44 / 123
44. 何かが壊れる音
しおりを挟む
「ぐっ……!」
ミーシャの顔が苦痛に歪む。あまりの衝撃に聖なる封印が割れそうになっているのだ。しかし、彼女は決して引かない。
(負けない……負けてたまるもんですか……!)
教会の孤児院で育った日々が、脳裏をよぎる。
物心ついた時から、ミーシャには居場所がなかった。
捨て子。
それが、彼女に与えられた最初の烙印だった。
誰が自分を産み、捨てたのか。それすら分からない。分かっているのは、教会の裏口に置き去りにされていたという事実だけ。
孤児院の子供たちは、生き残るために必死だった。限られた食事、限られた寝床、限られた愛情。その全てを奪い合う、小さな戦場。
ミーシャは学んだ。
笑顔を作れば、大人たちは優しくしてくれる。
従順に振る舞えば、罰を受けずに済む。
聖女のように振る舞えば、居場所を与えてもらえる。
だから、演じ続けた。
心を殺して、仮面を被って、「聖女ミーシャ」を演じ続けた。
『あらあら、うふふ』
その言葉は、自分を守るための鎧だった。
本当の自分を見せたら、きっと捨てられる。
本当の感情を出したら、きっと嫌われる。
だから、誰にも本心を見せなかった。見せられなかった。
でも、レオンは違った。
『その二面性も、君の魅力だ』
初めて会った日、彼は笑ってそう言った。
腹黒い本性を見抜かれているのに、嫌悪されなかった。むしろ、それを含めて受け入れてくれた。
あの時の衝撃を、ミーシャは一生忘れないだろう。
生まれて初めて、「本当の自分」を認めてもらえた瞬間だった。
「いいぞ、ミーシャ!」
レオンは焼けただれた肌を痛そうにしながらも、励ましの声を上げる。
その声が、心の奥底に響く。
(レオン……あなたのためなら、あたしは……!)
ミーシャは歯を食いしばり、シールドが破れないよう、必死に魔力を注ぎ続ける。額から汗が流れ、聖女の仮面の下から、彼女の真の表情が覗く。
「こんなところで……負けるもんですか!」
炎龍のエネルギーと噴気のエネルギーは出口を失い、噴気孔内で激しく渦巻き、亀裂を次々と広げていく。そこに流れ込む地下水が一気に蒸発し、水蒸気となってさらに圧力を上げていく。亀裂が徐々に広がり、マグマ溜まりへの道が開かれていく。
ゴゴゴゴゴ……。
地震が徐々に大きくなっていく。小石が跳ね、岩壁に亀裂が走る。
「もう少し……もう少しよ!」
額から汗を垂らしながらミーシャが叫ぶ。聖なる光が、限界まで輝きを増す。
「いいぞ!」
「いけいけぇ!」
だが、次の瞬間だった――――。
パァン! と、聖なる障壁が、まるで薄氷のように粉々に砕け散る。虹色の破片が、薄明の光を受けてキラキラと舞い落ちた。まるで、希望が崩れ去るように。
「え?」
「あ……」
「あぁぁぁぁ!」
三人の顔が、希望から絶望へと塗り替えられる。
限界近かったミーシャの魔力が、一瞬途切れてしまったのだ。
押さえつけていた圧力が全部抜け、盛大な水蒸気のキノコ雲が上空へと飛び去って行く――――。
地震が徐々に収まり、火山の鼓動が急速に弱まっていった。
「し、失敗……?」
ルナの顔が死人のように青白くなる。全身から力が抜け、杖を取り落としそうになる。
ミーシャの頭の中が、真っ白になった。
(失敗した……あたしが……失敗した……)
信じられなかった。
誰よりも完璧であろうとしてきた自分が、この最も重要な瞬間に失敗した。
十万人の命がかかっている。
仲間たちの命がかかっている。
レオンの期待がかかっている。
その全てを、自分は裏切った。
「あぁぁぁ! 何よこれ!」
ミーシャの震える声が、悲鳴へと変わる。
「どうなってんのよ! 十万人が……みんなが死んじゃうじゃない!」
心の奥底で、何かが壊れる音がした。
長年かけて築き上げてきた、聖女の仮面が。
必死に抑え込んできた、本当の自分が。
その全てが、制御を失って噴き出してくる。
ミーシャの空色の瞳が、怒りで燃え上がった。
聖女の仮面が完全に剥がれ落ち、本性が剥き出しになる。普段は「あらあら、うふふ」と微笑む顔が、鬼のような形相に変わる。
「お前! あたしでもできるんじゃなかったんかよ!?」
ドスの効いた低い声。まるで別人のような凄みのある表情でレオンを睨みつける。
それは、孤児院で生き延びるために身につけた、もう一つの顔だった。
優しくしてもらえない時、従順さが通じない時、最後の手段として使ってきた、攻撃的な自分。
「ちょ、ちょっと待って……」
レオンは気おされ、後ずさりした。
「そのクソスキルであたしらを騙しやがったな……」
自分が失敗したという事実を受け入れられず、行き場のない恐怖と絶望が、全て怒りとなってレオンに向けられていた。
ミーシャの顔が苦痛に歪む。あまりの衝撃に聖なる封印が割れそうになっているのだ。しかし、彼女は決して引かない。
(負けない……負けてたまるもんですか……!)
教会の孤児院で育った日々が、脳裏をよぎる。
物心ついた時から、ミーシャには居場所がなかった。
捨て子。
それが、彼女に与えられた最初の烙印だった。
誰が自分を産み、捨てたのか。それすら分からない。分かっているのは、教会の裏口に置き去りにされていたという事実だけ。
孤児院の子供たちは、生き残るために必死だった。限られた食事、限られた寝床、限られた愛情。その全てを奪い合う、小さな戦場。
ミーシャは学んだ。
笑顔を作れば、大人たちは優しくしてくれる。
従順に振る舞えば、罰を受けずに済む。
聖女のように振る舞えば、居場所を与えてもらえる。
だから、演じ続けた。
心を殺して、仮面を被って、「聖女ミーシャ」を演じ続けた。
『あらあら、うふふ』
その言葉は、自分を守るための鎧だった。
本当の自分を見せたら、きっと捨てられる。
本当の感情を出したら、きっと嫌われる。
だから、誰にも本心を見せなかった。見せられなかった。
でも、レオンは違った。
『その二面性も、君の魅力だ』
初めて会った日、彼は笑ってそう言った。
腹黒い本性を見抜かれているのに、嫌悪されなかった。むしろ、それを含めて受け入れてくれた。
あの時の衝撃を、ミーシャは一生忘れないだろう。
生まれて初めて、「本当の自分」を認めてもらえた瞬間だった。
「いいぞ、ミーシャ!」
レオンは焼けただれた肌を痛そうにしながらも、励ましの声を上げる。
その声が、心の奥底に響く。
(レオン……あなたのためなら、あたしは……!)
ミーシャは歯を食いしばり、シールドが破れないよう、必死に魔力を注ぎ続ける。額から汗が流れ、聖女の仮面の下から、彼女の真の表情が覗く。
「こんなところで……負けるもんですか!」
炎龍のエネルギーと噴気のエネルギーは出口を失い、噴気孔内で激しく渦巻き、亀裂を次々と広げていく。そこに流れ込む地下水が一気に蒸発し、水蒸気となってさらに圧力を上げていく。亀裂が徐々に広がり、マグマ溜まりへの道が開かれていく。
ゴゴゴゴゴ……。
地震が徐々に大きくなっていく。小石が跳ね、岩壁に亀裂が走る。
「もう少し……もう少しよ!」
額から汗を垂らしながらミーシャが叫ぶ。聖なる光が、限界まで輝きを増す。
「いいぞ!」
「いけいけぇ!」
だが、次の瞬間だった――――。
パァン! と、聖なる障壁が、まるで薄氷のように粉々に砕け散る。虹色の破片が、薄明の光を受けてキラキラと舞い落ちた。まるで、希望が崩れ去るように。
「え?」
「あ……」
「あぁぁぁぁ!」
三人の顔が、希望から絶望へと塗り替えられる。
限界近かったミーシャの魔力が、一瞬途切れてしまったのだ。
押さえつけていた圧力が全部抜け、盛大な水蒸気のキノコ雲が上空へと飛び去って行く――――。
地震が徐々に収まり、火山の鼓動が急速に弱まっていった。
「し、失敗……?」
ルナの顔が死人のように青白くなる。全身から力が抜け、杖を取り落としそうになる。
ミーシャの頭の中が、真っ白になった。
(失敗した……あたしが……失敗した……)
信じられなかった。
誰よりも完璧であろうとしてきた自分が、この最も重要な瞬間に失敗した。
十万人の命がかかっている。
仲間たちの命がかかっている。
レオンの期待がかかっている。
その全てを、自分は裏切った。
「あぁぁぁ! 何よこれ!」
ミーシャの震える声が、悲鳴へと変わる。
「どうなってんのよ! 十万人が……みんなが死んじゃうじゃない!」
心の奥底で、何かが壊れる音がした。
長年かけて築き上げてきた、聖女の仮面が。
必死に抑え込んできた、本当の自分が。
その全てが、制御を失って噴き出してくる。
ミーシャの空色の瞳が、怒りで燃え上がった。
聖女の仮面が完全に剥がれ落ち、本性が剥き出しになる。普段は「あらあら、うふふ」と微笑む顔が、鬼のような形相に変わる。
「お前! あたしでもできるんじゃなかったんかよ!?」
ドスの効いた低い声。まるで別人のような凄みのある表情でレオンを睨みつける。
それは、孤児院で生き延びるために身につけた、もう一つの顔だった。
優しくしてもらえない時、従順さが通じない時、最後の手段として使ってきた、攻撃的な自分。
「ちょ、ちょっと待って……」
レオンは気おされ、後ずさりした。
「そのクソスキルであたしらを騙しやがったな……」
自分が失敗したという事実を受け入れられず、行き場のない恐怖と絶望が、全て怒りとなってレオンに向けられていた。
65
あなたにおすすめの小説
本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜
あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい!
ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット”
ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで?
異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。
チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。
「────さてと、今日は何を読もうかな」
これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。
◆小説家になろう様でも、公開中◆
◆恋愛要素は、ありません◆
精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~
舞
ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。
異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。
夢は優しい国づくり。
『くに、つくりますか?』
『あめのぬぼこ、ぐるぐる』
『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』
いや、それはもう過ぎてますから。
【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!
花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】
《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》
天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。
キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。
一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。
キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。
辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。
辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。
国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。
リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。
※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい
カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった
仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!
さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。
冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。
底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。
そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。
部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。
ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。
『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる