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タウンハウス
しおりを挟む~ジェラール視点~
ふぅっ。なんとかアナベルをやり込めた!
女は黙って男の言うことさえ聞いていれば可愛げがあるのに、アナベルは何かと口うるさい。
まるで俺の両親や兄みたいだ。
勉強さえ出来て成績が優秀なら何にも言わないと思っていたのにな……。
だからこうして格上の侯爵家の跡取り娘と婚約が出来たわけだけど……。
父上が執務を覚えるためにもクレマン侯爵家に住み込みで覚えてこい! とまるで追い出すように家を出されてしまった。
兄が婚約者とめでたく結婚式を迎え、俺の実家でもあるドロン伯爵家に住む事になったから邪魔になったのだろうか。
こうしてクレマン家にお試しで住み込みを始めたのだが……おいおい……この書類はなんなんだよ。多すぎやしないか?
これをアナベルは学園から帰った後もこなしていると言うのか?
一枚取って目を通す。
『ジェラール様、そちらの書類は計算が正しいかご確認の上サインをお願いしますわね』
計算もするのか? 一枚一枚? 日が暮れる作業だ。
『そちらの書類は不正の事実があるかないかと言う重要なものですので、役所に行って確認を』
しかも現地に行って見てくるのだと言う。
『人を使えば良いのではないか? アナベルが確認に行く必要があるのか?』
帰ってきた答えは、現地に行った方が早く処理できるのだと言う。
だから俺はアナベルと同等の執務をこなす事はない。補佐的要素で十分だ。気楽な婿だからな、好きにさせてもらう。
勉強ができても社会に出ると通用しないことがある。と聞いたことがある。
俺は勉強はできる! だがどうやら領地経営となると、それは関係ないのだ。
先見の明、これがない事にはどうにもならないのだ。
アナベルのようにコツコツ……と幼い頃から領地経営について学んできた者とは違うのだから。
そのアナベルは今日から領地へ行っている。俺も誘われたが行かなかった。俺にはすることがあるから。
「ジェラール、少し良い?」
俺のことをジェラールと呼ぶのは幼馴染のクララだ。家が近くてよく顔を合わせていた。
茶色い肩までの髪の毛に同じく茶色の瞳、小柄な体型で少し病弱な女の子だ。
行儀見習いのためドロン伯爵家に来たのがクララがまだ十歳の頃だった。
昔は健康的でよく笑う女の子だったが、年齢を重ねていくうちに色が白くなり、か細くなった。
「あぁ。良いよ、さぁ行こうか」
「うん。ごめんね私の為に」
「気にするな、当たり前だろう」
向かった先は使用人が住む住居棟だった。
「空いている個室はないのか?」
仕事をしていたメイド長に確かめる
「はい。個室は空いておりません」
「もっと日当たりのいい部屋はないか? そこを空けて一人部屋に変えることは?」
「なりません。それではその他の使用人に示しがつきません。使用人の事は執事長とわたくしに権限がございます。ドロン伯爵家の使用人でもこちらに従事すると言う事は、わたくしどもと働くと言う事、何か問題がございましたらお嬢様にご相談くださいませ」
きっちりと腰から頭を九十度の姿勢で下げて見せるメイド長……。
さすが侯爵家のメイド長。一筋縄では行かない。
「分かった! それではクララは一旦使用人をやめ、俺が招いたゲストとして扱うことにする」
「……何をおっしゃっておいでで?」
メイド長の顔が強張る
「ゲストムールに滞在させることにする。行くぞクララ!」
「はい」
クララと共に使用人の住居棟から出た。
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