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25. 処刑ショー
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「さて……行く? 行っちゃう? くふふふ……」
胸ポケットから顔を覗かせたリベルの瞳が、蒼玉のように輝いていた。
「そうだね……次に暗くなった時がオペレーション・スタートだ」
ユウキは周囲に気取られないよう、そっと呟いた。
「オッケー!」
リベルの可愛い小さな手がサムアップ。ユウキのほほが緩んだ。そう、自分には世界最強の戦闘アンドロイドがついている。こんなに小さくてもその攻撃力は護衛を吹き飛ばすくらいなら余裕である。
きっと成功できる――――。
ユウキはキュッと口を結んだ。
◇
時が止まったかのような、永遠にも感じられる数分が過ぎ、会場の照明が、またゆっくりと暗転を始めた。観葉植物たちが放つ青い燐光が、幻想的な海底のような空間を作り出していく。
「ヨシ! 行くか!」
両頬を勢いよく叩き、気合を入れるユウキ。今この瞬間、人類の未来がかかっている。失敗は許されない。
立ち上がろうとした、まさにその瞬間――――。
「レディース、エンド、ジェントルメーン!」
突如、司会者の声が会場に轟き渡る。まばゆい光がステージを照らし、ユウキは固まった。
へ……?
見上げれば、ドームの天井から吊るされた一人の女性が、スポットライトに照らされながら降りてくる。露出の多い衣装に身を包んだ姿は、まるで風俗系の見世物のようにすら見えた。
「ハーイ! 皆さま。これより脱走者処刑ショーの始まりでーす!」
おぉぉぉ! いいぞー! やれやれー!
「な、なんなのこれ……」
歓声が渦巻く会場を見渡して、ユウキの心臓が凍りついた。
「彼女、綾香さんはなんと脱走を図ったのです! 重罪! まさにあってはならない裏切り行為ですよ、これは!」
「そうだー!」「処刑しろ―!」「ショ・ケ・イ! ショ・ケ・イ!」
嗜虐的な歓声が響き渡る。人間性を失った群衆の叫びに、ユウキはただ茫然と首を振るばかり。
「ちょっと……どうなってんの……?」
ステージ中央には鉄格子で囲まれた円形の檻が設置されていた。中に、綾香と呼ばれた女性が乱暴に落とされる。
「ぎゃっ! 何するのよぉ! 止めてよぉ!」
絶望が滲む悲鳴が会場に木霊した。
「さて、綾香さんのお相手はこちら!」
スポットライトが横の檻を照らし出した瞬間――――。
グァォォォォ!!
獣の重低音の咆哮が会場を揺るがす。なんと巨大なトラが、獲物を求めて檻の中で蠢いているではないか。
「ひぃぃ! いやぁぁぁ!」
綾香は青ざめた顔で鉄格子にしがみつく。手足は震え、目は恐怖で見開かれていた。
「このトラは三日間、餌をあげていません! お腹ペッコペコです!」
司会者の声が弾むように響く。陽気な調子と、残虐さのギャップに、ユウキの心が怒りで震えた。
「人殺しぃぃぃ! 止めてよぉぉぉ!」
切羽詰まった叫びが会場に響くが、観客たちは嗤うばかり。瞳の奥には、人間性を失った野蛮さが潜んでいた。
ただ、女性たちだけは異なっていた。彼女たちはうつむいて、光景から目を逸らそうとしている。姿には、屈辱と無力さが滲んでいた。
きっと彼女たちには明日の自分の姿に見えているに違いない。なんらかの理由で閉じ込められたこの狂気の世界の中で、自分をしっかりと持つことがどれほど苦しいことか――――。ユウキは彼女たちの心の痛みに胸が苦しくなった。
「あれ? 行かないの?」
リベルは不満そうに眉をひそめ、ユウキを見上げた。
「ちょ、ちょっと待って。女の子が……」
「え? 女の子より黒幕でしょ? 今は」
リベルは首を傾げ、子供のような純粋さで正論を放つ。無邪気な表情に、ユウキは言葉を失った。
そのとおりだ。人類全体の運命と女の子一人の命では、比べるまでもない。大義のためには犠牲を覚悟しなければならない時もある。女の子など見捨てて、むしろ盛り上がりに紛れて黒幕に突っ込んでいくのが正解に違いない。
しかし――――。
ユウキの胸の奥で、何かが疼くように痛んだ。
そうこうしているうちにも、厳かな死刑執行のように、檻の鉄格子が引き上げられていく。
「さぁっ! いよいよごたいめーーん!!」
「止めてよぉぉぉ!」
ギャン泣きして喚く綾香の声が、ユウキの心を締め付けた。
トラは少女を一瞥すると、獲物を追い詰めるようにゆっくりと歩を進めていく。一歩一歩が、綾香の命の残り時間を刻んでいくように見えた。
「ほらっ! 綾香さん。ファイトファイト! 食べられちゃいますよ!」
司会者の嘲るような声が、状況をより残酷に彩る。
「いやぁぁぁ!」
今まさに喉笛を噛み切らんばかりの迫力で迫るトラに、彼女は泣き叫ぶことしかできない。あまりにも無力で、見ているだけで胸が痛んだ。
ユウキは奥歯を噛みしめ、手のひらに爪が食い込むほど拳を握り締める。
女の子を犠牲にして勝ち得た勝利に、いったい何の意味があるのだろうか? ここで見捨てたら一生後悔するに違いない――――。
ユウキは心を決め、リベルを掌に取り出した。
胸ポケットから顔を覗かせたリベルの瞳が、蒼玉のように輝いていた。
「そうだね……次に暗くなった時がオペレーション・スタートだ」
ユウキは周囲に気取られないよう、そっと呟いた。
「オッケー!」
リベルの可愛い小さな手がサムアップ。ユウキのほほが緩んだ。そう、自分には世界最強の戦闘アンドロイドがついている。こんなに小さくてもその攻撃力は護衛を吹き飛ばすくらいなら余裕である。
きっと成功できる――――。
ユウキはキュッと口を結んだ。
◇
時が止まったかのような、永遠にも感じられる数分が過ぎ、会場の照明が、またゆっくりと暗転を始めた。観葉植物たちが放つ青い燐光が、幻想的な海底のような空間を作り出していく。
「ヨシ! 行くか!」
両頬を勢いよく叩き、気合を入れるユウキ。今この瞬間、人類の未来がかかっている。失敗は許されない。
立ち上がろうとした、まさにその瞬間――――。
「レディース、エンド、ジェントルメーン!」
突如、司会者の声が会場に轟き渡る。まばゆい光がステージを照らし、ユウキは固まった。
へ……?
