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48. 抜刀!
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後の歴史書には、この日のことがこう記されることになる。
『聖なる浄化の朝』
クーベルノーツを救った英雄譚として、華やかな言葉で飾り立てられ、十万の民を守った勇者たちの物語として、吟遊詩人にも歌われることになる。
だが、この時の兵士たちの心に刻まれたのは、別の言葉だった。
『終末』
大いなる力というものは、神であろうが悪魔であろうが、人の理解を超えている。それは祝福にもなり得るし、呪いにもなり得る。
レオンたちは確かに街を救った。十万の命を守り、クーベルノーツに平和をもたらした。
だが同時に、砦の兵士たちの心には、消えない恐怖の種を植え付けていた。もし、あの力が自分たちに向けられたら、という悪夢が、これから幾度となく彼らを苛むことになるだろう。
これが力というものの、真実の姿だった。
朝日が、噴煙の向こうから弱々しく差し込んできた。血のような赤い光が、灰色の世界を照らし出す。それは新しい一日の始まりを告げる光であると同時に、何か大きなものが終わったことを示す光でもあった。
兵士たちは朝日を浴びながら、ただ黙って立ち尽くす。
勝利したはずなのに、誰も喜べない。
生き残ったはずなのに、誰も笑えない。
ただ、灰色の世界と血色の太陽だけが、この日の記憶を永遠に刻み込んでいた。
◇
時は少し遡る――。
エリナは隘路の陣地で、静かに運命の時を待っていた。
東の空が白み始めている。レオンたちが成功すれば、もうすぐ地獄が始まるはずだ。それは自分たちにとっては試練の幕開けとなる。
「お前は出しゃばんなよ?」
ブラッドの冷たい声が、朝の冷気を切り裂く。
「わ、分かりました……でも……」
「次は助けられんぞ?」
鋭い眼光がエリナを射抜く。【運命鑑定】はエリナにボスを任せろと示していたが、コボルトにすら苦戦した小娘を、ブラッドは信じられないでいた。
「す、すみません……」
エリナの肩が落ちる。黒髪が顔を隠すように垂れた。
悔しかった。
自分の力不足が、何よりも悔しかった。
レオンは自分を信じてくれている。【運命鑑定】は自分がボスを倒すと示しているからだ。なのに、目の前の現実は、自分がまだ何も証明できていないことを突きつけてくる。
その時――。
大地が激しく震動した。
「おぉっ!?」
「来たか!?」
「ほ、本当に……?」
薄明の空を、漆黒の噴煙が切り裂いていく。まるで巨大な黒い剣が、天を貫いたかのようだった。
ドォォォォン!
凄まじい爆発音が、森を震撼させる。鳥たちが一斉に飛び立ち、獣たちが恐慌状態で逃げ出していく。世界そのものが悲鳴を上げているかのような、圧倒的な轟音だった。
「マジか!?」
「やりやがった……」
「す、すげぇ……」
エリナの胸に、熱いものがこみ上げてくる。
(レオン……みんな……やったんだ……)
遠く離れた火山で、仲間たちが命懸けで戦っている。自分と同じように不安を抱えながら、それでも前に進んでいる。
ならば、自分も負けてはいられない。
刹那、激しい地響き――――。
津波のような振動が、大地を伝わって迫ってくる。それは死そのものが地を這って近づいてくるような、不吉で圧倒的な気配だった。
「来る……」
ブラッドが剣を握り締める。歴戦の勇者の顔に、初めて緊張が走った。
遠くから聞こえてくるのは、阿鼻叫喚の絶叫。三万の魔物たちの、断末魔の合唱。それは地獄の釜が開いたような、この世のものとは思えない凄惨な音の洪水だった。
その時だった――。
ポゥ――。
エリナの全身が、突然虹色の光に包まれた。
「ナ、ナニコレ?」
ポゥポゥポゥポゥポゥポゥ……。
止まらない光の奔流。レベルアップの連鎖。火砕流に飲まれていく魔物たちの経験値が、パーティ全員に分配されているのだ。
体の奥底から、今まで感じたことのない力が湧き上がってくる。筋肉が熱を帯び、視界がクリアになり、時間の流れすら遅く感じる。まるで、眠っていた何かが目を覚ましたかのような感覚だった。
(これが……私の中に眠っていた力……?)
ドドドドド……。
足音が近づいてくる。死から逃れようとする必死の足音。火砕流から逃げ延びた魔物たちが、この隘路に殺到してくるのだ。
「撃ち方よぉーーい!」
ブラッドの号令に弓兵たちが一斉に矢を番える。
オーガ、リザードマン、トロール――火傷だらけの魔物たちが、恐怖に顔を歪めながら突進してくる。彼らの瞳には、もはや戦意などなかった。あるのはただ、死から逃れたいという原始的な本能だけ。
「てーーっ!」
ブラッドの合図で矢の雨が降り注ぐ。
矢が次々と突き刺さるが、死の恐怖に駆られた魔物たちは止まらない。痛みすら感じていないかのように、ただひたすらに前へ、前へと突き進んでくる。
「くっ! 撃ち方止め! 抜刀!」
精鋭たちが剣を抜く。シャリィィンと金属音が、朝の空気を切り裂いた。
『聖なる浄化の朝』
クーベルノーツを救った英雄譚として、華やかな言葉で飾り立てられ、十万の民を守った勇者たちの物語として、吟遊詩人にも歌われることになる。
だが、この時の兵士たちの心に刻まれたのは、別の言葉だった。
『終末』
大いなる力というものは、神であろうが悪魔であろうが、人の理解を超えている。それは祝福にもなり得るし、呪いにもなり得る。
レオンたちは確かに街を救った。十万の命を守り、クーベルノーツに平和をもたらした。
だが同時に、砦の兵士たちの心には、消えない恐怖の種を植え付けていた。もし、あの力が自分たちに向けられたら、という悪夢が、これから幾度となく彼らを苛むことになるだろう。
これが力というものの、真実の姿だった。
朝日が、噴煙の向こうから弱々しく差し込んできた。血のような赤い光が、灰色の世界を照らし出す。それは新しい一日の始まりを告げる光であると同時に、何か大きなものが終わったことを示す光でもあった。
兵士たちは朝日を浴びながら、ただ黙って立ち尽くす。
勝利したはずなのに、誰も喜べない。
生き残ったはずなのに、誰も笑えない。
ただ、灰色の世界と血色の太陽だけが、この日の記憶を永遠に刻み込んでいた。
◇
時は少し遡る――。
エリナは隘路の陣地で、静かに運命の時を待っていた。
東の空が白み始めている。レオンたちが成功すれば、もうすぐ地獄が始まるはずだ。それは自分たちにとっては試練の幕開けとなる。
「お前は出しゃばんなよ?」
ブラッドの冷たい声が、朝の冷気を切り裂く。
「わ、分かりました……でも……」
「次は助けられんぞ?」
鋭い眼光がエリナを射抜く。【運命鑑定】はエリナにボスを任せろと示していたが、コボルトにすら苦戦した小娘を、ブラッドは信じられないでいた。
「す、すみません……」
エリナの肩が落ちる。黒髪が顔を隠すように垂れた。
悔しかった。
自分の力不足が、何よりも悔しかった。
レオンは自分を信じてくれている。【運命鑑定】は自分がボスを倒すと示しているからだ。なのに、目の前の現実は、自分がまだ何も証明できていないことを突きつけてくる。
その時――。
大地が激しく震動した。
「おぉっ!?」
「来たか!?」
「ほ、本当に……?」
薄明の空を、漆黒の噴煙が切り裂いていく。まるで巨大な黒い剣が、天を貫いたかのようだった。
ドォォォォン!
凄まじい爆発音が、森を震撼させる。鳥たちが一斉に飛び立ち、獣たちが恐慌状態で逃げ出していく。世界そのものが悲鳴を上げているかのような、圧倒的な轟音だった。
「マジか!?」
「やりやがった……」
「す、すげぇ……」
エリナの胸に、熱いものがこみ上げてくる。
(レオン……みんな……やったんだ……)
遠く離れた火山で、仲間たちが命懸けで戦っている。自分と同じように不安を抱えながら、それでも前に進んでいる。
ならば、自分も負けてはいられない。
刹那、激しい地響き――――。
津波のような振動が、大地を伝わって迫ってくる。それは死そのものが地を這って近づいてくるような、不吉で圧倒的な気配だった。
「来る……」
ブラッドが剣を握り締める。歴戦の勇者の顔に、初めて緊張が走った。
遠くから聞こえてくるのは、阿鼻叫喚の絶叫。三万の魔物たちの、断末魔の合唱。それは地獄の釜が開いたような、この世のものとは思えない凄惨な音の洪水だった。
その時だった――。
ポゥ――。
エリナの全身が、突然虹色の光に包まれた。
「ナ、ナニコレ?」
ポゥポゥポゥポゥポゥポゥ……。
止まらない光の奔流。レベルアップの連鎖。火砕流に飲まれていく魔物たちの経験値が、パーティ全員に分配されているのだ。
体の奥底から、今まで感じたことのない力が湧き上がってくる。筋肉が熱を帯び、視界がクリアになり、時間の流れすら遅く感じる。まるで、眠っていた何かが目を覚ましたかのような感覚だった。
(これが……私の中に眠っていた力……?)
ドドドドド……。
足音が近づいてくる。死から逃れようとする必死の足音。火砕流から逃げ延びた魔物たちが、この隘路に殺到してくるのだ。
「撃ち方よぉーーい!」
ブラッドの号令に弓兵たちが一斉に矢を番える。
オーガ、リザードマン、トロール――火傷だらけの魔物たちが、恐怖に顔を歪めながら突進してくる。彼らの瞳には、もはや戦意などなかった。あるのはただ、死から逃れたいという原始的な本能だけ。
「てーーっ!」
ブラッドの合図で矢の雨が降り注ぐ。
矢が次々と突き刺さるが、死の恐怖に駆られた魔物たちは止まらない。痛みすら感じていないかのように、ただひたすらに前へ、前へと突き進んでくる。
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