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70. 夢の大浴場
シエルが飛び込んだ反動で、ルナが一瞬跳ね上げられた。
「キャァッ! もぉ!」
「ふふっ、もう一回それっ!」
「うわぁぁ。ダメだってぇ! きゃははは!」
二人の楽しそうな笑い声が、リビングに響く。天井が高いため、その声が心地よく反響した。
「何をやってんの! この娘たちはー!?」
ミーシャが呆れた声を上げながら、しかし満面の笑みを浮かべて二人の上に覆いかぶさるようにのしかかった。
「いやぁ! 重ーい!」
「重いってばぁ!」
二人の悲鳴が、さらに笑い声を誘う。三人が折り重なって、まるで子供のようにはしゃいでいた。
聖女の仮面など、とうに脱ぎ捨てている。ここにいるのは、ただの幸せな少女たちだった。
「ははっ、いいソファですわ……」
ミーシャは二人に体を預けながら満足そうに微笑んだ。
孤児院では考えられない、ゆったりとしたラグジュアリーなリビングにふかふかなソファー。そして、信頼できる仲間たち――――。
その空色の瞳が、本当の幸せに輝いている。
「はいはい! まだ借りるって決めて無いんだから、はしゃいじゃダメだよ!」
レオンは苦笑しながらたしなめる。
だが、彼女たちの笑顔を見ているだけで、胸が温かくなる。こんな幸せそうな顔をしてくれるなら、どんな苦労も報われる気がした。
「げ、元気でよろしいですな。はははは……」
案内のおじさんは少し引いている。
長年の不動産業で様々な客を見てきたが、こんな自由奔放な若者たちは初めてだった。
◇
「当館の目玉はこちら、大浴場です」
続いておじさんは、広い大理石造りの豪奢な浴室に案内する。
扉を開けた瞬間、少女たちは一斉に息を呑んだ。
「えっ!? これがお風呂?」
「ひろーい!」
「素敵ぃ!」
「これはいいわ……」
女の子たちは陽の光が降り注ぐ純白の浴室内をあちこち眺め、盛り上がる。
ところどころに配された幻獣の石像――獅子、龍、そして不死鳥。それぞれが精緻な彫刻で、今にも動き出しそうなほど生き生きとしていた。
広いバスタブはまるで貴族クラスの規模で、五人が一緒に入っても余裕がありそうだ。天井に嵌め込まれたステンドグラスが陽の光を受けて虹色の光を投影し、まるで宝石箱の中にいるかのような幻想的な空間を作り出していた。
「給湯は最新式の魔道具で、清掃も自動でできるんですよ」
おじさんは壁のボタンを押した。すると、ボシュッ!と音がして、獅子の口から温かな湯が溢れ、湯気が立ち上っていく。
「うはぁ、これはすごい……」
「便利ねぇ……」
少女たちは驚きに目を見開く。湯気が立ち上り、ほのかな花の香りが漂ってきた。
「こっちのボタンを押すと……」
おじさんがもう一つのボタンを押すと、バシュ!っと音がして、浴室内が青い閃光に包まれた。
「うわぁ!」
「ひぃ!」
少女たちが思わず身を寄せ合う。
「あ、ごめんなさい。でも、これで床も壁もピッカピカで衛生的になるんです。浄化魔法を自動で発動させる魔道具でして、カビや汚れを完全に除去できます」
「す、すごい……」
その先進的な機構に一同は圧倒された。魔道具の技術は、ここまで進化しているのか。
「これなら毎日お風呂に入れるね!」
ルナが嬉しそうに言う。その緋色の瞳が、期待に輝いていた。
「うん! 野宿してた時は、川で体を洗うのが精一杯だったもんね……」
シエルの声が、少し震えた。
逃亡生活の記憶が蘇ったのだろう。冷たい川の水で体を洗い、濡れた髪が乾くまで震えながら待っていた日々。誰かに見つからないよう、びくびくしながら過ごしていた日々。
あの頃は、お風呂に入れるなんて夢のまた夢だった。
「もう大丈夫よ。これからは、毎日こんな素敵なお風呂に入れるんだから」
エリナが優しく肩を抱く。
彼女も知っている。流浪の辛さを。安住の地がないことの苦しさを。
だからこそ、シエルの気持ちが痛いほど分かった。
◇
その後、各居室を見て回った。
二階には五つの寝室があり、それぞれに広いベッドと机、そして大きなクローゼットが備わっていた。窓からは街の景色が見渡せ、遠くには山々の稜線が美しく連なっている。
ベッドには清潔なシーツが敷かれ、枕元には小さなランプが置かれていた。夜、読書をするのにちょうど良さそうだ。
「この部屋、私がいい!」
ルナが窓際の部屋を選んだ。朝日が一番よく入る、明るい部屋だった。
「私はここがいいわ」「じゃあ、私はこっち!」
ミーシャは一番広い部屋を、シエルは庭が見える部屋を選んだ。
エリナは階段に近い部屋を選ぶ。何かあった時、すぐに動けるように。
そしてレオンは、門から玄関へのアプローチが見渡せる部屋を選んだ。侵入者が来た時、真っ先に気づけるように。
二階から見渡すと全体像が良くわかる。庭には訓練用のスペースもあり、塀も高い。
「キャァッ! もぉ!」
「ふふっ、もう一回それっ!」
「うわぁぁ。ダメだってぇ! きゃははは!」
二人の楽しそうな笑い声が、リビングに響く。天井が高いため、その声が心地よく反響した。
「何をやってんの! この娘たちはー!?」
ミーシャが呆れた声を上げながら、しかし満面の笑みを浮かべて二人の上に覆いかぶさるようにのしかかった。
「いやぁ! 重ーい!」
「重いってばぁ!」
二人の悲鳴が、さらに笑い声を誘う。三人が折り重なって、まるで子供のようにはしゃいでいた。
聖女の仮面など、とうに脱ぎ捨てている。ここにいるのは、ただの幸せな少女たちだった。
「ははっ、いいソファですわ……」
ミーシャは二人に体を預けながら満足そうに微笑んだ。
孤児院では考えられない、ゆったりとしたラグジュアリーなリビングにふかふかなソファー。そして、信頼できる仲間たち――――。
その空色の瞳が、本当の幸せに輝いている。
「はいはい! まだ借りるって決めて無いんだから、はしゃいじゃダメだよ!」
レオンは苦笑しながらたしなめる。
だが、彼女たちの笑顔を見ているだけで、胸が温かくなる。こんな幸せそうな顔をしてくれるなら、どんな苦労も報われる気がした。
「げ、元気でよろしいですな。はははは……」
案内のおじさんは少し引いている。
長年の不動産業で様々な客を見てきたが、こんな自由奔放な若者たちは初めてだった。
◇
「当館の目玉はこちら、大浴場です」
続いておじさんは、広い大理石造りの豪奢な浴室に案内する。
扉を開けた瞬間、少女たちは一斉に息を呑んだ。
「えっ!? これがお風呂?」
「ひろーい!」
「素敵ぃ!」
「これはいいわ……」
女の子たちは陽の光が降り注ぐ純白の浴室内をあちこち眺め、盛り上がる。
ところどころに配された幻獣の石像――獅子、龍、そして不死鳥。それぞれが精緻な彫刻で、今にも動き出しそうなほど生き生きとしていた。
広いバスタブはまるで貴族クラスの規模で、五人が一緒に入っても余裕がありそうだ。天井に嵌め込まれたステンドグラスが陽の光を受けて虹色の光を投影し、まるで宝石箱の中にいるかのような幻想的な空間を作り出していた。
「給湯は最新式の魔道具で、清掃も自動でできるんですよ」
おじさんは壁のボタンを押した。すると、ボシュッ!と音がして、獅子の口から温かな湯が溢れ、湯気が立ち上っていく。
「うはぁ、これはすごい……」
「便利ねぇ……」
少女たちは驚きに目を見開く。湯気が立ち上り、ほのかな花の香りが漂ってきた。
「こっちのボタンを押すと……」
おじさんがもう一つのボタンを押すと、バシュ!っと音がして、浴室内が青い閃光に包まれた。
「うわぁ!」
「ひぃ!」
少女たちが思わず身を寄せ合う。
「あ、ごめんなさい。でも、これで床も壁もピッカピカで衛生的になるんです。浄化魔法を自動で発動させる魔道具でして、カビや汚れを完全に除去できます」
「す、すごい……」
その先進的な機構に一同は圧倒された。魔道具の技術は、ここまで進化しているのか。
「これなら毎日お風呂に入れるね!」
ルナが嬉しそうに言う。その緋色の瞳が、期待に輝いていた。
「うん! 野宿してた時は、川で体を洗うのが精一杯だったもんね……」
シエルの声が、少し震えた。
逃亡生活の記憶が蘇ったのだろう。冷たい川の水で体を洗い、濡れた髪が乾くまで震えながら待っていた日々。誰かに見つからないよう、びくびくしながら過ごしていた日々。
あの頃は、お風呂に入れるなんて夢のまた夢だった。
「もう大丈夫よ。これからは、毎日こんな素敵なお風呂に入れるんだから」
エリナが優しく肩を抱く。
彼女も知っている。流浪の辛さを。安住の地がないことの苦しさを。
だからこそ、シエルの気持ちが痛いほど分かった。
◇
その後、各居室を見て回った。
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ベッドには清潔なシーツが敷かれ、枕元には小さなランプが置かれていた。夜、読書をするのにちょうど良さそうだ。
「この部屋、私がいい!」
ルナが窓際の部屋を選んだ。朝日が一番よく入る、明るい部屋だった。
「私はここがいいわ」「じゃあ、私はこっち!」
ミーシャは一番広い部屋を、シエルは庭が見える部屋を選んだ。
エリナは階段に近い部屋を選ぶ。何かあった時、すぐに動けるように。
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