捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻

文字の大きさ
37 / 71

3-8. 月旅行の気分

しおりを挟む
 部屋に戻ると、ヴィクトルは怖い顔をしてゴロンとベッドに横たわった。
「主さま、どうかしたんですか?」
 ルコアが心配そうに聞いてくる。
 ヴィクトルは言おうかどうか迷ったが、巻き込む以上正直に話そうと思った。
「襲ってくるのは弟子かも知れん……。この手で捕まえ、理由を聞かねばならん……」
 ヴィクトルは重い調子で言う。
「え? 大賢者の弟子……ですか?」
「そうだ。そんな事をやる奴が居たとは思えないんだけど……」
 ヴィクトルは目をつぶり、ため息をついた。
「主さまは傲慢ごうまんすぎですよ」
「えっ? 傲慢?」
「どんなに大賢者でも、他人の心の中まで支配できると考えるのは傲慢すぎです」
 ルコアは優しい顔でヴィクトルの頬をそっとなでた。
「いや、しかし、国王を殺そうとするなんて異常だよ」
「主様……。正義は人の数だけあるわ……。百人いたら百通りの正義があるの。貧困層や政敵など、国王殺すことが正義な人なんていくらでもいるわ」
 ヴィクトルは考え込んでしまった。自分は弟子たちの気持ちもしっかり理解していると思っていたが……それは幻想だったのかもしれない……。
「そんな怖い顔、主さまに似合わないわ」
 ルコアはそう言って、ヴィクトルにのしかかるようにハグをする。
「うわぁぁ 何するんだ!」
 ヴィクトルはルコアの豊満な胸に抱かれて焦る。
「こうすると落ち着くでしょ? 頭で考えずに心で感じると正解は見えるわ」
 そう言ってルコアは優しく頭をなでた。
 ルコアなりの思いやりなのだろう。ヴィクトルは観念して深呼吸を繰り返し、ただ、柔らかく温かな体温を感じる。
 例えテロリストが誰であれ、見つけ出して叩くことは変わらない。ヴィクトルは考える事を止めた。
 そして、ルコアの優しい柔らかい匂いに癒されながら、薄らいでいく意識に身をゆだねる……。

         ◇

 バシッ!
 いつものことで、またかと思いながらヴィクトルは目覚める。
 二人とも寝てしまっていたのだ。
 あくびをしながら窓際まで歩き、街の様子を眺める……。
 日が傾き、窓の外では黄色がかった光に長い影が街に伸びている。
 通りの向こうには白く上弦の月が昇ってきていた。

 ヴィクトルはボーっと月を眺める。
「綺麗だなぁ……」
 しかし、この世界が作りものだとしたら、この月も作り物だ……。
「月ねぇ……」
 ヴィクトルは月をじっと見ながら考えこむ。月に行ったら何があるのだろうか……?
 行ってみたらこの世界が作り物な証拠があったりするだろうか? 宇宙へ行くなど今まで無理だと思っていたが、レベル千相当の魔法が使えるのだ。宇宙くらい行けるだろう。
 しかし……今まで宇宙へ行った人などいない。どうやったら安全に行けるだろうか……。
 ヴィクトルはしばらく宇宙旅行について思案をめぐらした。

        ◇

「よしっ!」
 ヴィクトルは意を決すると、ベッドに戻り、
「ルコアー、寝すぎると良くないぞー」
 と、幸せそうに寝息を立てるルコアをゆらした。
「うーん、もう少し……」
 ルコアは向こう側へ寝返りを打つ。
「なんだよ、服着てても寝られるじゃないか」
 ヴィクトルが文句を言うと、
「あー、寝苦しい! 服はダメだわー」
 と、言いながらむっくりと起き上がり、大きく伸びをするルコア。
 ヴィクトルは呆れながらベッドに座って言った。
「ねぇ、ルコア、月に行った事ある?」
「へ!?」
 寝ぼけ眼で聞き返すルコア。
「月だよ、月。空に浮かんでる奴さ」
「行ったことなんてないですよ! あんなところ行けるんですか!?」
「見えるんだから……、行けるんじゃないの?」
 ルコアは腕組みして首をゆらす。
「行って……、何するんです?」
「レヴィア様が『この世界は作られた世界だ』って言うんだったら、一旦この星を抜け出すと何か証拠を見つけられるんじゃないかと思って」
 ルコアは大きくあくびをして、
「主さまが行くならお供しますけど……、見るからにつまらなそうなところですよね、月って」
 そう言って、眠そうな目でヴィクトルを見る。
「いやいや、何か面白い物あるかも知れないよ。ひとっ飛び行ってみよう!」
 ヴィクトルはうれしそうに言った。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

前世は不遇な人生でしたが、転生した今世もどうやら不遇のようです。

八神 凪
ファンタジー
久我和人、35歳。  彼は凶悪事件に巻き込まれた家族の復讐のために10年の月日をそれだけに費やし、目標が達成されるが同時に命を失うこととなる。  しかし、その生きざまに興味を持った別の世界の神が和人の魂を拾い上げて告げる。    ――君を僕の世界に送りたい。そしてその生きざまで僕を楽しませてくれないか、と。  その他色々な取引を経て、和人は二度目の生を異世界で受けることになるのだが……

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...