87 / 123
87. はまった無数のピース
しおりを挟む
その晩――レオンはベッドに寝転がりながら、天井を見つめていた。
白い漆喰の天井には、窓から差し込む街灯の明かりが淡い模様を描いている。それは、かつて【運命鑑定】が見せてくれた選択肢のウィンドウに、少しだけ似ていた。時折、女の子たちがパタパタとスリッパの音を響かせながら廊下を通っていく音がする。ミーシャの軽やかな足音、エリナの規則正しい足音、ルナの少し急ぎ足な足音、シエルの優雅な足音――四人それぞれの足音が、レオンの耳に届いていた。
そろそろ寝る時間だ。
(いい夢見て欲しいな……)
レオンはごろんと寝返りを打って胸に手を当てたが、そこにはもうスキルは宿っていない。かつては運命を監視し続けてくれている頼もしい存在の気配を感じることができた。けれど今は、沈黙だけがある。全てが消えてしまったのだ。
レオンは深いため息をつき、枕に頭を沈めた。羽毛の柔らかさが頬に触れるが、心は少しも安らがなかった。
(どうして……あの呪いを見抜けなかったんだろう?)
セリナが放った【スキル破壊の呪い】は、明らかに運命を大きく変える事象だったはずだ。自分の人生を根底から覆すような出来事だったはずなのに、【運命鑑定】は何も警告してくれなかった。あの禍々しい紫のドクロがセリナの手から放たれた瞬間まで、レオンには何も見えなかったのだ。
(なぜ……?)
その疑問が、夜の静寂の中でぐるぐると頭の中を回り続ける。
【運命鑑定】はこれまで重大な転機を全て伝えてくれていた。賞金首ゴードンの馬車を予知した時も、スタンピードの時も、全て完璧で一度たりとも外れたことはなかった。それなのに、こんな重大な事態を【運命鑑定】が見落とすなんてことがあるのだろうか?
レオンは目を閉じ、あの時の光景を思い返す。セリナの手から放たれた禍々しい紫のドクロ。エリナを庇ってその身に受けた瞬間、全身を貫く焼けるような痛みと、骨の髄まで染み渡るような冷たい呪いの感触が襲ってきた。そして胸の奥で何かが砕け散る感覚――あの瞬間、ガラスが割れるような甲高い音が確かに聞こえた。それは【運命鑑定】が壊れる音だったのだ。
(【運命鑑定】自身のことだから……見えなかった?)
そんな可能性も頭をよぎる。【運命鑑定】は未来を視るスキルだが、もしかしたらスキル自体に関わる事象は予知できないのかもしれない。それは鏡がなければ自分の顔は見えないように、【運命鑑定】もまた【運命鑑定】自身の運命を視ることができない――。
(うーん、それはあるかなぁ……?)
しかし、どうにも腑に落ちない。直感が囁いている。何かがおかしい、何かが引っかかると。
レオンは寝返りを打ち、窓の外を見た。街灯の明かりがカーテンの隙間から細く差し込んでいるが、月は雲に隠れて星も見えない。静かな夜、平和な夜だ。クーベルノーツの街はスタンピードの混乱からすっかり立ち直り、人々は笑顔で暮らしている。けれど、その静けさがかえって不安を掻き立てる。嵐の前の静けさ、何かが起こる前の不気味な静寂のように感じられてならなかった。
(待てよ……)
その時だった。ある可能性がレオンの脳裏を、まるで稲妻のようにかすめた。
【運命鑑定】を無効にするスキルが、存在するのでは――?
それはほんの思い付きで、根拠のない直感に過ぎず、夜の闇が見せた妄想かもしれない。けれど、考えれば考えるほどその可能性が現実味を帯びてくる。
「まさか……?」
心臓がドクンと大きく跳ねる。
(そうだ……そうだとしたら、全ての辻褄が合う……!)
【運命鑑定】は未来を視る強力なスキルだが、この世界には無数のスキルが存在する。もしそれ以上の力を持つスキルが存在したら? 【運命鑑定】を破壊するように運命そのものを導くことができるスキルが、この世界にあったとしたら? 運命を「読む」のではなく運命を「書き換える」スキル――そんなものがもし存在したら、【運命鑑定】はそれを見破れない。より上位の力によって運命そのものが書き換えられていたなら、【運命鑑定】が見る未来は既に改竄された偽りの未来かもしれないのだ。
「くっ……」
(まさか……いや、でも……!)
レオンはガバッと起き上がり、両手で頭を抱えた。思考が恐ろしい速度で加速し、脳内で無数のピースが組み合わさっていく。
(考えろ……冷静に考えるんだ……!)
セリナが【スキル破壊の呪い】を持っていたこと自体が、そもそもおかしかった。あれは禁忌の呪具で、教会法で所持するだけで死罪に値する代物であり、闇市場でも滅多に出回らない極めて希少な品だ。なぜあんな厳しく禁じられている物をセリナのような小娘が持っていたのか? なぜあんな危険な代物をカインとの決着の場で持ち出し、なぜあんなリスクを背負って呪いを放ったのか?
(誰かが……セリナをうまく利用したんだ)
セリナは駒に過ぎない、操り人形に過ぎない。本当の敵は別にいる。そして、その「誰か」はレオンの【運命鑑定】を恐れていたからこそ、排除しようとしたのだ。
白い漆喰の天井には、窓から差し込む街灯の明かりが淡い模様を描いている。それは、かつて【運命鑑定】が見せてくれた選択肢のウィンドウに、少しだけ似ていた。時折、女の子たちがパタパタとスリッパの音を響かせながら廊下を通っていく音がする。ミーシャの軽やかな足音、エリナの規則正しい足音、ルナの少し急ぎ足な足音、シエルの優雅な足音――四人それぞれの足音が、レオンの耳に届いていた。
そろそろ寝る時間だ。
(いい夢見て欲しいな……)
レオンはごろんと寝返りを打って胸に手を当てたが、そこにはもうスキルは宿っていない。かつては運命を監視し続けてくれている頼もしい存在の気配を感じることができた。けれど今は、沈黙だけがある。全てが消えてしまったのだ。
レオンは深いため息をつき、枕に頭を沈めた。羽毛の柔らかさが頬に触れるが、心は少しも安らがなかった。
(どうして……あの呪いを見抜けなかったんだろう?)
セリナが放った【スキル破壊の呪い】は、明らかに運命を大きく変える事象だったはずだ。自分の人生を根底から覆すような出来事だったはずなのに、【運命鑑定】は何も警告してくれなかった。あの禍々しい紫のドクロがセリナの手から放たれた瞬間まで、レオンには何も見えなかったのだ。
(なぜ……?)
その疑問が、夜の静寂の中でぐるぐると頭の中を回り続ける。
【運命鑑定】はこれまで重大な転機を全て伝えてくれていた。賞金首ゴードンの馬車を予知した時も、スタンピードの時も、全て完璧で一度たりとも外れたことはなかった。それなのに、こんな重大な事態を【運命鑑定】が見落とすなんてことがあるのだろうか?
レオンは目を閉じ、あの時の光景を思い返す。セリナの手から放たれた禍々しい紫のドクロ。エリナを庇ってその身に受けた瞬間、全身を貫く焼けるような痛みと、骨の髄まで染み渡るような冷たい呪いの感触が襲ってきた。そして胸の奥で何かが砕け散る感覚――あの瞬間、ガラスが割れるような甲高い音が確かに聞こえた。それは【運命鑑定】が壊れる音だったのだ。
(【運命鑑定】自身のことだから……見えなかった?)
そんな可能性も頭をよぎる。【運命鑑定】は未来を視るスキルだが、もしかしたらスキル自体に関わる事象は予知できないのかもしれない。それは鏡がなければ自分の顔は見えないように、【運命鑑定】もまた【運命鑑定】自身の運命を視ることができない――。
(うーん、それはあるかなぁ……?)
しかし、どうにも腑に落ちない。直感が囁いている。何かがおかしい、何かが引っかかると。
レオンは寝返りを打ち、窓の外を見た。街灯の明かりがカーテンの隙間から細く差し込んでいるが、月は雲に隠れて星も見えない。静かな夜、平和な夜だ。クーベルノーツの街はスタンピードの混乱からすっかり立ち直り、人々は笑顔で暮らしている。けれど、その静けさがかえって不安を掻き立てる。嵐の前の静けさ、何かが起こる前の不気味な静寂のように感じられてならなかった。
(待てよ……)
その時だった。ある可能性がレオンの脳裏を、まるで稲妻のようにかすめた。
【運命鑑定】を無効にするスキルが、存在するのでは――?
それはほんの思い付きで、根拠のない直感に過ぎず、夜の闇が見せた妄想かもしれない。けれど、考えれば考えるほどその可能性が現実味を帯びてくる。
「まさか……?」
心臓がドクンと大きく跳ねる。
(そうだ……そうだとしたら、全ての辻褄が合う……!)
【運命鑑定】は未来を視る強力なスキルだが、この世界には無数のスキルが存在する。もしそれ以上の力を持つスキルが存在したら? 【運命鑑定】を破壊するように運命そのものを導くことができるスキルが、この世界にあったとしたら? 運命を「読む」のではなく運命を「書き換える」スキル――そんなものがもし存在したら、【運命鑑定】はそれを見破れない。より上位の力によって運命そのものが書き換えられていたなら、【運命鑑定】が見る未来は既に改竄された偽りの未来かもしれないのだ。
「くっ……」
(まさか……いや、でも……!)
レオンはガバッと起き上がり、両手で頭を抱えた。思考が恐ろしい速度で加速し、脳内で無数のピースが組み合わさっていく。
(考えろ……冷静に考えるんだ……!)
セリナが【スキル破壊の呪い】を持っていたこと自体が、そもそもおかしかった。あれは禁忌の呪具で、教会法で所持するだけで死罪に値する代物であり、闇市場でも滅多に出回らない極めて希少な品だ。なぜあんな厳しく禁じられている物をセリナのような小娘が持っていたのか? なぜあんな危険な代物をカインとの決着の場で持ち出し、なぜあんなリスクを背負って呪いを放ったのか?
(誰かが……セリナをうまく利用したんだ)
セリナは駒に過ぎない、操り人形に過ぎない。本当の敵は別にいる。そして、その「誰か」はレオンの【運命鑑定】を恐れていたからこそ、排除しようとしたのだ。
39
あなたにおすすめの小説
本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜
あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい!
ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット”
ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで?
異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。
チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。
「────さてと、今日は何を読もうかな」
これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。
◆小説家になろう様でも、公開中◆
◆恋愛要素は、ありません◆
精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~
舞
ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。
異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。
夢は優しい国づくり。
『くに、つくりますか?』
『あめのぬぼこ、ぐるぐる』
『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』
いや、それはもう過ぎてますから。
【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!
花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】
《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》
天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。
キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。
一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。
キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。
辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。
辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。
国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。
リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。
※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい
カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった
仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!
さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。
冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。
底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。
そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。
部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。
ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。
『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる