32 / 71
3-3. ノリノリ絶対爆炎
しおりを挟む
「大丈夫ですか?」
ヴィクトルは口元の糸を外してあげる。
「あ、ありがとうございます……、もうダメだと思ってました……うぅぅ」
昨日、ヴィクトルをあざ笑った、薄毛の中年男ジャックはみっともなく泣き始めた。
「間に合ってよかったです」
ヴィクトルはニコッと笑う。
「昨日はごめんなさい。まだお若いのにこんなに強いなんて知りませんでした……」
ジャックはそう言って謝った。
「まぁ、僕は子供だからね、仕方ないよ。さぁ、仲間のところへ行こう」
ヴィクトルは彼らを宙づりにしている糸を切ると、展開したシールドの上に繭のまま載せ、そのまま飛行魔法で一気に上空へと飛び上がった。
「うひ――――!」「ひゃあぁぁぁ!」「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
三人は繭のまま驚き、叫ぶ。
繭のまま運んだ方が運びやすいので、申し訳ないがそのまま飛んだのだった。
◇
別れたところまで飛んでくると、黒ローブの女の子が一人で心細げに立っていた。
「あれ? ルコアは?」
「『サイクロプス!』って叫んで飛んでっちゃいました……、それでその白いのは何……? えっ!?」
繭から顔がのぞいているのを見つけた女の子は、仰天する。
「あー、全員救出しておいたよ。早く出してあげよう」
ヴィクトルはそう言うと、繭をベキベキベキと腕力で破り、一気に裂いた。その異常な怪力に、包まれていた人は驚愕する。自分ではビクともしなかった繭を小さな子供がまるで紙を破くようにあっさりと壊したのだ。
僧侶の女の子を解放すると、黒ローブの女の子は抱き着いて、二人でしばらく号泣していた。正直、生きてまた会えるなんて思っていなかった二人は、お互いの体温を感じ、奇跡的な生還を心から喜んだ。
◇
ドドドドドド!
地響きが遠くの方から響いてくる。
みんな何だろうと、不安げな顔で地響きの方を眺めた。すると、草原の小高い丘の向こうからルコアが飛んでくる。
そして……、後ろには土煙……。
ヴィクトルは思わずフゥっとため息をつくと、
「君たち、危ないからこのシールドの中にいて」
そう言いながら淡く金色に光るドーム状のシールドを展開し、四人をすっぽりと覆った。
丘を越えて現れたのは緑色の巨人、サイクロプスが何匹か、それにグリフォンにリザードマンなどの魔物が多数。みんな挑発され、ルコアを必死に追いかけてくる。
「主さま~! いっぱい連れてきましたよ~!」
ルコアが叫びながら飛んでくる。
四人の冒険者たちは、Aランク以上の危険な災害級の魔物が群れを成して襲ってくるさまに腰を抜かし、シールドの中で真っ青になってうろたえた。
ヴィクトルは苦笑いすると、軽く飛び上がり、
ほわぁぁぁ!
と叫びながら下腹部に魔力を貯める。そして、術式を頭の中で思い描き、手のひらを魔物たちの方へ向けた。
「ルコア、衝撃に備えろ!」
そう叫ぶと、手のひらの前に巨大な真紅の魔法陣を次々と高速に描いていく。鮮やかに光り輝く魔法陣たちは、一部重なりながらどんどんと集積し、キィィィ――――ン! とおびただしい量の魔力を蓄積しながら高周波を放つ。
冒険者たちはその、神々しいまでの魔法陣の輝きに圧倒され、みんな言葉を無くした。見たこともない超高難度の魔法陣、それが多数重なっている。それも通常以上に魔力を充填され、音が鳴り出すくらいになるなど聞いたこともなかったのだ。
ヴィクトルは魔物たちが全員、丘を越えたのを確認すると、
「それ行け! 絶対爆炎!」
とノリノリで叫ぶ。
魔法陣群が一斉にカッと輝き、鮮烈な輝きを放つエネルギー弾を射出した。
直後、魔物たちに着弾すると、天も地も世界は鮮烈な光に覆われた。激しい熱線が草原や森を一気に茶色に変え、炎が噴き出す。
すさまじい爆発エネルギーは衝撃波となって、白い繭の様に音速で球状に広がり、森の木々は根こそぎなぎ倒され、冒険者たちのシールドに到達すると、ズン! と激しい衝撃音を起こし、みんな倒れ込んだ。
「キャ――――!」「ひぃぃぃ!」「うわぁぁぁ!」
石や砂ぼこりがシールドにビシビシと当たり、まるで砂嵐のような状態である。
それが過ぎ去ると、目の前には巨大な真紅のキノコ雲が、強烈な熱線を放ちながらゆっくりと立ち昇っていく……。
シールドで身を守っていたヴィクトルはその様を見ながら、やり過ぎたと思った。確かに見せつけてやろうとは思っていたものの、まさかここまで大規模な爆発になるとは予想外だったのだ。これを王都に向けて放ったら一瞬で十万人が死に、街は瓦礫の山になるだろう。
そして、ここまでやっても全然MPには余裕があったし、これより強力な攻撃を何度でも連射可能だった。そんな自分の異常な攻撃力に恐ろしさを覚え、ついブルっと身震いをしてしまう。
妲己を倒すために一年頑張ったが……、自分は開けてはならないパンドラの箱を開けてしまったのではないだろうか?
