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109. 運命のストラテジスト
「喧嘩してないで、静かに食べようよ! せっかくレオンが作ってくれたんだから!」
ルナが他人事のようにいさめる。自分が火をつけたくせに、と全員が心の中でツッコんだが、誰も口には出さなかった。
「そうね。冷めないうちに」「仕方ないわねぇ」
再び賑やかな食卓が戻ってくる。笑い声、楽しい会話、温かい料理。全てが幸せな時間を作り出していた。シチューの湯気が天井に向かって立ち上り、暖炉の炎がパチパチと音を立て、五人の笑い声が部屋中に響いている。
レオンは心の底から思う。
(ああ……俺は、幸せだ。この瞬間が、永遠に続けばいいのに……)
けれどレオンは知っていた。この平和な時間は永遠には続きそうにないことを。今日、少女たちが遭遇した【核】という存在。図書館で知った【命運】という概念。そしてアルカナを狙う何者かの影。嵐が来ることを、レオンは予感していた。
レオンはキュッと口を結んだ。
だが、今この瞬間、出来ることなどない。今はただこの幸せを噛みしめよう。この温かい時間を大切に。そしてこの時間こそがこれから始まる戦いへの力の源だった。
どんな嵐が来ようとも、この絆があれば乗り越えられる。レオンはそう信じていた。
夜は更けていく。けれど屋敷の中は、笑い声と温もりに満ちていた。
◇
時はさかのぼり、スタンピード阻止に成功した直後のこと――。
その歌は、嵐のように王国最大の都市【王都】を席巻した。
夕暮れ時。
西の空が茜色に染まり、街路樹の影が長く石畳に伸びる刻限。
酒場『銀の竪琴亭』の重い樫の扉が、軋みながら開いた。
一人の男が、静かに店内へ足を踏み入れる。
くたびれた旅装束。埃にまみれた外套。背には、年季の入った竪琴を背負っている。その木製の胴には無数の傷が刻まれていた。
風貌だけを見れば、どこにでもいる流れの吟遊詩人。街から街へと渡り歩き、酒場の隅で小銭を稼ぐ、ありふれた旅芸人のはずだった。
けれど。
彼が竪琴を手に取り、最初の弦に指を這わせた瞬間――酒場の空気が、一変した。
ジャラン――。
その音色は、まるで天上から降り注ぐ光のように響いた。喧騒に満ちていた酒場が、水を打ったように静まり返る。酔客たちの笑い声が途切れ、給仕の足音が止まり、厨房の物音さえも遠ざかっていく。
誰もが、その音色に引き寄せられた。まるで見えない糸で心を絡め取られるように、全員の視線が吟遊詩人へと集まる。
ジャジャジャジャ♪ ジャンジャン――♪
前奏が響き渡る。竪琴の弦が震え、空気を揺らし、人々の鼓膜を、そして魂を揺さぶる。
そして――朗々と歌い始めた。
「地を埋める 魔物 三万のスタンピード~♬」
「Fランクと嗤われた 五つの傷~♪」
その歌声は深く、どこか悲しみを帯びていた。けれど同時に、聴く者の胸を熱くする力強さがあった。まるで魔法のように、人々の心を鷲掴みにする。
酒場の客たちが、グラスを置く。カウンターに肘をついていた男たちが、姿勢を正す。ウェイトレスが盆を抱えたまま立ち尽くし、その瞳に涙が滲む。
全員が――息をすることさえ忘れて、吟遊詩人の歌に聞き入っていた。
「燃え上がれ 紅蓮の魔女! 怯えた指で火を握れ~♩」
竪琴の音色が、激しさを増していく。弦を弾く指が風のように駆け、旋律は稲妻のように空気を切り裂く。
「導け 運命の軍師♪」
「涙の未来を その瞳で見切れ♪」
酒場の片隅で、一人の老兵が拳を握りしめた。その目尻に、光るものがあった。若き日の自分を思い出しているのかもしれない。あるいは、かつて失った戦友のことを。
「常識外れの策謀 『噴火させる』と少年は笑う♪」
「追放された軍師と 迷子の少女たち♪」
客たちの間から、どよめきが起こった。
「本当か? そんなことが……」
「三万だと? 嘘だろう……」
互いに顔を見合わせ、囁き合う。けれど誰も席を立とうとはしない。誰もがこの歌を聴き続けたいと思っていいた。
吟遊詩人は歌い手の本能のままに、さらに力強く、魂を込めて歌い上げる。
「貫け 月光の神弓! 凍る夜空を射ち落とせ♪」
「護れ 慈愛の聖女! 奇跡を抱きしめて♪」
「闘を斬りさけ 漆黒の剣聖~♪」
吟遊詩人の歌は、いよいよラストのサビへと昇りつめていく。竪琴の音色が一際高く、美しく響き渡る。それは暮れゆく空に舞い上がる鳥の翼のように、聴く者の心を天へと誘う。
「緋は燃やし 銀は射抜き 金は癒し 黒は断ち切り 翠は導く――ひとつの未来へ♪」
ジャジャジャーン――!
竪琴の最後の一音が、高らかに鳴り響いた。
余韻が酒場の空気を震わせ、客たちの骨までも揺らす。
一瞬の、静寂。
そして――酒場が、割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。
「すげぇ!」
「最高だ!」
「もう一度! もう一度やってくれ!」
客たちが立ち上がり、テーブルを叩き、足を踏み鳴らす。コインが宙を舞い、吟遊詩人の足元に銀の雨となって降り注ぐ。銀貨が、銅貨が、中には金貨を投げる者さえいた。
吟遊詩人は静かに竪琴を胸に抱き、深々と礼をした。その瞳には、どこか遠くを見つめるような、不思議な光が宿っている。
「ありがとうございます。では、もう一曲……」
夜が更けても、歌声は止まなかった。『銀の竪琴亭』は朝まで歌と歓声に包まれ、いつしか通りにまで人だかりができていた。
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作中曲はこちらで公開中です(●´ω`●)
お楽しみください
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『運命のストラテジスト』
【1Aメロ】 風泣く夜 クーベルノーツの火は消え 凍りつく
地を埋める 魔物 三万のスタンピード
祈りさえ届かない 霧の中で ただ「終わり」が 迫っていた
【1Bメロ】 それでも 折れない影 Fランクと嗤われた 五つの傷
運命の縁で 今、重なる――「逃げない」 その一言で
【1サビ】 燃え上がれ 紅蓮の魔女! 怯えた指で火を握れ
導け 運命の軍師
涙の未来を その瞳で見切れ
アルカナ 傷を星に変える 僕ら
【2Aメロ】 常識外れの 策謀
噴火させる と 少年は笑う
烈火の雪崩で 絶望は焼け消えた
英雄か災厄か おそれを纏う凱旋
【2Bメロ】 一人きり 声を殺した夜も 背中預ける 仲間がいれば越えられる
追放された軍師と 迷子の少女たち
認め合えた朝へ もう一度 手を伸ばす
【2サビ】 貫け 月光の神弓! 凍る夜空を射ち落とせ
護れ 慈愛の聖女! 奇跡を抱きしめて
闇を斬りさけ 漆黒の剣聖
アルカナ 未来をつかむ 僕ら
【落ちサビ】 たとえ誰が 無謀と笑っても 信じ抜いた絆は 嘘じゃない 瓦礫の中で 掴んだ光 もう二度と離さない 離せない
【ラスサビ】轟け 魂の凱歌よ! 三万の闇を焼き払い 明日への道を切り拓け
緋は燃やし 銀は射抜き キンは癒し 黒は断ち切り 翠は導く――ひとつの未来へ
アルカナ! アルカナ! その名は希望 その名は奇跡 アルカナ! アルカナ! 伝説はここから 始まっていく
ルナが他人事のようにいさめる。自分が火をつけたくせに、と全員が心の中でツッコんだが、誰も口には出さなかった。
「そうね。冷めないうちに」「仕方ないわねぇ」
再び賑やかな食卓が戻ってくる。笑い声、楽しい会話、温かい料理。全てが幸せな時間を作り出していた。シチューの湯気が天井に向かって立ち上り、暖炉の炎がパチパチと音を立て、五人の笑い声が部屋中に響いている。
レオンは心の底から思う。
(ああ……俺は、幸せだ。この瞬間が、永遠に続けばいいのに……)
けれどレオンは知っていた。この平和な時間は永遠には続きそうにないことを。今日、少女たちが遭遇した【核】という存在。図書館で知った【命運】という概念。そしてアルカナを狙う何者かの影。嵐が来ることを、レオンは予感していた。
レオンはキュッと口を結んだ。
だが、今この瞬間、出来ることなどない。今はただこの幸せを噛みしめよう。この温かい時間を大切に。そしてこの時間こそがこれから始まる戦いへの力の源だった。
どんな嵐が来ようとも、この絆があれば乗り越えられる。レオンはそう信じていた。
夜は更けていく。けれど屋敷の中は、笑い声と温もりに満ちていた。
◇
時はさかのぼり、スタンピード阻止に成功した直後のこと――。
その歌は、嵐のように王国最大の都市【王都】を席巻した。
夕暮れ時。
