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1-5. 捨てられた大賢者
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執事はヴィクトルを麻袋に入れ、馬車を走らせる。
連れてこられたのは暗黒の森。そこは多くの魔物が棲む恐ろしい死のエリアだった。
執事は鬱蒼とした森の少し開けたところに馬車を止め、ヴィクトルを麻袋から出すと、ザックを一つ渡して言った。
「坊ちゃんには申し訳ないが、ワシができるのはこれくらい……、ここでさよならだ」
「冤罪です! 何とかとりなしてもらえませんか?」
ヴィクトルは必死にすがりつく。
執事は大きく息をついて言った。
「それは知ってます……。ですが、無職を受け入れられるほど、ユーベの貴族社会は器が大きくないのです」
「そ、そんなぁ……」
思わずポロリと涙がこぼれた。
「私も仕事なので」
執事は事務的にそう言うと、馬車に乗って戻って行ってしまった。
ヴィクトルは呆然としながら、去っていく馬車をいつまでも目で追っていた。無職を理由に追放なんて王都では聞いたこともない。ヴィクトルは自らの読みの甘さを悔やんだ。これではスローライフどころではない。せっかく転生したのにもう終わりである。
ヴィクトルは急いでザックの中をあさってみたが……、大したものは入っていない。パンが一つに着替え……そして申し訳程度のポーションが一式。どう考えても生還は絶望的だった。
ヴィクトルはひざから崩れ落ち、両手で顔を覆い、これから訪れるであろう死の恐怖にただ涙をポトポトと落とす。
日が傾いてきた暗黒の森は、まさに死の香り漂う恐怖の世界だった。
前世のアマンドゥスのレベルだったら恐れるに足らない森も、レベル1のヴィクトルには全てが恐怖になる。
ホウホーウ!
どこかで恐ろしげな叫び声がした。
ヴィクトルはゾクッと背筋が凍る思いをしながら急いで『隠ぺい』のスキルを使う。このスキルを使えば雑魚の魔物であれば欺くことができる。しかし、強い魔物には効かない。あくまでも応急措置に過ぎなかった。
グルグルグル、グワァ!
魔物が叫んでいる。間もなく森は闇に覆われてしまう。こんな所で野宿などできない。ヴィクトルは急いで身を隠せそうなところを探すことにした。
前世の記憶ではこの先にガケがあって、洞窟もいくつか開いていたはずだ。残された時間もあまりない。ヴィクトルはそこへと向かうことにする。
魔物に見つからないように慎重に慎重に進む……。
ガサガサッ!
向こうの茂みで音がした。何かがいる……。
ヴィクトルはしゃがんで身を隠し、鑑定スキルで音のあった方をしらみつぶしに調べた。
目の前に青白い画面が浮かび上がり、魔物の情報が表示される。
ゴブリン レア度:★
魔物 レベル10
ゴブリンだ……。ヴィクトルは思わず息をのむ。レベル1のヴィクトルにしてみたら、例え最弱のゴブリンでも見つかったら死を意味する。
緑の肌をして尖ったデカい耳の小柄な魔物、ゴブリンはやぶの中で息を殺すヴィクトルのすぐ前をノソノソと歩き、
ギュアグルグル……。
と、何かをつぶやき、立ち止まった。
『隠ぺい』のスキルが効いているはずなのに、なぜ立ち止まるのか……。
ヴィクトルは冷や汗をたらしながら『早く通り過ぎてくれ』と必死に祈るが、ゴブリンはなかなか動かない。命のかかったヴィクトルには長い長い時間のように感じられる……。
やがて、ゴブリンは周囲を見回し、
ギュギャッ!
と、叫ぶと、走り去っていった。
ふぅ……。
ヴィクトルは大きく息をつき、思わず地面にペタンと尻をついた。が、そこは落ち葉の吹き溜まりだった。ヴィクトルは後ろにゴロンとでんぐり返しになって転がり、さらにその先の斜面へと落ちて行く。
「うわぁっ!」
落ち始めた体はなかなか止まらない。斜面をゴロンゴロンと転がり、最後には穴にストンと落ちた。
「ひぃ!」
そこは洞窟だった。小さなヴィクトルの身体はバン! バン! と洞窟のあちこちにバウンドしながら、最後に硬いゴムのようなところで止まった。
「いててて……」
あちこちをさすりながらゆっくりと体を起こす。
硬いゴムは温かかった……。
「何だろうこれ……?」
と、思って顔を上げると、薄暗がりの中で奥にギョロリと光る二つの眼光が光る。
グァォォ!
