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13. 圧巻の肉塊
レオンは『太陽の剣』に所属していた頃、大きな依頼を達成した後にここに何度か訪れたことがある。
あの頃は、カインやセリナと一緒に……。
――いや、今はそんなことを考えるのはやめよう。
レオンは過去の記憶を振り払った。
「ついに入れるんだわ……」
シエルが、感慨深そうに看板を見上げる。
「ここ、知ってる! あたしもずっと来たいと思ってたんだ」
ルナが、目を輝かせて声を上げた。
「ここかぁ……。いつも前を通るたびに、いい匂いがして……でも、高そうだから入れなくて……ふふふっ」
エリナも、珍しく機嫌が良さそうだ。
「何してるの? 早く入りましょ!」
ミーシャが、優雅に扉に手をかけた。
ギギィと重い木の扉を押し開けた瞬間。
店内の熱気と活気が、まるで温かい抱擁のように一行を包み込んだ。
香ばしい肉の焼ける匂い。芳醇なスープの香り。焼きたてのパンの甘い香り。
そして、冒険者たちの笑い声と――まだお昼だというのにジョッキがぶつかり合う音。
ここには、生きている者たちの熱気があった。
「いらっしゃい!」
カウンターの奥から、威勢の良い声が響いた。
「おや、お嬢ちゃんたちは……見ない顔だね」
小麦色に日焼けした、恰幅の良い女将が近づいてきた。
エプロンで手を拭きながら、人懐っこい笑顔を浮かべている。
その笑顔には、数え切れないほどの冒険者たちを見送ってきた、温かさと逞しさがあった。
「五人かしら? 奥のテーブルが空いてるよ。さあさあ、こっちにおいで」
案内された席は、店の奥まった場所にある重厚な木製テーブルだった。
レオンは壁に掛けられた黒板を見上げながら椅子に腰かける。
そこには今日のおすすめメニューが、チョークで書かれていた。
「今日のシチューを五人前、黒パンは山盛りで。それと……」
レオンは、少女たちの顔を見回した。
全員、キラキラと期待に目を輝かせている。
「今日のおすすめの肉の塊を二皿……、それとお勧めのプレートをいくつかお願いします!」
「おお、景気がいいね!」
女将が、嬉しそうに目を細めた。
「いい依頼でもこなしてきたのかい?」
「まあ、そんなところです」
「そうかい、そうかい。若いのに大したもんだ。すぐ持ってくるから、待っててね!」
「ふふっ」「やったぁ」「楽しみ!」
女の子たちはうきうきした様子で顔を見合わせた。
◇
しばらくして、料理が運ばれてきた。
テーブルが、豪華な料理で埋め尽くされていく。
まず、シチュー。
大きな陶器の器に、野菜がごろごろと入った濃厚なシチューが注がれている。じゃがいも、人参、玉ねぎ、そして大きな肉の塊。白い湯気が立ち昇り、クリーミーな香りが鼻腔をくすぐった。
次に、黒パン。
籠に山盛りにされた、焼きたての黒パン。外はカリカリ、中はふわふわ。バターを塗れば、溶けて甘い香りを放つ。
ほかにもサラダや前菜が並ぶ。
そして、圧巻は肉だった。
熱々の鋳物皿の上に、拳二つ分はある巨大な肉塊が鎮座している。
表面はカリカリに焼き上げられ、中は綺麗なピンク色。切り分けると、肉汁がジュワッと溢れ出す。
ジュウジュウ、ジュウジュウ。
肉汁が鋳物皿の上で音を立てる。その音だけで、唾液が溢れてくる。
空腹に耐えていた少女たちの瞳が、まるで宝石を前にした子供のように輝いた。
「す、すごい……」
ルナが、呆然と呟いた。
「こんなの、初めて見た……」
「いい匂い……」
シエルが、無意識に鼻をヒクヒクさせている。
「早く食べましょう」
ミーシャでさえ、聖女の仮面を維持するのが難しそうだった。
エリナは無言だったが、その漆黒の瞳は、肉から離れなかった。
◇
「い、いただきます!」
ルナが、待ちきれないといった様子でスプーンを握りしめた。
震える手で、シチューを掬う。
口に運んだ瞬間。
「熱っ!」
舌を火傷しそうになって、慌てて口を押さえる。
だが、その顔は――幸福に満ちていた。
「でも、おいしい……!」
涙が滲んできた。
「すっごく、おいしい……!」
それは、空腹を満たす喜びだけではなかった。
温かいものを、誰かと一緒に食べる。
それが、どれほど幸せなことか。
ルナは、この三ヶ月間、ずっと一人だった。
魔法学院を飛び出してから、家に帰るわけにもいかず、誰にも頼れず、ただ一人で彷徨い続けた。
そして女の子たちとパーティーを組むも全てがうまくいかず、常に崖っぷちの暮らし。
ゴミ箱を漁ったこともある。残飯を恵んでもらったこともある。
温かい食事なんて、いつ以来だろう。
「ルナ、泣いてるの?」
シエルが、心配そうに覗き込んだ。
「な、泣いてないわよ!」
ルナは慌てて涙を拭った。
「ただ、熱かっただけ! 目から汗が出ただけ!」
「目から汗……?」
「う、うるさいわよ! いいから食べなさいよ!」
ルナの照れ隠しに、シエルが小さく笑った。