西の空が茜色に染まり、街路樹の影が長く石畳に伸びる刻限。
酒場『銀の竪琴亭』の重い樫の扉が、軋みながら開いた。
一人の男が、静かに店内へ足を踏み入れる。
くたびれた旅装束。埃にまみれた外套。背には、年季の入った竪琴を背負っている。その木製の胴には無数の傷が刻まれていた。
風貌だけを見れば、どこにでもいる流れの吟遊詩人。街から街へと渡り歩き、酒場の隅で小銭を稼ぐ、ありふれた旅芸人のはずだった。
けれど。
彼が竪琴を手に取り、最初の弦に指を這わせた瞬間――酒場の空気が、一変した。
ジャラン――。
その音色は、まるで天上から降り注ぐ光のように響いた。喧騒に満ちていた酒場が、水を打ったように静まり返る。酔客たちの笑い声が途切れ、給仕の足音が止まり、厨房の物音さえも遠ざかっていく。
誰もが、その音色に引き寄せられた。まるで見えない糸で心を絡め取られるように、全員の視線が吟遊詩人へと集まる。
ジャジャジャジャ♪ ジャンジャン――♪
前奏が響き渡る。竪琴の弦が震え、空気を揺らし、人々の鼓膜を、そして魂を揺さぶる。
そして――朗々と歌い始めた。
「地を埋める 魔物 三万のスタンピード~♬」
「Fランクと嗤われた 五つの傷~♪」
その歌声は深く、どこか悲しみを帯びていた。けれど同時に、聴く者の胸を熱くする力強さがあった。まるで魔法のように、人々の心を鷲掴みにする。
酒場の客たちが、グラスを置く。カウンターに肘をついていた男たちが、姿勢を正す。ウェイトレスが盆を抱えたまま立ち尽くし、その瞳に涙が滲む。
全員が――息をすることさえ忘れて、吟遊詩人の歌に聞き入っていた。
「燃え上がれ 紅蓮の魔女! 怯えた指で火を握れ~♩」
竪琴の音色が、激しさを増していく。弦を弾く指が風のように駆け、旋律は稲妻のように空気を切り裂く。
「導け 運命の軍師♪」
「涙の未来を その瞳で見切れ♪」
酒場の片隅で、一人の老兵が拳を握りしめた。その目尻に、光るものがあった。若き日の自分を思い出しているのかもしれない。あるいは、かつて失った戦友のことを。
「常識外れの策謀 『噴火させる』と少年は笑う♪」
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客たちの間から、どよめきが起こった。
「本当か? そんなことが……」
「三万だと? 嘘だろう……」
互いに顔を見合わせ、囁き合う。けれど誰も席を立とうとはしない。誰もがこの歌を聴き続けたいと思っていいた。
吟遊詩人は歌い手の本能のままに、さらに力強く、魂を込めて歌い上げる。
「貫け 月光の神弓! 凍る夜空を射ち落とせ♪」
「護れ 慈愛の聖女! 奇跡を抱きしめて♪」
「闘を斬りさけ 漆黒の剣聖~♪」
吟遊詩人の歌は、いよいよラストのサビへと昇りつめていく。竪琴の音色が一際高く、美しく響き渡る。それは暮れゆく空に舞い上がる鳥の翼のように、聴く者の心を天へと誘う。
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余韻が酒場の空気を震わせ、客たちの骨までも揺らす。
一瞬の、静寂。
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「すげぇ!」
「最高だ!」
「もう一度! もう一度やってくれ!」
客たちが立ち上がり、テーブルを叩き、足を踏み鳴らす。コインが宙を舞い、吟遊詩人の足元に銀の雨となって降り注ぐ。銀貨が、銅貨が、中には金貨を投げる者さえいた。
吟遊詩人は静かに竪琴を胸に抱き、深々と礼をした。その瞳には、どこか遠くを見つめるような、不思議な光が宿っている。
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夜が更けても、歌声は止まなかった。『銀の竪琴亭』は朝まで歌と歓声に包まれ、いつしか通りにまで人だかりができていた。
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