「ちょ、俺が救世主!?」~転生商人のおかしな快進撃~

月城 友麻

文字の大きさ
18 / 193

18. 光陰の杖

しおりを挟む
 翌朝、おじいさんのお店へ行こうとユータは心躍らせながら街を歩いていた。

 すると、突然――――。

 ピロローン! ピロローン! ピロローン!

 頭の中に鮮やかな音が鳴り響く。

「キターーーー!!」

 俺は思わずピョンと跳び、ガッツポーズを決めた。通りがかりの人々が不思議そうに振り返るが、そんなことどうでもいいくらい俺は喜びが爆発していた。

 急いでステータスを確認すると、レベルが五に上がっている。予想通り、エドガーたちが倒した敵の経験値が、ユータにも分配され始めたのだ。

 俺は勝手にレベルが上がる環境を手に入れたのだ。これでもう寝ててもレベルが勝手に上がっていく。それはまさにバグ技。禁断のチートだった。

 今後さらに武器を売り広めていけば、経験値の蓄積速度は加速度的に上がっていくはずだ。

 例えば、冒険者千人に武器を使ってもらえたら、家に居ながらにして普通の冒険者の千倍の速さで強くなっていく。そうなれば人族最強どころか、この世界の秩序さえも揺るがすほどの存在になってしまうかもしれない――――。

 「『商人』が、この世界を揺るがす仙人のような存在に……」その考えに、俺は痛快な喜びを感じた。

 確かに、これはチートでインチキかもしれない。しかし、孤児が異世界で生き抜くために、きれいごとを言っている場合ではないのだ。できることは何でもやる。それが前世で何もできず人生を無駄にしてしまった俺の反省の結論だった。

 ガッツポーズを繰り返し、ピョンピョンと飛び跳ねながら道を歩く。いつもの石畳の道が、今日は特別に輝いて見えた。まるで栄光への道のように。


        ◇


「おぅ、いらっしゃい!」

 朝の光が差し込む店先で、おじいさんはにこやかな笑顔でユータを迎えた。その温かな表情に、ユータは安心感を覚える。

 倉庫の扉が開かれると、ユータの目の前に広がったのは、まさに宝の山だった。数千本もの武器が、まるで眠りについたように静かに並んでいる。

「うぉぉぉ! すごい!」

 俺は思わず声を上げてしまった。

「何百年も前から代々続けてきたからね」

 おじいさんは少し照れくさそうに説明する。

「でも、ほとんどがびついてしまってなぁ……」

「大丈夫です! 僕がちゃんと研ぎますんで!」

 他人には単なる古い武器の山でも、俺の目には無限の可能性を秘めた宝の山に見えるのだ。

 夕暮れまで黙々と鑑定を続けたユータは、★四つを二十本、★三つを百五十本も見つけ出した。

 そんなにたくさん買いたいという俺の言葉に、おじいさんは驚いた様子だった。

「ほとんどがジャンク品だからね」

 おじいさんは優しく微笑んだ。

「全部で金貨十枚でいいよ」

 その言葉に、ユータは一瞬躊躇した。あまりにも安すぎる。商売というのはみんながハッピーでなければならない。自分だけ儲けようとすればいつか必ず破綻するものだ。

「儲かり次第、追加でお支払いします」

 と約束をして、その代わり、その多くを倉庫にしばらく保管してもらうことにした。

 今回、目に留まったのは、特殊効果付きの小さな魔法のスティックだった。

光陰の杖 レア度:★★★★
魔法杖 MP:+10、攻撃力:+20、知力:+5、魔力:+20
特殊効果: HPが10以上の時、致死的攻撃を受けてもHPが1で耐える

 その効果に、俺は息を呑んだ。これは例えばメチャクチャに潰されて死んでも生き返るという意味であり、まるでゲームのような特殊効果だ。この世界の不思議さを改めて実感する。

「これを使うと……一体どうなるんだろう……」

 俺は杖を振りながら首をかしげる。しかし、試しに死ぬわけにもいかない。

 でもきっといつか何かの役に立つかもしれないと、懐にそっとしまった。

「さて、誰に何をどう売って行こうか……? やっぱり強い人に持ってもらいたいよなぁ……」

 夕日に照らされた街路を歩きながら、ユータの頭の中はこれからの壮大なプランでいっぱいだった。


       ◇


 商材が揃い、ユータの武器商人としての日々が本格的に始まった。毎日、黙々と武器を研ぎ、整備し、売る。その単調な作業の中に、彼は確かな充実感を見出していた。

『すごい武器だ』

 そんな噂が口コミで広がり、ユータの元には次々と購入希望者が訪れる。リストはあっという間に埋まり、まさに順風満帆の船出となった。

 二ヶ月が経つ頃には、売った武器は百本を超えていた。それに比例するように、ユータの経験値もぐんぐんと増加していく。

 ピロローン!

 レベルアップの音が、ほぼ毎日のように頭の中に響く。気がつけば、一度も戦ったことがないのに、レベルは八十を超えていた。Aランクのベテラン冒険者クラス。まさにチートと呼ぶにふさわしい急成長だった。

「本当にこれ、意味があるのかな……」

 俺は不思議に思いながら、試しに剣を振ってみた。すると、重くて大きな剣を、まるで軽い棒のように器用に扱えるではないか。

「す、すごい……。これって……ダンジョンでも無双できるんじゃ?」

 俺は心臓の高鳴りを感じた。【商人】だから諦めていた冒険者への道。確かに同じレベルなら商人は弱いのだろう。でもレベルが倍もあれば例え剣士と言えど、商人の方が強いに違いない。そして一桁上だったら……? もはや誰も、勇者でさえも自分には勝てないだろう。

 俺はグッとこぶしを握る。前代未聞の高レベル。そこに達した時の景色がどうなるのか楽しみでたまらなくなってくる。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

処理中です...