ヴィクトルは高く高く立ち昇っていく灼熱のキノコ雲を見上げながら、言いようのない不安を感じていた。
ヴィクトルは口元の糸を外してあげる。
「あ、ありがとうございます……、もうダメだと思ってました……うぅぅ」
昨日、ヴィクトルをあざ笑った、薄毛の中年男ジャックはみっともなく泣き始めた。
「間に合ってよかったです」
ヴィクトルはニコッと笑う。
「昨日はごめんなさい。まだお若いのにこんなに強いなんて知りませんでした……」
ジャックはそう言って謝った。
「まぁ、僕は子供だからね、仕方ないよ。さぁ、仲間のところへ行こう」
ヴィクトルは彼らを宙づりにしている糸を切ると、展開したシールドの上に繭のまま載せ、そのまま飛行魔法で一気に上空へと飛び上がった。
「うひ――――!」「ひゃあぁぁぁ!」「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
三人は繭のまま驚き、叫ぶ。
繭のまま運んだ方が運びやすいので、申し訳ないがそのまま飛んだのだった。
◇
別れたところまで飛んでくると、黒ローブの女の子が一人で心細げに立っていた。
「あれ? ルコアは?」
「『サイクロプス!』って叫んで飛んでっちゃいました……、それでその白いのは何……? えっ!?」
繭から顔がのぞいているのを見つけた女の子は、仰天する。
「あー、全員救出しておいたよ。早く出してあげよう」
ヴィクトルはそう言うと、繭をベキベキベキと腕力で破り、一気に裂いた。その異常な怪力に、包まれていた人は驚愕する。自分ではビクともしなかった繭を小さな子供がまるで紙を破くようにあっさりと壊したのだ。
僧侶の女の子を解放すると、黒ローブの女の子は抱き着いて、二人でしばらく号泣していた。正直、生きてまた会えるなんて思っていなかった二人は、お互いの体温を感じ、奇跡的な生還を心から喜んだ。
◇
ドドドドドド!
地響きが遠くの方から響いてくる。
みんな何だろうと、不安げな顔で地響きの方を眺めた。すると、草原の小高い丘の向こうからルコアが飛んでくる。
そして……、後ろには土煙……。
ヴィクトルは思わずフゥっとため息をつくと、
「君たち、危ないからこのシールドの中にいて」
そう言いながら淡く金色に光るドーム状のシールドを展開し、四人をすっぽりと覆った。
丘を越えて現れたのは緑色の巨人、サイクロプスが何匹か、それにグリフォンにリザードマンなどの魔物が多数。みんな挑発され、ルコアを必死に追いかけてくる。
「主さま~! いっぱい連れてきましたよ~!」
ルコアが叫びながら飛んでくる。
四人の冒険者たちは、Aランク以上の危険な災害級の魔物が群れを成して襲ってくるさまに腰を抜かし、シールドの中で真っ青になってうろたえた。
ヴィクトルは苦笑いすると、軽く飛び上がり、
ほわぁぁぁ!
と叫びながら下腹部に魔力を貯める。そして、術式を頭の中で思い描き、手のひらを魔物たちの方へ向けた。
「ルコア、衝撃に備えろ!」
そう叫ぶと、手のひらの前に巨大な真紅の魔法陣を次々と高速に描いていく。鮮やかに光り輝く魔法陣たちは、一部重なりながらどんどんと集積し、キィィィ――――ン! とおびただしい量の魔力を蓄積しながら高周波を放つ。
冒険者たちはその、神々しいまでの魔法陣の輝きに圧倒され、みんな言葉を無くした。見たこともない超高難度の魔法陣、それが多数重なっている。それも通常以上に魔力を充填され、音が鳴り出すくらいになるなど聞いたこともなかったのだ。
ヴィクトルは魔物たちが全員、丘を越えたのを確認すると、
「それ行け! 絶対爆炎!」
とノリノリで叫ぶ。
魔法陣群が一斉にカッと輝き、鮮烈な輝きを放つエネルギー弾を射出した。
直後、魔物たちに着弾すると、天も地も世界は鮮烈な光に覆われた。激しい熱線が草原や森を一気に茶色に変え、炎が噴き出す。
すさまじい爆発エネルギーは衝撃波となって、白い繭の様に音速で球状に広がり、森の木々は根こそぎなぎ倒され、冒険者たちのシールドに到達すると、ズン! と激しい衝撃音を起こし、みんな倒れ込んだ。
「キャ――――!」「ひぃぃぃ!」「うわぁぁぁ!」
石や砂ぼこりがシールドにビシビシと当たり、まるで砂嵐のような状態である。
それが過ぎ去ると、目の前には巨大な真紅のキノコ雲が、強烈な熱線を放ちながらゆっくりと立ち昇っていく……。
シールドで身を守っていたヴィクトルはその様を見ながら、やり過ぎたと思った。確かに見せつけてやろうとは思っていたものの、まさかここまで大規模な爆発になるとは予想外だったのだ。これを王都に向けて放ったら一瞬で十万人が死に、街は瓦礫の山になるだろう。
そして、ここまでやっても全然MPには余裕があったし、これより強力な攻撃を何度でも連射可能だった。そんな自分の異常な攻撃力に恐ろしさを覚え、ついブルっと身震いをしてしまう。
妲己を倒すために一年頑張ったが……、自分は開けてはならないパンドラの箱を開けてしまったのではないだろうか?
ヴィクトルは高く高く立ち昇っていく灼熱のキノコ雲を見上げながら、言いようのない不安を感じていた。
21
あなたにおすすめの小説
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~
はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。
病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。
これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。
別作品も掲載してます!よかったら応援してください。
おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる