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39. 相討ち覚悟
「て、敵襲! 十時の方向、インプが十……いや、三十以上!」
叫びながら、シエルは流れるような動作で矢を番える。
恐怖が、使命感に変わる瞬間――。
もう震えは、完全に止まっていた。
(ボクが守る! みんなを、この砦を!)
ヒュッ!
放たれた矢が月光を切り裂いて飛ぶ。その軌跡は、まるで流星のように美しく――。
タン! と正確にインプの眉間を貫通。醜い悲鳴と共に、悪魔が地に墜ちていく。
だが、インプたちは仲間の死など意に介さない。狂気に満ちた笑い声を上げながら、次々と砦に殺到してくる。
「き、来たぁぁ!」
「撃て、撃てーー!」
兵士たちも慌てて応戦を開始した。
矢の雨が夜空を埋め尽くす。
火球が闇を赤く染め上げる。
風刃が空気を切り裂いていく。
だが、シエルの矢だけが異質だった。
一射、必殺。
狙った獲物を、決して外さない。まるで矢が意志を持っているかのように、確実に急所を射抜いていく。神の手が導いているかのような、完璧な軌跡。
「すげぇ……あの新人」
「百発百中じゃねぇか」
「まるで伝説の弓聖だ」
兵士たちの驚嘆の声が、夜風に乗って響く。
インプの数がみるみる減っていき、黒い死骸が城壁の下に積み重なっていく。
(やれる……ボクにも、やれる!)
希望が、胸に宿り始めたその時だった――。
月が、突然陰る。
(……へ?)
巨大な何かが、星空を塗りつぶしていく。不吉な影が、砦を覆った。
「コ、コカトリス!?」
シエルの声が震える。
鶏の頭、蛇の尾、そして巨大な翼。伝説でしか聞いたことのない魔獣が、現実として目の前に現れた。
石化の魔眼。
その瞳を見た者は、生きたまま石像と化すという伝説を持つ恐るべき魔物――――。
「ひぃっ!」
「と、とんでもない化け物だ!」
「撃て、撃てーー!」
パニックが砦中に伝染する。弓兵たちの手が恐怖で震え、矢が明後日の方向へ飛んでいく。運良く当たった矢も、鋼のような羽毛に弾かれ、カランと虚しい音を立てて地に落ちていく。
コカトリスが、ゆっくりと首を巡らせる。その瞳が、城壁の兵士たちを舐めるように捉えていく――。
「ヤバい、ヤバい!」
「隠れろぉぉぉ!」
慌てふためいて逃げ惑う兵士たち。
コカトリスがゆっくりと嘴を開く。喉の奥で、不吉な灰色の光が渦を巻き始める。まるで死神が鎌を振り上げるような、絶望的な光景。
グゥオォォォォ!
耳をつんざく咆哮と共に、灰色の霧が津波のように噴出される。石化のブレス――触れた者全てを、生きた墓標へと変える死の吐息だった。
「来る! みんな、伏せて!」
シエルが声を振り絞って叫ぶ。
兵士たちが慌てて身を伏せる中、一人だけ――。
「あ、足が……動かない……」
恐怖で金縛りになった若い兵士。まだ少年と言ってもいい年頃の顔が、絶望に歪んでいる。
そこにブレスが無慈悲に直撃する――――。
「ぐぁぁぁぁ!」
悲鳴が、徐々に石のように固まっていく。皮膚が灰色に変色し、血管が石の紋様となって浮かび上がる。関節が軋みを上げながら固まり、恐怖の表情がそのまま永遠に刻まれていった――――。
「嘘……本当に、石に……」
シエルの全身から血の気が引いていく。
震える手で、弓筒の中を探る。
指先に触れたのは、レオンが渡してくれた特別な矢。
破魔矢。
『必ず、これが必要な時が来る』
砦の倉庫の奥深く、埃を被った箱の中から見つけ出された、反魔法の力を宿す伝説の矢。百年前の大戦で使われた、最後の一本。
あの時レオンは、まるで全てを見通していたかのように微笑んでいた。
『君が困った時、この矢が道を切り開いてくれるはずだ』
「そうか! これを……これを使うんだ」
でも――。
(羽毛は貫けない)
コカトリスの全身は、鋼鉄すら凌駕する羽毛で覆われている。唯一の弱点があるとすれば――。
(嘴の中……喉を狙うしかない)
だが、それは自殺行為に等しかった。
嘴が開く時、必ず石化ブレスが放たれる。矢を放つために構えれば、相討ち覚悟の命がけの一射となる。
「くぅっ!」
葛藤する暇はなかった。
コカトリスの魔眼が、ゆっくりとシエルを捉える。血のように赤い瞳が、次の獲物を定めたようだ。
巨大な翼を大きく羽ばたかせ、ゆっくりと旋回すると、コカトリスが急降下してくる。
死が、真正面から迫ってきた。
「ば、化け物め!」
シエルは震えを振り払い、破魔矢を弓につがえる。矢じりが、月光を受けて七色に輝いた。
(自分を信じろ!)
心の中で、自分に言い聞かせる。
(ボクはできる! ボクはここで、この場所で、みんなを守る!)
脳裏に浮かぶのは、レオンの顔だった。
いつも穏やかに微笑んでいる、あの翠色の瞳。どんな時も自分を信じてくれる、あの温かい眼差し。
(レオン……見てて……)
胸の奥で、熱い感情が燃え上がる。
(ボクは、君の信頼に応えられる弓手になる!)
