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62. ディープに決める
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「うはぁ、効くなぁ」
「ちょっと苦いけど、それがいいかも。ふふっ」
日頃飲みなれないだけに、みんなやられ気味である。頬がほんのりと紅潮し、瞳が潤んでいく。特に小柄なルナは、あっという間に顔が真っ赤になっていた。
しばらく肉をむさぼり、シチューをすすりながら、今日の凱旋の話で盛り上がる。
「まさかこんなに歓待してもらえるなんて思わなかったよ」
「そうそう! 生まれて初めてだよぉ」
「街を守れてよかった……」
みんなしみじみと死闘の成果に胸が熱くなっていた。
こんな日が来るなんて、つい数日前までは想像もできなかった。落ちこぼれと蔑まれ、誰にも期待されず、ただ細々と生きていくだけだと思っていた。それが今、英雄として讃えられ、こうして仲間と杯を交わしている。
運命は、本当に変わったのだ。
「あらぁ、レオンったらぁ、ほっぺたにシチューが付いちゃってるわよ? ふふっ」
すっかり酔っぱらって赤くなったルナが、とろんとした緋色の瞳でレオンを見つめながらそう言った。
そして次の瞬間、彼女はレオンのほほをペロッと舐めた。
その柔らかな舌の感触に、レオンの思考が一瞬停止する。
温かく湿った甘い下がほほに――。
「へ?」
「え?」
「はぁっ!?」
シエルはパンをポロッと落とし、ミーシャはガン!と立ち上がった。テーブルが大きく揺れ、スープが波打つ。
「あんた! 何やってんのよ!」
ミーシャの声が、部屋に響き渡る。聖女の仮面など跡形もなく、そこにいるのは嫉妬に燃える一人の少女だった。
「え? シチュー舐めとってあげただけよ? 昔は、弟のほっぺもこうやって舐めてたのよ?」
ルナは酔っぱらって、自分が何をしたのか理解していないようだった。緋色の瞳がとろんと潤み、頬は林檎のように赤く染まっている。無邪気な笑顔を浮かべているが、その行動は全く無邪気ではない。
「ガキとレオンは違うでしょーが!!」
ミーシャは目を三角にして激怒する。その表情は、聖女のそれではなく、嫉妬に狂った乙女のそれだった。普段の「あらあら、うふふ」はどこへやら、完全に本性が剥き出しになっている。
「まぁまぁ、ちょっと落ち着いて……ね?」
レオンは場を収めようとした。頬にはまだルナの舌の感触が残っており、心臓が激しく鳴っている。だが、今はそれどころではない。このまま放っておいたら、血を見ることになりかねない。
しかし――――。
「そんなことするなら私だって!」
シエルは突然立ち上がり、レオンにバッと抱き着いた。その勢いにレオンは椅子ごと倒れそうになる。
「うわぁ!」
次の瞬間、シエルは目をぎゅっとつぶって、レオンのほほにチュッとキスした。
その柔らかな唇の感触が、レオンの頬に残る。
花のような香りが鼻腔をくすぐり、銀髪が視界を覆った。
シエルの顔は、耳まで真っ赤に染まっている。酔いのせいか、恥ずかしさのせいか、だが、その碧眼には確かな決意が宿っていた。
「はぁぁぁぁ!?」
怒髪天を衝くミーシャ。
その叫び声は、おそらく店の外まで響いただろう。空色の瞳が、怒りで燃え上がっている。
「ふっざけんじゃないわよぉぉぉ!」
ミーシャはテーブルの上のパンを掴むと、思いっきりシエルに投げつけた。
硬いパンがカン!とシエルの銀髪で跳ね返る。
「いったーい! 何すんのよぉ!」
シエルはガタッと立ち上がり、ものすごい剣幕で睨んだ。その碧眼には、明確な敵意が宿っている。普段の控えめな少女はどこへやら、今の彼女は戦場で魔物と対峙した時と同じ目をしていた。
「ストップ! ストーーーーップ!!」
レオンは慌てて立ち上がり、両手を振って二人を制止する。
「ここはレストラン。こんな大騒ぎしたら迷惑だよ? 落ち着いて……ね?」
レオンの声は、必死だった。せっかくおかみさんが気を遣って個室を用意してくれたのに、このままでは出禁になってしまう。
「じゃあ、レオンはここに座って!」
ミーシャは自分の隣の席を指す。その声には、有無を言わせぬ圧力が込められていた。
「え?」
「二人だけズルい! 私だってディープに決めてやるんだから!」
もう滅茶苦茶である。
「ちょっ、ちょっと待って! キスってのは合意じゃなきゃセクハラなんだけど?」
レオンは必死になって指摘する。だが、その声は震えていた。
「何よ! こいつらのキスはセクハラじゃないわけ? 何? 合意したの?」
ミーシャの怒りは止まらない。その瞳には、涙すら浮かんでいた。
怒っているだけではない。悔しいのだ。自分だけ出遅れてしまったことが。
ライバルに遅れている。そのあるまじき事態がミーシャの理性を吹き飛ばしていた。
レオンは深くため息をつくと、ルナとシエルに向き直った。
「キスはダメ! 今度やったらペナルティだぞ!」
