせめてこの花だけでも。
町を歩いていると露店が多く立ち並ぶエリアがある。アリス嬢は物珍しそうに見ていた。
「あの雲のようなものはなんですか?!」
わたあめという甘い食べ物だった。
「わたあめですね。わたのようにふわふわとしているのでそういう名前なんだそうで砂糖を使っている甘い食べ物です。ザラメ糖は熱を加えると溶けます。そして冷えると固まります。高速回転させると糸状になるという性質を利用しているお菓子です。クララとジェシーが好きでよくねだられますよ」
説明をして店主に一つ作ってもらった。この菓子は機械さえあればコストパフォーマンスに優れている。ザラメ糖と棒があれば完成する。見た目は令嬢や子供にウケはいいだろうし、口に入った瞬間溶けてなくなる。そしてふわふわしていて大きく見えるが実際はほぼ空気。考えた人は天才だな。科学の世界だ。
「アリス嬢、どうぞ」
「ありがとうございます」
早速手でちぎりわたあめを口に入れるアリス嬢。
「んんっ。甘いです! 溶けてなくなります」
アリス嬢について来た侍女にも食べさせていた。良い関係なんだろうな。楽しそうだ。
「あれはなんですか?」
「カステラです。丸い型に生地を流し入れて一気に焼き上げます。ハチミツが入っているので優しい味がしますよ」
店主に一袋頼みそれを手渡した。コレもコストパフォーマンスが良いだろうな。
「今はあつあつですから気をつけて下さいね。このカステラは冷めても美味しいのですよ。熱い時はふわふわで柔らかいですし冷めるとしっとりしてどっちも楽しめます」
「ふふっ。美味しいですね」
王都の貴族令嬢で王子の婚約者として教育されていたのに飾っていない様子がとても可愛いと思った。こうやってみると年相応の令嬢だ。
「あれはなんですか?」
「あれはカキ氷といって天然の氷を専用機械で細かく裁断し、シロップをかけたものです。今日のように熱い日にはもってこいですね。アリス嬢あそこのパラソルがあるテーブルで待っていて下さい。今お持ちします」
今日の町歩きに付き添ってくれている護衛を含め皆の分を買い食べることにした。カラフルなシロップに釘付けになるアリス嬢も可愛らしい。
「このピンク色は何味ですか?」
「それはいちご味です。人気ですよ。手作りシロップで果肉も入っているそうです」
「美味しそう」
「お好きな物を選んでください。早くしないと溶けてしまいますよ」
アリス嬢が選んだ所でそれぞれ好きなものを手に取った。
「青空の下でこうやって皆さんとテーブルを囲めて嬉しいです。こんな体験初めてです」
よかった。喜んでくれた。私にとって大したことじゃなくてもアリス嬢には新鮮に映るのだな。王都での暮らしでは外で使用人と共にテーブルを囲むなんて人の目があり出来やしないだろう。
ついでに数種類食べやすそうなものを買って来てみんなでシェアして食べることにした。白身魚をフライにしたもの。ポテトフライ、海鮮焼き、焼き鳥などだ。アリス嬢は苦戦しながら食べていたが、美味しい。と笑顔だった。露天のものを上品に食べる姿は領民の目に新しく映っただろう。
アリス嬢は迷子になった子供に声を掛けていた。外国語を話す子供達だったけれど、流暢に会話をして親を見つけていた。何度も感謝をされていたけれど、侍女と執事にまた勝手に! と怒られていたし怒られ慣れて? いる様にも見えた。
次の日はボートに乗った。
「水面がキラキラしてキレイ。私も漕げますか?」
「漕いでみたいのですか? 令嬢の力では大変かもしれませんが、すこしなら」
オールを渡した。本来なら令嬢が漕ぐものではないけれど漕ぎたいと言うのならやらせてみようと思った。
「ふぅ、中々難しいですね……アーネスト様が漕いでいると簡単そうに見えたのに」
ふぅふぅ。と息をするアリス嬢。
「力加減が大事なのですよ。右が強ければ右にボートが回ってしまいます。貸して下さい」
オールを返してもらいすいすいと流れに沿って漕いで行く。下流に着いた頃合いでボートから降りた。今日のお昼はピクニックスタイルで摂る事にした。
下流には花畑があり花が咲き乱れていた。
「キレイなところですね」
「気に入って頂けましたか? 王都とは違い華やかな場所ではありません。自然が豊かなところが自慢ですよ」
隣国とごたついている時はこうやってのんびりピクニックなどしている暇はない。自然が豊かだと言いながら、火を放たれ火の海になった事もあった。
「王都が華やかでないと他国に軽くみられてしまいます。王都に人が集まるのは悪いこととは思えませんが、こうやってのんびりする事をすっかり忘れていたので、こちらに来られて良かったです。アーネスト様には感謝しかありませんわ。見ず知らずの者を客人として招いてくださり沢山のことを教えてもらいました」
もうすぐアリス嬢はいなくなるのだな。
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