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132. 捻じれた次元
馬車の中――。
ミーシャの顔から血の気が引いた。
「この声……まさか……?」
その呟きは、か細く震えている。まるで、信じたくない何かを思い出してしまったかのように。
「ミーシャ、知ってるの?」
レオンが、心配そうにミーシャの顔をのぞきこむ。
しかし、ミーシャは首を横に振った。
「ごめんなさい、何でもないわ。知り合いの声に……少し、似てただけ……」
「そうか……。……。もし、何かわかったら教えて。今は少しの手がかりでも貴重だからね」
「わ、分かったわ」
その言葉を絞り出すと、ミーシャは俯いた。顔を隠すように、長い髪が頬にかかる。その肩が、小さく震えていた。
エリナが、窓の外のアラクネを見据えながらつぶやく。
「この声の女が、倒すべき敵なのね……」
その目には、怒りの炎が燃えている。
「『神に背く』だって? ふざけるな!」
ルナが、憤懣やるかたない様子で叫んだ。その小さな体が、怒りで震えている。
「魔物を使って、スタンピードおこして……そんなことをしてるあんたが、神だって!? 何を言ってるのよ!」
ルナの声は、涙声になっている。
「そうよ! 命を冒涜しているのはあなたの方じゃない!」
シエルも、ムッとして拳を握った。
「人の心を操って、大切な人を奪って……そんなあなたに、神を語る資格なんてないわ!」
その声には、父を操られた怒りと悲しみが滲んでいる。
レオンは、窓の外を見つめながら、ギリッと奥歯を鳴らした。
「やはり……【未来視】ができるようだな……」
自分たちがこの連合軍で来ることも、戦術も、全て見通していた。だから、この不気味な化け物を用意したのだろう……厄介だ……いや、厄介どころじゃない……。
レオンの拳が、震える。恐怖ではない。怒りと、そして無力感。未来を見通す敵に、どうやって勝てばいいのか。
四人の少女たちも、レオンの言葉に黙り込んだ。早くも厳しい状況になりつつあることを、誰もが理解していた。
沈黙が、馬車の中を支配する。
外では、まだ女の笑い声が響いている。
「さあ、死になさい……愚か者たちよ……。ほーっほっほっほ!」
その声が、まるで呪いのように、五人の心に重くのしかかっていた。
◇
ギルバートは動じなかった。未来視で対策されていることは想定内なのだ。
「全軍、陣形を組め! 敵は一体! 恐れるな! 突撃し、粉砕せよ!」
ギルバートの号令が、広場に響き渡った。その声には、微塵の迷いもない。
騎士たちが、即座に動いた。長年の訓練で磨かれた連携。一糸乱れぬ動き。最強の騎士団『蒼き獅子』とギルドの猛者たちが、アルカナの馬車を守るように完璧な突撃陣形を組んだ。
先頭にギルバートと精鋭騎士たち。その後ろに重装騎兵。側面を軽騎兵と冒険者たちが固め、後方に魔術師部隊と弓兵部隊。後方に、守るべきアルカナの馬車。
完璧な陣形。何度も検討の上で組み上げられた、鉄壁の布陣。
「突撃ぃぃぃ!」
ギルバートが剣を振り下ろした。
ドドドドドッ!
大地を揺るがして、連合軍が突進を開始する。数十騎の騎馬と数十人の戦士たちが、一斉に駆け出した。その迫力は、まるで雪崩のよう。地面が揺れ、土煙が舞い上がり、雄叫びが響く――――。
◇
だが、アラクネ・ファンタズマは動かなかった。
ただ、その水晶の八本脚のうち、二本をすっと持ち上げる。その動きは優雅で、まるで指揮者のよう。けれどその優雅さの裏には、計算し尽くされた冷酷さが潜んでいた。
一本目の脚を、突撃する騎士団の先頭、すこし前方の地面に突き刺した。
ズンッ!
地面に穴が開き、そこから青白い光が溢れ出す。
二本目の脚をシュルシュルと伸ばすと、後方に控えるギルド魔術師部隊の「真上」、何もない空間を指した。
シュンッ!
空中に、同じ青白い光の穴が開く。
二つの穴が、目に見えない「糸」で結ばれ――空間が歪み、次元が捻じれる。
次の瞬間――恐るべき事態が発生した。
「なっ!?」
ギルバートの目の前を、全速力で突撃していたはずの先頭部隊十数騎が、忽然と消失した。
まるで、存在ごと世界から消されたかのように。音もなく、光もなく、ただ消えたのだ。
ミーシャの顔から血の気が引いた。
「この声……まさか……?」
その呟きは、か細く震えている。まるで、信じたくない何かを思い出してしまったかのように。
「ミーシャ、知ってるの?」
レオンが、心配そうにミーシャの顔をのぞきこむ。
しかし、ミーシャは首を横に振った。
「ごめんなさい、何でもないわ。知り合いの声に……少し、似てただけ……」
「そうか……。……。もし、何かわかったら教えて。今は少しの手がかりでも貴重だからね」
「わ、分かったわ」
その言葉を絞り出すと、ミーシャは俯いた。顔を隠すように、長い髪が頬にかかる。その肩が、小さく震えていた。
エリナが、窓の外のアラクネを見据えながらつぶやく。
「この声の女が、倒すべき敵なのね……」
その目には、怒りの炎が燃えている。
「『神に背く』だって? ふざけるな!」
ルナが、憤懣やるかたない様子で叫んだ。その小さな体が、怒りで震えている。
「魔物を使って、スタンピードおこして……そんなことをしてるあんたが、神だって!? 何を言ってるのよ!」
ルナの声は、涙声になっている。
「そうよ! 命を冒涜しているのはあなたの方じゃない!」
シエルも、ムッとして拳を握った。
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「やはり……【未来視】ができるようだな……」
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四人の少女たちも、レオンの言葉に黙り込んだ。早くも厳しい状況になりつつあることを、誰もが理解していた。
沈黙が、馬車の中を支配する。
外では、まだ女の笑い声が響いている。
「さあ、死になさい……愚か者たちよ……。ほーっほっほっほ!」
その声が、まるで呪いのように、五人の心に重くのしかかっていた。
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ギルバートの号令が、広場に響き渡った。その声には、微塵の迷いもない。
騎士たちが、即座に動いた。長年の訓練で磨かれた連携。一糸乱れぬ動き。最強の騎士団『蒼き獅子』とギルドの猛者たちが、アルカナの馬車を守るように完璧な突撃陣形を組んだ。
先頭にギルバートと精鋭騎士たち。その後ろに重装騎兵。側面を軽騎兵と冒険者たちが固め、後方に魔術師部隊と弓兵部隊。後方に、守るべきアルカナの馬車。
完璧な陣形。何度も検討の上で組み上げられた、鉄壁の布陣。
「突撃ぃぃぃ!」
ギルバートが剣を振り下ろした。
ドドドドドッ!
大地を揺るがして、連合軍が突進を開始する。数十騎の騎馬と数十人の戦士たちが、一斉に駆け出した。その迫力は、まるで雪崩のよう。地面が揺れ、土煙が舞い上がり、雄叫びが響く――――。
◇
だが、アラクネ・ファンタズマは動かなかった。
ただ、その水晶の八本脚のうち、二本をすっと持ち上げる。その動きは優雅で、まるで指揮者のよう。けれどその優雅さの裏には、計算し尽くされた冷酷さが潜んでいた。
一本目の脚を、突撃する騎士団の先頭、すこし前方の地面に突き刺した。
ズンッ!
地面に穴が開き、そこから青白い光が溢れ出す。
二本目の脚をシュルシュルと伸ばすと、後方に控えるギルド魔術師部隊の「真上」、何もない空間を指した。
シュンッ!
空中に、同じ青白い光の穴が開く。
二つの穴が、目に見えない「糸」で結ばれ――空間が歪み、次元が捻じれる。
次の瞬間――恐るべき事態が発生した。
「なっ!?」
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