77 / 123
77. 絶対に、許さないっ!
しおりを挟む
ヴォォォォ……。
ドクロマークから、禍々しい紫の霧が射出される。
それはまるでドクロの形をした生き物のように、うねりながら、一気にエリナに迫っていく。
死の気配。
触れただけで命を奪われそうな、おぞましい瘴気。
「危ない!」
シエルが慌てて弓を引き絞り、矢を放つ。
シュッ! シュッ! シュッ!
だが、矢は霧を素通りするばかりで効果はなかった。
物理攻撃が通用しない。
呪詛そのものに、矢は無力だった。
ひっ!
エリナはいきなりの横からの攻撃に、対応が遅れた。
カインとの戦いに集中していた彼女の視界に、死の霧が迫る。
避けられない。
間に合わない。
その瞬間――。
「エリナっ!」
レオンがとっさに駆け出し、体を張ってエリナの前に飛び込んだ。
その背中には、迷いがなかった。
ただ、仲間を守る――それだけの想いで。
考えるより先に、体が動いていた。
ズゴォォォッ!
紫の霧がレオンを包み込む。
瞬間、パキン!という繊細なガラス細工が砕けるような澄んだ音が、レオンの中で響きわたった。
それは、何か大切なものが壊れていく音だった。
同時に、全身を激痛が襲う。
「ぐっ……あぁぁぁぁっ!」
レオンが倒れる。
まるで全身の骨が砕かれるような、内臓が引き裂かれるような、筆舌に尽くしがたい苦痛。
それは肉体だけでなく、魂そのものを蝕む痛みだった。
自分の中で、何かが消えていく。
大切な何かが、砕け散っていく。
その感覚が、痛みよりも恐ろしかった。
「レオン! レオンっ!」
エリナが悲鳴を上げる。
その声は、五年前に家族を失った時以上の絶望に満ちていた。
目の前で、大切な人が倒れた。
自分を守るために。
自分のせいで――。
一方、セリナは虚ろな目でその場に崩れ落ちる。
「はぁ……はぁ……レオン……なんで、邪魔するのよぉ……」
自分も生気を吸われ、もう立っていられなかった。
髪は完全に白く変色し、顔は老婆そのもの。
かつての妖艶な美しさは、跡形もなく消え去っていた。
「ハハハハッ! お前らの大好きなレオンがやられたぞ? ざまぁみろ!」
カインが高笑いした。
傷だらけの体で、それでも嘲笑を浮かべている。
「あぁ、レオン……。くぅぅぅ……」
エリナは倒れたレオンを見つめ、そして――。
その瞳に、炎が宿った。
黒曜石のような瞳に、抑えきれない殺意が燃え上がる。
大切な人を傷つけられた怒りが、彼女の全身を支配していた。
もう、容赦はしない。
「もう、怒った! 絶対に許さない!」
エリナの声が、夜の空気を震わせる。
「お前を……絶対に、許さないっ!」
エリナは剣を構え直すと、猛ラッシュで一気にカインに襲い掛かった。
その速度は、先ほどまでとは比べ物にならない。
怒りが、彼女の潜在能力をさらに引き出していた。
キン! キン! キキキンッ!
剣戟の音が、夜に響く。
火花が散り、金属がぶつかり合う音が途切れることなく続く。
「ぐっ……うおぉっ!」
必死にさばくカインだったが、どんどん速度の上がるエリナのラッシュに耐えきれず、あちこちに手傷を負っていく。
ザシュッ!
腕を斬られ――。
ザクッ!
肩を斬られ――。
ザンッ!
胸を斬られ――。
そして最後に、足を深々と斬られて――。
ドサッ!と、カインは倒れ、カランカラカラと太陽の剣が転がっていく。
かつて輝いていた英雄は、今や無様に地に這いつくばっていた。
全身から血を流し、もはや剣を握る力すら残っていない。
「勝負……あった、な……」
レオンがよろよろと立ち上がりながら、苦しそうに呟いた。
その体は今にも倒れそうなほど衰弱していた。
だが――その翠色の瞳だけは、まっすぐにカインを見据えていた。
◇
全てが――終わった。
長い因縁が、ここに決着を迎えたのだった。
だが――。
「馬鹿め! アルカナが勝手に襲ってきたことにしてやる! 俺のパトロンの貴族様が警備隊を派遣するからな! お前らこそ捕まるんだぞ!」
カインが喚く。
血まみれの顔で、必死に叫んでいた。
その声は、もはや英雄のものではない。
あらゆる汚い手を使って陥れようとする姿は、あまりにも惨めで――かつて太陽のように輝いていた男の面影など、微塵も残っていなかった。
「それは通らんよ、カイン君」
その時――闇から、重厚な声が響いた。
ギルドマスターが、物陰から姿を現す。
その表情には、深い失望と、そして静かな怒りが浮かんでいた。
灰色の髭を蓄えた老練な冒険者は、まるで裁判官のように厳かにカインを見下ろしていた。
ドクロマークから、禍々しい紫の霧が射出される。
それはまるでドクロの形をした生き物のように、うねりながら、一気にエリナに迫っていく。
死の気配。
触れただけで命を奪われそうな、おぞましい瘴気。
「危ない!」
シエルが慌てて弓を引き絞り、矢を放つ。
シュッ! シュッ! シュッ!
