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自由は不自由
しおりを挟む~フランツ視点~
レイラはブラック家から見切られたので私が面倒を見ることになった。私も王宮内ではなく離れた場所に移動させられた。
あれから父や母、兄上達や義姉上達と顔をあわせていない。執務も王宮内の執務室ではなく離れに運ばれてくる。王宮の執務室は居心地が良かったが今は雑然とした部屋で執務は捗らないし手伝ってくれる者もいない。
ヘルプが欲しい。と意見を言うと自分でスカウトをする様に言われた。今まで手伝ってくれた者は……と聞くと皆私から離れてしまい他の誰かにスカウトされ仕事をしていると聞いた。兄上達だ! そうに違いないと抗議をすると、もしそうであっても私と仕事をしたいと思うのならついていく筈だと答えが返ってきた。そうしたくないから私から離れる事を決めたのか……
“この主人ならついていきたいと思うのなら、自分の事など気にせず守ってくれるだろう? アリスの侍女や執事は当主に許しを得ずとも行動に移した。人格者は違うな”
兄上からの返答……
仕方がない。落ち着いたら学園で優秀な者をスカウトするか……
それよりも問題なのはアリスの行方が分かっていない事だ。クレマンへ行かせた部下達からは連絡がない。あいつら帰ってきたらどうしてやろうか……
そんなことがあり離宮生活は人が少ない。食事は運ばれるし掃除、洗濯も行き届いているのだが……
「お茶はこれからレイラ嬢に淹れてもらってください」
メイドに言われ驚いた。
「は? お茶を淹れるのは君達の仕事だろう? 怠慢か? そんな下働きの様な事を、」
っと待てよ!
「いや、口が滑った。そうだな。お茶はレイラに淹れてもらうことにする」
やばい! 母や義姉上達は自ら茶を淹れていた! お茶がうまく淹れられないと母達のお茶会に参加できない! それは可哀想だ! 今のうちに練習をさせよう。
「いつでもお茶を淹れられる様、準備しておきます。後はよろしくお願いします。失礼します」
王宮御用達の茶葉。グレマン領の特産で芳醇な香りは母のお気に入りの一つだ。レイラはアリスが茶を淹れたら使用人みたいだと言った。普段お茶はメイドが淹れる。お茶会があり機会があれば淹れるといった感じだし家族とのお茶の時間にも淹れたりする。レイラはお茶会に参加をしていたのだからアリスの姿を見ている筈だし、淹れる事は出来るよな? 王宮の茶会に出る様な夫人や令嬢達の間では嗜みの一つ。
「あぁ、分かった」
メイドは頭を下げ部屋から出ていった。ん? 窓の外を見ると外へ出ていってしまった。昼食でも取りに行くのだろうか……離宮付きの使用人がただでさえ少ないのに。
昼前になりレイラが文句を言いながら執務室へ入ってきた。ノックを忘れるほどに話たい事があるのだろう。しかしノックをしないと人の目が……と思いながらガッカリする。使用人が少ないのだから誰の目にも入らず怒られることもないのだ。
内容は教師が厳しいとかそんな話だろう。教師の給料は私の私財から出している。幼い時にアリスを教えていた教師でもあり厳しいところはあるが褒めるところは褒める。だからそこは我慢して欲しい。無理を言って来てもらっているのだから。
「あの先生ったら分からないっていっているのに、努力不足とか復習不足とか挙句に予習しろと言うのよ! ちょっと言い方を間違えただけで大きなため息を吐くの! 失礼よね! あの先生王族に教えているって自覚はあるのかしら?!」
王族か……レイラはすぐに王族と口にするがレイラ自体は王族ではない。そしてアリスとの婚約が解消となり新たにレイラを指名したが、レイラは現在……
「頭にきちゃうわ! それよりお茶でも飲まない? 喉が渇いたわ」
それだけ一気に思いを吐き出したら喉も乾くだろうな。レイラが部屋のベルを手に取り鳴らそうとした。首を振りレイラを止めた。
「レイラがお茶を淹れてくれるか? 今後の茶会に必要だから練習していこう」
「お茶を? 使用人にやらせれば良いじゃない」
むすっとするレイラ。
「知っていると思うが王侯貴族として茶を淹れるのは嗜みとされる。私の母である王妃も茶を淹れる。レイラもお茶会で令嬢達がお茶を淹れる姿を見た事があると思うのだが」
アリスにいろんな家へ連れて行かれていたのだろう? 男爵家と伯爵家ではお茶会のレベルも違うだろうし人脈も繋ぐことが出来たはずだ。
「……そうね、これからお茶会を開催することもあるだろうし、道具はどこにあるの?」
給湯室を指差す。水は用意されている様だって、水? 湯を沸かせというのか! た、確かこのあたりを捻るとガスが出てマッチで火を……
「あっ、ちっ!」
チリチリと何か焦げた匂いが……なんと! 前髪が焦げてしまったではないか! パンパンとおでこを叩く。
お湯を沸かしたままにして、鏡の前へ急ぐ。
「……最悪だっ! なんだこの髪は! 前髪の一部が焦げてチリチリに……」
「フランツーどうしたの?」
扉の外でレイラの声が聞こえた。仕方がないチリついた前髪をハサミで切り、おでこが出るようにワックスで抑えた。
「すまない。せっかくレイラが茶を淹れてくれるのだから身なりを整えようと思ってさ……」
前髪が焦げたとは言いにくい。こんなダサい姿レイラには見せられん。
「お湯沸いた?」
「お湯……そうだった!」
急足で給湯室へ。ぷしゅーぷしゅーと音がなっている。沸いてるな! すぐに火を止めた。あっつ! 火傷するかと思ったぞ! これ以上は勘弁だ。
「あ、沸いてるのね。それじゃあお茶を淹れて行くから待ってて」
すんなりとレイラが言うものだからその場を任せたのだった……
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