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98. 腐敗した森
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依頼ボードのところへ来た一行は、無数の羊皮紙が貼られた壁を見上げた。魔物討伐、護衛任務、素材採取――様々な依頼が所狭しと並んでいる。
一行は【上級依頼】のボードの前に立つ。そこはどれも以前の自分たちなら躊躇していたような危険な依頼ばかりだった。けれど今の彼女たちは違う。スタンピードを乗り越え、カインとの戦いを経て、彼女たちは確かに強くなっていた。レオンに才能を見出され、レオンに導かれ、レオンに信じてもらえたからこそ、ここまで来ることができた。
ルナが「ワイバーン討伐」の依頼書をパンと叩く。
「これよ! これくらい派手なのをやれば、あいつらも黙るでしょ!」
「却下よ……」
即座に制したのはシエルだった。普段は控えめな彼女だが、今日は珍しくはっきりと意見を述べている。
「確かに勝てるかもしれないけど、遠くて夜までには帰って来れないわ。レオンを待たせるわけにはいかないのよ?」
ムッとしていたルナだったが、レオンを待たせられないのはその通りだった。
「……そうね。早く帰らないと、あいつ心配するものね」
その素直さにエリナは少し驚いた。以前のルナならもっと食い下がっていただろう。けれど今は違う。全員が同じ方向を向いている。レオンのもとへ早く帰りたい。その想いが、四人を一つにまとめていた。
最終的にエリナが指を置いたのは、一枚の古びた羊皮紙だった。
【緊急依頼:腐敗した森のゴブリンロード討伐】
その依頼書を見つめながら、エリナは静かに告げた。
「『最近、森のゴブリンが凶暴化・組織化しているとの報告がある』だって。早めに討伐した方がよさそうだわ」
一呼吸置いて仲間たちの顔を見回す。
「これならすぐに終わらせられる……かな?」
「オッケー!」「行こう!」「ちゃちゃっと倒してレオンのところへ早く帰りましょう!」
頷き合う少女たち。カウンターに依頼書を出すと、受付嬢が心配そうに尋ねてきた。
「あの……レオン様は、ご一緒じゃないんですか?」
「ええ」
ミーシャが完璧な聖女の微笑みで答えた。
「彼には、もっと重要な任務がございますので」
「そ、そうですか……お気をつけて」
受付嬢はまだ心配そうだったが、四人の凛とした表情を見てそれ以上は何も言わなかった。
ギルドを出る時、また誰かの嘲笑が聞こえた。けれど四人は前を向いたままだった。言葉で返す必要はない。結果で示せばいい。レオンがいつもそうしてきたように、自分たちも行動で証明してみせる。
◇
瘴気が立ち込める腐敗した森は、まるで地獄の門をくぐったかのような異様な空間だった。
一行はエリナを先頭に警戒隊形を維持し、薄暗い森の中を慎重に進んでいく。木々の間から不気味な呻き声が聞こえ、湿った土の匂いに微かな腐臭が混じっていた。足元には濡れた落ち葉が積もっており、一歩踏み出すたびにぐちゃりという不快な音が響く。
(……気持ち悪い)
ルナが顔をしかめたが、それを口には出さない。音で位置がバレれば奇襲の意味がなくなる。
散発的に襲いかかってくるゴブリンの斥候は、攻撃を仕掛けてくる前に――。
ヒュンッ!
シエルの放つ矢の音だけを残して沈黙していった。薄暗がりの中、わずかな気配だけで敵の位置を察知し、確実に仕留める。その技術は既に神業の域に達していた。
シエルはその手ごたえにキュッと口を結び、静かに頷く。かつての自分なら、こんな暗がりの中で的確に敵を射抜くことなどできなかった。
信じてくれた人がいたから。その信頼に応えたいと思えたから、ここまで来られた。
レオンは言ってくれた。「シエルには神弓の才能がある」と。最初は信じられなかった。自分なんかにそんな大層な才能があるわけがないと思っていた。けれどレオンは諦めなかった。何度も何度も、自分の可能性を語ってくれた。「シエルなら絶対にできる」と、真っ直ぐな翠色の瞳で見つめながら。
シエルはそっとさらしを巻いた胸に手を当てた。心臓が力強く鼓動している。この鼓動が続く限り、自分はレオンのために戦い続ける。彼が信じてくれた自分を、裏切らないために。
◇
やがて一行がたどり着いたのは、崖にぽっかりと口を開けたゴブリンたちの巣穴だった。
入り口を見張る数体のゴブリンを素早く処理すると、エリナが中をうかがう。洞窟の奥から無数の気配が感じられ、そっと覗き込むと松明の明かりがちらちらと見えた。そして何かを貪り食うようなグチャグチャと響くおぞましい音。恐らく獲物を食らっているのだろう。人間か、それとも別の何かか。いずれにせよ、この巣を放置しておくわけにはいかない。
「どうする? 中に突入する?」
エリナの問いに、ミーシャが首を振った。
「いえ、その必要はありませんわ」
その視線がルナへと向けられると、全員の目が赤髪の少女に集まった。
「ふふーん!」
悪戯っぽく笑ったルナが一歩前に出る。その小さな背中が今はとても頼もしく見えた。かつては魔力の制御ができずに暴走させていた少女が、今は自信に満ちた表情で仲間たちの前に立っている。
「こういうのは、派手にやるに限るのよね!」
その言葉に全員が笑った。そうだ、魔物の巣は中に入るよりも外から一気に殲滅する方が効率的だ。『ルナの火力ならそういう使い方もある』と、以前レオンに教えてもらっていたのだ。
一行は【上級依頼】のボードの前に立つ。そこはどれも以前の自分たちなら躊躇していたような危険な依頼ばかりだった。けれど今の彼女たちは違う。スタンピードを乗り越え、カインとの戦いを経て、彼女たちは確かに強くなっていた。レオンに才能を見出され、レオンに導かれ、レオンに信じてもらえたからこそ、ここまで来ることができた。
ルナが「ワイバーン討伐」の依頼書をパンと叩く。
「これよ! これくらい派手なのをやれば、あいつらも黙るでしょ!」
「却下よ……」
即座に制したのはシエルだった。普段は控えめな彼女だが、今日は珍しくはっきりと意見を述べている。
「確かに勝てるかもしれないけど、遠くて夜までには帰って来れないわ。レオンを待たせるわけにはいかないのよ?」
ムッとしていたルナだったが、レオンを待たせられないのはその通りだった。
「……そうね。早く帰らないと、あいつ心配するものね」
その素直さにエリナは少し驚いた。以前のルナならもっと食い下がっていただろう。けれど今は違う。全員が同じ方向を向いている。レオンのもとへ早く帰りたい。その想いが、四人を一つにまとめていた。
最終的にエリナが指を置いたのは、一枚の古びた羊皮紙だった。
【緊急依頼:腐敗した森のゴブリンロード討伐】
その依頼書を見つめながら、エリナは静かに告げた。
「『最近、森のゴブリンが凶暴化・組織化しているとの報告がある』だって。早めに討伐した方がよさそうだわ」
一呼吸置いて仲間たちの顔を見回す。
「これならすぐに終わらせられる……かな?」
「オッケー!」「行こう!」「ちゃちゃっと倒してレオンのところへ早く帰りましょう!」
頷き合う少女たち。カウンターに依頼書を出すと、受付嬢が心配そうに尋ねてきた。
「あの……レオン様は、ご一緒じゃないんですか?」
「ええ」
ミーシャが完璧な聖女の微笑みで答えた。
「彼には、もっと重要な任務がございますので」
「そ、そうですか……お気をつけて」
受付嬢はまだ心配そうだったが、四人の凛とした表情を見てそれ以上は何も言わなかった。
ギルドを出る時、また誰かの嘲笑が聞こえた。けれど四人は前を向いたままだった。言葉で返す必要はない。結果で示せばいい。レオンがいつもそうしてきたように、自分たちも行動で証明してみせる。
◇
瘴気が立ち込める腐敗した森は、まるで地獄の門をくぐったかのような異様な空間だった。
一行はエリナを先頭に警戒隊形を維持し、薄暗い森の中を慎重に進んでいく。木々の間から不気味な呻き声が聞こえ、湿った土の匂いに微かな腐臭が混じっていた。足元には濡れた落ち葉が積もっており、一歩踏み出すたびにぐちゃりという不快な音が響く。
(……気持ち悪い)
ルナが顔をしかめたが、それを口には出さない。音で位置がバレれば奇襲の意味がなくなる。
散発的に襲いかかってくるゴブリンの斥候は、攻撃を仕掛けてくる前に――。
ヒュンッ!
シエルの放つ矢の音だけを残して沈黙していった。薄暗がりの中、わずかな気配だけで敵の位置を察知し、確実に仕留める。その技術は既に神業の域に達していた。
シエルはその手ごたえにキュッと口を結び、静かに頷く。かつての自分なら、こんな暗がりの中で的確に敵を射抜くことなどできなかった。
信じてくれた人がいたから。その信頼に応えたいと思えたから、ここまで来られた。
レオンは言ってくれた。「シエルには神弓の才能がある」と。最初は信じられなかった。自分なんかにそんな大層な才能があるわけがないと思っていた。けれどレオンは諦めなかった。何度も何度も、自分の可能性を語ってくれた。「シエルなら絶対にできる」と、真っ直ぐな翠色の瞳で見つめながら。
シエルはそっとさらしを巻いた胸に手を当てた。心臓が力強く鼓動している。この鼓動が続く限り、自分はレオンのために戦い続ける。彼が信じてくれた自分を、裏切らないために。
◇
やがて一行がたどり着いたのは、崖にぽっかりと口を開けたゴブリンたちの巣穴だった。
入り口を見張る数体のゴブリンを素早く処理すると、エリナが中をうかがう。洞窟の奥から無数の気配が感じられ、そっと覗き込むと松明の明かりがちらちらと見えた。そして何かを貪り食うようなグチャグチャと響くおぞましい音。恐らく獲物を食らっているのだろう。人間か、それとも別の何かか。いずれにせよ、この巣を放置しておくわけにはいかない。
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「いえ、その必要はありませんわ」
その視線がルナへと向けられると、全員の目が赤髪の少女に集まった。
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悪戯っぽく笑ったルナが一歩前に出る。その小さな背中が今はとても頼もしく見えた。かつては魔力の制御ができずに暴走させていた少女が、今は自信に満ちた表情で仲間たちの前に立っている。
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