51 / 75
セイラのクッキー
しおりを挟む「うちから書類を届けてもらいました」
殿下にお伝えすると
「すまない。よく調べておいてくれたな、助かったよ」
申し訳なさそうに殿下に言われたが、いつ言われても良いように、用意をしておいた。それに気になる事案だったから。
書類をセイラが届けてくれたのはとても嬉しかった。少しでもセイラの顔を見るだけでもやる気がでる。大方母上の采配だろう。
「なんだ、その可愛い包みは?」
セイラの持ってきた菓子だった
「私の婚約者が先ほど書類を届けに来た際に、差し入れにと言って渡してくれました」
「そうだったな。ウィルベルトには婚約者がいるんだったな。ルフォール子爵の娘さんだったか? ユベールの妹?」
「えぇ、そうです、ご存知ですか?」
「ユベールは同級生だから知っている。妹君とは会ったことはないが、ユベールの妹君と言うことは真面目な子なんだろうね」
そうか、年齢で言うとユベール殿と殿下は同級生だった
「若者にも婚約者がいるんです。殿下もそろそろ考えてくださいよ」
殿下の秘書の一人が言った
「私もまだ若いんだが……」
そう言いながら書類に目を通す殿下が
「そういえばさっき書類を拾ってくれた子の名前を聞くのを忘れた、おまえが急かすから……!」
「あぁ、急いでましたから……。見かけないお嬢さんでしたね。案内のメイドに聞いておきますよ、特徴を教えてください」
「可愛らしい子だった……優しく、真面目そうな……」
「……短い間でどこでそう思うタイミングがあったのですか?」
呆れるように秘書官が言った。
「書類が、落ちた時に拾うのを手伝って貰った。その時に書類の中身を見たとは思えないのだが他言無用と言ったら、約束をすると言ってくれた。その言葉に嘘はなさそうだったな。丁寧に書類を揃えて渡してくれた」
「へー。それはどこのお嬢さんだったか知りたいですね。そのほか特徴は?」
……嫌な予感がした。無理してでも送っていけば良かったのかもしれない
「色素の薄いブラウンの髪色だった。目が大きくて、リボンの髪飾りを付けていたな」
セイラだ……! なんてことだ……! 私の婚約者という事を早く言った方がいいかもしれない。殿下に興味を持たれてしまっては困る
「申し訳ありません……その子の特徴を聞く限り……私の婚約者かもしれません」
背中に冷たいものが伝った……
「そうなのか? それでは礼をさせてもらいたいのだが、一度会わせてくれくれるか?」
「……はい、伝えておきます」
なんだろう……嫌なんだけど、断れない
「ユベールにも久しぶりに会いたいと伝えてくれ」
「……はい、そのように」
******
まずは家に帰り、セイラに書類を届けてくれた事に対しての礼と差し入れのクッキーが美味しかったという話をした。
「新作です。気に入ってくだったようですね」
はにかむ笑顔で答えるセイラは可愛い。せっかく婚約出来たのに、なんでこんな思いをしなくてはいけないんだろうか……
セイラはそもそも身分などで人を見ない。殿下の身分に擦り寄るタイプではない。私はセイラを愛しているし、セイラもそれに答えてくれる。
王宮で殿下がお礼をしたいと言う事を告げた。
ユベール殿にも挨拶へ行く
「何をしているんだ、セイラは! 殿下の目に止まったのか?」
「分かりませんが、なんだか嫌な予感がしてどっと疲れが襲ってきました」
セイラと別れた後、ある事について、秘書官と殿下と三人で書類と格闘し、話し合いの末今後の方針が決まった。
頭が疲れたのでティータイムをしようと執務室で茶を飲んでいたら、セイラの渡してくれた包みが気になり、目をやると秘書官に婚約者殿からの差し入れですか? と言われ
『えぇ。』
とだけ答えたのに、何故かお茶請けとして出させられた……婚約者の手作りで、何が入っているか分からない。殿下の口には入れれません。と断ったんだ! なのに……
「「うまい……」」
殿下も秘書官も気に入ったようだった……たしかにうまかった。食べたことのないほろほろ食感に塩を使った甘すぎないクッキー、なぜ今セイラの新作を秘書官と殿下と口にしているのか……
『婚約者殿がこのクッキーを。大したもんだね』
もう一枚……とセイラのクッキーを次々口にする二人
うまいのだが、二度とこんな思いをしながら口にしたくないと思った。
「そういうわけで、来週セイラと時間を作って王宮に来ていただきたいのです」
頭を下げた……
「面倒くさいが仕方がない。行こうではないか」
「お願いします、私もその時は付き添いますので……」
「面倒事になるのは避けたい! とっとと話をつけるぞ。セイラの婚約者はウィルベルト殿だろ? しっかりしてくれよ」
ユベール殿に睨まれ喝を入れられた。そうだ、しっかりしないと……。セイラの顔を見てから帰ろう
「お疲れなのに送ってくださってありがとうございます。今日はお仕事の姿も見れたので嬉しかったです」
セイラが帰る前にお茶を淹れてくれた
「セイラの顔を見ると疲れも吹っ飛ぶよ」
「……またそんな事を」
真っ赤に顔が染まるセイラが可愛い、疲れが吹っ飛ぶというのは本当の事だった
「最近会う時間が少なくて寂しい。もっと一緒に居たいよ」
セイラの手に触れた
「はい。私も……」
最近セイラは素直に答えてくれるようになった。心配させてはいけない……
何気ない話をしながらセイラと過ごす時間は穏やかで癒される。
「今度の休みはゆっくりしよう」
セイラの頬にキスをしたら驚いていたけど、ずっと我慢していた。柔らかい頬にキスをする事を……
こくんと頷くセイラ、拒否されなくて良かった。
35
あなたにおすすめの小説
聖女は友人に任せて、出戻りの私は新しい生活を始めます
あみにあ
恋愛
私の婚約者は第二王子のクリストファー。
腐れ縁で恋愛感情なんてないのに、両親に勝手に決められたの。
お互い納得できなくて、婚約破棄できる方法を探してた。
うんうんと頭を悩ませた結果、
この世界に稀にやってくる異世界の聖女を呼び出す事だった。
聖女がやってくるのは不定期で、こちらから召喚させた例はない。
だけど私は婚約が決まったあの日から探し続けてようやく見つけた。
早速呼び出してみようと聖堂へいったら、なんと私が異世界へ生まれ変わってしまったのだった。
表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
―――――――――――――――――――――――――
※以前投稿しておりました[聖女の私と異世界の聖女様]の連載版となります。
※連載版を投稿するにあたり、アルファポリス様の規約に従い、短編は削除しておりますのでご了承下さい。
※基本21時更新(50話完結)
理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました
ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。
このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。
そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。
ーーーー
若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。
作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。
完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。
第一章 無計画な婚約破棄
第二章 無計画な白い結婚
第三章 無計画な告白
第四章 無計画なプロポーズ
第五章 無計画な真実の愛
エピローグ
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
奪われる人生とはお別れします 婚約破棄の後は幸せな日々が待っていました
水空 葵
恋愛
婚約者だった王太子殿下は、最近聖女様にかかりっきりで私には見向きもしない。
それなのに妃教育と称して仕事を押し付けてくる。
しまいには建国パーティーの時に婚約解消を突き付けられてしまった。
王太子殿下、それから私の両親。今まで尽くしてきたのに、裏切るなんて許せません。
でも、これ以上奪われるのは嫌なので、さっさとお別れしましょう。
◇2024/2/5 HOTランキング1位に掲載されました。
◇第17回 恋愛小説大賞で6位&奨励賞を頂きました。
◇レジーナブックスより書籍発売中です!
本当にありがとうございます!
私だってあなたなんて願い下げです!これからの人生は好きに生きます
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のジャンヌは、4年もの間ずっと婚約者で侯爵令息のシャーロンに冷遇されてきた。
オレンジ色の髪に吊り上がった真っ赤な瞳のせいで、一見怖そうに見えるジャンヌに対し、この国で3本の指に入るほどの美青年、シャーロン。美しいシャーロンを、令嬢たちが放っておく訳もなく、常に令嬢に囲まれて楽しそうに過ごしているシャーロンを、ただ見つめる事しか出来ないジャンヌ。
それでも4年前、助けてもらった恩を感じていたジャンヌは、シャーロンを想い続けていたのだが…
ある日いつもの様に辛辣な言葉が並ぶ手紙が届いたのだが、その中にはシャーロンが令嬢たちと口づけをしたり抱き合っている写真が入っていたのだ。それもどの写真も、別の令嬢だ。
自分の事を嫌っている事は気が付いていた。他の令嬢たちと仲が良いのも知っていた。でも、まさかこんな不貞を働いているだなんて、気持ち悪い。
正気を取り戻したジャンヌは、この写真を証拠にシャーロンと婚約破棄をする事を決意。婚約破棄出来た暁には、大好きだった騎士団に戻ろう、そう決めたのだった。
そして両親からも婚約破棄に同意してもらい、シャーロンの家へと向かったのだが…
※カクヨム、なろうでも投稿しています。
よろしくお願いします。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました
あおくん
恋愛
父が決めた結婚。
顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。
これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。
だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。
政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。
どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。
※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。
最後はハッピーエンドで終えます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる