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さすが王宮図書館です

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 それから学園で殿下に会うたびに声をかけられるようになりました。


「リュシエンヌおはよう。良い天気だね」

「おはようございます。本当にいいお天気ですわね」

 一緒にいた親友セシリーは驚いていましたわ。急に殿下に声をかけられたのですから……頭を下げて挨拶をしていました。


「リュシエンヌの友達? ここは学園だから畏まらなくて良いんだよ? 急に声をかけて悪かったね。ところで次に王宮図書室に来る予定はある?」

「週末に行きたいと思っています」

「そうか! 良かったらランチを一緒にどうかな?」

 ……どうと言われましても、いえ、お断りしましょう。

「申し訳ございませんが、前回は本のタイトルだけを見て満足してしまいましたので今回は本を読みたいと思っておりますの」

「……そうか。それなら終わった後にお茶でもどう? 迎えに行かせるから」

 ……断れないということですか? セシリーもいるので殿下のお断りを無下には出来ませんわね。


「少しでしたら」

「楽しみにしているよ、それじゃあ週末に」

 手を振り去っていく殿下の後ろ姿をセシリーと見送る。


「リュシエンヌ、いつ殿下と気安くお話しする仲になったの?」

 気安い感じはないのだけれど……緊張もしますし、よく分かりませんし。

「婚約破棄の時に殿下が立会いをしていて……殿下はコリンズ子息と友人だったの。その後謝罪を受けて……殿下が何を思っておられるのか全く分からないのだけど、悪い方ではないと思うの……」


 親友のセシリーには素直に伝えておくことにします“悪い方ではないけれどよくわからない人”です。


「今の話し方だと殿下はリュシエンヌに気があるようにも思えるけれど……」

「それはないわよ! 婚約破棄の立会をしたのよ? 婚約破棄された子に気があるもの好きがいると思う? もしそうなら……悪趣味ね」

「……そうね。ないわ、ごめん」

 ……ぷっ。ふふふっ……二人で笑いあいました。あり得ませんもの。


 ******

「どれが分かりやすいのかしら……?」

 週末になり、王宮図書館に来たのは良いのですが、古代語の勉強にはどの本が良いのか悩んでいました。司書様に聞きに行こうと思った時でした。

「おや、君は……モルヴァン嬢じゃったな」

「……陛下!」

 すっとカーテシーをする。

「これ、わしはいまプライベートなんじゃ。仰々しく挨拶する必要はないぞ」

「いえ、でも」

 ……どうしましょう! 頭を上げられませんわ。

「頭をあげてくれ、同じ本好きとして同士ではないか。それより何か言うておったが何かを探しているのではないか?」

 陛下は本が好きで、学園も王立図書館も蔵書が多く、教会での教えもあり国民の識字率が高い。


「……恐れながら、古代語を勉強しようと思いまして、初心者でもわかるような優しいものを探しておりました」

 ……声が震えているのが自分でも分かりますわ。凄く緊張していますの! 今までの人生の中で一番ですわ。

「古代語を学びたいのか?」

「はい」

「そうじゃな、それならば確か……おぉ、あった。これじゃこれじゃ」

 そう言って本を一冊渡してくれました。

「これは……?」

「わしも小さい頃から古代語を学んでおってまず最初に勧められたのがこの本でな、懐かしいのぅ。わしがこの本を勧めたのは君が三人目だ」

「……失礼します」

 本を受け取り、一ページ二ページと捲ってみる。

「わぁ。こう言う意味だったのですね! 法則が分かるとなんとなく分かってきました。とても分かりやすいですのね」

 嬉しくてつい笑顔で顔を上げると陛下も笑みを浮かべてくれていた。感情を出さないと思っていた陛下でしたがこのように朗らかに笑う方だった。


「はっはっは……モルヴァン嬢は珍しい令嬢じゃの。古代語にも興味があるんじゃな」

 令嬢が古代語に興味があるなんて確かに珍しい事で、授業で行う内容でもないですもの。

「お恥ずかしいです」

「それならわしも恥ずかしいという事になるぞ?」

「まぁ! 失礼を申してしまいました……」

 ……ど、どうしたら良いのかしらっ! 陛下になんて事を!

「ははっ、気にするでない。わしがいると落ち着かんだろうから、そろそろ戻る事にする。君はゆっくりしていきなさい。君のような勉強熱心な若者を見るのがわしは好きでたまに忍んでくるんじゃ。内緒だぞ」

「まぁ。お忍びですのね? 陛下の周りの方は今ごろひやひやとしているのではないですか?」

 ……息抜きをしたくなる気持ちもわかりますが、その、周りの方はいい迷わ、いいえ。やめておきましょう。

「君のいう通りでよく怒られるんだが、執務室にずっといても肩が凝る……たまには大好きな書物に囲まれたいと思っても良かろう? それに既にバレておる」

 陛下が指をさす方向には陛下の側近? と思われる方がこちらを見ていました。

「……お顔が怖いですね」

「目を通さなければいけない書類が残っておるからな……仕方がない。戻るとするか」

 歩き出す陛下にお礼を言う。

「陛下、お話ができて光栄でした。本日はこちらの本を読みたいと思います。ありがとうございました」

「わしも楽しかったぞ、それではな」

 陛下の姿が見えなくなるまで頭を下げていました。王宮の図書館には陛下もお見えになるのですね……

 セキュリティが万全なのがよーく理解出来ましたわ。私の侍女も護衛も中に入る事が出来ませんもの。それだけ厳重と言う事です。

 陛下とお話し出来たことに感動していたら、エリック殿下との約束の時間が迫っていました!
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