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55. 突然のモテ期
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「そうだよ。誰が見ても立派なレディーだよ」
するとシエルは口を尖らせた。
「えー、今まで頑張って変装してきたのに……胸だってさらし巻いたりして……」
「え? これで巻いてるの?」
レオンは思わずシエルのふくよかな胸を覗き込んでしまう。確かに男装用のさらしで圧迫しているはずなのに、それでも隠しきれないほどの双丘が――――。
「いやぁ! エッチ!」
反射的にシエルはレオンの頬を張った。
パァン! といい音が響きわたる――――。
「痛てて……。ゴ、ゴメン……」
レオンは慌てて謝る。頬がジンジンと痛んだ。
「あ、いや、ごめんなさい。やりすぎちゃった……」
シエルも自分の過剰反応を後悔し、思わずレオンの頬をそっと撫でた。
「普通にさ、女の子の格好にしなよ」
「でも……それじゃすぐにバレそうで……って、こんなに目立ったら街に帰ったらバレちゃう……かも……」
シエルの声が、不安に震える。
コカトリスを撃ち落とした銀髪の弓手。その噂は、もう街中に広がっているだろう。アステリア家の追手が、それを聞きつけないはずがない。
「バレたってもう構わないよ。シエルは神業を持つ弓手なんだから、堂々と独立すれば」
「そう簡単に行くかしら……」
シエルは大きくため息をつき、うつむく。
貴族社会の闘の深さを、彼女は誰よりも知っていた。公爵家の権力は絶大で、その影響力は王国の隅々にまで及んでいるのだ。
「大丈夫、僕の見た未来ではアルカナは五人のままだった。シエルもメンバーだったよ?」
「ほ、本当? でも、絶対あの人たち、どんな手を使ってでも捕まえに来るわ。そして捕まったら最後、あのハゲの王族に政略結婚させられるんだわ」
シエルの声は、恐怖に震えていた。
過去の記憶が蘇る。父に呼び出された日。政略結婚を告げられた日。六十歳を超えた好色な大貴族の顔写真を見せられた時の、あの吐き気。
自分は商品だと、人間ではないのだと、突きつけられたあの瞬間。
あの絶望を、二度と味わいたくなかった。
「大丈夫。何があっても僕が守ってあげるからさ」
レオンの声は、力強かった。
迷いも、躊躇もない。ただ、真っ直ぐな誓いだけがそこにあった。
「え……? 守って……くれるの?」
シエルの碧眼が、驚きに揺れる。
守る。
その言葉を、シエルは生まれて初めて聞いた気がした。
「そりゃそうだよ。シエルは大切な仲間。どんな手を使っても守り切るさ」
「ほ、本当……?」
シエルの声が震えた。
『守り切る』
その言葉が、胸の奥深くに沁み込んでいく。
「本当さ、約束する」
レオンはニコッと笑う。
その笑顔を見た瞬間、シエルの中で何かが弾けた。
「レオンーー!」
シエルはいきなりレオンに抱き着いた。感情が溢れ、もう抑えきれなかった。
家を飛び出してから誰も信じられず、誰にも頼れず、ただ逃げ続けてきた。
寂しかった。
怖かった。
誰かに守ってほしかった。
その願いが、今、ようやく叶おうとしている。
「お、おいおい、ど、どうしたんだ?」
レオンは行き場のなくなった手を上げて困惑する。
「ボク、『守る』なんて初めて言われたかもしれない」
シエルの声は、涙に震えていた。
「え? 護衛ならいくらでもいただろ?」
「護衛が守ってるのは自分の仕事だし、貴族社会の掟よ。ボクのことなんて、なんとも思ってないわ」
シエルの言葉には、深い孤独が滲んでいた。
誰も、自分という人間を見てくれなかった。見ていたのは、アステリア家の紋章と、政略結婚に使える「商品価値」だけ。シエルという一人の少女の心を、誰も気にかけてはくれなかった。
「そ、そうか……それは辛かったね……」
レオンは、シエルの頭を優しく撫でた。
その温もりが、彼女の心を溶かしていく。凍りついていた何かが、ゆっくりと解けていくのを感じていた。
シエルは碧眼に涙を浮かべながら、レオンの瞳を見つめる。
「約束よ? 期待しちゃうからね?」
その涙に濡れる碧い瞳には、切実な願いが込められていた。
もう一人は嫌だ。
もう逃げ続けるのは嫌だ。
ずっとこの人のそばにいたい。ずっとこの人に守られていたい。
「も、もちろんだよ」
レオンはシエルの迫力に気圧されながらも、ニコッと笑って頷いた。
シエルにはその笑顔が、どんな誓約書よりも確かなものに映った。
「嬉しい!」
遠慮も羞恥も忘れて、きつく抱き着くシエル。ただ全身で喜びを表現した。
温かい。
レオンの体は、こんなにも温かかった。
「お、おいおい……」
その勢いにレオンはたじたじになる。
ピロン!