見上げれば、ドームの天井から吊るされた一人の女性が、スポットライトに照らされながら降りてくる。露出の多い衣装に身を包んだ姿は、まるで風俗系の見世物のようにすら見えた。
「ハーイ! 皆さま。これより脱走者処刑ショーの始まりでーす!」
おぉぉぉ! いいぞー! やれやれー!
「な、なんなのこれ……」
歓声が渦巻く会場を見渡して、ユウキの心臓が凍りついた。
「彼女、綾香さんはなんと脱走を図ったのです! 重罪! まさにあってはならない裏切り行為ですよ、これは!」
「そうだー!」「処刑しろ―!」「ショ・ケ・イ! ショ・ケ・イ!」
嗜虐的な歓声が響き渡る。人間性を失った群衆の叫びに、ユウキはただ茫然と首を振るばかり。
「ちょっと……どうなってんの……?」
ステージ中央には鉄格子で囲まれた円形の檻が設置されていた。中に、綾香と呼ばれた女性が乱暴に落とされる。
「ぎゃっ! 何するのよぉ! 止めてよぉ!」
絶望が滲む悲鳴が会場に木霊した。
「さて、綾香さんのお相手はこちら!」
スポットライトが横の檻を照らし出した瞬間――――。
グァォォォォ!!
獣の重低音の咆哮が会場を揺るがす。なんと巨大なトラが、獲物を求めて檻の中で蠢いているではないか。
「ひぃぃ! いやぁぁぁ!」
綾香は青ざめた顔で鉄格子にしがみつく。手足は震え、目は恐怖で見開かれていた。
「このトラは三日間、餌をあげていません! お腹ペッコペコです!」
司会者の声が弾むように響く。陽気な調子と、残虐さのギャップに、ユウキの心が怒りで震えた。
「人殺しぃぃぃ! 止めてよぉぉぉ!」
切羽詰まった叫びが会場に響くが、観客たちは嗤うばかり。瞳の奥には、人間性を失った野蛮さが潜んでいた。
ただ、女性たちだけは異なっていた。彼女たちはうつむいて、光景から目を逸らそうとしている。姿には、屈辱と無力さが滲んでいた。
きっと彼女たちには明日の自分の姿に見えているに違いない。なんらかの理由で閉じ込められたこの狂気の世界の中で、自分をしっかりと持つことがどれほど苦しいことか――――。ユウキは彼女たちの心の痛みに胸が苦しくなった。
「あれ? 行かないの?」
リベルは不満そうに眉をひそめ、ユウキを見上げた。
「ちょ、ちょっと待って。女の子が……」
「え? 女の子より黒幕でしょ? 今は」
リベルは首を傾げ、子供のような純粋さで正論を放つ。無邪気な表情に、ユウキは言葉を失った。
そのとおりだ。人類全体の運命と女の子一人の命では、比べるまでもない。大義のためには犠牲を覚悟しなければならない時もある。女の子など見捨てて、むしろ盛り上がりに紛れて黒幕に突っ込んでいくのが正解に違いない。
しかし――――。
ユウキの胸の奥で、何かが疼くように痛んだ。
そうこうしているうちにも、厳かな死刑執行のように、檻の鉄格子が引き上げられていく。
「さぁっ! いよいよごたいめーーん!!」
「止めてよぉぉぉ!」
ギャン泣きして喚く綾香の声が、ユウキの心を締め付けた。
トラは少女を一瞥すると、獲物を追い詰めるようにゆっくりと歩を進めていく。一歩一歩が、綾香の命の残り時間を刻んでいくように見えた。
「ほらっ! 綾香さん。ファイトファイト! 食べられちゃいますよ!」
司会者の嘲るような声が、状況をより残酷に彩る。
「いやぁぁぁ!」
今まさに喉笛を噛み切らんばかりの迫力で迫るトラに、彼女は泣き叫ぶことしかできない。あまりにも無力で、見ているだけで胸が痛んだ。
ユウキは奥歯を噛みしめ、手のひらに爪が食い込むほど拳を握り締める。
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