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92. 泣きべそ
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「……今の、反則じゃない?」
最初に口を開いたのはルナだった。
「……うん、反則」
シエルが小さく頷く。
「……ずるいですわ」
ミーシャが純粋に幸せそうな少女らしい笑顔を浮かべた。
「……バカ」
エリナが呟いた。その声は優しくて愛おしくて、そして少しだけ切なかった。
四人は再び顔を見合わせ、そしてクスクスと笑い始めた。理由なんてない。ただ幸せで、ただ嬉しくて、ただレオンが大好きで。
暖炉の炎が静かに揺れている。その光の中で四人の少女たちは頬を染めて笑っていた。
失われた光――【運命鑑定】という神がかったスキル。だが、新たな光が灯り始めていた。それはスキルなんかよりもずっと温かくて、ずっと強くて、ずっと眩しい光――絆という名の光だった。
薪がパチッとはぜて火の粉が舞う。『アルカナ』の新居は少女たちの幸せな笑い声で満たされていた。
失った運命を嘆くより、今ここにある絆を大切にしよう。レオンが心に誓ったその言葉は、確かに現実のものとなりつつあった。スキルを失った軍師と彼を慕う四人の少女たち。その物語は絶望から希望へ、喪失から再生へと歩み始めていた。
窓の外では、いつの間にか雲が切れて月が顔を出していた。銀色の光が窓辺に差し込み、暖炉の炎と混じり合って、リビングを幻想的な光で包んでいる。
夜明けはまだ遠い。けれど、もう闇を恐れる必要はなかった。
なぜなら、彼らには信じ合える絆があるから。どんな困難が待ち受けていても、五人で力を合わせれば乗り越えられる。そう信じられる仲間がいるから。
それこそが、どんなスキルよりも強い力なのだと――レオンは今、心の底から理解していた。
◇
翌朝――窓から差し込む柔らかな朝日がダイニングテーブルを照らしていた。
湯気の立つコーヒーにパンの焼ける香ばしい匂い、窓の外からは小鳥たちのさえずりが聞こえてくる。昨夜の出来事が嘘のような穏やかな朝の光景だった。
レオンはコーヒーをすすり、朝日を浴びながら深呼吸をした。胸の奥が温かい。昨夜、仲間たちに支えられて、ようやく前を向けるようになった気がする。
「おはよう!」「おっはよ~!」「おはよう」
三々五々降りて集まってくる仲間たち。
(一人で抱え込まなくていいんだ)
その想いが心を軽くしてくれる。失われた【運命鑑定】の喪失感はまだ胸の奥に重く沈んでいるが、もうそれに押し潰されそうにはならない。仲間がいる、信じられる仲間がすぐそばにいる。それだけでレオンは――。
ボンッ!
「きゃあああ!?」
突如、キッチンから爆発音と共にルナの悲鳴が響き渡った。
「へ?」「ありゃぁ……」「ルナだわ……」
ダイニングにいたレオンたちが一斉に顔を見合わせる。次の瞬間、キッチンのドアが勢いよく開き、顔中に黒いススをつけたルナが涙目で飛び出してきた。
赤い髪は爆発したように逆立ち、パジャマは煤で汚れ、緋色の瞳からは大粒の涙がこぼれている。
「うわーん! ちょっとだけ魔力を込めて、ゆで卵を作ろうと思っただけなのにぃ!」
その姿はまるで戦場から帰還した兵士のようで、けれどどこか愛らしく思わず笑ってしまいそうになる。レオンはその光景を見て、ふと胸の奥がチクリと痛むのを感じた。
――七年前、妹のリナも同じようなことをしていた。
魔力の制御が苦手で、ちょっとした魔法を使おうとしては失敗して、泣きべそをかいていた妹の姿が脳裏をよぎる。あの時も、こうして煤だらけになった妹の顔を拭いてやったものだ。
なぜだろう。ルナを見ていると、時折リナのことを思い出す。年齢も違うし、髪の色も瞳の色も違う。なのに、ふとした瞬間に重なって見えることがある。泣きべそをかく表情、意地っ張りなところ、素直になれない性格――まるで、リナがそのまま成長したらこうなっていたのではないかと思えるほどに。
「またなの……ルナ……」
シエルが天を仰ぎ、銀髪を揺らしながら深いため息をついた。
「昨日のお肉焦がした時に、料理で魔術の実験しないって約束したでしょ?」
「う……そ、それは……」
ルナが口ごもる。図星らしい。その言い訳がましい表情もまた、かつての妹にそっくりで、レオンは思わず苦笑してしまった。
「朝食のおかずが……」
エリナががっくりと肩を落とす。テーブルの上には焼きたてのパンとベーコンが用意されていたが、卵料理が全滅してしまったらしい。
「レオンへの料理だと思うと爆発してしまいますのね♪」
ミーシャだけは優雅にコーヒーをすすりながらその惨状を微笑ましげに眺めていた。空色の瞳が悪戯っぽく輝いている。
◇
「うぅぅぅ……」
泣きべそをかくルナに、レオンはタタッと近づく。
「まぁ、やっちゃったことはしょうがないな。それよりケガはない?」
少しかがんでルナの顔を覗き込みながらハンカチを取り出すと、ルナの煤だらけの顔を優しく拭いてあげた。
最初に口を開いたのはルナだった。
「……うん、反則」
シエルが小さく頷く。
「……ずるいですわ」
ミーシャが純粋に幸せそうな少女らしい笑顔を浮かべた。
「……バカ」
エリナが呟いた。その声は優しくて愛おしくて、そして少しだけ切なかった。
四人は再び顔を見合わせ、そしてクスクスと笑い始めた。理由なんてない。ただ幸せで、ただ嬉しくて、ただレオンが大好きで。
暖炉の炎が静かに揺れている。その光の中で四人の少女たちは頬を染めて笑っていた。
失われた光――【運命鑑定】という神がかったスキル。だが、新たな光が灯り始めていた。それはスキルなんかよりもずっと温かくて、ずっと強くて、ずっと眩しい光――絆という名の光だった。
薪がパチッとはぜて火の粉が舞う。『アルカナ』の新居は少女たちの幸せな笑い声で満たされていた。
失った運命を嘆くより、今ここにある絆を大切にしよう。レオンが心に誓ったその言葉は、確かに現実のものとなりつつあった。スキルを失った軍師と彼を慕う四人の少女たち。その物語は絶望から希望へ、喪失から再生へと歩み始めていた。
窓の外では、いつの間にか雲が切れて月が顔を出していた。銀色の光が窓辺に差し込み、暖炉の炎と混じり合って、リビングを幻想的な光で包んでいる。
夜明けはまだ遠い。けれど、もう闇を恐れる必要はなかった。
なぜなら、彼らには信じ合える絆があるから。どんな困難が待ち受けていても、五人で力を合わせれば乗り越えられる。そう信じられる仲間がいるから。
それこそが、どんなスキルよりも強い力なのだと――レオンは今、心の底から理解していた。
◇
翌朝――窓から差し込む柔らかな朝日がダイニングテーブルを照らしていた。
湯気の立つコーヒーにパンの焼ける香ばしい匂い、窓の外からは小鳥たちのさえずりが聞こえてくる。昨夜の出来事が嘘のような穏やかな朝の光景だった。
レオンはコーヒーをすすり、朝日を浴びながら深呼吸をした。胸の奥が温かい。昨夜、仲間たちに支えられて、ようやく前を向けるようになった気がする。
「おはよう!」「おっはよ~!」「おはよう」
三々五々降りて集まってくる仲間たち。
(一人で抱え込まなくていいんだ)
その想いが心を軽くしてくれる。失われた【運命鑑定】の喪失感はまだ胸の奥に重く沈んでいるが、もうそれに押し潰されそうにはならない。仲間がいる、信じられる仲間がすぐそばにいる。それだけでレオンは――。
ボンッ!
「きゃあああ!?」
突如、キッチンから爆発音と共にルナの悲鳴が響き渡った。
「へ?」「ありゃぁ……」「ルナだわ……」
ダイニングにいたレオンたちが一斉に顔を見合わせる。次の瞬間、キッチンのドアが勢いよく開き、顔中に黒いススをつけたルナが涙目で飛び出してきた。
赤い髪は爆発したように逆立ち、パジャマは煤で汚れ、緋色の瞳からは大粒の涙がこぼれている。
「うわーん! ちょっとだけ魔力を込めて、ゆで卵を作ろうと思っただけなのにぃ!」
その姿はまるで戦場から帰還した兵士のようで、けれどどこか愛らしく思わず笑ってしまいそうになる。レオンはその光景を見て、ふと胸の奥がチクリと痛むのを感じた。
――七年前、妹のリナも同じようなことをしていた。
魔力の制御が苦手で、ちょっとした魔法を使おうとしては失敗して、泣きべそをかいていた妹の姿が脳裏をよぎる。あの時も、こうして煤だらけになった妹の顔を拭いてやったものだ。
なぜだろう。ルナを見ていると、時折リナのことを思い出す。年齢も違うし、髪の色も瞳の色も違う。なのに、ふとした瞬間に重なって見えることがある。泣きべそをかく表情、意地っ張りなところ、素直になれない性格――まるで、リナがそのまま成長したらこうなっていたのではないかと思えるほどに。
「またなの……ルナ……」
シエルが天を仰ぎ、銀髪を揺らしながら深いため息をついた。
「昨日のお肉焦がした時に、料理で魔術の実験しないって約束したでしょ?」
「う……そ、それは……」
ルナが口ごもる。図星らしい。その言い訳がましい表情もまた、かつての妹にそっくりで、レオンは思わず苦笑してしまった。
「朝食のおかずが……」
エリナががっくりと肩を落とす。テーブルの上には焼きたてのパンとベーコンが用意されていたが、卵料理が全滅してしまったらしい。
「レオンへの料理だと思うと爆発してしまいますのね♪」
ミーシャだけは優雅にコーヒーをすすりながらその惨状を微笑ましげに眺めていた。空色の瞳が悪戯っぽく輝いている。
◇
「うぅぅぅ……」
泣きべそをかくルナに、レオンはタタッと近づく。
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