叫びながら起き上がったのは筋骨隆々の巨大な赤い身体……、オーガだった。
「うぁひぃ!」
ヴィクトルは声にならない声をあげて飛びのき、洞窟の出口へと走る。
オーガ レア度:★★★★
魔物 レベル70
視界の端で鑑定結果が表示されていたが、オーガがヤバい奴だというのは確認しなくても知っている。ソロならAクラス冒険者でないと倒せない強敵である。レベル1のヴィクトルには逆立ちしたって敵いっこない、最悪の相手に見つかってしまった。
ヴィクトルは必死に走った。やぶを抜け、小川を飛び越え必死に走った。しかし、オーガの追いかけてくるズシンズシンという地響きは、すぐそばに迫ってきている。
逃げられない……。ヴィクトルは悟った。
そして、開けたところで立ち止まり、クルッとオーガの方を向く。
オーガは足を緩め、今晩のごちそうを見つけたかのように、うれしそうにニヤッと笑った。
はぁはぁはぁ……。
肩で息をするヴィクトル。
ゆっくりと近づいてくるオーガ。
ヴィクトルは右手を開いてオーガの方を向け、
「ファイヤーボール!」
と、叫んだ。
すると、電球みたいなショボい火の玉が飛び、オーガに当たった。しかし、オーガには全く効かず、嘲り嗤っている。
「ファイヤーボール! ファイヤーボール!」
ヴィクトルはそれでもMPが切れるまで連射する。
オーガはさすがにウザいと感じたのか、火の玉を手でパンパンと払いのけると襲いかかってきた。
ヴィクトルの目的はオーガに強烈な一撃を放たせる事だった。適当なショボい攻撃では『倍返し』もショボくなってしまうから困るのだ。本気の一発を食らうこと、それが生き残りの条件だった。
ヴィクトルは引きつった笑顔を見せながらオーガに飛びかかる。
そして、右ストレートを思いっきり浴びて潰され、吹っ飛んだのだった……。
連れてこられたのは暗黒の森。そこは多くの魔物が棲む恐ろしい死のエリアだった。
執事は鬱蒼とした森の少し開けたところに馬車を止め、ヴィクトルを麻袋から出すと、ザックを一つ渡して言った。
「坊ちゃんには申し訳ないが、ワシができるのはこれくらい……、ここでさよならだ」
「冤罪です! 何とかとりなしてもらえませんか?」
ヴィクトルは必死にすがりつく。
執事は大きく息をついて言った。
「それは知ってます……。ですが、無職を受け入れられるほど、ユーベの貴族社会は器が大きくないのです」
「そ、そんなぁ……」
思わずポロリと涙がこぼれた。
「私も仕事なので」
執事は事務的にそう言うと、馬車に乗って戻って行ってしまった。
ヴィクトルは呆然としながら、去っていく馬車をいつまでも目で追っていた。無職を理由に追放なんて王都では聞いたこともない。ヴィクトルは自らの読みの甘さを悔やんだ。これではスローライフどころではない。せっかく転生したのにもう終わりである。
ヴィクトルは急いでザックの中をあさってみたが……、大したものは入っていない。パンが一つに着替え……そして申し訳程度のポーションが一式。どう考えても生還は絶望的だった。
ヴィクトルはひざから崩れ落ち、両手で顔を覆い、これから訪れるであろう死の恐怖にただ涙をポトポトと落とす。
日が傾いてきた暗黒の森は、まさに死の香り漂う恐怖の世界だった。
前世のアマンドゥスのレベルだったら恐れるに足らない森も、レベル1のヴィクトルには全てが恐怖になる。
ホウホーウ!
どこかで恐ろしげな叫び声がした。
ヴィクトルはゾクッと背筋が凍る思いをしながら急いで『隠ぺい』のスキルを使う。このスキルを使えば雑魚の魔物であれば欺くことができる。しかし、強い魔物には効かない。あくまでも応急措置に過ぎなかった。
グルグルグル、グワァ!
