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番外編

アレをどうするか考えた

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 朝起きてフランチェスカと朝食を取る。

「ウィル様? 今日はゆっくりなの?」

 いつもは朝食を取ってからすぐに仕事へ向かうが、アレの事について協議をしなくてはならない。

「昨日トラブルがあったと言ったよね? そのことについてレナートと協議するんだ。それが終わったら出ようと思っている。そうだ、レナートが来るまで少しだけ庭を散歩しようか?」

 忙しくて最近は、朝からゆっくりする事は出来ないのだが、早く帰るようにはしている。せめて晩餐は一緒にとりたい。

「ウィル様と散歩なんて久しぶりね」

 立ち上がりフランチェスカを迎えに行くと、笑顔で腕を組んできた。

「忙しくてごめん。朝はすぐに出かけてしまうからこんな時間を過ごすのは久しぶりだね」

「ウィル様は真面目だから頑張りすぎだと思う。それに過保護すぎるでしょう? 妊娠は病気じゃないから仕事はそろそろ再開するからね!」


 フランチェスカの書類仕事を取り上げている状態で不満が出ているようだ。安定期というものが訪れるまで仕事はしないで欲しいとお願いしていた。

 フランチェスカは悪阻が酷くて一時は青白い顔をしていた。妊娠とは大変なものなんだとつくづく思った。しかし大人しくしているのも性に合わないようで編み物を始めた。もちろん反対はしない。


「……分かった。できる範囲で少しだけなら……フランは頑張りすぎるところがあるから心配なんだ」


 これからまた腹が大きくなると医師が言う。それに出産は命懸けだと聞く。もしフランの身に何かあったらと思うと心配で仕方がない。けれど邸の使用人は皆優秀だ。私なんかより頼りになるだろう。

 フランチェスカは優秀だから執務も難なくこなすことができる。無理のない程度にしてもらおう。




「ウィリアム様、奥様おはようございます」

 レナートが呼びにきたようだ。もうそんな時間か……残念だ。

 因みにレナートはフランチェスカの事を奥様と呼ぶ。そう呼ぶように言ったのは私だ。いくら知り合いでもフランチェスカの名前は尊いものであり、私以外の男に呼ばれたくない。


「レナート様おはようございます」

「おはよう。もうそんな時間か……少しだけだったけどフランと過ごせて良かった、行ってくる」

「うん、行ってらっしゃい」

 笑顔のフランにキスをしてレナートと執務室へと向かった。



「相変わらず仲がよろしいようで、何よりですね」

「あぁ。レナートもじきに、分かるさ。結婚式は来月だろう? しっかり休暇を取らせるつもりだからちゃんと休めよ」


 レナートはうちで働くようになり、メイドをしているサリと言う子爵家の娘と仲良くなり婚約をした。
 子爵家と言っても私も持っている領地なしの名前だけと言った感じらしい。仕事をしないと食ってはいけないが貴族としての生活は出来るからそう言う貴族も中には結構いたりする。

 レナートは婿養子に入ることになり子爵の名前は受け継ぐが、このまま侯爵家で働いてもらうことになっている。サリもメイドの仕事を続けるそうだ。

 執務室に入り本題へと入る。

「アレの様子は?」

「まだ寝ています。随分疲れている様子です」


「そうか。取り敢えず、起きるまで待ってそれから食事を取らせ風呂に入らせるか。使用人の手を煩わせたくないから自分でやらせてくれ」

「はい、その後はどうしますか?」



「邸の中をうろつかれたりでもされたら困る。絶対にフランに近づかせるな! なるべく早く帰って来るようにするから私が帰ってくるまで見張りを頼む。エリックから返事が来たから今から会いに行ってくる。何かあったらすぐに連絡を入れて欲しい」

