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94. 未来は明るいんだよっ
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「それに」
ミーシャは続ける。
「もし余裕があるなら――最近王都周辺で囁かれている不審な動きの調査とか、あなたを蝕む『呪い』に関する情報収集とか……無理のない範囲でお願いしたいわ」
その言葉はレオンが失いかけていた存在意義そのものだった。そうだ、戦闘だけが全てじゃない。自分には自分の戦い方があるのだ。
「……ああ、分かった」
レオンの目に輝きが宿る。さっきまでの陰りは消え、かつての頼もしい軍師の表情が戻ってきていた。
「その任務、確かに引き受けた」
拳を握り、力強くそう宣言すると、少女たちの顔にも安堵の笑みが広がった。
◇
出発の時間が来て、玄関でレオンは四人を見送る――――。
ルナが「じゃあ、行ってくるわね!」と元気よく手を振る。その姿を見ていると、レオンの胸の奥でまた何かが疼いた。かつて妹のリナも、こうして元気よく手を振って出かけていったものだ。
シエルが「お留守番、よろしくね」と微笑み、ミーシャが「ふふっ、帰ったらお土産話を聞かせてあげますわ」と優雅にウインクする。三人が先に門の方へと歩いていく中、エリナだけが最後まで残っていた。
他の三人が先に進むのを見計らい、彼女はレオンに近づく。黒曜石のような瞳が真っ直ぐにレオンを見つめていたが、その奥には普段の凛々しさとは違う、どこか不安げな光が揺れていた。
「一日中寝ていても構わないのよ? 無理だけは、しないで」
その声は普段の凛とした声ではなく、どこか不安げで優しい声だった。
「エリナ……」
エリナは一瞬ためらい――さらに小さな声で付け加える。
「もし、また眠れないようなことがあったら――」
頬がほんのり赤くなる。黒髪の剣士は、言葉を探すように視線を泳がせた。
「その、なんだ……こ、今夜は……わ、私のところに……」
そこまで言って、自分の言葉に耐えられなくなったのかエリナは顔を真っ赤にして口ごもった。
そして、しばらくもじもじとしたあと、
「――とにかく!」
と、エリナは声を荒げた。動揺を隠すように、いつもの強気な口調に戻ろうとする。
「必ず帰ってくる! だから、安心して待ってて!」
一方的にそう言い放つと、彼女は仲間を追って逃げるように走り去っていった。黒髪が朝日を浴びて揺れ、その背中はどこか少女らしく愛らしかった。普段は凛とした剣士なのに、レオンの前でだけは年相応の女の子に戻ってしまう。そんな彼女の不器用さが、レオンにはたまらなく愛おしく思えた。
(エリナ……みんな……ありがとう……)
心からの笑顔で、遠ざかっていく四人の背中に手を振る。
「いってらっしゃい……」
その声は温かく優しく、そして少しだけ切なかった。朝日を浴びた四人の姿が門の向こうに消えていった後も、レオンはしばらくその場に立ち尽くしていた。
◇
玄関の重厚な扉がゴトンと閉まり、その音を最後に屋敷は水を打ったような静寂に包まれた。
カチ、カチ、カチ――ホールに置かれた古い柱時計の音だけがやけに大きく響く。レオンは玄関ホールにぽつんと一人立ち尽くし、玄関に乱雑に並ぶスリッパたちを見つめていた。四人分のスリッパ、それぞれの個性を映した色とりどりの履物。その賑やかな痕跡が胸を締め付ける。
ミーシャの言葉で一度は奮い立った心も、一人になった途端に冷たい不安に侵食され始める。
(……本当に、俺にできることなどあるのだろうか)
拳をギュッと握りしめる。みんな戦いに行ってしまった。夢を叶えるために、未来を切り開くために、危険を承知で前線に立っている。なのに自分は、こうして安全な屋敷で留守番をしているだけ。情報収集という名目があっても、結局は戦えない自分への気遣いじゃないのか。そんな考えが頭をもたげてくる。
レオンは強く頭を振った。
(いや、違う! 俺は、もう決めたはずだ!)
自分の頬を両手で叩く。パンッという音が静寂の中に響き、その痛みが弱気な自分を追い払ってくれた。
(ミーシャは言った。これも『重要任務』だと)
そうだ、腐っている場合じゃない。
(俺には、俺の戦場がある)
レオンはクローゼットからジャケットを取ってくると力強く羽織った。その時、ポケットに何かが入っているのに気づく。取り出してみると、小さな折り畳まれた紙切れだった。
開いてみると、そこには拙い字が並んでいた。
『レオン。無理しないで。アルカナの未来は明るいんだよっ』
ルナの字だ。いつ入れたのだろう。恐らく出発前、レオンが気づかないうちにこっそりと。あの子はいつもツンデレで、素直に気持ちを伝えることが苦手だ。だからこうして、手紙という形で想いを届けてくれたのだろう。
その不器用な優しさに、胸が熱くなった。そして同時に、また妹のリナのことを思い出してしまう。リナも昔、こうして手紙をくれたことがあった。誕生日に拙い字で一生懸命に書いた手紙。『おにぃちゃん、だいすき』と書かれたあの手紙は、今も大切に取ってある。
「……ありがとう、ルナ」
紙切れを大切に懐にしまう。この温もりを胸に、今日一日を過ごそう。そして必ず、みんなが帰ってきた時に胸を張れる成果を出してみせる。
レオンは自分自身を鼓舞するかのように固く拳を握りしめた。
「行くぞ……。必ず、答えを見つけてみせる!」
扉を開け、朝の光の中へと踏み出した。眩しい陽光が目を射り、新しい一日の始まりを告げている。スキルを失っても、戦えなくても、自分にできることはある。仲間のために、そして自分自身のために、今日という日を精一杯生きよう。
レオンの長い影が玄関ホールに伸びていた。
ミーシャは続ける。
「もし余裕があるなら――最近王都周辺で囁かれている不審な動きの調査とか、あなたを蝕む『呪い』に関する情報収集とか……無理のない範囲でお願いしたいわ」
その言葉はレオンが失いかけていた存在意義そのものだった。そうだ、戦闘だけが全てじゃない。自分には自分の戦い方があるのだ。
「……ああ、分かった」
レオンの目に輝きが宿る。さっきまでの陰りは消え、かつての頼もしい軍師の表情が戻ってきていた。
「その任務、確かに引き受けた」
拳を握り、力強くそう宣言すると、少女たちの顔にも安堵の笑みが広がった。
◇
出発の時間が来て、玄関でレオンは四人を見送る――――。
ルナが「じゃあ、行ってくるわね!」と元気よく手を振る。その姿を見ていると、レオンの胸の奥でまた何かが疼いた。かつて妹のリナも、こうして元気よく手を振って出かけていったものだ。
シエルが「お留守番、よろしくね」と微笑み、ミーシャが「ふふっ、帰ったらお土産話を聞かせてあげますわ」と優雅にウインクする。三人が先に門の方へと歩いていく中、エリナだけが最後まで残っていた。
他の三人が先に進むのを見計らい、彼女はレオンに近づく。黒曜石のような瞳が真っ直ぐにレオンを見つめていたが、その奥には普段の凛々しさとは違う、どこか不安げな光が揺れていた。
「一日中寝ていても構わないのよ? 無理だけは、しないで」
その声は普段の凛とした声ではなく、どこか不安げで優しい声だった。
「エリナ……」
エリナは一瞬ためらい――さらに小さな声で付け加える。
「もし、また眠れないようなことがあったら――」
頬がほんのり赤くなる。黒髪の剣士は、言葉を探すように視線を泳がせた。
「その、なんだ……こ、今夜は……わ、私のところに……」
そこまで言って、自分の言葉に耐えられなくなったのかエリナは顔を真っ赤にして口ごもった。
そして、しばらくもじもじとしたあと、
「――とにかく!」
と、エリナは声を荒げた。動揺を隠すように、いつもの強気な口調に戻ろうとする。
「必ず帰ってくる! だから、安心して待ってて!」
一方的にそう言い放つと、彼女は仲間を追って逃げるように走り去っていった。黒髪が朝日を浴びて揺れ、その背中はどこか少女らしく愛らしかった。普段は凛とした剣士なのに、レオンの前でだけは年相応の女の子に戻ってしまう。そんな彼女の不器用さが、レオンにはたまらなく愛おしく思えた。
(エリナ……みんな……ありがとう……)
心からの笑顔で、遠ざかっていく四人の背中に手を振る。
「いってらっしゃい……」
その声は温かく優しく、そして少しだけ切なかった。朝日を浴びた四人の姿が門の向こうに消えていった後も、レオンはしばらくその場に立ち尽くしていた。
◇
玄関の重厚な扉がゴトンと閉まり、その音を最後に屋敷は水を打ったような静寂に包まれた。
カチ、カチ、カチ――ホールに置かれた古い柱時計の音だけがやけに大きく響く。レオンは玄関ホールにぽつんと一人立ち尽くし、玄関に乱雑に並ぶスリッパたちを見つめていた。四人分のスリッパ、それぞれの個性を映した色とりどりの履物。その賑やかな痕跡が胸を締め付ける。
ミーシャの言葉で一度は奮い立った心も、一人になった途端に冷たい不安に侵食され始める。
(……本当に、俺にできることなどあるのだろうか)
拳をギュッと握りしめる。みんな戦いに行ってしまった。夢を叶えるために、未来を切り開くために、危険を承知で前線に立っている。なのに自分は、こうして安全な屋敷で留守番をしているだけ。情報収集という名目があっても、結局は戦えない自分への気遣いじゃないのか。そんな考えが頭をもたげてくる。
レオンは強く頭を振った。
(いや、違う! 俺は、もう決めたはずだ!)
自分の頬を両手で叩く。パンッという音が静寂の中に響き、その痛みが弱気な自分を追い払ってくれた。
(ミーシャは言った。これも『重要任務』だと)
そうだ、腐っている場合じゃない。
(俺には、俺の戦場がある)
レオンはクローゼットからジャケットを取ってくると力強く羽織った。その時、ポケットに何かが入っているのに気づく。取り出してみると、小さな折り畳まれた紙切れだった。
開いてみると、そこには拙い字が並んでいた。
『レオン。無理しないで。アルカナの未来は明るいんだよっ』
ルナの字だ。いつ入れたのだろう。恐らく出発前、レオンが気づかないうちにこっそりと。あの子はいつもツンデレで、素直に気持ちを伝えることが苦手だ。だからこうして、手紙という形で想いを届けてくれたのだろう。
その不器用な優しさに、胸が熱くなった。そして同時に、また妹のリナのことを思い出してしまう。リナも昔、こうして手紙をくれたことがあった。誕生日に拙い字で一生懸命に書いた手紙。『おにぃちゃん、だいすき』と書かれたあの手紙は、今も大切に取ってある。
「……ありがとう、ルナ」
紙切れを大切に懐にしまう。この温もりを胸に、今日一日を過ごそう。そして必ず、みんなが帰ってきた時に胸を張れる成果を出してみせる。
レオンは自分自身を鼓舞するかのように固く拳を握りしめた。
「行くぞ……。必ず、答えを見つけてみせる!」
扉を開け、朝の光の中へと踏み出した。眩しい陽光が目を射り、新しい一日の始まりを告げている。スキルを失っても、戦えなくても、自分にできることはある。仲間のために、そして自分自身のために、今日という日を精一杯生きよう。
レオンの長い影が玄関ホールに伸びていた。
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