その時、レオンの脳裏にまたメッセージが浮かんだ。
【スキルメッセージ】
【好感度上昇】
シエル:90→120【ラブ】※要注意
(はぁっ!?)
また限界突破してしまった。
彼女たちはなぜこんなにチョロいのか――――?
普通に『仲間を守る』と言っただけで、なぜ落ちるのか?
逆に言えばそれだけ彼女たちはひどい扱いを受け続けてきたのだろう。
普通に接するだけのレオンにも、すがりたくなるほどの悲しい孤独が彼女たちを蝕んでいたのだろう。
だからこそ、こんなにも深く、こんなにも強く、想いを寄せてくれているのだ。
だが――――。
レオンは思わず宙を仰いだ。
セリナに振り回されて、最後には手ひどく裏切られたばかりなのだ。
女性とはしばらく距離を取っておきたいレオンにとって、降って湧いたような突然のモテ期にどうしたらいいのか見当もつかず、思わず深いため息をついた。
(これ、本当に大丈夫なのか……?)
茜色に染まった空が、どこまでも広がっている。
ひしっと抱きついてくるシエルの熱を感じながら、レオンは新たな戦いがさらに一段深化してしまったことを憂えた。
三人の美少女から好感度を限界突破されている。
これは、ある意味では、Sランクの魔物と戦うよりも危険かもしれない。
ただ、不思議と嫌ではなかった。
むしろ、この温もりを守りたいと思う自分もいる。
彼女たちの笑顔を、彼女たちの未来を、何があっても守り抜きたいと。
(……まあ、なんとかなるか)
レオンは小さく笑って、シエルの銀髪を優しく撫でた。
夕陽が、二人の影を長く伸ばしていく。
するとシエルは口を尖らせた。
「えー、今まで頑張って変装してきたのに……胸だってさらし巻いたりして……」
「え? これで巻いてるの?」
レオンは思わずシエルのふくよかな胸を覗き込んでしまう。確かに男装用のさらしで圧迫しているはずなのに、それでも隠しきれないほどの双丘が――――。
「いやぁ! エッチ!」
反射的にシエルはレオンの頬を張った。
パァン! といい音が響きわたる――――。
「痛てて……。ゴ、ゴメン……」
レオンは慌てて謝る。頬がジンジンと痛んだ。
「あ、いや、ごめんなさい。やりすぎちゃった……」
シエルも自分の過剰反応を後悔し、思わずレオンの頬をそっと撫でた。
「普通にさ、女の子の格好にしなよ」
「でも……それじゃすぐにバレそうで……って、こんなに目立ったら街に帰ったらバレちゃう……かも……」
シエルの声が、不安に震える。
コカトリスを撃ち落とした銀髪の弓手。その噂は、もう街中に広がっているだろう。アステリア家の追手が、それを聞きつけないはずがない。
「バレたってもう構わないよ。シエルは神業を持つ弓手なんだから、堂々と独立すれば」
「そう簡単に行くかしら……」
シエルは大きくため息をつき、うつむく。
貴族社会の闘の深さを、彼女は誰よりも知っていた。公爵家の権力は絶大で、その影響力は王国の隅々にまで及んでいるのだ。
「大丈夫、僕の見た未来ではアルカナは五人のままだった。シエルもメンバーだったよ?」
「ほ、本当? でも、絶対あの人たち、どんな手を使ってでも捕まえに来るわ。そして捕まったら最後、あのハゲの王族に政略結婚させられるんだわ」
シエルの声は、恐怖に震えていた。
過去の記憶が蘇る。父に呼び出された日。政略結婚を告げられた日。六十歳を超えた好色な大貴族の顔写真を見せられた時の、あの吐き気。
自分は商品だと、人間ではないのだと、突きつけられたあの瞬間。
あの絶望を、二度と味わいたくなかった。
「大丈夫。何があっても僕が守ってあげるからさ」
レオンの声は、力強かった。
迷いも、躊躇もない。ただ、真っ直ぐな誓いだけがそこにあった。
「え……? 守って……くれるの?」
シエルの碧眼が、驚きに揺れる。
守る。