だが、矢は霧を素通りするばかりで効果はなかった。
物理攻撃が通用しない。
呪詛そのものに、矢は無力だった。
ひっ!
エリナはいきなりの横からの攻撃に、対応が遅れた。
カインとの戦いに集中していた彼女の視界に、死の霧が迫る。
避けられない。
間に合わない。
その瞬間――。
「エリナっ!」
レオンがとっさに駆け出し、体を張ってエリナの前に飛び込んだ。
その背中には、迷いがなかった。
ただ、仲間を守る――それだけの想いで。
考えるより先に、体が動いていた。
ズゴォォォッ!
紫の霧がレオンを包み込む。
瞬間、パキン!という繊細なガラス細工が砕けるような澄んだ音が、レオンの中で響きわたった。
それは、何か大切なものが壊れていく音だった。
同時に、全身を激痛が襲う。
「ぐっ……あぁぁぁぁっ!」
レオンが倒れる。
まるで全身の骨が砕かれるような、内臓が引き裂かれるような、筆舌に尽くしがたい苦痛。
それは肉体だけでなく、魂そのものを蝕む痛みだった。
自分の中で、何かが消えていく。
大切な何かが、砕け散っていく。
その感覚が、痛みよりも恐ろしかった。
「レオン! レオンっ!」
エリナが悲鳴を上げる。
その声は、五年前に家族を失った時以上の絶望に満ちていた。
目の前で、大切な人が倒れた。
自分を守るために。
自分のせいで――。
一方、セリナは虚ろな目でその場に崩れ落ちる。
「はぁ……はぁ……レオン……なんで、邪魔するのよぉ……」
自分も生気を吸われ、もう立っていられなかった。
髪は完全に白く変色し、顔は老婆そのもの。
かつての妖艶な美しさは、跡形もなく消え去っていた。
「ハハハハッ! お前らの大好きなレオンがやられたぞ? ざまぁみろ!」
カインが高笑いした。
傷だらけの体で、それでも嘲笑を浮かべている。
「あぁ、レオン……。くぅぅぅ……」
エリナは倒れたレオンを見つめ、そして――。
その瞳に、炎が宿った。
黒曜石のような瞳に、抑えきれない殺意が燃え上がる。
大切な人を傷つけられた怒りが、彼女の全身を支配していた。
もう、容赦はしない。
「もう、怒った! 絶対に許さない!」
エリナの声が、夜の空気を震わせる。
「お前を……絶対に、許さないっ!」
エリナは剣を構え直すと、猛ラッシュで一気にカインに襲い掛かった。
その速度は、先ほどまでとは比べ物にならない。
怒りが、彼女の潜在能力をさらに引き出していた。
キン! キン! キキキンッ!
剣戟の音が、夜に響く。
火花が散り、金属がぶつかり合う音が途切れることなく続く。
「ぐっ……うおぉっ!」
必死にさばくカインだったが、どんどん速度の上がるエリナのラッシュに耐えきれず、あちこちに手傷を負っていく。
ザシュッ!
腕を斬られ――。
ザクッ!
肩を斬られ――。
ザンッ!
胸を斬られ――。
そして最後に、足を深々と斬られて――。
ドサッ!と、カインは倒れ、カランカラカラと太陽の剣が転がっていく。
かつて輝いていた英雄は、今や無様に地に這いつくばっていた。
全身から血を流し、もはや剣を握る力すら残っていない。
「勝負……あった、な……」
レオンがよろよろと立ち上がりながら、苦しそうに呟いた。
その体は今にも倒れそうなほど衰弱していた。
だが――その翠色の瞳だけは、まっすぐにカインを見据えていた。
◇
全てが――終わった。
長い因縁が、ここに決着を迎えたのだった。
だが――。
「馬鹿め! アルカナが勝手に襲ってきたことにしてやる! 俺のパトロンの貴族様が警備隊を派遣するからな! お前らこそ捕まるんだぞ!」
カインが喚く。
血まみれの顔で、必死に叫んでいた。
その声は、もはや英雄のものではない。
あらゆる汚い手を使って陥れようとする姿は、あまりにも惨めで――かつて太陽のように輝いていた男の面影など、微塵も残っていなかった。
「それは通らんよ、カイン君」
その時――闇から、重厚な声が響いた。
ギルドマスターが、物陰から姿を現す。
その表情には、深い失望と、そして静かな怒りが浮かんでいた。
灰色の髭を蓄えた老練な冒険者は、まるで裁判官のように厳かにカインを見下ろしていた。
48
あなたにおすすめの小説
本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜
あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい!
ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット”
ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで?
異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。
チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。
「────さてと、今日は何を読もうかな」
これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。
◆小説家になろう様でも、公開中◆
◆恋愛要素は、ありません◆
精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~
舞
ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。
異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。
夢は優しい国づくり。
『くに、つくりますか?』
『あめのぬぼこ、ぐるぐる』
『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』
いや、それはもう過ぎてますから。
【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!
花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】
《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》
天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。
キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。
一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。
キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。
辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。
辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。
国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。
リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。
※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい
カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった
仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!
さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。
冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。
底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。
そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。
部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。
ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。
『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる