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60. 認められない過ち
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あのレオンだ。
血を見れば震え上がり、剣一つ振るえない臆病者。戦闘になれば足手まといで、いつも後ろに隠れているだけの役立たず。そんな男が、三万の魔物を相手に勝利を収めた?
馬鹿げている。
絶対に、何かの間違いだ。
「何かの間違いだわ!」
セリナも否定する。
だが――目の前で繰り広げられている凱旋パレードは、紛れもない現実だ。街の人々は涙を流しながらレオンの名前を叫び、花びらを投げ、魔法の花火を打ち上げている。
恨み言を吐いてみても、街の人々はレオンの名前を興奮しながら口にしているのだ。
新生パーティ『アルカナ』――その名前が、希望と共に語られている。
かつて『太陽の剣』に向けられていた称賛が、今は全て『アルカナ』に注がれている。自分たちが何年もかけて築き上げてきた名声を、あの落ちこぼれパーティが、たった一夜で塗り替えてしまった。
カインの奥歯がギリッと音を立てた。
認めない。
絶対に、認めるものか。
あいつは無能だ。戦闘力ゼロの役立たずだ。自分が追い出してやらなければ、いつまでもパーティの足を引っ張り続けていただろう。
自分の判断は正しかった。
正しかったはずだ。
なのに、なぜ――。
「いつか身の程を分からせてやる……行くぞ!」
カインは鬼のような表情を浮かべ、席を立った。遅れた分を取り戻すべく、ダンジョンへと足を進める。
その碧眼には、嫉妬と憎悪が渦巻いていた。
レオンを叩き潰す。自分こそが真の英雄だと証明する。そのためには、どんな手段を使ってでも――。
その背中を見つめながら、セリナは小さくため息をついた。
栗色の髪を指で弄びながら、彼女は冷静に計算していた。
(カイン様……大丈夫かしら……。もしかして……私、選択を間違えた……?)
その考えを、セリナは慌てて振り払う。
レオンを捨てたことが、間違いだったなどとは絶対に認められない。
セリナはギリッと奥歯を鳴らした。
◇
ダンジョン二階――――。
まだ入って間もないというのに、『太陽の剣』は罠にはまり、行き詰まっていた。
床に開いた落とし穴。壁から飛び出す毒矢。突如として襲いかかる天井の圧縮トラップ。どれもこれも、かつてレオンが事前に見抜いていたものばかりだったが、それらを避けられずにいたのだ。
以前なら、レオンが「この先に罠がある」と告げ、安全なルートを示してくれた。カインたちは何の苦労もなく、ただ彼の指示に従って進むだけでよかった。
それが当たり前だと思っていた。
レオンの能力を、空気のように当然のものだと思っていたのだ。
「おい! 話が違うぞ、どうなってんだ!?」
カインの怒声が、ダンジョンの闇に響く。
毒矢の罠に引っかかり、仲間の一人が肩を負傷していた。セリナが治癒魔法をかけているが、その表情は苦々しい。
「どうなってるも何も、【鑑定】スキルで罠なんて七割見つけられれば御の字ですよ!」
新人の鑑定士は、いきなり理不尽に詰められて思わず言い返した。
レオンの後任として雇われた彼は、それなりに腕の立つ鑑定士だった。ギルドでの評価も悪くない。他のパーティなら、十分に通用するレベルだ。
だが、『太陽の剣』の期待には、到底応えられなかった。
彼らが求めているのは、百パーセントの的中率。一つの見落としも許されない、完璧な鑑定。
そんなことをできる人間がこの世にいるという前提が、鑑定士には信じられなかった。
「はぁ!? レオンは罠を全部見つけてたぞ!」
カインの言葉に、鑑定士は呆れた表情を浮かべた。
「じゃぁ、その人に頼んでくださいよ。罠を百パーセント見つけられるなんて、そんなのもはや【神】ですよ」
だがこの言葉は、カインの耳に痛烈な皮肉として響いた。
レオンに頼め、追い出した男に頭を下げろ、と。
「くっ! 役立たずが! クビだクビ!」
カインの顔が、怒りで真っ赤に染まる。瞳が狂気じみた光を宿していた。
「そんなのこっちから辞めてやる! Aクラスだっていうから期待してたのに、とんだ詐欺だ!」
鑑定士の言葉が、カインの逆鱗に触れた。
詐欺。
その言葉が、心の奥底に突き刺さる。
なるほど、レオンは優秀だったのかもしれない。
だが、いまさらそれを認めるわけにはいかない。
認めてしまったら、自分が間違っていたことになってしまう。そんなこと死んでも許されない。
「おい……。詐欺とはなんだ……? あぁっ!?」
カインは思わず剣を振りかぶった。理性が、怒りに呑まれていく。
「うわぁ! 人殺し!! ひぃぃぃ!」
鑑定士は慌てて逃げ出し、這う這うの体で闇の中に消えていった。その悲鳴が、ダンジョンの壁に反響し、やがて静寂に呑まれていく。
後に残されたのは、荒い息をするカインと、冷めた目で彼を見つめるパーティメンバーだった。
血を見れば震え上がり、剣一つ振るえない臆病者。戦闘になれば足手まといで、いつも後ろに隠れているだけの役立たず。そんな男が、三万の魔物を相手に勝利を収めた?