その声には、普段のレオンにはない厳しさが込められていた。本気で怒っていることを見せねばならない。
「わ、分かったわよ……」
「はーい……」
レオンの気迫に二人は小さくなってうつむいた。自分たちがしでかしたことの重大さにようやく気づいたようだった。
「ちょっと苦いけど、それがいいかも。ふふっ」
日頃飲みなれないだけに、みんなやられ気味である。頬がほんのりと紅潮し、瞳が潤んでいく。特に小柄なルナは、あっという間に顔が真っ赤になっていた。
しばらく肉をむさぼり、シチューをすすりながら、今日の凱旋の話で盛り上がる。
「まさかこんなに歓待してもらえるなんて思わなかったよ」
「そうそう! 生まれて初めてだよぉ」
「街を守れてよかった……」
みんなしみじみと死闘の成果に胸が熱くなっていた。
こんな日が来るなんて、つい数日前までは想像もできなかった。落ちこぼれと蔑まれ、誰にも期待されず、ただ細々と生きていくだけだと思っていた。それが今、英雄として讃えられ、こうして仲間と杯を交わしている。
運命は、本当に変わったのだ。
「あらぁ、レオンったらぁ、ほっぺたにシチューが付いちゃってるわよ? ふふっ」
すっかり酔っぱらって赤くなったルナが、とろんとした緋色の瞳でレオンを見つめながらそう言った。
そして次の瞬間、彼女はレオンのほほをペロッと舐めた。
その柔らかな舌の感触に、レオンの思考が一瞬停止する。
温かく湿った甘い下がほほに――。
「へ?」
「え?」
「はぁっ!?」
シエルはパンをポロッと落とし、ミーシャはガン!と立ち上がった。テーブルが大きく揺れ、スープが波打つ。
「あんた! 何やってんのよ!」
ミーシャの声が、部屋に響き渡る。聖女の仮面など跡形もなく、そこにいるのは嫉妬に燃える一人の少女だった。
「え? シチュー舐めとってあげただけよ? 昔は、弟のほっぺもこうやって舐めてたのよ?」
ルナは酔っぱらって、自分が何をしたのか理解していないようだった。緋色の瞳がとろんと潤み、頬は林檎のように赤く染まっている。無邪気な笑顔を浮かべているが、その行動は全く無邪気ではない。
「ガキとレオンは違うでしょーが!!」
ミーシャは目を三角にして激怒する。その表情は、聖女のそれではなく、嫉妬に狂った乙女のそれだった。普段の「あらあら、うふふ」はどこへやら、完全に本性が剥き出しになっている。
「まぁまぁ、ちょっと落ち着いて……ね?」
レオンは場を収めようとした。頬にはまだルナの舌の感触が残っており、心臓が激しく鳴っている。だが、今はそれどころではない。このまま放っておいたら、血を見ることになりかねない。
しかし――――。
「そんなことするなら私だって!」
シエルは突然立ち上がり、レオンにバッと抱き着いた。その勢いにレオンは椅子ごと倒れそうになる。
「うわぁ!」
次の瞬間、シエルは目をぎゅっとつぶって、レオンのほほにチュッとキスした。
その柔らかな唇の感触が、レオンの頬に残る。
花のような香りが鼻腔をくすぐり、銀髪が視界を覆った。
シエルの顔は、耳まで真っ赤に染まっている。酔いのせいか、恥ずかしさのせいか、だが、その碧眼には確かな決意が宿っていた。
「はぁぁぁぁ!?」
怒髪天を衝くミーシャ。
その叫び声は、おそらく店の外まで響いただろう。空色の瞳が、怒りで燃え上がっている。
「ふっざけんじゃないわよぉぉぉ!」
ミーシャはテーブルの上のパンを掴むと、思いっきりシエルに投げつけた。
硬いパンがカン!とシエルの銀髪で跳ね返る。
「いったーい! 何すんのよぉ!」
シエルはガタッと立ち上がり、ものすごい剣幕で睨んだ。その碧眼には、明確な敵意が宿っている。普段の控えめな少女はどこへやら、今の彼女は戦場で魔物と対峙した時と同じ目をしていた。
「ストップ! ストーーーーップ!!」
レオンは慌てて立ち上がり、両手を振って二人を制止する。
「ここはレストラン。こんな大騒ぎしたら迷惑だよ? 落ち着いて……ね?」
レオンの声は、必死だった。せっかくおかみさんが気を遣って個室を用意してくれたのに、このままでは出禁になってしまう。
「じゃあ、レオンはここに座って!」
ミーシャは自分の隣の席を指す。その声には、有無を言わせぬ圧力が込められていた。
「え?」
「二人だけズルい! 私だってディープに決めてやるんだから!」
もう滅茶苦茶である。
「ちょっ、ちょっと待って! キスってのは合意じゃなきゃセクハラなんだけど?」
レオンは必死になって指摘する。だが、その声は震えていた。
「何よ! こいつらのキスはセクハラじゃないわけ? 何? 合意したの?」
ミーシャの怒りは止まらない。その瞳には、涙すら浮かんでいた。
怒っているだけではない。悔しいのだ。自分だけ出遅れてしまったことが。
ライバルに遅れている。そのあるまじき事態がミーシャの理性を吹き飛ばしていた。
レオンは深くため息をつくと、ルナとシエルに向き直った。
「キスはダメ! 今度やったらペナルティだぞ!」
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