その笑顔につられて、張り詰めていた空気が和らいでいく。
あの頃は、カインやセリナと一緒に……。
――いや、今はそんなことを考えるのはやめよう。
レオンは過去の記憶を振り払った。
「ついに入れるんだわ……」
シエルが、感慨深そうに看板を見上げる。
「ここ、知ってる! あたしもずっと来たいと思ってたんだ」
ルナが、目を輝かせて声を上げた。
「ここかぁ……。いつも前を通るたびに、いい匂いがして……でも、高そうだから入れなくて……ふふふっ」
エリナも、珍しく機嫌が良さそうだ。
「何してるの? 早く入りましょ!」
ミーシャが、優雅に扉に手をかけた。
ギギィと重い木の扉を押し開けた瞬間。
店内の熱気と活気が、まるで温かい抱擁のように一行を包み込んだ。
香ばしい肉の焼ける匂い。芳醇なスープの香り。焼きたてのパンの甘い香り。
そして、冒険者たちの笑い声と――まだお昼だというのにジョッキがぶつかり合う音。
ここには、生きている者たちの熱気があった。
「いらっしゃい!」
カウンターの奥から、威勢の良い声が響いた。
「おや、お嬢ちゃんたちは……見ない顔だね」
小麦色に日焼けした、恰幅の良い女将が近づいてきた。
エプロンで手を拭きながら、人懐っこい笑顔を浮かべている。
その笑顔には、数え切れないほどの冒険者たちを見送ってきた、温かさと逞しさがあった。
「五人かしら? 奥のテーブルが空いてるよ。さあさあ、こっちにおいで」
案内された席は、店の奥まった場所にある重厚な木製テーブルだった。
レオンは壁に掛けられた黒板を見上げながら椅子に腰かける。
そこには今日のおすすめメニューが、チョークで書かれていた。
「今日のシチューを五人前、黒パンは山盛りで。それと……」
レオンは、少女たちの顔を見回した。
全員、キラキラと期待に目を輝かせている。
「今日のおすすめの肉の塊を二皿……、それとお勧めのプレートをいくつかお願いします!」
「おお、景気がいいね!」
女将が、嬉しそうに目を細めた。
「いい依頼でもこなしてきたのかい?」
「まあ、そんなところです」
「そうかい、そうかい。若いのに大したもんだ。すぐ持ってくるから、待っててね!」
「ふふっ」「やったぁ」「楽しみ!」
女の子たちはうきうきした様子で顔を見合わせた。
◇
しばらくして、料理が運ばれてきた。
テーブルが、豪華な料理で埋め尽くされていく。
まず、シチュー。
大きな陶器の器に、野菜がごろごろと入った濃厚なシチューが注がれている。じゃがいも、人参、玉ねぎ、そして大きな肉の塊。白い湯気が立ち昇り、クリーミーな香りが鼻腔をくすぐった。
次に、黒パン。
籠に山盛りにされた、焼きたての黒パン。外はカリカリ、中はふわふわ。バターを塗れば、溶けて甘い香りを放つ。
ほかにもサラダや前菜が並ぶ。
そして、圧巻は肉だった。
熱々の鋳物皿の上に、拳二つ分はある巨大な肉塊が鎮座している。
表面はカリカリに焼き上げられ、中は綺麗なピンク色。切り分けると、肉汁がジュワッと溢れ出す。
ジュウジュウ、ジュウジュウ。
肉汁が鋳物皿の上で音を立てる。その音だけで、唾液が溢れてくる。
空腹に耐えていた少女たちの瞳が、まるで宝石を前にした子供のように輝いた。
「す、すごい……」
ルナが、呆然と呟いた。
「こんなの、初めて見た……」
「いい匂い……」
シエルが、無意識に鼻をヒクヒクさせている。
「早く食べましょう」
ミーシャでさえ、聖女の仮面を維持するのが難しそうだった。
エリナは無言だったが、その漆黒の瞳は、肉から離れなかった。
◇
「い、いただきます!」
ルナが、待ちきれないといった様子でスプーンを握りしめた。
震える手で、シチューを掬う。
口に運んだ瞬間。
「熱っ!」
舌を火傷しそうになって、慌てて口を押さえる。
だが、その顔は――幸福に満ちていた。
「でも、おいしい……!」
涙が滲んできた。
「すっごく、おいしい……!」
それは、空腹を満たす喜びだけではなかった。
温かいものを、誰かと一緒に食べる。
それが、どれほど幸せなことか。
ルナは、この三ヶ月間、ずっと一人だった。
魔法学院を飛び出してから、家に帰るわけにもいかず、誰にも頼れず、ただ一人で彷徨い続けた。
そして女の子たちとパーティーを組むも全てがうまくいかず、常に崖っぷちの暮らし。
ゴミ箱を漁ったこともある。残飯を恵んでもらったこともある。
温かい食事なんて、いつ以来だろう。
「ルナ、泣いてるの?」
シエルが、心配そうに覗き込んだ。
「な、泣いてないわよ!」
ルナは慌てて涙を拭った。
「ただ、熱かっただけ! 目から汗が出ただけ!」
「目から汗……?」
「う、うるさいわよ! いいから食べなさいよ!」
ルナの照れ隠しに、シエルが小さく笑った。
その笑顔につられて、張り詰めていた空気が和らいでいく。
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