その言葉を、シエルは生まれて初めて聞いた気がした。
「そりゃそうだよ。シエルは大切な仲間。どんな手を使っても守り切るさ」
「ほ、本当……?」
シエルの声が震えた。
『守り切る』
その言葉が、胸の奥深くに沁み込んでいく。
「本当さ、約束する」
レオンはニコッと笑う。
その笑顔を見た瞬間、シエルの中で何かが弾けた。
「レオンーー!」
シエルはいきなりレオンに抱き着いた。感情が溢れ、もう抑えきれなかった。
家を飛び出してから誰も信じられず、誰にも頼れず、ただ逃げ続けてきた。
寂しかった。
怖かった。
誰かに守ってほしかった。
その願いが、今、ようやく叶おうとしている。
「お、おいおい、ど、どうしたんだ?」
レオンは行き場のなくなった手を上げて困惑する。
「ボク、『守る』なんて初めて言われたかもしれない」
シエルの声は、涙に震えていた。
「え? 護衛ならいくらでもいただろ?」
「護衛が守ってるのは自分の仕事だし、貴族社会の掟よ。ボクのことなんて、なんとも思ってないわ」
シエルの言葉には、深い孤独が滲んでいた。
誰も、自分という人間を見てくれなかった。見ていたのは、アステリア家の紋章と、政略結婚に使える「商品価値」だけ。シエルという一人の少女の心を、誰も気にかけてはくれなかった。
「そ、そうか……それは辛かったね……」
レオンは、シエルの頭を優しく撫でた。
その温もりが、彼女の心を溶かしていく。凍りついていた何かが、ゆっくりと解けていくのを感じていた。
シエルは碧眼に涙を浮かべながら、レオンの瞳を見つめる。
「約束よ? 期待しちゃうからね?」
その涙に濡れる碧い瞳には、切実な願いが込められていた。
もう一人は嫌だ。
もう逃げ続けるのは嫌だ。
ずっとこの人のそばにいたい。ずっとこの人に守られていたい。
「も、もちろんだよ」
レオンはシエルの迫力に気圧されながらも、ニコッと笑って頷いた。
シエルにはその笑顔が、どんな誓約書よりも確かなものに映った。
「嬉しい!」
遠慮も羞恥も忘れて、きつく抱き着くシエル。ただ全身で喜びを表現した。
温かい。
レオンの体は、こんなにも温かかった。
「お、おいおい……」
その勢いにレオンはたじたじになる。
ピロン!
その時、レオンの脳裏にまたメッセージが浮かんだ。
【スキルメッセージ】
【好感度上昇】
シエル:90→120【ラブ】※要注意
(はぁっ!?)
また限界突破してしまった。
彼女たちはなぜこんなにチョロいのか――――?
普通に『仲間を守る』と言っただけで、なぜ落ちるのか?
逆に言えばそれだけ彼女たちはひどい扱いを受け続けてきたのだろう。
普通に接するだけのレオンにも、すがりたくなるほどの悲しい孤独が彼女たちを蝕んでいたのだろう。
だからこそ、こんなにも深く、こんなにも強く、想いを寄せてくれているのだ。
だが――――。
レオンは思わず宙を仰いだ。
セリナに振り回されて、最後には手ひどく裏切られたばかりなのだ。
女性とはしばらく距離を取っておきたいレオンにとって、降って湧いたような突然のモテ期にどうしたらいいのか見当もつかず、思わず深いため息をついた。
(これ、本当に大丈夫なのか……?)
茜色に染まった空が、どこまでも広がっている。
ひしっと抱きついてくるシエルの熱を感じながら、レオンは新たな戦いがさらに一段深化してしまったことを憂えた。
三人の美少女から好感度を限界突破されている。
これは、ある意味では、Sランクの魔物と戦うよりも危険かもしれない。
ただ、不思議と嫌ではなかった。
むしろ、この温もりを守りたいと思う自分もいる。
彼女たちの笑顔を、彼女たちの未来を、何があっても守り抜きたいと。
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