追放令嬢のスローライフなカフェ運営 ~なぜか魔王様にプロポーズされて困ってるんですが?~

月城 友麻

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36. 不思議な客

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「えっ?」

 小袋から、爽やかな香りが漂ってくる――。

「あ、ありがとう……」

 シャーロットは恐る恐る袋を受け取り、中を覗いた。

 見たことのない深緑の葉。けれど、その香りは――――。

「うわぁ……。すっごくいい匂い……!」

 思わず顔がほころぶ。

「結構貴重なのだぞ? くははは」

「これ、お肉料理に合うかもしれない! ローストビーフとか、ラム肉のソテーとか……」

 料理人の血が騒ぐ。新しい食材との出会いは、いつだって心躍る瞬間だ。

「ゼノさん! いつもありがとう!」

 シャーロットは最高の笑顔を浮かべる。

 その笑顔に、ゼノヴィアスも幸せそうに微笑んだ。

 琥珀色の夕焼けに浮かび上がる、見つめあう二人――――。

「まぁまぁ、仲がいいわねぇ」

 マルタが温かい目で二人を見守る。

「昔を思い出しちゃうわ。あたしだって若い頃はねぇ……」

 マルタはそう言ってコーヒーカップを傾けた。

「あら、旦那様とのロマンスがあったんですね!」

 シャーロットが興味深そうに身を乗り出す。

「ははっ! うちのはこんなイケメンじゃないけどね!」

 豪快に笑いながら、マルタはパンパンとゼノヴィアスの背中を叩いた。

「マルタ殿、痛いんだが……」

 苦笑するゼノヴィアス。

「でも、不器用なところはそっくりよ。根は悪い人じゃないと思うわ」

「マ、マルタ殿ぉぉ! もっとプッシュしてくだされ。シャーロットに、もっと我の魅力を理解してもらわねば」

 ゼノヴィアスも調子に乗って頼み込む。

「でもねぇ……」

 マルタは腕を組んで、じろじろとゼノヴィアスを観察する。

「あんた、稼ぎはいいの? 何の仕事してんの? 男は甲斐性よ?」

「へ?」

 ゼノヴィアスは一瞬戸惑った。職業を聞かれたのは初めてなのだ。

「我は……そうだな、管理職……といったところか。こう見えても部下はたくさんおるのだ」

 苦し紛れの説明。でも、嘘ではない。

「ふぅん……」

 マルタは疑わしそうな目を向ける。そして、シャーロットに視線を移した。

「シャーロットちゃんは知ってるの?」

「えぇ、部下の方にお会いしたことあります」

 シャーロットは慌てて相槌を打つ。

「とーっても優秀でしたよ!」

 ノームたちの真面目な顔を思い出しながら力説した。

「ふぅん、その調子じゃお祝いも近いかもねぇ。はっはっは!」

 マルタが意味深に笑う。

「近くありません!」

 シャーロットが即座に否定する。けれど、その声には動揺がにじんでいた。

「ん? お祝い? 何の話だ?」

 ゼノヴィアスが首を傾げる。

「ゼノさんは知らなくていいんです!」

 シャーロットが慌てて遮る。頬がまた熱くなっていく。

「ははっ! やっぱりお似合いだわ」

 夕日に照らされた二人を見ながら、マルタは満足そうに頷く。まるで孫の恋路を見守る祖母のような優しい微笑みを浮かべながら――――。

 カフェの中に、温かく穏やかな時間が流れていく。

 それは日常と非日常が不思議に溶け合った、かけがえのない瞬間だった。


     ◇


「ふぅ……今日も頑張ったわ」

 シャーロットは額の汗を拭い、満足げに店内を見回した。

 テーブルは綺麗に拭き上げられ、厨房も片付けを終え、明日の仕込みも完璧だ。

「私、偉い!」

 自分で自分を褒めながら、【OPEN】の札に手を伸ばした。

 まさに裏返そうとした、その時――。

「まだやってる?」

 扉の隙間から、陽気な声が飛び込んできた。

 顔を上げると、そこには見慣れない二人組が立っている。

 一人は青い髪で碧眼の若い女性。もう一人は金髪のおかっぱ頭の少女。まるで別世界から迷い込んできたような、不思議な雰囲気を纏っていた。

「あ、まぁ……いいですよ? どうぞ……」

 シャーロットは札を【CLOSE】にして、今日最後の客を招き入れた。

 女性はシルバーのボディスーツ。
 少女は不思議なシルエットの赤いジャケット。

 こんな衣装見たことない。まるでコスプレイヤーである。

(何だろう、この違和感……)

 胸の奥で、小さな警鐘が鳴り始める。

「おぉ! なかなか素敵なインテリアだねぇ」

 青髪の女性は楽しそうに店内を見回した。その瞳は、まるで美術品を鑑賞するかのように輝いている。

「うむ、居心地がええのう」

 金髪の少女も年寄りじみた口調で上機嫌に頷く。

「申し訳ありません、もうオムライスくらいしか作れないんですが……」

 シャーロットは申し訳なさそうに告げた。

「うん! いいよ! オムライス二つ!」

 青髪の女性はニコニコと注文する。

「かしこまりました……」

 その笑顔は明るいのに、なぜか背筋が寒くなる。




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