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96. 賢者の謎かけ
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最初の数時間は集中力と希望に満ちていた。きっと答えがある、きっと【運命鑑定】を取り戻す方法が見つかる。そう信じてレオンは読み続けた。懐に入れたルナの手紙が、お守りのように胸を温めてくれていた。
しかし――現実は残酷だった。
『スキルとは魂に刻まれた紋章である。それが破壊されれば、二度と元には戻らない』
「くっ!」
『魂魄への干渉は、神々の領域。人の身では決して到達できぬ境地である』
「くぅぅぅ……」
お昼が過ぎた頃には、心が限界に近づいていた。
『呪いによって失われたスキルは――解呪不能』
「何だよもぉ!」
日が傾く頃には、レオンは現実の厳しさに完全に打ちのめされていた。どの書物にも記されているのは絶望的な言葉ばかりで、ページをめくる手が震え始める。焦りが胸を締め付け、時間が経つにつれて手の動きは荒々しくなっていった。
バサッ、バサッと乱暴にページをめくる。「無理」「不可能」「絶望」という言葉が次々と心に突き刺さってくる。窓の外を見るといつの間にか夕日でオレンジ色に染まり始めており、レオンは積み上げた書物の山の前で力なく膝をついた。
(……ダメだ。どこにも……ない……)
拳が床を叩く。ゴンッという鈍い音が虚しく響いた。
(あいつらに……何て、顔向けすればいい……)
朝、力強く「その任務、確かに引き受けた」と宣言したのに、何一つ答えを見つけられなかった。エリナの不器用な優しさ、ルナの手紙、シエルの信頼の眼差し、ミーシャの励まし――みんなの想いを背負って来たのに、何も持ち帰れない。
「くぅぅぅ……ごめん」
誰にともなく呟く。諦めが心を支配しようとする。
その時、ふとレオンの目に一冊の本が留まった。書架の一番下、他の本に隠れるように忘れ去られていた小さな魔導書だ。表紙は擦り切れて題名も読めない。他の本が立派な装丁なのに対し、その本だけがまるで誰にも気づかれたくないかのようにひっそりと隠れていた。
けれど、まるで「これを読め」と囁かれているかのように、何かに導かれるようにレオンはその本を手に取った。
◇
埃を払い急いでページを開くと、そこにはおびただしい量の読めない古代文字が並んでいた。読めない、意味が分からない。
(……くそっ! 読めないとは……。万事休すか……)
諦めかけたその時、レオンの指が最後の一ページに触れた。そこには読める言葉で、誰かの短い一文がメモされている。
『魂を喰らう呪いは、同質の魂、或いはより強大な『命運』によってのみ上書きされる』
それはまるで後世の誰かに宛てた伝言のように、褪せたインクの震える筆跡で書かれていた。その一文を目にした瞬間、レオンの全身に電撃のような衝撃が走った。
(『同質の魂』……!?)
同じスキルを持つ者ということか? 【運命鑑定】を持つ別の誰か――?
(でも、そんな人、どこにいる……? くっ……)
(『或いはより強大な命運』……)
命運とは何だ? スタンピードを止めるようなことか?
(そして……『上書き』!)
レオンの目が見開かれる。
(スキルが再生するのではなく――別の何かに置き換わる可能性がある……!?)
まるでパズルのピースが次々とはまっていくような感覚だった。霧が晴れていく。
「そうか……そういうことか……!」
声に出して呟き、レオンは立ち上がった。さっきまでの絶望はもうない。代わりに燃え上がるような闘志が宿っている。
「呪いは……命運で『上書き』できる……!」
震える手で本を抱きしめる。
「俺は……まだ、終わっていない……!」
「小僧」
いつの間にか背後に老司書が立っていた。レオンはハッとして振り返る。
「その一文を、見つけたか」
静かな声だったが、その奥には何か深い感情が籠もっているように感じられた。
「それは『賢者の謎かけ』と呼ばれ――古来より幾多の者が挑み、誰一人として実現できなかった禁忌の言葉じゃ」
老司書は窓の外を見た。夕日がその皺だらけの横顔を照らしており、その表情には遠い過去を思い出すような哀しみが浮かんでいた。
「『命運』をいじろうとする者は――逆に『命運』に踊らされ、破滅した」
その声が重く響く。
「ワシの師も……親友も……」
深いため息が続いた。その沈黙の中に、長い年月の中で積み重ねられてきた喪失と悲しみが凝縮されているようだった。
「『命運』とは、何なんですか?」
「多くの人の人生に影響を与える強い意志のことを、この世界では『命運』と呼んでおる。君がスタンピードを止めてくれた時のような事じゃ。その節はありがとう、助かった」
老司書は頭を下げた。その仕草は意外なほど丁寧で、レオンへの敬意が感じられた。
「では、またスタンピードを止めようと覚悟すればいい……ってこと?」
「ふっ、覚悟するだけじゃダメじゃろ。実現できる力もなければ」
「く……」
無力な自分の現実を突きつけられたような気がして、レオンは唇を噛んだ。唯一の力【運命鑑定】を失った自分、血を見れば体が動かなくなる自分、何の戦闘力もない自分。その全てが重くのしかかってくる。
しかし――現実は残酷だった。
『スキルとは魂に刻まれた紋章である。それが破壊されれば、二度と元には戻らない』
「くっ!」
『魂魄への干渉は、神々の領域。人の身では決して到達できぬ境地である』
「くぅぅぅ……」
お昼が過ぎた頃には、心が限界に近づいていた。
『呪いによって失われたスキルは――解呪不能』
「何だよもぉ!」
日が傾く頃には、レオンは現実の厳しさに完全に打ちのめされていた。どの書物にも記されているのは絶望的な言葉ばかりで、ページをめくる手が震え始める。焦りが胸を締め付け、時間が経つにつれて手の動きは荒々しくなっていった。
バサッ、バサッと乱暴にページをめくる。「無理」「不可能」「絶望」という言葉が次々と心に突き刺さってくる。窓の外を見るといつの間にか夕日でオレンジ色に染まり始めており、レオンは積み上げた書物の山の前で力なく膝をついた。
(……ダメだ。どこにも……ない……)
拳が床を叩く。ゴンッという鈍い音が虚しく響いた。
(あいつらに……何て、顔向けすればいい……)
朝、力強く「その任務、確かに引き受けた」と宣言したのに、何一つ答えを見つけられなかった。エリナの不器用な優しさ、ルナの手紙、シエルの信頼の眼差し、ミーシャの励まし――みんなの想いを背負って来たのに、何も持ち帰れない。
「くぅぅぅ……ごめん」
誰にともなく呟く。諦めが心を支配しようとする。
その時、ふとレオンの目に一冊の本が留まった。書架の一番下、他の本に隠れるように忘れ去られていた小さな魔導書だ。表紙は擦り切れて題名も読めない。他の本が立派な装丁なのに対し、その本だけがまるで誰にも気づかれたくないかのようにひっそりと隠れていた。
けれど、まるで「これを読め」と囁かれているかのように、何かに導かれるようにレオンはその本を手に取った。
◇
埃を払い急いでページを開くと、そこにはおびただしい量の読めない古代文字が並んでいた。読めない、意味が分からない。
(……くそっ! 読めないとは……。万事休すか……)
諦めかけたその時、レオンの指が最後の一ページに触れた。そこには読める言葉で、誰かの短い一文がメモされている。
『魂を喰らう呪いは、同質の魂、或いはより強大な『命運』によってのみ上書きされる』
それはまるで後世の誰かに宛てた伝言のように、褪せたインクの震える筆跡で書かれていた。その一文を目にした瞬間、レオンの全身に電撃のような衝撃が走った。
(『同質の魂』……!?)
同じスキルを持つ者ということか? 【運命鑑定】を持つ別の誰か――?
(でも、そんな人、どこにいる……? くっ……)
(『或いはより強大な命運』……)
命運とは何だ? スタンピードを止めるようなことか?
(そして……『上書き』!)
レオンの目が見開かれる。
(スキルが再生するのではなく――別の何かに置き換わる可能性がある……!?)
まるでパズルのピースが次々とはまっていくような感覚だった。霧が晴れていく。
「そうか……そういうことか……!」
声に出して呟き、レオンは立ち上がった。さっきまでの絶望はもうない。代わりに燃え上がるような闘志が宿っている。
「呪いは……命運で『上書き』できる……!」
震える手で本を抱きしめる。
「俺は……まだ、終わっていない……!」
「小僧」
いつの間にか背後に老司書が立っていた。レオンはハッとして振り返る。
「その一文を、見つけたか」
静かな声だったが、その奥には何か深い感情が籠もっているように感じられた。
「それは『賢者の謎かけ』と呼ばれ――古来より幾多の者が挑み、誰一人として実現できなかった禁忌の言葉じゃ」
老司書は窓の外を見た。夕日がその皺だらけの横顔を照らしており、その表情には遠い過去を思い出すような哀しみが浮かんでいた。
「『命運』をいじろうとする者は――逆に『命運』に踊らされ、破滅した」
その声が重く響く。
「ワシの師も……親友も……」
深いため息が続いた。その沈黙の中に、長い年月の中で積み重ねられてきた喪失と悲しみが凝縮されているようだった。
「『命運』とは、何なんですか?」
「多くの人の人生に影響を与える強い意志のことを、この世界では『命運』と呼んでおる。君がスタンピードを止めてくれた時のような事じゃ。その節はありがとう、助かった」
老司書は頭を下げた。その仕草は意外なほど丁寧で、レオンへの敬意が感じられた。
「では、またスタンピードを止めようと覚悟すればいい……ってこと?」
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「く……」
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