31 / 71
3-2. 三つの奇妙な果実
しおりを挟む
一行は王都の近くのダンジョンにエントリーした。
ダンジョンの洞窟は暗く、ジメジメしており、カビ臭い。
「さて、三十七階だったよね?」
ヴィクトルはつい先日までこもっていたダンジョンを思い出し、少し懐かしく感じながら聞いた。
「そうです。急がないと……」
女の子が泣きそうな声で言う。
一階ずつ丁寧に降りていたら何時間かかるか分からない。さてどうしたものかと考えていると、
「今、聞いてみるからちょっと待ってて」
そう言って、ルコアはiPhoneを出して何かをタップする。
「あ、私~、元気? うん……、うん……。それでね、王都のダンジョンに来てるのよ。……。そうなのよー」
何やら世間話をしている。ヴィクトルも女の子も困惑した。
ルコアはそのまま会話を続ける。
「で、三十七階の落とし穴あるでしょ。そうそう。その落ち先まで送って欲しいんだけど。……。いい? 悪いわね。はいはい」
いきなりすごい話になって、二人とも唖然とする。なぜそんなことができるのか、全く理解できなかったのだ。
ルコアは電話を切ると、
「こっちですよ」
そう言って入り口わきの細い通路を行く。すると、純白の魔法陣が地面で光っているのが見えてきた。
「え? まさかこれって……」
「そうですよ、この先に遭難者が居ます」
ルコアはドヤ顔で言う。
いわゆるダンジョンの管理者、ダンジョンマスターとルコアが知り合いということなのだろう。魔物もルコアもレヴィアが創ったものであるなら、確かにそうであってもおかしくはないが……、ヴィクトルは常識がガラガラと崩れていくのを感じた。
そして、大きく深呼吸をすると、意を決して魔法陣を踏んだ。
◇
気がつくとヴィクトルはさんさんと太陽の照りつける草原にいた。
青空の下で綺麗な水の小川が流れ、向こうには森が広がっている。自然景観型のフロアらしい。
女の子とルコアも次々と現れる。
索敵の魔法を展開していくと……、森の奥に三人の弱々しい人間の反応がある。どうやらまだ生きているようだ。
しかし、近くには魔物の反応もあり、予断は許さない状況である。
「僕、行ってくるよ。二人はここで待ってて。彼らを連れて帰るから」
ヴィクトルがそう言うと、ルコアは、
「主さま、気を付けて」
と、ニッコリとほほ笑んだ。
女の子は涙目で手を合わせ、ヴィクトルに頭を下げる。
ヴィクトルは飛行魔法で一気に反応があった近くまで来ると、慎重に森の中へと降りて行った。森は巨木が生い茂り、鬱蒼として見通しはあまり効かない。
反応の方へ歩いて行くと、三つの白い繭のような物が巨木の枝から宙づりにされているのが見えた。よく見ると、繭の下には顔が半分のぞいている。冒険者がヒモでグルグル巻きにされ、逆さづりにされているようだ。
「ん――――!」「んー、ん――――!」
冒険者たちはヴィクトルに何かを言っている。
「助けに来ましたよ――――!」
ヴィクトルは能天気にそう言いながらスタスタと歩く。だが、右手には魔力をこめ、鈍く赤く光らせておいた。
シュッ!
直後、そばの樹の上から蜘蛛の糸がヴィクトルに向けて放たれる。
ヴィクトルは待っていたかのようにそれを左手でガシッとつかむと同時に、
「炎槍!」
と、叫んで樹上の魔物に鮮烈な炎の槍を食らわせた。
グギャァァァ!
断末魔の叫びを森に響かせながら、巨大な蜘蛛の魔物が火だるまになって地面に落ち、のたうち回り、最後には魔石になって消える。
よし! と思った時だった。地中からクワガタムシのアゴのような巨大なハサミが二本、いきなり突き出して、ヴィクトルに襲いかかる。
蜘蛛もこいつも冒険者たちを囮にして、助けに来る者を狙おうとしていたのだ。
しかし、ヴィクトルは慌てることなく、手刀でパキン! パキン!とハサミを折ると、逆にそのハサミの根元をガシッとつかみ、そのまま一気に引き抜いた。
「そんなの僕には効かないよ」
ズボッと抜け出てきたのは全長三メートルはあろうかと言う巨大な幼虫だった。ブヨブヨとした白い肌がウネウネしながらうごめく。
ヴィクトルはそのまま空中高く放り投げると、
「風刃!」
と、叫んで、風の刃で幼虫をズタズタに切り裂いた。
ギョエェェェ!