馬鹿げている。
絶対に、何かの間違いだ。
「何かの間違いだわ!」
セリナも否定する。
だが――目の前で繰り広げられている凱旋パレードは、紛れもない現実だ。街の人々は涙を流しながらレオンの名前を叫び、花びらを投げ、魔法の花火を打ち上げている。
恨み言を吐いてみても、街の人々はレオンの名前を興奮しながら口にしているのだ。
新生パーティ『アルカナ』――その名前が、希望と共に語られている。
かつて『太陽の剣』に向けられていた称賛が、今は全て『アルカナ』に注がれている。自分たちが何年もかけて築き上げてきた名声を、あの落ちこぼれパーティが、たった一夜で塗り替えてしまった。
カインの奥歯がギリッと音を立てた。
認めない。
絶対に、認めるものか。
あいつは無能だ。戦闘力ゼロの役立たずだ。自分が追い出してやらなければ、いつまでもパーティの足を引っ張り続けていただろう。
自分の判断は正しかった。
正しかったはずだ。
なのに、なぜ――。
「いつか身の程を分からせてやる……行くぞ!」
カインは鬼のような表情を浮かべ、席を立った。遅れた分を取り戻すべく、ダンジョンへと足を進める。
その碧眼には、嫉妬と憎悪が渦巻いていた。
レオンを叩き潰す。自分こそが真の英雄だと証明する。そのためには、どんな手段を使ってでも――。
その背中を見つめながら、セリナは小さくため息をついた。
栗色の髪を指で弄びながら、彼女は冷静に計算していた。
(カイン様……大丈夫かしら……。もしかして……私、選択を間違えた……?)
その考えを、セリナは慌てて振り払う。
レオンを捨てたことが、間違いだったなどとは絶対に認められない。
セリナはギリッと奥歯を鳴らした。
◇
ダンジョン二階――――。
まだ入って間もないというのに、『太陽の剣』は罠にはまり、行き詰まっていた。
床に開いた落とし穴。壁から飛び出す毒矢。突如として襲いかかる天井の圧縮トラップ。どれもこれも、かつてレオンが事前に見抜いていたものばかりだったが、それらを避けられずにいたのだ。
以前なら、レオンが「この先に罠がある」と告げ、安全なルートを示してくれた。カインたちは何の苦労もなく、ただ彼の指示に従って進むだけでよかった。
それが当たり前だと思っていた。
レオンの能力を、空気のように当然のものだと思っていたのだ。
「おい! 話が違うぞ、どうなってんだ!?」
カインの怒声が、ダンジョンの闇に響く。
毒矢の罠に引っかかり、仲間の一人が肩を負傷していた。セリナが治癒魔法をかけているが、その表情は苦々しい。
「どうなってるも何も、【鑑定】スキルで罠なんて七割見つけられれば御の字ですよ!」
新人の鑑定士は、いきなり理不尽に詰められて思わず言い返した。
レオンの後任として雇われた彼は、それなりに腕の立つ鑑定士だった。ギルドでの評価も悪くない。他のパーティなら、十分に通用するレベルだ。
だが、『太陽の剣』の期待には、到底応えられなかった。
彼らが求めているのは、百パーセントの的中率。一つの見落としも許されない、完璧な鑑定。
そんなことをできる人間がこの世にいるという前提が、鑑定士には信じられなかった。
「はぁ!? レオンは罠を全部見つけてたぞ!」
カインの言葉に、鑑定士は呆れた表情を浮かべた。
「じゃぁ、その人に頼んでくださいよ。罠を百パーセント見つけられるなんて、そんなのもはや【神】ですよ」
だがこの言葉は、カインの耳に痛烈な皮肉として響いた。
レオンに頼め、追い出した男に頭を下げろ、と。
「くっ! 役立たずが! クビだクビ!」
カインの顔が、怒りで真っ赤に染まる。瞳が狂気じみた光を宿していた。
「そんなのこっちから辞めてやる! Aクラスだっていうから期待してたのに、とんだ詐欺だ!」
鑑定士の言葉が、カインの逆鱗に触れた。
詐欺。
その言葉が、心の奥底に突き刺さる。
なるほど、レオンは優秀だったのかもしれない。
だが、いまさらそれを認めるわけにはいかない。
認めてしまったら、自分が間違っていたことになってしまう。そんなこと死んでも許されない。
「おい……。詐欺とはなんだ……? あぁっ!?」
カインは思わず剣を振りかぶった。理性が、怒りに呑まれていく。
「うわぁ! 人殺し!! ひぃぃぃ!」
鑑定士は慌てて逃げ出し、這う這うの体で闇の中に消えていった。その悲鳴が、ダンジョンの壁に反響し、やがて静寂に呑まれていく。
後に残されたのは、荒い息をするカインと、冷めた目で彼を見つめるパーティメンバーだった。
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