「勝負だ!」
碧眼が恐怖を超えて輝く。勝利か死か、一か八か――もう逃げ場はない。
叫びながら、シエルは流れるような動作で矢を番える。
恐怖が、使命感に変わる瞬間――。
もう震えは、完全に止まっていた。
(ボクが守る! みんなを、この砦を!)
ヒュッ!
放たれた矢が月光を切り裂いて飛ぶ。その軌跡は、まるで流星のように美しく――。
タン! と正確にインプの眉間を貫通。醜い悲鳴と共に、悪魔が地に墜ちていく。
だが、インプたちは仲間の死など意に介さない。狂気に満ちた笑い声を上げながら、次々と砦に殺到してくる。
「き、来たぁぁ!」
「撃て、撃てーー!」
兵士たちも慌てて応戦を開始した。
矢の雨が夜空を埋め尽くす。
火球が闇を赤く染め上げる。
風刃が空気を切り裂いていく。
だが、シエルの矢だけが異質だった。
一射、必殺。
狙った獲物を、決して外さない。まるで矢が意志を持っているかのように、確実に急所を射抜いていく。神の手が導いているかのような、完璧な軌跡。
「すげぇ……あの新人」
「百発百中じゃねぇか」
「まるで伝説の弓聖だ」
兵士たちの驚嘆の声が、夜風に乗って響く。
インプの数がみるみる減っていき、黒い死骸が城壁の下に積み重なっていく。
(やれる……ボクにも、やれる!)
希望が、胸に宿り始めたその時だった――。
月が、突然陰る。
(……へ?)
巨大な何かが、星空を塗りつぶしていく。不吉な影が、砦を覆った。
「コ、コカトリス!?」
シエルの声が震える。
鶏の頭、蛇の尾、そして巨大な翼。伝説でしか聞いたことのない魔獣が、現実として目の前に現れた。
石化の魔眼。
その瞳を見た者は、生きたまま石像と化すという伝説を持つ恐るべき魔物――――。
「ひぃっ!」
「と、とんでもない化け物だ!」
「撃て、撃てーー!」
パニックが砦中に伝染する。弓兵たちの手が恐怖で震え、矢が明後日の方向へ飛んでいく。運良く当たった矢も、鋼のような羽毛に弾かれ、カランと虚しい音を立てて地に落ちていく。
コカトリスが、ゆっくりと首を巡らせる。その瞳が、城壁の兵士たちを舐めるように捉えていく――。
「ヤバい、ヤバい!」
「隠れろぉぉぉ!」
慌てふためいて逃げ惑う兵士たち。
コカトリスがゆっくりと嘴を開く。喉の奥で、不吉な灰色の光が渦を巻き始める。まるで死神が鎌を振り上げるような、絶望的な光景。
グゥオォォォォ!
耳をつんざく咆哮と共に、灰色の霧が津波のように噴出される。石化のブレス――触れた者全てを、生きた墓標へと変える死の吐息だった。
「来る! みんな、伏せて!」
シエルが声を振り絞って叫ぶ。
兵士たちが慌てて身を伏せる中、一人だけ――。
「あ、足が……動かない……」
恐怖で金縛りになった若い兵士。まだ少年と言ってもいい年頃の顔が、絶望に歪んでいる。
そこにブレスが無慈悲に直撃する――――。
「ぐぁぁぁぁ!」
悲鳴が、徐々に石のように固まっていく。皮膚が灰色に変色し、血管が石の紋様となって浮かび上がる。関節が軋みを上げながら固まり、恐怖の表情がそのまま永遠に刻まれていった――――。
「嘘……本当に、石に……」
シエルの全身から血の気が引いていく。
震える手で、弓筒の中を探る。
指先に触れたのは、レオンが渡してくれた特別な矢。
破魔矢。
『必ず、これが必要な時が来る』
砦の倉庫の奥深く、埃を被った箱の中から見つけ出された、反魔法の力を宿す伝説の矢。百年前の大戦で使われた、最後の一本。
あの時レオンは、まるで全てを見通していたかのように微笑んでいた。
『君が困った時、この矢が道を切り開いてくれるはずだ』
「そうか! これを……これを使うんだ」
でも――。
(羽毛は貫けない)
コカトリスの全身は、鋼鉄すら凌駕する羽毛で覆われている。唯一の弱点があるとすれば――。
(嘴の中……喉を狙うしかない)
だが、それは自殺行為に等しかった。
嘴が開く時、必ず石化ブレスが放たれる。矢を放つために構えれば、相討ち覚悟の命がけの一射となる。
「くぅっ!」
葛藤する暇はなかった。
コカトリスの魔眼が、ゆっくりとシエルを捉える。血のように赤い瞳が、次の獲物を定めたようだ。
巨大な翼を大きく羽ばたかせ、ゆっくりと旋回すると、コカトリスが急降下してくる。
死が、真正面から迫ってきた。
「ば、化け物め!」
シエルは震えを振り払い、破魔矢を弓につがえる。矢じりが、月光を受けて七色に輝いた。
(自分を信じろ!)
心の中で、自分に言い聞かせる。
(ボクはできる! ボクはここで、この場所で、みんなを守る!)
脳裏に浮かぶのは、レオンの顔だった。
いつも穏やかに微笑んでいる、あの翠色の瞳。どんな時も自分を信じてくれる、あの温かい眼差し。
(レオン……見てて……)
胸の奥で、熱い感情が燃え上がる。
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