魔物が叫んでいる。間もなく森は闇に覆われてしまう。こんな所で野宿などできない。ヴィクトルは急いで身を隠せそうなところを探すことにした。
前世の記憶ではこの先にガケがあって、洞窟もいくつか開いていたはずだ。残された時間もあまりない。ヴィクトルはそこへと向かうことにする。
魔物に見つからないように慎重に慎重に進む……。
ガサガサッ!
向こうの茂みで音がした。何かがいる……。
ヴィクトルはしゃがんで身を隠し、鑑定スキルで音のあった方をしらみつぶしに調べた。
目の前に青白い画面が浮かび上がり、魔物の情報が表示される。
ゴブリン レア度:★
魔物 レベル10
ゴブリンだ……。ヴィクトルは思わず息をのむ。レベル1のヴィクトルにしてみたら、例え最弱のゴブリンでも見つかったら死を意味する。
緑の肌をして尖ったデカい耳の小柄な魔物、ゴブリンはやぶの中で息を殺すヴィクトルのすぐ前をノソノソと歩き、
ギュアグルグル……。
と、何かをつぶやき、立ち止まった。
『隠ぺい』のスキルが効いているはずなのに、なぜ立ち止まるのか……。
ヴィクトルは冷や汗をたらしながら『早く通り過ぎてくれ』と必死に祈るが、ゴブリンはなかなか動かない。命のかかったヴィクトルには長い長い時間のように感じられる……。
やがて、ゴブリンは周囲を見回し、
ギュギャッ!
と、叫ぶと、走り去っていった。
ふぅ……。
ヴィクトルは大きく息をつき、思わず地面にペタンと尻をついた。が、そこは落ち葉の吹き溜まりだった。ヴィクトルは後ろにゴロンとでんぐり返しになって転がり、さらにその先の斜面へと落ちて行く。
「うわぁっ!」
落ち始めた体はなかなか止まらない。斜面をゴロンゴロンと転がり、最後には穴にストンと落ちた。
「ひぃ!」
そこは洞窟だった。小さなヴィクトルの身体はバン! バン! と洞窟のあちこちにバウンドしながら、最後に硬いゴムのようなところで止まった。
「いててて……」
あちこちをさすりながらゆっくりと体を起こす。
硬いゴムは温かかった……。
「何だろうこれ……?」
と、思って顔を上げると、薄暗がりの中で奥にギョロリと光る二つの眼光が光る。
グァォォ!
叫びながら起き上がったのは筋骨隆々の巨大な赤い身体……、オーガだった。
「うぁひぃ!」
ヴィクトルは声にならない声をあげて飛びのき、洞窟の出口へと走る。
オーガ レア度:★★★★
魔物 レベル70
視界の端で鑑定結果が表示されていたが、オーガがヤバい奴だというのは確認しなくても知っている。ソロならAクラス冒険者でないと倒せない強敵である。レベル1のヴィクトルには逆立ちしたって敵いっこない、最悪の相手に見つかってしまった。
ヴィクトルは必死に走った。やぶを抜け、小川を飛び越え必死に走った。しかし、オーガの追いかけてくるズシンズシンという地響きは、すぐそばに迫ってきている。
逃げられない……。ヴィクトルは悟った。
そして、開けたところで立ち止まり、クルッとオーガの方を向く。
オーガは足を緩め、今晩のごちそうを見つけたかのように、うれしそうにニヤッと笑った。
はぁはぁはぁ……。
肩で息をするヴィクトル。
ゆっくりと近づいてくるオーガ。
ヴィクトルは右手を開いてオーガの方を向け、
「ファイヤーボール!」
と、叫んだ。
すると、電球みたいなショボい火の玉が飛び、オーガに当たった。しかし、オーガには全く効かず、嘲り嗤っている。
「ファイヤーボール! ファイヤーボール!」
ヴィクトルはそれでもMPが切れるまで連射する。
オーガはさすがにウザいと感じたのか、火の玉を手でパンパンと払いのけると襲いかかってきた。
ヴィクトルの目的はオーガに強烈な一撃を放たせる事だった。適当なショボい攻撃では『倍返し』もショボくなってしまうから困るのだ。本気の一発を食らうこと、それが生き残りの条件だった。
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そして、右ストレートを思いっきり浴びて潰され、吹っ飛んだのだった……。
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