 フランチェスカに助けを求めてきたのは気に入らないが、捨てておくわけにはいかない。家の前で野垂れ死されても困る。

「はい、そのように」

「レナートはアレを見ていてくれ。部屋からは出さないように。フランに近づこうものならそのまま捕らえてもいい。地下牢にぶち込んでも誰も文句は言わない」

「はい、そのように」

 レナートは何とも言えない顔をした。元側近としてアレの性格をよく知っているだろう。

「レナートが直接アレの相手をする必要はない。アレはレナートやダニエルの顔を見ると、偉そうな態度を取りそうだ。アレは客人ではない。己の置かれている状況を解らせるためにも厳しく接しなくてはいけない。それが出来ないのならむやみにアレと接触するな」

「はい。ウィリアム様のおっしゃる通りです。奥様には接近させないようにします。しかし……アレは私が相手をします」

「そうか、レナートを信用しているから任せた。頼む」

「はい。行ってらっしゃいませ」


******


「ウィル! 迷惑をかけてすまん」

 エリックは私の顔を見るなり頭を下げてきた。

「昨日は驚いたよ、帰るなり薄汚れた男が妻に会わせろと警備と揉めていた。容姿が変わっていて初めは誰だかわからなかった。少しは苦労したようだ」

 その後のことはなんとなく聞いている。噂にもなる。結局ミルカ侯爵令嬢はアレの元を離れた。結婚をする前だったからまだ侯爵令嬢のままだ。


「アレは今どうしている?」

「疲れが溜まっているようで意識を手放して眠ってしまった。客人ではないから使用人の部屋に寝かせている。レナートに後を頼んできたから大丈夫だろう」

「レナートか……複雑だろうな。本来ならアレが侯爵家を、」

 ジロリとエリックに殺気を向ける。それ以上言ったらいくらエリックでも許さない。

「わ、悪い、その殺気をしまってくれ。夫人はどうだ? 身重だろう、アレに会わせる気は、」
「ない! 今が大事な時期なんだ。アレに会わせたらストレスになるだろう」

「そうだな。アレは甘い人間だから王宮に帰ってこれると思ったんだろう。夫人に助けを求めたのは夫人は優しいから、」

 ジロリとエリックに殺気を向ける。

「妻が優しいからアレを許してどうするんだ? それは優しさか? あ?」

「違っ! 悪い、そうじゃなくて。夫人の問題ではなくて、アレが甘い人間だから……」

 
 フランチェスカがアレを許して邸に招き入れると言うのか? 絶対に嫌だ! 無言でエリックを睨みつける。友人だから許される行為だろう。元第二王子で現公爵のエリックだ。不敬罪と言われればそれまでだが、そんな事どうでも良い!

「アレの事はどうする? 陛下や王妃様はご存じなのか?」

「伝えたよ。父も母も失望している。迷惑をかけているのを心苦しく思っているようだ」

 アレの事をどうすればいいのか言ってくれ。放っておけば楽だ。しかしこのまま追い出して野垂れ死されると後味が悪い。もし仮にこの事をフランチェスカが知ったらそれこそ私が失望されてしまう。

 いっそのこと騎士団にでも見習いからさせて心身共に鍛えるのが良いんじゃないのか……王宮騎士団の副団長はエリック、身内がいると甘えてしまうだろう。


「仕事……させるか?」

 アレに職を与えて自立させるのが一番かもしれない。

「アレにさせる仕事なんてあるか?」

「ロレンツィ侯爵家の領地に義両親がいるんだ。ロレンツィ家と言えば?」

「鉱山? だな。そうか。良いのか?」

「アレを放り出しても生活ができない。多方面に迷惑をかけるのは王家の恥にもなるだろう? 真面目に働き運よく大きなダイヤモンドを当てれば生活は出来るだろう。でも何か問題があれば遠慮なく捕らえる。甘やかす事はしない。だからコレは……王家に貸しにしておく」


 ニヤリと笑う。コレから何かあれば遠慮なくコネを使わせてもらおう。我ながら悪くない考えだ。これから新侯爵家を繁栄させる為には取引も必要だ。

「分かった。私から両親と兄に言っておく。侯爵にもよろしく頼むと伝えてくれ」

「あぁ、そのかわり何かあったら遠慮はしないし、甘やかすこともしない。相手はもと王子とは言え自業自得で平民になった男だからな」


 自ら話す事はないが、フランチェスカに知られてもやましいことのないようにしておこう。
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