叫び声を残し、幼虫は魔石となって落ちてくる。
ヴィクトルはニヤッと笑って魔石をキャッチすると、繭になってる三人に走り寄った。
ダンジョンの洞窟は暗く、ジメジメしており、カビ臭い。
「さて、三十七階だったよね?」
ヴィクトルはつい先日までこもっていたダンジョンを思い出し、少し懐かしく感じながら聞いた。
「そうです。急がないと……」
女の子が泣きそうな声で言う。
一階ずつ丁寧に降りていたら何時間かかるか分からない。さてどうしたものかと考えていると、
「今、聞いてみるからちょっと待ってて」
そう言って、ルコアはiPhoneを出して何かをタップする。
「あ、私~、元気? うん……、うん……。それでね、王都のダンジョンに来てるのよ。……。そうなのよー」
何やら世間話をしている。ヴィクトルも女の子も困惑した。
ルコアはそのまま会話を続ける。
「で、三十七階の落とし穴あるでしょ。そうそう。その落ち先まで送って欲しいんだけど。……。いい? 悪いわね。はいはい」
いきなりすごい話になって、二人とも唖然とする。なぜそんなことができるのか、全く理解できなかったのだ。
ルコアは電話を切ると、
「こっちですよ」
そう言って入り口わきの細い通路を行く。すると、純白の魔法陣が地面で光っているのが見えてきた。
「え? まさかこれって……」
「そうですよ、この先に遭難者が居ます」
ルコアはドヤ顔で言う。
いわゆるダンジョンの管理者、ダンジョンマスターとルコアが知り合いということなのだろう。魔物もルコアもレヴィアが創ったものであるなら、確かにそうであってもおかしくはないが……、ヴィクトルは常識がガラガラと崩れていくのを感じた。
そして、大きく深呼吸をすると、意を決して魔法陣を踏んだ。
◇
気がつくとヴィクトルはさんさんと太陽の照りつける草原にいた。
青空の下で綺麗な水の小川が流れ、向こうには森が広がっている。自然景観型のフロアらしい。
女の子とルコアも次々と現れる。
索敵の魔法を展開していくと……、森の奥に三人の弱々しい人間の反応がある。どうやらまだ生きているようだ。
しかし、近くには魔物の反応もあり、予断は許さない状況である。
「僕、行ってくるよ。二人はここで待ってて。彼らを連れて帰るから」
ヴィクトルがそう言うと、ルコアは、
「主さま、気を付けて」
と、ニッコリとほほ笑んだ。
女の子は涙目で手を合わせ、ヴィクトルに頭を下げる。
ヴィクトルは飛行魔法で一気に反応があった近くまで来ると、慎重に森の中へと降りて行った。森は巨木が生い茂り、鬱蒼として見通しはあまり効かない。
反応の方へ歩いて行くと、三つの白い繭のような物が巨木の枝から宙づりにされているのが見えた。よく見ると、繭の下には顔が半分のぞいている。冒険者がヒモでグルグル巻きにされ、逆さづりにされているようだ。
「ん――――!」「んー、ん――――!」
冒険者たちはヴィクトルに何かを言っている。
「助けに来ましたよ――――!」
ヴィクトルは能天気にそう言いながらスタスタと歩く。だが、右手には魔力をこめ、鈍く赤く光らせておいた。
シュッ!
直後、そばの樹の上から蜘蛛の糸がヴィクトルに向けて放たれる。
ヴィクトルは待っていたかのようにそれを左手でガシッとつかむと同時に、
「炎槍!」
と、叫んで樹上の魔物に鮮烈な炎の槍を食らわせた。
グギャァァァ!
断末魔の叫びを森に響かせながら、巨大な蜘蛛の魔物が火だるまになって地面に落ち、のたうち回り、最後には魔石になって消える。
よし! と思った時だった。地中からクワガタムシのアゴのような巨大なハサミが二本、いきなり突き出して、ヴィクトルに襲いかかる。
蜘蛛もこいつも冒険者たちを囮にして、助けに来る者を狙おうとしていたのだ。
しかし、ヴィクトルは慌てることなく、手刀でパキン! パキン!とハサミを折ると、逆にそのハサミの根元をガシッとつかみ、そのまま一気に引き抜いた。
「そんなの僕には効かないよ」
ズボッと抜け出てきたのは全長三メートルはあろうかと言う巨大な幼虫だった。ブヨブヨとした白い肌がウネウネしながらうごめく。
ヴィクトルはそのまま空中高く放り投げると、
「風刃!」
と、叫んで、風の刃で幼虫をズタズタに切り裂いた。
ギョエェェェ!
叫び声を残し、幼虫は魔石となって落ちてくる。
ヴィクトルはニヤッと笑って魔石をキャッチすると、繭になってる三人に走り寄った。
21
あなたにおすすめの小説
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~
はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。
病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。
これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。
別作品も掲載してます!よかったら応援してください。
おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる