61 / 123
61. 不穏なスタート
しおりを挟む
「あーあ……。もう、今日はダメね……また新しいメンバー探しましょ?」
セリナはカインに声をかける。その声には、もはや何の感情も込められていなかった。ただ、次の道具を探すかのような冷淡さだけがある。
「くっそぉ! みんなレオンのクズのせいだ!」
カインは剣を床に叩きつけ、獣のように吠えた。
ガンッ! と金属音が響き、ダンジョンの闇に吸い込まれていく。
かつて輝いていたAランクパーティ『太陽の剣』は、今や見る影もなかった。
ダンジョン攻略には、単に攻撃力のある剣士がいるだけでは難しい。そういう剣士の力をフルに発揮させる優秀な後方支援があってこそ、上手く回るのだ。
罠を見抜き、敵の弱点を分析し、最適な戦術を組み立てる。そうした頭脳労働を一手に引き受けていたのが、レオンだった。
レオンという優秀な羅針盤を失った彼らは、ただ崩壊へと向かっていく。
だが、カインはそれを認めようとしない。
認められない。
あいつは無能だ。役立たずだ。自分の足を引っ張っていただけの、価値のない男だ。
そう信じ続けなければ、自分の存在意義が崩れてしまう。
嫉妬と憎悪に歪んだ瞳が、闇の中で鈍く光っていた。
◇
その頃、アルカナの一行はギルドで歴史的快挙の後処理に追われていた。
ギルドマスターへの報告、詳細なヒアリング、そして報奨金金貨五百枚の受け取り。その後は新聞記者たちに囲まれ、矢継ぎ早に質問を浴びせられた。
いきなりの英雄扱いに、みんな圧倒されっぱなしである。
つい数日前まで「落ちこぼれパーティ」と嘲笑されていた者たちが、今や大陸中の注目を集める英雄として扱われている。その変化があまりにも急激で、現実感が追いついてこない。
なんとかこなしきった頃には、陽は傾いていた。
ギルドの中にいても、人々は次々と『アルカナ』のメンバーに握手を求め、子供たちは目を輝かせてサインをねだってくる。英雄として迎えられる喜びと同時に、その重圧がレオンの肩にのしかかっていた。
少し落ち着きが出てきた頃、レオンはメンバーを見回す。
四人の少女たちも疲れ切っていた。慣れない取材対応と、絶え間ない握手攻めで、みんな目の下に隈ができている。
「お疲れさん! 腹減ったな。お祝いがてら『腹ペコグリフォン亭』でも行くか?」
ヘトヘトになっている少女たちにレオンが声をかける。
「うん!」
「やったぁ!」
「わーい!」
「いいですわね!」
その言葉を聞いた瞬間、みんなの瞳がキラリと輝いた。疲労が吹き飛んだかのように、顔に生気が戻っていく。
◇
店に入ると、おかみさんは上機嫌で迎えてくれた。
「まあまあ、英雄様たちじゃありませんか! いらっしゃいませ!」
その声は店中に響き渡り、他の客たちも振り返って『アルカナ』を見つめた。だが、おかみさんは素早く一行を奥の個室へと案内してくれた。前回、酔っ払いに絡まれたことを覚えていてくれたのだろう。
「英雄様たちのために、特別に一番いい部屋を用意しましたよ!」
おかみさんの笑顔が、心から嬉しそうだった。彼女にとっても、『アルカナ』は文字通りの命の恩人なのだ。
「よーし、食うぞー!」
「わーい、肉、肉ぅ!」「お腹すいたー!」「たくさん食べちゃおっと!」「食べますわよぉ!」
席に着く際、ルナがちゃっかりレオンの隣に席を取る。馬車での失敗を繰り返すまいと、その動きは素早かった。小柄な体を滑り込ませ、満足げに椅子に収まる。
「あっ!」
シエルも負けじとレオンの隣に滑り込んだ。銀髪がふわりと揺れ、勝ち誇った笑みが浮かぶ。
タッチの差で座り損ねたミーシャは、ギリッと奥歯を鳴らす。空色の瞳が、二人を睨みつけている。
「なんで勝手に座んのよ!」
「早い者勝ちデース!」
「普通そうよね?」
ルナとシエルが勝ち誇る。二人の表情には、隠しきれない優越感が浮かんでいた。
「ずるーい!」
膨れるミーシャ。その頬は怒りで赤く染まり、聖女の仮面などどこかに吹き飛んでしまっている。
「ほら、向かいの席が空いてるよ? ね?」
レオンはうんざりしながら声をかける。もはや諦めの境地だった。この少女たちの争いを止めることは、三万の魔物を倒すより難しいのかもしれない。
◇
不穏なスタートになってしまったが、一応お祝いの席である。せっかくなのでみんなでエールを頼んだ。
この国ではアルコールは十六歳から飲める。かなり高価なので普段はなかなか手が出ないが、今日は特別な日である。そう、自分たちは英雄なのだ。金貨五百枚の報奨金だって手に入った。少しくらい贅沢しても罰は当たらないだろう。
「よーし、じゃぁ乾杯するぞ! アルカナにーーカンパーイ!」
「カンパーイ!」
「ヨイショー!」
「イェーイ!」
「乾杯!」
五つのジョッキがぶつかり合い、軽やかな音を立てる。みんな一気にジョッキを傾けた。
琥珀色の液体が、喉を通っていく。その苦みと爽快感が、疲れた身体に染み渡っていった。命懸けの戦いを乗り越え、凱旋した後の一杯は格別の味がした。
セリナはカインに声をかける。その声には、もはや何の感情も込められていなかった。ただ、次の道具を探すかのような冷淡さだけがある。
「くっそぉ! みんなレオンのクズのせいだ!」
カインは剣を床に叩きつけ、獣のように吠えた。
ガンッ! と金属音が響き、ダンジョンの闇に吸い込まれていく。
かつて輝いていたAランクパーティ『太陽の剣』は、今や見る影もなかった。
ダンジョン攻略には、単に攻撃力のある剣士がいるだけでは難しい。そういう剣士の力をフルに発揮させる優秀な後方支援があってこそ、上手く回るのだ。
罠を見抜き、敵の弱点を分析し、最適な戦術を組み立てる。そうした頭脳労働を一手に引き受けていたのが、レオンだった。
レオンという優秀な羅針盤を失った彼らは、ただ崩壊へと向かっていく。
だが、カインはそれを認めようとしない。
認められない。
あいつは無能だ。役立たずだ。自分の足を引っ張っていただけの、価値のない男だ。
そう信じ続けなければ、自分の存在意義が崩れてしまう。
嫉妬と憎悪に歪んだ瞳が、闇の中で鈍く光っていた。
◇
その頃、アルカナの一行はギルドで歴史的快挙の後処理に追われていた。
ギルドマスターへの報告、詳細なヒアリング、そして報奨金金貨五百枚の受け取り。その後は新聞記者たちに囲まれ、矢継ぎ早に質問を浴びせられた。
いきなりの英雄扱いに、みんな圧倒されっぱなしである。
つい数日前まで「落ちこぼれパーティ」と嘲笑されていた者たちが、今や大陸中の注目を集める英雄として扱われている。その変化があまりにも急激で、現実感が追いついてこない。
なんとかこなしきった頃には、陽は傾いていた。
ギルドの中にいても、人々は次々と『アルカナ』のメンバーに握手を求め、子供たちは目を輝かせてサインをねだってくる。英雄として迎えられる喜びと同時に、その重圧がレオンの肩にのしかかっていた。
少し落ち着きが出てきた頃、レオンはメンバーを見回す。
四人の少女たちも疲れ切っていた。慣れない取材対応と、絶え間ない握手攻めで、みんな目の下に隈ができている。
「お疲れさん! 腹減ったな。お祝いがてら『腹ペコグリフォン亭』でも行くか?」
ヘトヘトになっている少女たちにレオンが声をかける。
「うん!」
「やったぁ!」
「わーい!」
「いいですわね!」
その言葉を聞いた瞬間、みんなの瞳がキラリと輝いた。疲労が吹き飛んだかのように、顔に生気が戻っていく。
◇
店に入ると、おかみさんは上機嫌で迎えてくれた。
「まあまあ、英雄様たちじゃありませんか! いらっしゃいませ!」
その声は店中に響き渡り、他の客たちも振り返って『アルカナ』を見つめた。だが、おかみさんは素早く一行を奥の個室へと案内してくれた。前回、酔っ払いに絡まれたことを覚えていてくれたのだろう。
「英雄様たちのために、特別に一番いい部屋を用意しましたよ!」
おかみさんの笑顔が、心から嬉しそうだった。彼女にとっても、『アルカナ』は文字通りの命の恩人なのだ。
「よーし、食うぞー!」
「わーい、肉、肉ぅ!」「お腹すいたー!」「たくさん食べちゃおっと!」「食べますわよぉ!」
席に着く際、ルナがちゃっかりレオンの隣に席を取る。馬車での失敗を繰り返すまいと、その動きは素早かった。小柄な体を滑り込ませ、満足げに椅子に収まる。
「あっ!」
シエルも負けじとレオンの隣に滑り込んだ。銀髪がふわりと揺れ、勝ち誇った笑みが浮かぶ。
タッチの差で座り損ねたミーシャは、ギリッと奥歯を鳴らす。空色の瞳が、二人を睨みつけている。
「なんで勝手に座んのよ!」
「早い者勝ちデース!」
「普通そうよね?」
ルナとシエルが勝ち誇る。二人の表情には、隠しきれない優越感が浮かんでいた。
「ずるーい!」
膨れるミーシャ。その頬は怒りで赤く染まり、聖女の仮面などどこかに吹き飛んでしまっている。
「ほら、向かいの席が空いてるよ? ね?」
レオンはうんざりしながら声をかける。もはや諦めの境地だった。この少女たちの争いを止めることは、三万の魔物を倒すより難しいのかもしれない。
◇
不穏なスタートになってしまったが、一応お祝いの席である。せっかくなのでみんなでエールを頼んだ。
この国ではアルコールは十六歳から飲める。かなり高価なので普段はなかなか手が出ないが、今日は特別な日である。そう、自分たちは英雄なのだ。金貨五百枚の報奨金だって手に入った。少しくらい贅沢しても罰は当たらないだろう。
「よーし、じゃぁ乾杯するぞ! アルカナにーーカンパーイ!」
「カンパーイ!」
「ヨイショー!」
「イェーイ!」
「乾杯!」
五つのジョッキがぶつかり合い、軽やかな音を立てる。みんな一気にジョッキを傾けた。
琥珀色の液体が、喉を通っていく。その苦みと爽快感が、疲れた身体に染み渡っていった。命懸けの戦いを乗り越え、凱旋した後の一杯は格別の味がした。
61
あなたにおすすめの小説
本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜
あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい!
ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット”
ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで?
異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。
チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。
「────さてと、今日は何を読もうかな」
これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。
◆小説家になろう様でも、公開中◆
◆恋愛要素は、ありません◆
精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~
舞
ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。
異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。
夢は優しい国づくり。
『くに、つくりますか?』
『あめのぬぼこ、ぐるぐる』
『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』
いや、それはもう過ぎてますから。
【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!
花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】
《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》
天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。
キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。
一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。
キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。
辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。
辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。
国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。
リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。
※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい
カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった
仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!
さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。
冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。
底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。
そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。
部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。
ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。
『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる