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ファビオ

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今日も行きたくない王宮へ行く。
正直言ってエミリオの顔なんぞ見たくない
決してエミリオのせいではないのだが、誰かのせいにしたいと言う気持ちが勝ってしまう

「おはようございます」
エミリオの執務室に入る
「おはよう」
シーンとした室内で執務をする。今までは些細な事を話したり執務について話したりもしたが今はそんな気分になれない。
書類を見ていると余計な事を考えなくて済む

エミリオの側近の一人が居た堪れない雰囲気に痺れを切らして
「書類を提出に行ってまいります!」
そそくさと出ていき
「それでは私はお茶でも淹れてきます!」
と皆が用事を作り執務室から出て行ってしまった。二人きりになった執務室は相変わらずシーンとしていた。
書類をめくる紙の音だけが響く室内


「…フェリシアの……様子はどうだ?」
エミリオが覇気のない声で話しかけてきた

「…おかげさまで、起き上がれるようにはなりました」
エミリオの顔も見ず書類に目を向けたまま答える
「…そうか、よかった」
小さな声で返ってきた


書類と格闘し早めに仕事を終えることが出来た
「本日の執務は全て終えました、私は帰らせてもらいます」
エミリオに一言言って執務室を出る
「あぁ、ご苦労様」
ファビオは毎日、人の倍は書類を片付けて誰よりも早く帰るが、エミリオがそれを咎めることはない


「最近のファビオは恐ろしいくらいの勢いで執務をこなしていますね、何かあったのでしょうか?」
側近の一人がエミリオに聞く

「さぁな、きちんと仕事をこなしている分、文句を言うつもりはないよ、とても助かっている」
そう言って真面目に執務に取り組むエミリオ
「お前たちもそれが終わったら帰ってもいい、あとは私がやっておく」
最近のエミリオは執務に没頭している


「ただいま戻りました」
サロンにいる母に声を掛けた

「あら、おかえりなさい。早かったのね」
「今までが遅すぎたのですよ、フェリシアはどうしてますか?」
最近ようやく歩き回れるようになり、いつもは母とお茶をしている時間だった

「エクトル殿下がいらしてね、お庭でお散歩中よ」
毎日毎日忙しい合間を縫ってフェリシアに会いに来る。
エミリオはエクトルの仕事を寄越せと言っているそうだが、エクトルはそれを断り城に帰りきちんとこなしているそうだ。
寝る間を惜しんでまでフェリシアに会いきているんだろうな…
庭を見つめて立ちすくんでいると母が

「エクトル殿下のお陰でフェリシアも元気になってきてるわね」
少し痩せた顔でくしゃっと笑った
「そうですね」
しばらくサロンで母と話をしていると、フェリシアとエクトルが戻ってきた
「お兄様、おかえりなさいませ」
まだ体が痛いのだろう、ゆっくりと歩くフェリシアが近づいてきた。

「ただいま、今帰ってきた、早く終わったからシアの好きそうな本を買ってきた」
フェリシアに包みを渡すと満面の笑顔で
「お兄様いつもありがとう」
頬にキスをしてくれた。やっぱりフェリシアは笑っている方が良い
エクトルは苦笑いをしているが、こればっかりは譲れないんだ

「それじゃあ私は戻るよ、また来るよフェリシア」
「お見送りに…」
「ここで良いよ、たくさん歩いたから疲れただろう?」
エクトルがフェリシアに断りを入れる
「それでは私が見送るとしよう」
ファビオとエクトルが二人で歩き出す姿をフェリシアは母と見ていた


「エクトル殿下、忙しいのにいつも妹に会いにきてくれて感謝します」
頭を下げるファビオ
「なんだよ…やめてくれ、私がフェリシアに会いたくて来てるだけだよ」
頭を上げてくれよと言われエクトルと目があった
「ファビオ、疲れた顔をしている」
心配そうな顔つきだ
「そうか?今日は早く寝るか、フェリシアに心配をかけたくない」
苦笑いをする二人の男

「エミリオに…フェリシアの事を聞かれてな、あいつが悪いわけではないんだ、フェリシアを危険な目に合わせてしまった、あれは不幸な事故だったと自分に言い聞かせるのに誰かのせいにしたくなるんだよ」

フェリシアがエクトルの婚約者じゃなかったら?フェリシアがエミリオと婚約していたら?王妃様の茶会で何を話ししたのか聞いていれば学園を休ませた。逆恨みをされる事が分かっていたら?
姉が居ないから、フェリシアはこんな目にあったのでは?


「余計な事を考えるな、悪い方に考えるとフェリシアが悲しむ、お前はまだ良いじゃないか!私なんて婚約者なのに記憶がないんだぞ、ショックだよ、でも良いんだ、もう一度関係を繋いで見せる」
はぁっとため息を吐くエクトルだが辛そうではないようだ
「…そうだな、その通りだ、私たちがしっかりサポートしないとな」

フェリシアに辛い顔は見せたくない
今が頑張る時だろう
フェリシアはエミリオの事もリリアナの事も記憶にない。合わせる必要もないのだ

「さて、これから貯まった書類と格闘してくるよ、最近のファビオは凄まじい勢いで仕事をしていると聞いたが、私にもこつを教えてくれよ」
今から仕事に向かうファビオが面倒くさそうに聞く
「こつか?そりゃエミリオと一緒にいたくないからだよ」
ニヤリと笑った





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